ずるい。

すっげぇむかつく。

俺はそれなりに運動に自信があった。
っつーか、勉強無理ですから?
勉強駄目でも、運動できりゃかっこいいでしょ。

つまりなんつーか、勉強する労力をぜーんぶ運動に費やしてるわけ。
この学校に入れたのは奇跡ですよ。

それなのに。
美知純玲。
ありえねぇやつに出会った。

2年になってすぐ。
編入してきた。
そんときすでに、俺の中ではありえねぇやつだと思った。
実際はよく知らないけど、ここの編入試験って、難しいみたいだし。
入学試験以上なのは確かだろう。
「みわすみれです。よろしくお願いします」
それくらいの簡単な挨拶だったけれど、1年からクラス持ち上がりの俺らは、とにかくそいつのことが気になっていた。

頭がイイのは分かりきっている。
眼鏡に黒髪。
いかにも、勉強できるって感じだし? ここに編入してくるくらいだし?
ココの前はもーっと頭のイイ高校行ってたんかってくらい。

初めは、クラスメート同様、俺も、あぁ、すげぇやつが来たんだなぁレベルにしか考えてなかったんだけど。

運動能力テストでのことだった。
別にそいつのこと気にして見てたわけじゃないんだけど。
名簿が1番の俺は、自分が走り終えると、ただ他のやつらがやり終わるのをボーっと待つのみだから。
眺めていると、ちょっとした歓声。
ほら、転校生って結構騒がれるだろ。
俺らは1年から一緒だから、こいつ以外は、みんな分かり合っちゃってるし。

「すっげぇ、意外に速いじゃん」
「運動得意なんだ?」
そう声をかけるクラスメートがちらほら。
成績を覗き見て。
クラスでトップクラスの運動能力を誇っていた俺は、そこで初めて敗北を味わった。

もちろん、悔しくないフリ…っつーか、我関せずーみたいなフリしてますけど。
すっげぇ、気になる。

50メートル走も幅跳びも、ボール投げも。
全部全部全部、少しずつだけど負けてるわけ。
もちろん、俺らが1位と2位で。
3位との差はすごく開いてるけど。

みんな俺になにも言わないのは気を使ってなのか、まったく無関心なのかはわかんねぇけど。

別に、運動だけ出来るやつに負けるならいいけど。
勉強も出来て運動も出来るなんて、すっげぇむかつくんだって。

印象最悪。
絶対、こいつとは仲良くなれないと思った。



あぁもう、こいつと一緒の選択したくねぇのに。
体育、なんで被るかなぁ?
やつの実力を知るたびに、イライラする。

俺は、こいつと同じチームになることなんてなかったから、よく対戦で当たるわけ。
チーム戦だから、勝ち負けは5分5分くらいだけど。
やつの技術力がずば抜けているのは目に見える。
「あー…イライラする」
そうつい声に出す。
「…玲衣、相当嫌ってんねぇ」
クラスは違うが、体育で一緒になることが多く仲良くなった憂月にそう声をかけられる。
「嫌ってるっつーか」
まぁそうだけど。
「…あいつ、編入してきてんだぜ? 編入するくらいだから、勉強出来るわけじゃん? でもって運動もってさぁ。ずるくね?」
「ねたみにしか聞こえないけど」
「そうなんだけどさぁ」
「まぁ…すごいなぁとは思うけど」
そう。すごいってみんなに思われるのも、俺的には駄目なのよ。

実際、中間テストも。
転校生に声をかける優しいクラスメートなフリして、順位聞いちゃいますけど。
あっさり1位ですから、こいつ。
俺は聞くだけ聞いて、「言えるような順位じゃないから」と自分は答えない。
せこいけど、ホントに言えねぇよ、これ。
後ろから数えた方が速すぎる。

やつの実力がわかったところで、俺はもう、こいつに関わるのはやめようと思った。
体育で対戦しちゃうのはしょうがないけれど。
もう、こいつの勉強がどうだとか聞くこともないだろうし。
聞かなくてももうわかった。

こいつのことは忘れて。
たまにイラつくけど、無視して。3ヶ月くらいたったかなぁ。
掃除時間。
焼却炉へゴミを持っていく俺の視界に入る。
あぁ。うっとおしい。なんで俺は見つけてしまうんだ。
というのも、なぁんかかわいらしい子と2人でいるから。
彼女か?
っつーか、サボりですか。
注意したくなる俺は、なんて心が狭いんだろう。
こいつが完璧くさいから、なんか悪いとこ見つけたいんだろうな。
俺だって結構サボってるっての。

だけれど、見ているとどうも様子が。
少し困り顔で、対応する美和純玲に、泣きそうな顔をして。
その子は走り去っていく。
あれまぁ。
もしかして告られちゃいました?

