「おはよう」
耳元で誰かが言う声。
あれ、昨日から夏休みだろ。
起こすんじゃねぇっての。
「ん…」
「まだ、起きないの?」
「…ん……」
「じゃあ、一緒に寝てもいい…?」
一緒に寝るって、添い寝とか?
添い寝ねぇ。
ってか、誰だ…?

ボーっとしたテンションの中、自分の布団に入り込んできていたやつを確認。
「…美和…? お前、帰ったんじゃねぇのかよ」
「来ちゃった」
「……出てけ」
そうとだけ告げ、美和とは反対側に体を向けた。

それなのに。
後ろから俺のシャツに手が入り込んでくる。
「んっ…ばかっ…やめろって…」
「どうして? 眠い?」
「んっ…眠い…っ」
「玲衣くんは、寝たままでいいよ」
そう言いながら、手が胸元を這い、乳首あたりを執拗に撫でていく。
「んっ…ぅんっ…」
「感じるんだ…? 硬くなってきた」
「ばっかっ…ぁっ…んっ…ンっ…離しっ」

徹底的に無視して寝たいのに。
もう無理くさいとこまで手、出してきやがって。
「あぁあもうっ!!」
思いっきり寝返りを打って、美和へと向き合うと、美和は笑顔で首をかしげる。
「…やめろ。まだ寝るから」
「もう9時だよ」
「馬鹿め。あと1時間はせめて寝させろ」
「……ふぅん」
大丈夫そうだったから、一応体を反対方向へ向け、俺は二度寝に入る。

すると、美和の手が、今度はあろうことか股間をズボンの上からまさぐっていく。
「ん…っ」
無視してやりたい。
それなのに、ズボン…いや、下着の中に手を突っ込んで、直に俺のを掴みあげる。
「あっ…離せって」
「駄目ですね。逃げられそうなので」

少し擦りあげられただけで、ソコはすぐに熱くなった。
「あっ…起きるからっ…んっ離し…っ」
「起きてくれるの?」
「んっ…あっ…ぅんっ」

っつーか、ぶっちゃけ目が覚めましたから。
一旦、手を離してくれて。
俺は起き上がり、美和を睨みつける。

「…お前、なんで勝手に入ってくんだよ」
「ルームメイトの先輩が入れてくれたから」
「…いねぇだろ。夏休みで帰ったって」
「ホントは、合鍵があるので」
「……なに言ってんだ、お前。もういい、どけって」
「もっと、恋人らしくしよ?」
「…………うざ…」

そう。
あろうことか、このウザい男は俺の彼氏だ。

すっげぇ嫌ってたんだけど、なぁんかめちゃくちゃ恋愛ベタで、馬鹿っぽい一面を見たら、つい。
同情に似た感情も混じってたんだろう。

だけれど、今じゃ、それも演技だったんじゃないかって思えるわけだ。
騙されたんだよ。
ったく。
けど、一度付き合った手前、なぁんかいまさら別れるってのも…なぁ?

「寝起きの玲衣くんってかわいいね」
「うざいから、マジで。どっか行けっての」

美和を乗り越えて洗面所へと向かう。
あぁあ、こんな早く起きてどうすんだっての。
夜型派だっつーの。夜行性なわけ。
早すぎだろって。

顔を洗って、ベッドへと戻ると、そこに座っていた美和がじっくりと俺を見る。
「なに…」
「いや? 別に」
「…用ないんなら、帰れば?」
「用ならあるよ。玲衣くんに会いに来た」
「もう、会っただろ」
「やりに来た」
にっこりと、なに言ってんだろうなー。こいつ。

「馬鹿か。お前は」
「そこまで馬鹿ではないけれど?」
こいつ、勉強できるんだよな。
うかつに馬鹿とか言うと、俺の方が馬鹿だしで。
あぁあもう扱いにくい。

「ねぇ……そんなにいや?」
ベッドに座って、俺から目線を逸らして美和は、そう問う。
「…チっ」
つい舌打ち。
そうやって、出られると弱いんだよ。
なんだ、結構、イイヤツか俺。
人を傷つけることにちゃんと、心の痛みを感じやがる。
なぁんて分析してる場合じゃねぇ。
「嫌とかじゃなくてさぁ…」
「どこが駄目? 勉強も運動も、がんばって1番取ってるのに」
いや、ソコなんですけど。
ってか、お前の親じゃあるめぇし。
…たしかに、勉強も運動もまったく出来ない馬鹿だったりしたら、彼氏として少し不満に思うかもしれないけど?

