最近、土という曜日をやたらと意識するようになった。   
 
 2週に1回、駕崎は中学へ行く。
 以前は毎週だったが、一応、俺が原因で2週に一度になったわけで。
 そうなると、この2週に1度の土曜日は、俺だって駕崎に気を使う。

 中学へ行かない方の土曜日は、必ず俺とやる。
 なんとなく、そうしなきゃいけないような気がしてしょうがないから。


「どーしたぁ? お前、深刻な顔して」
「また恋の悩み?」
 真乃の部屋を訪ねると、そこには白石もいてずばりと言い当てられてしまう。
 この手の相談相手はこいつらしかいない。 
「ちょっと気になってることがあんだけど」

 口にすると快く聞く体制を取ってくれていた。

「ってか、今日って、お前、いつもなら功と一緒だろ」
「そうだよね。功くん、先週の土曜日、中学校行ってたし」
「今日は、他校との試合だから、見ておきたいんだと」
 二人は納得したように、頷いてくれていた。

「で、気になることって?」
「功くんが気持ちいいか心配―とか?」
「いや、そうじゃねぇんだけど。あいついままで、毎週土曜日、中学行ってて、たぶん、毎週やってたわけだろ。それがあるから、なんとなく、2週に一度とはいえ、土曜日ヤらなきゃいけない気になってんだけど。 ……それはいいとして。毎週だったのが、2週に1回で、あいつはいいのかよって……ちょっと気になって」
 いや、本人に聞けば一番早いんだろうけど。

「……ってか、霞夜たちは律儀に2週に1回しかしてねぇの?」  
 1回しかって……。  
 やっぱり、少ないか?  
 いや、そうでもねぇだろ。  
 駕崎的には、減ったかもしんねぇけど。
 
「なんとなく、流れで…そういう感じになるだろ」
「ふーん」
 真乃も白石も、黙って間を空けてきやがるし。

「……別に、わかんねぇなら、いいけど」
 俺だって、こいつらが何でも答えてくれると思ってるわけじゃねぇし。

「いや、霞夜。そうじゃねぇよ。……まぁ、駕崎に限って、そんなことねぇとは思うんだけど。他で抜いてないんだとしたら、いままでがいままでだし。2週に1回じゃ、ちょっと少ないかもしんねぇな」

「他……?」
 真乃の遠まわしな言い方に、すぐには頭がが追いつかなかったが嫌な予感がした。  
 
 他でって。
 中学でとか?  
 俺以外と?

「でも、功くんって、それなら霞夜くんに言うんじゃない? やりたいって。そういうこと、言う関係になったんでしょ」  
 なったにはなった。  
 けれど、俺が一方的に『言えよ』って言ってるだけで、あえて自発的に言ってくれてるってわけじゃ…。

 結局、我慢してるか他で抜いてるかってこと?
 
 ……そうだよな。  
 2週に1回になったと思ってるのは俺だけかもしれない。  
 あいつは、別に他で抜いて、週1回のままなのかもしんねぇし。

「霞夜―、暗くなるなって。あいつはお前のこと大切に思ってるから、大丈夫だろ。まー、もっとやりたいとかは思ってるかもしんねぇけど?」
「じゃあ、そう言えばいいだろ」
「だから、お前が大切だから、そう無理させたくねぇんだろって」

 で。
 他で……。
 ……堂々巡りだ。
 
 今日、駕崎が帰ってきたら少し聞いてみるか。
 どっちにしろ、いつもなら今日、やってる日なわけだし。

 一応、2人には軽く礼を言って、俺は駕崎の部屋へ。
 ベッドで寝転がらせてもらう。
 いつものことだ。
 ルームメイトが出て行くと、睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまっていた。  



 目が覚め、辺りを見渡すと、机に向かう駕崎の姿。  
 帰ってきてたのか。

「駕崎……」
「あ、霞夜。おはよう」
「……はよ」
「霞夜、夕飯、食べてないだろ」
 そう言われてみるとお腹がすいている。
 部屋を見回し時計を見つけると、もう夜の9時だった。

