「いいよねー、霞夜くんたちは毎日教室で会えてさぁ」
休み時間、俺の席に集まってる、俺も含めて4人のうちの一人が俺に向けて言った。
白石凪。
『霞夜くんたち』の『たち』にあたる部分はたぶん駕崎の事を言っているんだろう。
「なんか、凪って最近、そればっか言ってねぇ?」
残りの1人。真乃凍也が口を開く。
「だってさ? 俺はさー。全然優斗先輩と会えないしー」
「浮気しまくりなくせに。1人身の俺よか、よくねぇ?」
白石は優斗っつー先輩と付き合ってんだけど、まぁ先輩って事もあって、なかなか会えねぇみたい。
真乃は前はいたんだけど今はフリー。
俺はというと、まぁ白石に『いいよねー』って言われるくらい駕崎とは仲良く見えるらしい。
でもまぁ
「別にホラ、付き合ってるとかじゃないし」
決まって駕崎はそう言う。
白石をなだめてんのか知んねーけど?
「ただのダチだよ。まぁ、ずっと一緒にはいっけどさ」
中学から一緒なんだよな。
「霞夜と功、仲いいのに付き合おうとかねぇの?」
功ってのが駕崎の名前だ。
真乃がふいに言った一言で体が強張る。
俺は付き合ってもいいと思うし。
わざわざ付き合うとか言わなくっても、なんつーか充分、それっぽいんじゃねぇのって思うし。
まぁ、体の付き合いとかはねぇけどしょっちゅう部屋とか変わって一緒に寝ている。

お前はどう思ってんの?
チラっと駕崎の方に目をやる。
「あー……俺、今付き合ってるってわけでもないけどそれっぽい子いるし」
駕崎はそう言った。
俺にとって信じられない一言。
だって駕崎っていつも俺といる以外は部活関連の事で暇なんてねぇだろ?

もちろん、それって俺の事じゃないんだろうし。
俺らだって、充分それっぽい関係な気、しないでもないじゃん?


なんかムカツク。
聞いてねぇよ。
「誰それ」
「あー……っと。ほら、俺、週1で中学行ってるじゃん?」
駕崎は中学の時からサッカー部で、今もやってんだけど、週1回は中学校で後輩に教えている。
「で?」
「そこの後輩……」
「ふーん」
俺は『別に駕崎が誰と付き合おうが関係ない』なフリをする。
いや、実際関係ないのか。
「じゃあ、功くんもあんまり会えないんだ? つらいよね、浮気したくなるよねっ」
「おい、凪―、功を自分と一緒にすんなよ。なぁ、霞夜?」
「あ……ぁ……」
なんか、俺はどうにも応えれなくって……
なに、俺。ショックとか受けちゃってんの……?
「中学生なんて、ガキじゃん。功って、ショタコンだったっけ」
違ぇ、こんな事が言いてぇんじゃなくって。
「中学生なら充分、相手つとまるぜ? なぁ、凪? お前、どーせ中学ん頃からやって……痛っ」
真乃を軽く叩いて言葉を止める。
「下品な事、言ってんじゃねぇよ」
「あいかわらずだねぇ、霞夜くんは。ふふ。でもねー、中学生なら充分相手つとまるよね。実際、俺も……痛っ」
そろいも揃って、こいつらは……。
「出来るかどうかじゃねぇんだよ。ったく、手ぇ、出すか出さねぇかだろ?」
実際、駕崎はどうなんだよ。
俺ら3人……俺と真乃と白石は、駕崎の方に視線を向ける。
「え……あ、まぁ、充分相手……」
その先は俺がガンつけたせいか、口を閉ざした。

駕崎がそんな事、すんの?
白石や真乃がそーゆー事言うのは全然OKなんだけど。
駕崎が言うなんて思ってもいねぇから……なんだか混乱してくる。
駕崎って部活ばっかりの人間だと思ってた。
今でも、そのイメージが離れないでいる。
……そんなことするお前なんて考えらんねぇよ。


「……なにお前。サッカーしに行ってんじゃねぇの? 中学ん頃から? 部活で残るとか部活で遊べないだとか? 全部、俺から逃れるためのただの言い訳?」
俺は自分の不満を駕崎につきつける。
「別にそんなんじゃ……」
もう止めらんねぇ……言う気じゃなかった事まで口走っちまう。
「俺って、駕崎にとってわざわざ嘘ついて逃れなきゃなんねー相手なわけ?」
「別にそんなんじゃねーってっ」
急に大きな声を出す駕崎に一瞬、体が固まる。
教室全体が静かになって、すぐにまた、ざわめきだした。

だったらなんなんだよ。
お前にとって俺ってなんなんだよ。
もちろん『嘘ついて逃れなきゃなんねー相手』ならいいってわけじゃねぇけど?
急に大きな声、出すなよ。
俺が言っちゃいけない事、言ったみてぇじゃねぇかよ。
言うつもりなかったけどさ。


「俺の日常生活、全部、霞夜に言わなきゃなんないの……?」

静かに独り言のように駕崎が言い放った。
言わなきゃなんないって。
そーゆーわけじゃねぇけど言ってくれてもいいじゃねぇかよ……。
隠し事されたみたいで嫌になる。

俺って付き合ってるわけでもねぇのに駕崎の事、束縛してた……?