「あえて言うなら性格なんだけど。もういいよ。嫌じゃないって言ってるだろ」
「じゃ、いいね」
そう言うと、俺をベッドに押し倒す。
「…いいねって。なにが」
「しよ?」
笑顔が恐いです。えぇ。
それを認識した直後、口が重なり舌を差し込まれる。
「んっ…」
馬鹿か、こいつは。
嫌じゃねぇけど、なんかおかしいんだよ、こいつは。

……まぁいっか。
付き合うことにしたわけだし、キスくらい…。
キスで終われるのかわかんねぇけど。
「んっ…ぅんっ」
めちゃくちゃ気持ちいい。
舌が絡まって、変な音するし。

何度もわざとなのか、音を立てながら口を重ねなおし、唾液が流れ込む。
「っはぁっ…んっ…ぅんっ…ゃめっ…んっ」
ったく、いつまでキスしてんだ、こいつ。
しつこい。

やぁっと口を離されたときにはもう、ボーっとして。
軽く酸欠。
「はぁ…っ…お前…しつこい…」
「すぐ、入れていいの?」
「……いや、無理だって。馬鹿」
「じゃあ、今日はじっくりしよう?」
「今日はって言うほど、やってねぇだろ」
「そうだよ。だから、やりたいわけ」

そう。
結局、付き合いだして以来、やってない。
俺が避けまくってたから。なにかと理由をつけて。

人がいるからとか、先輩が帰ってくるかもしれないだとか。

でも、夏休みですから…理由が思いつかない。

それに、付き合ってるしなぁ。
1回くらい…。

「…お前、サドっぽいから条件出す」
「…涙目で言われてもなぁ…。で、なに?」
「痛くすんな。俺がやめろって言ったらやめろ」
美和はしょうがなくため息をついて、頷いた。
「最後まで、するよ?」
「…それはしょうがないから、たぶん、するけど」
「約束ね」

そう言うと、シャツを脱がせて、ズボンや下着も剥ぎ取られ、全裸にさせられる。
全裸かよ。

俺へと体を重ねて耳を舌で舐め上げながら、胸元の突起を指先で撫でる。
「んっ…あっ…んなとこっ…」
感じねぇよって言いたいのに、体が熱くなってきて。
最悪。

首筋を舐められて、胸元にも舌が這う。
ゾクゾクする。
「んっ…ぅんっ…あっ…美和っ」
「なに…?」
「んっ…あっじれったぃっ…やっ」
「じゃあ、下、触ろうか」
胸元を撫でていた手が、ゆっくりとお腹を這い、股間のモノを捕らえ擦りあげていく。
「っあっ…ぅんんっ…あっっぁあっ」
「ぬるぬるしてきたね…。いいよ…そのまま一回、イって」
「えっ…あっ…やっ…だ」
「じゃあ、もう後ろに指、入れるよ…」
そう言って、ぬめりを取った指先を、ゆっくりと奥…俺の中に差し込んでいく。
「なっ…あっ、あっんーーっ!!」

入り込んでくる。
指がゆっくりと、奥の方まで。
「はぁっあっ…あっ美和っ」
「奥まで入った…。動かすよ」
いちいちそう言ってくれながら、中に入り込んだ指先が軽い抜き差しを繰り返す。
「んっぅんっ…ばかっあっあっ…」
ゆっくりと探るように、動いた指先が、感じる1箇所をかすめるたびに、体が大きくびくついた。
「ぁんっあっ…やっぅンっ…やっっ」
「気持ちいい?」
…やばい。
マジで気持ちいい。

