「あれ、霞夜。おかえり〜♪」
教室に戻った俺に、なにごともないように、真乃が言った。
「お前、駕崎、パシらせてんじゃねぇよ」
それに対して、真乃は軽く笑っただけだった。

「霞夜、どこ行ってたんだ?」
授業を進めていた数学の教師が俺に聞く。
「……別に。保健室」

席について、真乃へと顔を向ける。
「駕崎は? 気分悪いとか先生に言ったわけ?」
「あぁ。そう言ってたな」
駕崎はさりげに真面目だから、保健室にサボりにいくにも理由をちゃんとつけていた。

「……俺もう、帰るわ」
「あぁ。あんま神経質になりすぎんなよ」
カバンを持って教室を出て行こうとする。
「霞夜っ!? 来たと思ったらなんだ、もう帰るのかっ?」
先生が俺の腕を取って突っかかってくる。
「保健室から帰ってきてすぐカバン持って出てこうとしてたらわかるだろ? 早退すんだよ……ったく」
「……ああ……わかった」
「ちっ……」
怒りを先生に向けると、先生は途惑いながらもどうにも出来ずに了解した。


寮に戻ると、部屋にはもうルームメイトの渡辺の姿があった。
1年は、今日は午前中だけか……。
渡辺の傍ではよくわかんねぇ男が一緒にベットで寝転がっていた。

俺も、駕崎とあーやって寝たことあるし……。
少し、いらつくのはうらやましがってたりすんだろうか。
自分の方のベットで寝転がりながらも、俺は渡辺の方のボーっと見る。
その時だった。
ガバっと、渡辺の傍の男が起き上がる。
それがなんとも普通じゃないようだった。
「……何、お前大丈夫か…?」
つい声をかける。
「……はい」
そいつは俺の方をみて、呼吸を整えていた。
「悪い夢でも見たわけ? ……仲いいっぽいのな。渡辺の彼氏か?」

つい聞いてみてしまう。
「いえ……。ただの友達です」
「ただのダチね……。そだな。俺もいる。そうやって仲いいただのダチっての。でも……よくわかんねぇよな…」
そう言うと、そいつはわけがわからないと言わんばかりに困ってる様子だったから、俺は『悪い悪い』と手を振った。
「あの……俺、ちょっと部屋戻るんで、もしこいつが、目覚ましたら言っといてくれますか」
俺が頷くとそいつは軽く礼をして、部屋を後にした。

渡辺が起きるまで待ってるか。
その渡辺の友達にも頼まれちまったし。


今日1日で、天地がひっくり返ったようだった。
別に友達で構わなかった。
ただ俺以上に仲のいいやつがいるってのが嫌だった。

駕崎が俺の行動になにも口を出さないのは、俺が人に口出しされるのが嫌なのを知っていたからだ。
でもさ。
柊に、手を出されたときくらい、もうちょっとなんか反応したらどうなんだよ。




「あ、渡辺? お前の友達がお前によろしくって、部屋、出てったぜ?」
目が覚めたようだったから、そう伝えた。
すると、渡部は起き上がって『ありがとうございます』とだけ言うと、ゆっくりと壁にもたれて力なくしていた。

「俺、ちょっと出かけるから。今日は戻らないかも」
そうとだけ言い残して、俺は部屋を後にした。


駕崎の部屋に行ってみる。
中には駕崎のルームメイトがいただけで、駕崎はいなかった。
駕崎のことだから、教室に戻って授業でも受けてるんだろ。
駕崎のルームメイトに軽く断わってから、俺は駕崎のベットに寝転がった。

駕崎のベットで寝るのは、もちろんはじめてじゃない。
なんどかある。
勝手に寝てたって駕崎は怒らなかった。
疲れていたので、そのままベットに吸い込まれるようにして、俺は眠ってしまっていた。