誰の顔も見れず、初めから席についてた俺は、机の中から次の授業の教科書を取り出す。
なんだか駕崎が怒ってるようで、口を開けない。
俺が怒ってる立場だったのに。
逆ギレしてんじゃねぇよ。

「……ん。じゃ、もうすぐ授業だし、功、そろそろ席ついた方がよくね?」
そう真乃が切り出す。
いつもより少し早い切り出し。
それでも駕崎も何も言わずに、自分の席の方へ行った。

真乃と白石は、比較的俺と席が近いから、いつも授業が始まっても先生が来るぎりぎりまで俺の席で溜まって話し込んでいた。
今日もまた、そんな感じ。

「功くんでも怒ること、あるんだ…。でもさー、なんつーか、乙女心、わかってないよねぇ」
白石がそう言う。
そ。駕崎が怒るなんて。
滅多に………初めてかもしんない。
「……って、乙女心ってなんだよ、白石」
「だってさー。好きだからいろいろ話して欲しいって思うのにさ。『言わなきゃなんないの?』って、そんな風に言わなくてもさ」
「確かにそー言う功もどうかと思うけど……。霞夜も感情的になり過ぎじゃねぇの? そーゆうのわからねぇでもないけどさ……ちょっと言い過ぎだったと思うけど?」
「……言うつもりなんてなかったっての」
もう自分でも混乱しててわけわかんねぇんだよ。
『付き合ってるってわけでもないけどそれっぽい子いるし』
俺は……?
駕崎にとって何?
『ただのダチ』
そう言ったのは自分だけど……。
「ってか白石。『好きだから』って……俺は別に」
好きじゃねぇよ……。
「好きじゃないの?」
なんつーか……。
付き合ってもいーとか思ったけど、好きとかって……
「わかんねーよ……」
「じゃあ、なんでショック受けてんだよ」
「わかんねーって」
全然自分のこと、わかんねぇ……。
ずっと一緒で。
一緒にいるのが当たり前だったから……。
こんな風に俺の知らないうちに駕崎が付き合ってるとか。
やっぱ、それはそれでショックだけど……。




次の休み時間。
白石は気分が悪いって、さっきの授業中、保健室に行った。
って、どうせズル休みなんだろうけど……。
真乃と駕崎だけが俺の席に来る。
駕崎は、冷静さを取り戻したのか、気まずそうに……、申し訳なさそうな顔をしていた。
真乃が気を使って、たわいもない世間話をふってくる。
それもネタ切れで、一瞬、沈黙が生まれた。


「……明日……4月13日だよな……」
ボソっと言ってみる。
4月13日は、俺の誕生日だった。
別にアピールしたいわけじゃねぇけど、ちょっと言ってみる。
「……土曜日だな」
俺が付け足しでさらに言うと、真乃が緊張したように、『ああ』と答え、さらなる沈黙を生んだ。
土曜日は駕崎が中学校へ行く日だった。
毎週決まって、土曜日に行く。
「明日……土曜日…………」
駕崎はやっぱ行くんだろ……。
別に俺の誕生日なんて関係ねぇだろうし?
去年だってその前だって別になにもなかったし。
なにかして欲しいわけじゃねぇけど、中学生に負けるみたいなのだけはなんか、腹立たしくって、どうも収まりつかねぇ。
「……明日くらい休めば?」
不意になぜかそんなことを言ってしまった。
「え……」
もちろん、駕崎は驚いて。
「おい、霞夜っ。なに言ってんだよ」
真乃がそう言っても俺はもうわけわかんなくって……。
中学校に行って欲しくない……そう思った。
らしくねぇ……。
「保健室、行ってくっから……」
俺は、駕崎と真乃を残して、教室を後にした。



保健室の扉を開けると白石の姿が目に入った。
イスに座った柊先生の上へ、なぜか向い合せで乗っている。
保健の先生である柊は生徒と友達感覚で付き合ってくれるから俺は結構好きだった。
ただちょっと手癖が悪い気がしないでもないが。
「……あれ? 霞夜くんっ」
「お、久しぶりじゃん。霞夜ちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶなっての……ベット、借りる」
もう、あえてそいつらの事は半ば無視で、コンタクトを外した後、ベットにもぐり込んだ。