精神、いっぱいいっぱいだ。
肉体の方は、なぁんか腰動いちゃうし。
「はぁっあっ…ぁんっあっんぅっ」
「…イイんだ? すごいやらしい顔してる」
馬鹿かこいつは。
睨みたいのに余裕がない。
「んっあっ…やっいくっ…ぁあっやめっもぉっ」
もうマジでイクっての。
それなのに、美和は指の動きを止めてしまう。
「なっ…なにお前っ」
「やめてって、言っただろう?」
「っ…言ってねぇよっ」
「そう? やめっ…ってちゃぁんと、言ってたと思うけど」
……確かに言った…かな。
「違…それは、ついっ」
「じゃあ、どうすればいい?」
…読み取ってくれよ、俺の心をさぁっ?
いや、違う。
空気読めない馬鹿なわけじゃなくって。
わかっていながらワザと、わからないフリしてやがるんだ。

くっそぉ。
「…いい…から」
「ん?」
「だからっ…やめなくていいっつってんだよ」
「やめなくていいってのは、ホントは止めて欲しいけど、別に構わないってこと?」
「違っ…もぉばか、早くしろって。やめっ…ないで」

そこまで言うと、やっと指をまた動かしてくれる。
「ひぁっあっ…んぅっ…やっゆっくりっ…ぁああっ」
「イきそう?」
「あっぁんんっ…やっいくっ…あっあんっ…あぁああっっ」

イってしまうと恥ずかしさから顔を背ける。
が、落ち着く間もなく、指がもう1本入り込もうとする。
「あっ…なっ…馬鹿、やめっ…」
「なに?」
なにじゃなくて。
「っんっ…やめろってっあっ…」
「…また…ホントはして欲しいとかじゃなくて?」
そう言いながら、2本目の指が奥まで入ってしまい、抜き差しされてしまう。
「んーっ…あっあっ…ぅんっ…あんっ」
「ほら…気持ちよさそうだ…」
さっき一度イってしまったことで敏感になってるのか。
体からいい具合に力が抜けて、後ろが楽。
気持ちよすぎる。
さっきより太くて、気持ちいい圧迫感。
「あんっ…あっ…やっ…美和っ」
「すごい…さっきより上手く感じてる…? 顔も声もやらしくて、エロいね…」
そんな風に羞恥心を煽られても余裕がない。
「はぁっあっんっ…あんんっ…やっ…あんっ」
「どうしたの…? 涙流してさ…。後ろ、好きになってきた?」
馬鹿な。んなことあってたまるか。
だけれど、本当に気持ちいい。
死にそう。
「やっ…あっあっ美和っ…だめぇっっ変っ…あっ…やめっんっっ」
「どうして?」
「はぁっあんっっうんっ…」
もう会話になんねぇや。
それでも、美和は一応抜いてくれる。
「はぁ…もう…だめ…」
「イかないと苦しいでしょ」
「もう…いいから、とっとと…」
美和は俺のその言い方が気に食わなかったのか、ため息をつく。

「…美和…?」
「玲衣くんは、あんまり俺のこと求めてくれないね」
結構、強引にやりに来ておいていまさらなに言ってんですか、この人。
「……いや、でもさ。そこまで拒まないわけで、それはやっぱり一応、相手がお前だからなわけで」
「ホントは嫌なの?」
「…もう、いいから」
そう言うのに、俺から目を背ける。
このまま、こんなやつ放置してもかまわないはずなのに、どうもほっとけない。
……俺が、ほっとけないってのわかっててわざとやってんのかもしんねぇけど。
「…しろって…早く」
「俺のこと、玲衣くんは好き?」
そういえば、好きとか言ったことなかったっけ。
「……好き…だから」

そうは言ってもいまいち反応しないこいつがじれったくて逆に押し倒す。
「…ったく…」
美和の体を跨ぎ、取り出した美和のを自分のあそこへと押し当てる。
「あっ…んっ…」
……やっぱ、こんなの入らねぇだろ。
「くっ…んっ…」
「そんなエロいことされたら、おっきくなり過ぎて、入れるに入れれないよ」
馬鹿なこと笑いながら言われても、俺はそんな余裕ない。
「ばっかっ…んっ…手伝えっ」
そう言うと、俺の股間をそっと撫で上げる。
「あっ…んっ…」
「力抜いて…そのままゆっくり腰下ろして…」
「ひぁあっ…やっやっ…熱いっ…やだっ…」
「自分から入れようとしてくれたんじゃないの?」
そうですけど。
くっそぉ…意地でも入れてやる。
「んっんーっ…あっあぁああっっ」
「ほら…あと少し…」
「うるさっあっ…くっ…んっぅんっ」
入った…?
きっつ…。
やっと腰、下ろせた。

