俺もむかついてるから、ズボンと下着をとっとと履くと、ドアまで急ぎ足。
けれど、俺の手がドアノブに届くことはなくて、後ろから抱きしめられてしまう。

「っ…っもう後輩帰ったしっ」
「…いまさら、やる気ないとか?」

やる気は出てるけど、このままやられんのとかむかつく。

「めずらしいね。玲衣くんの方から来てくれるなんて。なにかあった?」
「ねぇよっ! お前、後輩いんのに、こんな…」
「最後まではしてないでしょう? それに、いつもより感じてたね…」

美和の手が、ズボンの上から股間を掴み、体が大きくビクついた。
「離せって…っ」
「すごい硬くなってるし、イきそう?」
耳元でそう言いながら、布越しに擦られて言葉通り、イきそうになる。
「っ…離…っ…んっ…くっ」
「服、汚れるから、脱ごう?」
美和は俺の体を両腕ごと、片手で抱きしめて、余っている右手でズボンのホックを外し、チャックを下ろしていく。
膝下までずり落ちて、美和の手は俺の下着の中。
「んっ…ばかっ離せっ」


そう言うと、めずらしく言葉通り、俺のから手を離してくれていた。

「え……」
……なに。
つい戸惑ううちに、下着を一気にずり下ろされて、俺が、振り返ったり、またズボンはきなおそうとか考える間もなく、もう一度、抱きしめられた。

「なっ…に。なにがしたいんだよ」
「離せって言われたから離した」
「離れろ」
「玲衣くんから? それはちょっと」
なにが、それはちょっとだ。

そう言うと、シャツの中へと手を入り込ませて胸の突起を指先で撫でられる。
「っ!! んっ…なに…っ」
「なにってなにが?」
今、すっごいゾクって来た。
さっき爪立てられたときもすっげぇキたけど。

俺、前より胸の感度上がったとか。
…って、ばかじゃねぇの、んなことあるわけ…っ。

そう思いたいのに。
前の壁に手をついて、体を支えると、美和の手が執拗に胸のない肉を無理に揉み、突起を指先で転がしていく。
「んっ…あっ…!!」
やだ。
胸でこんな感じてんのとか、バレたくねぇし。
いままでこんながっつり胸とか攻められたことねぇし。
いつも、軽くソコはスルーしてただろ。
ちょっと触って、はいおしまい、だったくせに。
両方の手が、片方ずつ乳首を弄ぶ。
撫でたり摘んだり。
「ぁっ…んっ…っっぅン…っ」
気持ちいい。
イきそう。


別に胸だけでイくんじゃなくって!!
その前に散々弄られたからだ。
だから、もうはじめからイきそうだったんだよ。
そう自分の中で言い訳してるのに。
「玲衣くん、ココだけでイきそう?」
そう指摘される。
「っ…違ぁ…っあっ…」
「もうすごい濡らしてるし、女の子みたい。ね…おっぱい気持ちいい…?」
おっぱいとか。
「んっ…!! はぁっ…やぁっやっ…! ぁあっ」
「すごい、体ビクビクしてるし、イきたい? …イけない?」
「んぅっ! イけなっ…美和ぁっ…」
恥ずかしいけど、自分の右手で自分のを擦ろうとしたがその手は美和に止められる。
「駄目…。胸だけでイけるでしょう」
「無理っ…に…っ決まってっ…っ」
「自分の手でやらないって言ってくれたら、両方かわいがってあげるから」
俺の手を取っているせいで、左の乳首だけをやたら愛撫され、さっきまで触られてた右がうずく。
「ゃらなっ…からぁっ…」
「両方、かわいがって欲しいんだ…?」
誘導尋問だろ。

美和が、両方の胸の突起を摘みあげたり、軽く弾いたり。
その度に、体がビクついて。
イきそうでイけないような、焦らされてる。

「やぁっっ…もぉ、やっっ…ぃけなっ…ぃっ…ひぁっ」
「嘘…。イかないようにしてるだけだよ。自制してる。もっと気持ちいいことだけ、考えて…?」
胸だけでイくのが恥ずかしいとか、考えちゃうから、イけないんだろうけど。
でも、そりゃ考えるだろ。
自然と我慢しちまうんだって。