…あぁ。
なんでも出来てさらにモテるわけですね。
ホント、見なきゃよかった。
うぜぇ。

…まぁ確かに、顔もイイけど。
ってか、マジでずるくねぇ?
かっこよくて勉強できて運動できて。
つまりモテて。
嫌味らしくない。
俺から見たら、うっとおしいんだけど。

つい冷めた感じで見ていると、視線に気づいたのか、不意に俺を見て。
目が合ってしまう。
やべ…。
わざとらしいけれど、俺はすぐ視線を外して、その場を後にした。

ゴミを捨てて。
いざ教室へ戻るかと、ユーターンすると、目の前に立ちはだかる。
美和純玲だ。
「っ…ちょっ…。いきなり出てくんなよ」
「ごめん。ちょっといいかな」
…なんなんだよ、ったくよー。
まぁ、俺も、一応、優しいクラスメートのフリして一回成績聞いたけど。
それくらいしか俺ら接点ねぇじゃん。
3ヶ月経って、いまさら掃除の事聞くとかじゃねぇだろうし。

「なんだよ」
そう嫌々顔をあげた。
と、同時に、俺の口に口が重なる。
って、え?
ちょっといいかなって。
どういう意味?
体が硬直状態。
「…じゃ、俺、掃除場所、外だから」
そう言って、俺の元から離れていく。

いや、ちょっと待てって。
なに、俺。
いまキスされたよな。
俺、頭の回転悪いっけ。
いや、悪いんだけど、ホント、理解できない。

しばらくそこで棒立ち。
だって。あいつそういうこと軽いノリでするタイプじゃねぇだろ。
なぜか運動も出来ちゃうけど、超真面目くんじゃねぇのかよ。

「な…にして…」
やっと出た言葉は、もう意味を成さない。
一人残された焼却炉の前で、つぶやく。

教室に戻っても気が気じゃなかった。
このまま避けて過ごすことも出来るけど。
あんなんされてむかつくだろ。
言わなきゃ気がすまない。

「……帰り、残ってろよ」
そう伝える。
「…わかった」
そう答えてくれるけど。
いらだつ気持ちを抑え、俺は自分の席につく。
「…玲衣―お前、なに喧嘩売ってんの」
クラスメートで隣の席の誠樹にそう声をかけられる。
「…違ぇよ、別に」
「お前、結構あからさまにあいつ嫌ってる感じだもん」
…あぁ、バレバレですか。
俺は嘘がつけない性格なんだよ。
「今日、さっき。あいつに喧嘩売られたから。買うだけ」
「あいつが?」
「そうなのっ」
「なにしたんだよ」
言えるかよ、馬鹿。
「まぁとにかく、今日は放課後、話し合う。それだけだっての」
「そう? ま、いいけど」
先生が来たこともあり、あまり深くは突っ込まれなかった。