「……俺、寝すぎだな」
「疲れてた? から揚げ弁当、買っといたから。あ、食べないなら食べないで、俺が朝食べるからいいよ」
「……食べるよ」
 
 駕崎は本当に面倒見がいいと思う。
 
「今日は、勝てたのかよ?」
「あぁ、勝てたよ。いい試合だった」
 ……本当は、俺、別に試合のことなんて、気にしてねぇのに。
 というか、そんなことより、駕崎が中学生としてないか……。
 それが気になって仕方ない。
 さすがに、試合の日にはやらないよな。

「俺は応援してただけだけど、すごい力入っちゃって」
「疲れた?」
「まあね」
 のくせに、勉強すんのかよ。
「なぁ、駕崎、わかんねーとこあんなら教えるけど」
「大丈夫だよ。暗記するだけだから。ありがとう」
 
 ……なんか、そういう姿見てっと、邪魔しちゃ悪いって思うしな。
 そもそも、いつもと違って今日は中学行ってるわけだし。
 俺とは、やらない……か。

 『他で抜いてきた』
 
 嫌な考えが頭ん中に浮かぶ。

 俺の方から、やろうだなんて言える空気でもねぇし。
 だって、疲れてんのにわざわざ勉強してるわけでさ。
 それを邪魔しちゃ………っつーか、これじゃ俺がやりたがってるみたいだ。
 違うだろ。
 駕崎がやりたがらないのなら、俺は別にいいし。

 俺がから揚げ弁当を食べている間、駕崎は教科書とにらめっこ。
 いつもと変わらない。
 平日とか、こんな感じだし。

 食べ終わると満腹感から、また眠くなる。
 あーあ。俺、なんもしてねぇのに太りそうだな……なんて思いつつも、ゴロンとベッドに寝転がった。


 
 結局、何事もなくて。
 日曜日。

 寝すぎたせいもあってか、まだ朝の7時だってのに目が覚める。  

 駕崎はまだ眠っていた。
 今日は、部活なんだろう。   
 
 思えばあいつって、普段部活ばっかで。  
 土曜日も、本当なら部活なんだろう。
 それを、いままでは『中学に教えに行く』という理由で休んでいた。
 実際、中学でしてたことを思うと、どうなんだろうって感じもするけれど。
 別に、やるだけじゃなくって、本当にサッカーもしてたんだと思うし。
 帰りに少しだけ遊んでただけだ。

 じゃあ、今は?
 中学へ行くのは、サッカーが理由。
 のこりの土曜日。
 俺のために、部活休んでるってことになっちまうのか……。
 
 まぁ、運動より勉強ってな学校だし、サッカー部も大会に出るなんてレベルじゃないと思う。
 どちらかといえば、お遊びっぽい。
 駕崎も、別にサッカー選手になりたいだとかそういうわけでもなさそうだし、気楽に出来たらいいってな考え方だろうから、休んだところでそう影響はないんだろうけれど。

「あれ、霞夜、もう起きたの?」
 目が覚めたらしい駕崎が、俺の目が開いているのを確認してか声をかける。
「……あぁ。寝すぎた」
「昨日、早くから寝ちゃってたもんね。疲れてたんだ?」
「そうでもねぇけど」  
 
 土曜日、こいつって、サッカーやりたかったりするのか?
「なぁ、駕崎。お前、土曜日、部活行ってねぇだろ? 中学行ってんのはいいけど、それ以外んとき。俺といんじゃん。……部活、行かねぇの?」  
 駕崎は、一瞬、考え込むよう間を空けた。
「そりゃ、サッカーすんのは好きだけど」
「駕崎が俺に気遣ってんなら、別に気にしなくていいぜ? お前が、俺よりサッカー優先するなんて、いままでもずっとあったことだし」
 そう何気なく言うと、駕崎が俺に覆いかぶさるよう体をかぶせた。

「霞夜と過ごしたくて、休んでるんだ」
 ……いままで、中学行ってたくせに。
 あぁ、俺も考え方が嫉妬くさいな。
 そりゃ、一応、付き合いだしたわけで、考え方もかわるかもしんねぇけど。
 ……俺も実際、妙に意識する部分あるし。