だってこんな、胸だけで。
恥ずかしい。
そう思っていると、美和が一旦手を離し、俺の体を反転させる。
ドアにもたれる形になって、美和にジっと見られると、一気に羞恥心が高まった。
「舐めてあげるね」
そう言うと、少し体を屈めて、美和が俺の胸へと口付ける。
ヌルっとした舌の這う感触。
「ぁあっ! やぁっ美和ぁあっ」
そんなところを舐められて、恥ずかしくて。
美和の髪を引っ張り剥がそうとした。
けれど、そんな力は入らない。
軽く吸い上げられて、ちゅぷちゅぷとやらしい音をたてていく。
「ゃだっ…美和ぁっ…ぃくっ…あっぃくからぁっ…も、離しっ」

柔らかくて熱い舌の感触と、堅い歯が軽くあたる刺激で、頭が真っ白になった。
「ぁあっ…やっぁっあぁああっっ!!!」


イってしまって、その場にずるずると座り込む。
恥ずかしすぎて、なにを言えばいいのかわからず、脱力に見舞われた。

美和は、ティッシュやらタオルやらで、後始末をしてくれる。
…終わらせてくれるらしい。
俺はただ、黙ってそこにいて。
抱きかかえられるもんだから、なにをする気かと反論したかったけど、後始末したわけだし、なにもしないだろうと、黙っていた。
恥ずかしすぎたから、なにも言えないってのもあったけど。
ベッドへと俺の体を運んでくれる。

美和もまた俺の隣に寝転がって、俺の手を取った。
「…気持ちよかった?」
「…よくなきゃ…イかねーし」

俯いて美和の視線から逃れていた。

「玲衣くん…。好きだよ」
な…にいきなり言ってんだこいつ。

そりゃ、悪い気はしねぇけどっ。
顔をあげるとやたら真剣な眼差しで見られ、無性に恥ずかしく感じた。

「今日、玲衣くんの方から来てくれて嬉しかったんだけど。…どうして?」
後輩に告られているようで気になったとか。
言いにくいし。
「…なんとなく」

美和はそう言う俺に少し笑って、髪を撫でた。
めずらしい行動だったから、俺も抵抗せず受け入れていた。

「今日ね…。後輩が俺に告白してくれた」

俺が気になってた内容。
美和の方から教えてくれる。
どういうつもりだか。

…断ってくれたんだよな。
ってか、実際、俺も居合わせたし。

大丈夫だよな…。
なんだかんだでちょっと不安になってきた。

やっぱこいつモテるし。
俺は好かれる自信ねぇし。

でも、こいつが俺のこと好きじゃなかったら、俺も別に…。

そう思いかけたけど、やっぱもう、好きかもしんねぇし。
モテてイライラすんのも、今不安なのも、好きだから…だよな。

自覚したら、今度はフラれるのが恐くなった。
こいつ、突発的に俺に告ってきたし。
あっさり心変わりしても、おかしくないっつーか。

俺が美和の方へと目を向けると、美和は俺の頬をそっとなでた。

「好きだって、言ってくれて。
どういうところが好きか、いろいろ伝えてくれたんだ」

心臓がすっげぇバクバクしてやがる。
美和は断ったんだよ、わかってる。
だけど、考え直したとか、ないとは言えないし。

「なにが言いたいんだよ…っ」
「玲衣くんの気持ちとか、ちゃんと聞きたいから」
いまさら?
ばか。
そりゃ、伝えてねぇけど。
「お前、聞く耳持たねーじゃんっ」
「そんなことないよ」

やっぱり、そういうのって、言って欲しいんだろうな、こいつ。
好きだって言ってもらえて、どこがいいか伝えて貰えたら。
嬉しいに決まってる。

それが大好きな相手ならなおさら。
美和に好きかどうか聞かれて、頷いたり同意したり、しょうがなく求めてみたりはしたけれど。
本当にちゃんと自分から求めて伝えたことって、やっぱりなかった気がするから。