目が覚めるとあたりはもう真っ暗で、駕崎のルームメイトはいなかった。
机には駕崎が座っている。
あいつはまじめだから、きっと勉強とかしてんだろ。
「……駕崎……」
寝転がったまま、俺が呼ぶと駕崎はゆっくりと俺の方を向いた。
「霞夜……。起きたんだ」
そう言って、俺の方に寄って来た。
「……駕崎」
なにを言えばいいのかわからなくって……
それでもなにかを訴えたくて、やたらと名前を呼んでしまっていた。
「ごめん、霞夜。別に隠すつもりはなかったんだ……。霞夜があんな怒るとは思わなかった」
ベットの淵に座って、駕崎は俺の髪の毛に指を絡ませた。
「別に、怒ってねぇって……」
俺は駕崎と逆の方を向いた。
「な。なんで……中学生なんかとやるわけ? 欲求不満とか? それともそいつのこと、好き……なわけ?」
「好きじゃないよ」
「っなに言って……」
振り返った瞬間、ベットに乗りあがった駕崎に手を取られ、ベットに押し付けられる。
「……駕……崎?」
「きっかけは冗談半分に、お互い興味があったからやっただけみたいな感じ。相手の奴がなかなか練習で試合させてもらえないから、それについて、俺から先生に言うってのが条件で、その代わりに俺がやらせてって言ったわけ。………霞夜、こうゆう話、嫌いだろ?」
少し冷めた表情で駕崎が言う。
「……いいよ。言えよっ」
駕崎は少しだけ軽く笑って俺を押し倒した状態で話を続ける。
「で、中1って、わりと好奇心旺盛な年頃じゃん。そのまま、部室でやってきた。俺はというと、そのときは興味と欲求不満からかもしれないね」
変に体がゾクゾクしてきて、目が潤んでくるのが自分でもわかる。
こんなのは俺の知ってる駕崎じゃなくって……
駕崎は、こんな風に、手を出すような奴じゃねぇから。
俺の手を押さえつけて、見下ろす駕崎が少しだけ恐く感じた。
「……今は?」
「今? やってくうちに自然と好きになろうとしてたかもな。あいつのこと好きにならなきゃ悪い気がしてきて……。自分で『俺はあいつが好きだ』って、思い込もうとしてたね」
「じゃ、ホントに好きじゃねぇんだ?」
「ああ……」
そこまで聞くと、仰向けになっているにも関わらず、自分の涙が溢れ流れてく。
「……最低だ……」
好きでもねぇのに、やるなんて最低だ。
「わかってる。だから、好きになろうとしてんだよ」
駕崎が本当にその相手の奴を好きになったら、駕崎は少しだけ俺の思ってる駕崎に戻ってくれる気がした
最低じゃなくなると思った。
でも好きになって欲しくねぇとも思ってしまっていた。