「俺と過ごしたいって……」
「霞夜が誕生日んとき、休めば? って言ってくれたの、すごいかわいかった」
「かわ……っ! てめぇ、なに言って……っ」
「霞夜は、あのとき、俺と過ごしたいって、思ってくれたの?」
 確かに、俺は自分の誕生日の日、駕崎に中学校に言って欲しくなくて。
 でも、それは別に駕崎と過ごしたいとか、そんなんじゃ……。
「っつーか、友達の誕生日、祝えってだけだろっ」
「もう、あの日から友達じゃなくて、恋人だよ」
 そう言うと、口を重ねられた。
 あの日から、恋人。
 改めて言われて、自覚する。
 俺は駕崎の恋人。

 そっと口を開放されて、また見下ろされた。
 呼吸を整える。  
 
 やりてぇなら、やればいい……そう口にしそうになったが、俺が欲しがってるみたいに思われないだろうか。  
 駕崎から言い出すまで、待つか。  
 そう思ったけれど、駕崎はこれから部活だ。  
 やってる場合じゃない。  
 そりゃ、部活より俺と過ごしたいって言ってくれるかもしんねぇけど?  
 土曜の夜から、朝までずっといたんだ。  
 これ以上、俺ばっかってのも。  
 俺は、駕崎を縛るつもりねぇし。  
 
 土曜日も部活行ってねぇしな、こいつ。
 
 俺が起き上がるのに合わせて、駕崎も体をどけてくれる。
「駕崎、部活行くんだろ? 俺、今日は真乃と遊ぶよ」
「ん。行ってくる。もう一回、キスだけしていい?」
 
 いちいち許可取んなよとも思うけど、したいなら言えとか隠すなって言ったのは俺なんだし。  
 頷いた顔を上げると、口が重なった。
 
「霞夜……口、あけて」
 唇が、触れるか触れないかの距離でそうとだけ告げてからまた、深く重ねられる。
 軽くあけた口を塞がれて、舌先が入り込んでくるのがわかった。
 俺の舌に絡まってくる。
「ン……っぅんっ!!」
 ゾクっと体が震えて、顔が熱くなった。
 口内を駕崎の舌先がなぞって、顔だけじゃなく、体が熱くなるのがわかった。
 キスだけだって、駕崎は言ったのに。
 駕崎の手が優しく俺の髪を撫でると、俺の方が意識しすぎて、下半身が熱を持つ。  
 
 やばい気がして、駕崎のキスから逃れるよう下を向いた。  
 口が離れ、駕崎の顔も見れなくて。  
 ただ、自分の状態がバレないよう、布団を手繰り寄せた。

「じゃあ、霞夜、行ってくる」
「ん……。もう、行くのかよ」
「うん。最近、暑いから、早いうちに集まるんだ」
 ちゃんとした受け答えも出来ず頷くと、もう一度、軽く頭を撫でてくれ、それから駕崎は着替えて部屋を出た。

 俺も、それに合わせる形で、真乃の部屋へと移動した。

「おーう、霞夜ぁ。昨日はお盛んでしたか?」
「……てめぇ、殴るぞ」
「ちぇー、でもどうせしたんだろ」
 なんでもないみたいに言われてしまうけど。
 別にしてねぇし。
「やってねぇよ」
 こんなこと、いちいち伝える気ホントはねぇんだけど。
 やってねぇのにやったと思われてるのも嫌で、そう伝える。
 
 真乃は予想外だったのか、少し間を置いてから、
「昨日は、なんだかんだで中学行ってたしな」
 何気なくにそう言った。
 ……何気ない言葉なんだけど。
 真乃がそう口にすると、中学でしてきたんじゃ……なんて、不安がよぎる。
 だから、溜まってないとか。
 だってそうだろ。
 普通なら2週間も経ってるわけだし。

 けれど、あまりにも女々しい自分を見せるつもりもねぇし。
 なんでもないフリをしてその日を過ごした。