美和は美和なりに不安とか感じてたんだろうか。

いつも、俺んとこ来てくれてて、ホント、俺から行くなんて滅多にないことだし。


『どういうところが好きか、いろいろ伝えてくれた』
さっき、美和は後輩のことそう言ってた。

俺も…。
美和のこと。
好きだ。
どこがって。

俺だって、やっぱ伝えないと…。
そう思うのに。

わからなかった。
いや、好きには好きなんだ。
けれどなにが好きかって。

言葉が思いつかなくて、言葉に出来なくて、泣きたくなった。

こいつのこと散々嫌って。
性格が嫌だとか、あからさまに態度に表してて。
そういうのは伝わっちゃってたのに。

モテるのがむかついてイラついてる俺のこともたぶん伝わってる。
そりゃ、それが嫉妬だからって、喜ぶ性格ならいいけれど。
イラつかせて悪いって思うかもしんねぇ。


なんで。
悪いことはすぐ伝わるのに。

好きだって態度で示せないんだろう。
態度だけじゃない。
言葉にも出来ない。

こんな俺じゃ、美和が乗り換えてもおかしくないんだ。

「玲衣くん、俺のこと好き?」
そう言われたら、涙が溢れた。

伝わらないんだ。
伝わってないから、美和は俺に確認するんだ。
「玲衣くん…っ?」

「…っ…好き…だけど…っ。
なにが、好きとかどこが好きとか、よくわかんねぇしっ。
俺バカだから、言葉とか思いつかねーよ。

普段のお前見ても、運動も勉強も出来んのってなんかずるい気がしてむかつくだけだし。

けど、お前が、モテて他のヤツに好かれんのがむかつくのって、俺もモテたいとかそういうのよりも、俺の…なのにって…っ。
お前のこと、ホントはみんな知らないくせに…っ。
すっげぇ、意地悪で性格悪ぃの、みんな知らねーから、簡単に好きとか言えんだよ。
そんなんホントの美和じゃねぇんだよ。
俺は、はじめから美和がやなやつだって知ってたんだよ。
知ってて、わかって、それでも好きになってんだから、他のやつとは違ぇしっ」

美和は俺の腕を引いて、口を重ねてきた。
軽くだけれど、頭がボーっとした。

怒涛の勢いで言っていいのか…むしろ言わない方がいいようなことまで言ってしまったが、その流れを止められた感じだ。

「美和…。悪ぃ…。上手く言えない」
「充分、伝わってる」
「嘘だ…」
「玲衣くんが言うように普段、取り繕ってるし。そんな表面上だけ見て、なにか伝えられても、もちろんそれなりには嬉しいけど本当は違うのになって思うから。
玲衣くんは、俺のことちゃんとわかってくれてるなって思うよ」
性格悪いとか言っただけなんですけどっ。

それでも妙に嬉しくてたまらなくなった。

そういえば、美和も初め俺に伝えようとしてくれて。
伝わらないかなって言ってたような。
ほら。
変な告白したときだ。
いやがらせなのか好きなのか。
不器用な恋愛だと思った。

けれど、美和は美和なりに自分らしさをぶつけてきてくれてたのかもしれない。
表面上で好きだとかどこがいいだとか言うだけじゃ、伝わらないんじゃないかって。
美和自身が、そういう告白ばっか受けてきたから。
だから歪んだのかな。
いや、それが正しいのかもしんねぇけど。
態度で示してくれたのかもしれない。
……強姦まがいって言われたらそこまでですが。

けど、ホントに嫌がったら、一応止めてくれてたし。
美和の取り繕ってない部分を見せてくれてた。

あれはたぶん、他のみんなは見てないんだ。

伝えたい。
言葉じゃ足りないから。

美和の体に自分の体をそっと寄せた。
「好きじゃなきゃ…泣いてない」
美和は頷いて俺の涙を指で拭ってくれていた。

それだけのことなのに体中が熱くて。
伝わった?
俺も、やっぱり美和のことが好きなんだって、いまものすごく実感した。