「好きでもないのに……。なにしてんだよ、駕崎。欲求不満だったんなら俺をやればよかっただろ?」
一番、身近にいたのは俺だろ?
「霞夜に迷惑はかけれないよ」
馬鹿……
「お前いつもそうなんだよ……。迷惑とか考えてねぇでもっと話せって。むかつくんだよ。そうやって隠されたりっ」
「隠してないって」
「隠してんだよ。話してくれても、お前、自分のこと隠してんだよ」
ムキになって俺が言うと駕崎は俺の耳元で
「じゃあ隠さなくてもいいわけ?」
って……。
「霞夜の嫌がるようなこと、どんどん話すかもよ」
「いいっつってんだろーがっ」
「じゃあ俺が、霞夜のこと犯したいとか言ったらそれでも霞夜はいいんだ?」
犯したいとか……そんなこと、駕崎が言うのは信じられなくって。
でも現実だ。
俺に隠してたせいで、駕崎が欲求不満で中学生に走ったんだとしたら、隠して欲しくねぇ。
「何回も言わせてんじゃねぇよ。いいって言って……」
言葉を制して、駕崎の口が俺の口に重なる。
「ん、んっ……」
ソレは…なんていうか、優しいキスなんかじゃなくって、少し乱暴で。
舌を入れられて、自分の舌と駕崎の舌が絡まり合う。
すごい……変な感じ。
俺の手を押さえつけていた手の片方で髪を撫でて、もう片方の手が、シャツの中に入り込む。
「っんぅっ……」
しばらく腹を撫で回したあと、駕崎の指が俺の乳首を押しつぶすように撫でていった。
「んっ、んっ……」
口を離されると、シャツのボタンを上から順に外されていく。
それでも体が動かなくって、抵抗も何にも出来ない。
「……っや……駕崎……」
こんな駕崎は初めてだから……。
少しいろんな意味で恐かった。
チラっと駕崎が俺を見てから、指で触れていた乳首を舌で舐めあげる。
「っンぅっ…駕…崎ぃっ…」
ビクンと体が仰け反ってしまっていた。
駕崎は、俺の乳首に舌を這わしたまま、片手で器用にズボンのチャックをおろし、直にペニスを掴んで上下に何度も擦り上げる。
「ぁっ……やっ、ンぅっ……やぁっっ」
俺は、駕崎から逃れるように膝を立ててしまっていた。
「っあっ……ひ、ぁっ」
生暖かいような股間への刺激にソコを見ると、駕崎がなにごともないように、俺のペニスに舌を這わしている。
「っ……なっ……ぁっ」
その行為が信じられなくて、後ずさりしようとするが、全然体が動かない。
「んぅっ……やっぁっ……あっ」
体に変に力が入ってしまってるにもかかわらず、動かせなくって駕崎にされるがまま。
目を開けているのも辛くなって、顔を背けて目を瞑る。
瞑った瞬間に、涙が零れ落ちた。
舌で舐め上げられたり、口に含まれて吸われるたびに、ビクビクと体が震え上がる。
「あっ……あっ、やっ……吸っ……ひっぁあっ」
耐えがたいような快楽のせいで、ベットのシーツを握る手に力が入っていた。
「……もうちょっと、声、抑えて」
一旦、口を離した駕崎にそう言われ、自分がわけもわからず声を洩らしまくっていたのに気付く。
どうすればいいのかわからなくて、なにも出来ないでいると、駕崎は自分の指の甲を、俺の口元に持っていく。
「んっ」
そのままで、駕崎はまた俺のペニスをねっとりと舐めあげて、愛撫を再開させた。
「っ……ぁっんっ、っゃぁっ……んっ」
口に含まれて吸い上げられると、体がビクンと跳ねて、駕崎の指に強く歯をたててしまう。
「んーっんっ……ぁン、あ、ぁっ……ん、ンーーっっ」
すぐにイかされてしまい、俺は頭が真っ白になりかけた。


「……嫌だろ?こうゆうことされるの」
駕崎は起き上がって、俺を見下ろした。
「……嫌、じゃねぇよっ。はやく、続きっ、すればいいだろっ?」
俺は、必死で呼吸を整えた。
少し、声が震えてるのが自分でもわかった。
「そうやって義理で『して』みたいなこと言うなよ」
「義理じゃねぇってっ」
これってもしかしたら、ヤキモチなのか。

「……霞夜、心の中で、嫌がってるだろ? 体が強張ってんだよ。緊張してるとかじゃなくって、恐がってるだろ?」
「っなに……なめてんじゃねぇよ、恐がるわけねぇだろ?」
なにもかもバレてて嫌になる。
俺は駕崎のこと、全然わからなかったのに。
むかついてくやしくて。
悲しくって、よくわかんねぇ……。
気持ちがごちゃごちゃしてきて涙が溢れてきた。
「無理すんなって。嫌がってる霞夜をやるつもりはないから……」
「嫌じゃねぇってばっ」
「やりたくないんだってば」
力強くそう言われ、俺は何も言えなくなっていた。
「……っ」
「……わからないわけないだろ? 俺らずっと一緒にいたんだから。霞夜が嫌がってるかどうかぐらいわかるんだってば」
静かに言い放った。
「俺が、嫌がってっからやりたくねぇのかよ」
「そう……」
「俺が……嫌いだからとかじゃなくって?」
「嫌いじゃないよ……。好きだって……」
それならそれでいいとも思った。
それが駕崎の考えならそれでも構わねぇよ。
だけど……
中学生とやるんだろ?
好きでもない中学生と。
「なんで……全然『付き合ってる』っぽくねぇじゃん。『付き合ってる』ってんなら嘘ついてでも『好きじゃない』とか言うなよ」
「霞夜に嘘つきたくないから」
馬鹿……。
いままで散々、自分のこと隠してきたくせに。
気持ちはとりあえずおいといて体の関係はあったわけだ。
付き合ってないと出来そうにもないようなこと。
駕崎は好きでもない中学生としてたんだ。
「……信じらんねー……」
「……ごめん」
「別に、あやまんなって……」


明日中学校に行ってみよう。
駕崎とその中学生が見てみたいと思った。