「ほらみろっ…はぁ…。求めてんだろぉが」
「もっと求めてよ…。ね?」
笑顔でそう言うと、俺の太ももを撫で催促をする。
「んっ…はぁっ…いまからすっから…これ以上、デカくすんなっ」
「それはどうかなぁ」
そう言う美和なんてもう無視で。
腰を軽く前後に動かすとそれだけで、俺の中の硬い肉棒が感じる所を圧迫する。
「んーっ…ぁっ…あっ…はぁンっ…あっ…くっぅんっ」
抜き差しするとまだ痛いけど、こんな風に中、掻き回されると気持ちよさだけ。
たまらないよ。
「はぁっ…美和ぁっ…ぅんっあんっ…」
「腰、すごいね…。そんな風に動かして、俺も下から突いていい?」
「えっ…あっ…あんまり、抜かないで…っ」
「わかった。少しだけね?」
そう言うと俺の腰を掴んで、軽く抜き、奥へと突き刺す。
「んぅんっ!!」
何度も繰り返すように、美和が突くもんだから、さっきよりも奥に入ってるような気がする。
「ぁあっあんっ…やっやあっ…ぁんっ」
自分の体に力が入らず、ただガクガクと美和に揺さぶられて頭がクラクラした。
「はんっあっ…ぃくっやっ…やあっ…あっ」
「いいよ。イって?」
「んーっ…あっはぁんっ…やっあっあぁああっっ」


もう駄目だ。
イってしまうと脱力状態でなんとか美和のを抜きベッドに寝転がった。
……ってか、なんで俺、こいつと騎乗位でやっちゃってんだか。

「玲衣くん、かわいかった」
「…ホント、なんかわけわかんねぇ」
「どうして? 恋人同士がする行為として、普通でしょ」
「いや、それ以前の問題っつーか」

こいつと付き合ってる自分が意味わかんねぇっつーか。
「…まぁいいや。お前、夏休み帰るんだろ?」
「んー…。とりあえず7月は残ってようかと」
「あぁ、じゃあ7月中に課題済ませるか。俺、一人じゃ無理くさいから手伝って」
「わかった」
意外と便利だ、こいつ。

「玲衣くん。俺、この部屋に泊まるから」
なんて提案してんだ、こいつ。
「いや、それはやめろ」
「先輩いないんでしょう? 課題手伝うわけだし、一緒に過ごせばいいと思うんだけど」
思いませんよ。

「…ヤらないならいいけど」
「どうして?」
「やだって。なんで俺がお前とやるんだよ」
「付き合ってるから。駄目なの?」
……なんで付き合ってんだか…。
「んなこと言ってもさぁ」
「…じゃあ、いいよ。やらないから」
「嘘っぽいし、お前」

ため息をついて、目線を逸らされると弱いんだよなぁ。
こいつ傷つけちゃったかなぁって気になっちまって。


しょうがなく、俺は美和の頬を取り、軽く口を重ねた。
「…美和…。その…いちいち許可とか取るなって」
「…先に条件出したの、玲衣くんでしょ…」
うわ、俺、すっげぇ馬鹿じゃん。

「とにかくっ…いいから…」


結局。
夏休み中、とりあえず7月中。
こいつと同室で過ごすことに。
いいように、うまーく俺が断れないような言い方してくんだよ、こいつ。

美和って、恋愛に関しては馬鹿なのかと思ってたけど。
本当は、馬鹿でも天然でもなくて、仕組んでやがるんだ。
策士め。
こいつが策士なんだとわかるだけ、俺はマシだ。

ただ、そんな策士にハメられる俺はやっぱり馬鹿なんだろう。
馬鹿だなって思うんだけど、それでもそこまで嫌な気はしなかった。