「霞夜ちゃん、元気ないっぽいじゃん」
柊がそう言うのが聞こえた。
「うーん……好きな人に実は恋人がいたって感じ……」
白石のやつ。
馬鹿な事、言ってんじゃねぇ。
そう思ったが、もう面倒なので、寝たふりをして二人の会話を聞いていた。
「ふーん……。なに霞夜ちゃんの好きな人って功ちゃんとか? それとも真乃ちゃん? 真乃ちゃんは仲良しコンビって感じだけどな」
「当たり〜。霞夜くん、功くんのこと、好きなんだよ……。でもほら意地っ張りなトコとかあるじゃん。素直になれないみたいでさー……。あと、功くんがその子に手、出してたってのがショックみたい」
「あぁ。霞夜ちゃんにとっちゃショックだろうな。功ちゃん、そうゆう奴に見えねぇし。霞夜ちゃん、そうゆうのちょっと苦手っぽいしな」
「うん……。どうにかして、そうゆうの慣れてくれないかなー。ほら、俺も結構やっちゃうからぁ」
「凪ちゃんがやっても別にショックは受けないでしょ。そーゆうキャラだし」
「えーっ。俺って純粋に見えない?」
「見えない見えない。……にしても霞夜ちゃんに慣れてもらう?」
「そんな即答しなくても……。ふふ……。でも柊先生ならノってくれると思った」


そこまで、聞き取った後だった。
頭を撫でられる感覚に目を開く。
「……柊……なんだよ…寝かせろって…」
「凪ちゃんとの会議の結果、霞夜ちゃんをセックスに慣らそうってことになってね」
あぁ。さっきのふざけた会話が会議だとか言うわけ?
「いいよ、別に……慣れたくねぇって」
柊の逆方向に体を向け、また寝ようとした時だった。
うつ伏せにさせられ腕をとられる。
「っ…んっ」
何かを言おうにも、うつ伏せ状態で声が出せなかった。
「ほら、凪ちゃん、早く縛ったげて…」
「ラジャ〜」
「んーっ」
柊に押さえつけられてどうにも出来ずにいる俺の手首を後ろで、何か布の用なもので縛り付ける。
「はい、終了♪」
白石がそう言うと、柊が俺を仰向けに戻す。
「ってめっ…なに考えてんだよ」
「やだなぁ、霞夜ちゃん。さっき言ったじゃん…。セックスに慣らすって」
「だからいらんっつったろーがっ」
柊はまったく無視で、俺を起き上がらせると、後ろに回って自分の足の間に俺の体を入れる。
「なっ…」
俺が後ろに気をとられてるうちに、白石がベットに乗りあがって、俺の前に来ていた。
「なに来てんだよ、てめっ」
「静かにしてないと優しくしてあげないよ……?」
柊がそう言って後ろから手を回して俺のシャツのボタンを外していく。
「うるさっ……何言ってっ。ふざけんなってっっ」
バタつかせる足を膝が曲がった状態で白石が押さえつける。
「おとなしくしてなって。霞夜ちゃん……怖くないから」
「怖がってねぇよっ」