帰りのSTも終わって。
美和は俺の言ったとおり、席に残っている。
他の生徒が出て行くまで、俺も席についたまま。
誰かいる状態で話せるわけもないし。

しばらくして、2人きりになると、美和の方から俺の席に来た。

「玲衣くん、なにか…」
「なにか、じゃねぇだろ、てめ…」
俺は、怒鳴らずに、心を落ち着かせ、立ったままの美和を見上げる。
「掃除時間、俺に、なにがしたかったわけ?」
「あぁ。ちょっといいかなって、聞いたけど」
「…で? 俺はいいよって言いました?」
「ごめん。返事は聞いてなかった」
「ぁあ?」
キレそうになった…というかもうキレてます? 俺。
「なにしてんだよ、てめぇっ」
「というか、返事、聞く気、なかったっていうか…」
あっさりそう言うと、俺の頬を両手で掴み、また口を重ねる。
「んっ…」
がっちりと顔を掴まれて、その手をどかそうとするけど、全然、うまくいかない。
すると、舌が入り込んできて、俺の舌に触れる。
「っ!!!」
こういうとき、どうすればいいんだよ。
舌、噛んでやるとか?
そう頭ではいろいろと考えるけれど、動けない。
抵抗する手にも力が入らなくて。
美和の舌が、俺の舌に絡まってくる。
「ンっ……ぅんっ」
上を向くせいでか、口の中に唾液が送り込まれていた。
「んぅんっ…」
ジワリと、涙で目が潤う。
なに、俺。
たかがキスされたくらいで。
悔しいようなよくわからない感情。

そっと口が離れると、美和が俺の顎を伝った唾液を指先で拭ってくれる。
その手を思いっきり、叩いて払いのけた。
「な……なにっ…」
「もしかして、初めて…? 顔、赤いし、泣きそうだ…」
余裕そうな笑みを見せるそいつにむかついて、俺も立ち上がる。
と、もともと俺の席が壁際だったこともあり、体を壁へと押し付けられ、美和の右手が、ズボンのチャックを下ろしていく。
「っな…おいっ…ちょっとっ」
こういう場合、殴ったりして逃げれば…とか考えてられなかったんだよ。
ただ、なんで? とか、そういう気持ちが強くて。

俺のを取り出して、掴み上げてしまう。
「なっ…」
「抵抗しないでくれる?」
にっこり笑って、そう言われ。
従うつもりはないが、どうすればいいのかわからずにいると、美和は手にした俺のを擦り上げる。
「んっ…!!! ぅんっ」
体が大きくビクついた。
恥ずかしいくらいに。
こいつに、こんな姿、見られたくない。
それなのに、何度も何度も擦り上げながら、俺の表情を伺う。
俺は、その視線から逃げるように顔を背けるけれど、それでも視線が突き刺さっていた。
「ぁっ…んっ…んっ」
「人にされるの…初めて…?」
初めてだけれど、こんなやつに答えるつもりはない。
「っ…離しっ」
美和の手をどけようとしているのか、つかまってるのか。
やばい。
こいつのこと、すっげぇ嫌いなのに、気持ちいい。
「先走り、出てきたよ…?」
「くっ…ンっ…ぅんんっ…」
「気持ちいいんだ?」
耳元でそう言ってきたかと思うと、舌が這う感触。
「っンっ!!」
不意打ちなその行動にまた体がビクついた。
舐め上げるいやらしい音が耳につく。
「離っ…ぅんっ…あっ…」
「我慢しなくていいよ…。イって?」
「ふざっ…けっ…ぁっ…」
「教室汚れちゃうの、気になる? 飲んであげようか」
からかわれてるんだろうか。
そう耳元で言うと、美和は俺の前にしゃがみこみ、今度はソレに舌を這わす。
「っんっんぅっ…」
「すごい、ヌルヌルしてる…」
亀頭を撫でられて、刺激されながら。
見下ろす俺に気づいてなのか、見上げられ目が合ってしまう。
企むように笑うのが、ぼやける視界の中わかった。

と、美和は俺のを口に含んでしまう。
「なっぁっ…」
舌が這う。
吸い上げられて、何度も口内を出入りさせられて。
やばいやばい、やばいんだってば。
すっげぇ気持ちよくて。
イク。
もう、イっちゃう。
むかつく。
「ぁっんっ…ぅんっ…んぅんんっっ」

イってしまうと、宣言どおり、美和は俺のを飲み干していた。
ありえないってば…。

やっぱり嫌いだ、こいつ。
俺は、すぐさまそいつの体を押し退けて、カバンを取ると、走って教室を後にした。

ありえないって。
なに。
っつーか、俺、また明日会うじゃん?
どんな顔して会えってんだよ。
あぁ、無視すりゃいいか?

俺が話しかけない限り、あいつもなにも言ってこないはず…。
あぁもう、泣きそうだ。