柊が腹あたりを直に手で触ったかと思うと、ゆっくりと撫で回すようにその手を動かしていく。
「っやめ……」
ゾクリとした感覚…。
不意にその手の指で押しつぶすかのように、乳首を弄られる。
「っンっ」
体がピクンと跳ね上がって、ものすごい羞恥心にかられた。
「どうかした?」
「っなんでも…っねぇってっ」
下手に『やめろ』とか言うと、『何を?』だとか、言われそうで言いにくい。
「へぇ……なんでも…ないって?」
耳元でいやらしく言うと、柊は俺の乳首を爪で引っ掻くようにする。
「ぃっンっ、んっくっ……ふぁっ」
何度も繰り返し、やられっと、声、殺してんのに、次第に酸欠で殺せなくなってくる。
ってか俺……乳首、弄られて、なんで声とか出しちゃうわけ?
「感じてる?」
タイミングのいい、柊の問いかけに一気に顔が熱くなった。
「っなわけっ……」
「霞夜くん、かわいいよ」
白石がそう言うと、俺の今まで散々、柊に弄られてきた乳首を舌で舐めあげる。
「んっ……ンっ」
それに合わせて、自分の下半身が熱くなっていくのがわかって、恥ずかしくて堪らない。
柊がカチャカチャと、俺のベルトに手をかけ、ズボンのチャックを下ろしてしまう。
「っぁっ……なにすっっくっ」
白石が丁寧にペロペロ舐めてくるもんだから、開いた口から変な声が出てきてたまったモンじゃない。
「人にやられっと何倍も気持ちいいからね」
柊はそう言って、俺のペニスを手に取る。
「結構、霞夜ちゃん、やらしいね……。乳首だけで勃っちゃった? それとも縛られて感じちゃったとか?」
「っふざけんなよっ」
事実だから、大して反論できねぇ。
ゆっくりと強く根元から先端へ焦らすように扱かれると電流でも流されたみたいにビクンと体が仰け反って、柊にもたれかかってしまう。
「ぁっっんっ、あっ」
自分でやるのとの違いが、信じられなくって、声を殺すのも忘れちまってた。
「あっ、あっ……柊、おかし……っ」
「別におかしくないよ。人にされればこんなもんだよ」
次第にスピードをあげて擦りあげられると、自分から腰を動かしてしまいそうになる。
「やめっ……くっ、やっあっ……ぁンっ」
「結構、やらしー声、出すんだねぇ、霞夜ちゃん。もっと早くに手、出せばよかったかな、なんて」
後で覚えてろよ…っ…そう思いつつも、今はもう与えられる刺激に溺れてそれどころじゃない。
「や、ぁっあっ、くっっ……やめ……もぉっ」
イキそう……。
「もう、何? 言ってごらん?」
「はぁ……っ柊ぃ、イク……もぉ、出るっ」
「霞夜ちゃん、言うことはちゃんと言うから、エライね。いいよ。そのままイって」
そんな時だった。
ガラっと保健室のドアが開く音がする。
「……霞夜? いない?」
駕崎の声だった。
なんで?
なんで来てんだよ……。
それでも柊はそのまま行為を続けるもんだから、殺せない声が口から洩れる。
「ひっくっ……ンっ、んぅンっ……」
俺的には殺したつもりの声もばっちり聞こえて、駕崎が俺のいるベットの方へと近づいてくるのがわかる。
見んなよ、ばか……。
わけもわからず目頭が熱くなって、悔しいような、複雑な感情になった。
俺は、恥ずかしさから駕崎を見てられなくて、目を瞑る。
せめて、駕崎の前でイくまいと、必死で我慢をするけれど、さらにヒートUPさせるような柊の手の動きが堪らなくって、声も必要以上に洩れて殺せない。
「はぁっ……やっ、ン……ぁっ、やっ……やぁっ」
もうイきそうな感覚に体がピクンと跳ねたときだった。
駕崎に見られないように、俯いた顔を、不意にあげてしまった時。
『ペチっ』って……。
軽くだけど駕崎が、俺の頬を叩いて……。
「ぁっあっ……ん、あぁあっっ」
わけのわからない駕崎の行動に、疑問を抱きつつも、耐えれなくて、そのまま柊の手の中に欲望をぶちまける。
白石が、俺から離れて駕崎を見るのがわかる。
俺は俯いて、駕崎を見れずにいた。

なんで?
なんで俺が叩かれるわけ?
泣きたくなってきた。
すでに泣きそう……。

「……凍也に頼まれたんだけど…コンタクトの洗浄液、貸してだって……」
静かな声で駕崎が言った。
「……てめ……真乃にパシられてんじゃねぇよ」
気をつかって、真乃がわざわざ頼んだんだろう。今、洗浄する意味とかわからねぇし?
それ以前に……。
この状況見て、お前はそんなこと言うわけ?
俺がなにしてようが、関係ないわけ?
柊とかに『なにしてんだよっ』って突っかからないわけ?
……さっき叩いたのは……ただ、真乃の頼まれごとを俺に言うためだけ?
むかついて悔しくて、わけがわからなくって、涙が溢れそうで。
顔を上げると、駕崎がなんだか怒っているように見えた。
駕崎が怒っていると……恐くてなにも言えなくなる。

「なんで怒ってるの……? 功ちゃん」
俺の聞きたいことをあっさり聞いたのは、柊だった。
「俺に対して? それとも霞夜ちゃん? でもね、功ちゃんがいけないんだよ。もっと霞夜ちゃんのこと、考えてあげないと」
「何言ってっ……」
俺の名前を出すもんだから、慌てて柊の方に振り返る。
「駕崎は関係ねぇんだよっ。俺がどうなろうとどうだっていいとか思ってるんだってばっ」
「霞夜くん、そんな事ないってっ。ねぇ、功くん、なんとか言ってよっ」
「言うなよ、聞きたくねぇってっ」
凪の呼びかけに、駕崎が答えないように制する。
「もうほどけよ……」
少し、泣きの入ってしまっているような俺の手首を縛っている布を、柊がそっと解く。
俺は急いで脱がされた上の服や、ズボンのチャックを直してベットから降りた。
「霞夜っっ」
たぶん3人が、俺を呼び止めた。
その中で、一際、駕崎の声が大きく聞こえた。
それを無視して、俺は走って保健室を後にした。