ホテルの一室まで移動する間も、俺はずっと入れられることばかり考えていた。
 ついさっきまで、篠の指が俺のナカに入っていたせい。
 篠は俺の肩を抱きながら、
「きおくん、借りてきた猫みたいじゃん」
 そう冗談っぽく言ってきたけど、肯定も否定もできなくて、俺はその言葉を聞き流した。



 部屋に入って靴を脱いだ後、篠はベッドの近くで正面から俺を抱き締めてきた。
「……なに、してんの?」
「なにって?」
 篠は優しく俺の髪を梳きながら、耳元で尋ねる。
「いや……いつもそんなことしないだろ。俺にとかじゃなくて、相手の子にもさ……」
「そりゃあ、いつもと違うからね。3人ですんのに、2人で抱き合うわけにもいかないし」
 俺は、3人でするときの篠しか知らない。
 篠の言うことも、もっともだけど。
「じゃあ2人でするときは、いつもこんな感じ……?」
 髪を撫でていない方の篠の手が、俺の腰に這わされる。
「他の誰かとどうしてるかなんて、いま言うことじゃないでしょ」
 たしかにそうかもしれない。
 ただ、篠が作り出す空気感に、俺は少し戸惑っていた。
 もっと気楽に軽いノリでセックスできると思ってたのに。

 篠の性器が布越しに押し当てられる。
 もうしっかり勃起していて、篠が俺相手に欲情していることを自覚した。
 もちろん俺じゃなくても勃つんだろうけど。
「……いい?」
 わざわざ聞いてくる篠に、俺は小さく頷く。
 そんなしおらしい態度を取ってしまう自分にも、内心戸惑っていた。
 俺らしくない。
 それでも、篠に流されるがまま服を脱がされていく。
「自分で脱ぐよ」
「いいって。俺にさせて」
 上着、シャツ、それからズボンまで。
「……篠も」
「うん。脱ぐよ。きおくんが選んでくれた大事な服、汚したくないし」
 篠が目の前で服を脱いでいく姿を見るのは、別に初めてじゃない。
 3Pのとき以外にも、俺が選んだ服を篠に着せるときには、こうして脱いでくれるし。
 なのになんで、俺はこんなに緊張してるんだろう。

 篠が下着まで全部脱いでしまうと、当然ながら性器が晒される。
 俺は篠のモノに視線を向けながら、あることを思い出していた。
「……ちょっと、忘れてたんだけど」
「なに?」
 篠は、かなり立派なモノを持っている。
 俺も別に小さくないと思うけど、篠ほどじゃない。
「篠の……その、入る気が……」
 ここまできて、やっぱり入れられたくないなんて言うつもりはないけど。

 篠と誰かと3人でしていたときは、だいたい俺が先に入れさせてもらっていた。
 俺よりデカい篠の後に入れる気にはならなかったし。
 それは篠も理解してくれているみたいだった。
 まあほとんどが、どっちかが口でどっちかが尻で、立て続けに入れることにはならなかったけど。
 それも、よく考えたら、俺が篠の後に入れようとしてこなかっただけかもしれない。

 だからいまさら、初心者の俺に『デカすぎて無理』だと告げられたところで、たぶん篠が傷つくことはない。
「無理には入れないよ。それで、きおのこと満足させられるかどうかはわかんないけど」
 車の中でされたみたいに、指だけでもだいぶ堪能できるだろう。
「でもさ……きおくん、初めてやられたとき、入るって思ってた?」
「え……」
 たぶん思ってなかった。
 そんなつもりじゃなかったし。
 それでも入ってしまった。
「そいつより、俺の方が大きい?」
「しっかり見てないし、わかんないけど。こんなデカいのは、入った気がしない」
「うん。じゃあ一緒に探ってこ」
 探られる。
 そんな扱いも、やっぱり慣れない。
 それでも、俺は篠に促されるがままベッドに寝転がらされる。
 篠は俺の下着を引き抜くと、足を開かせてきた。
「触るよ。ローション使うね」

 俺が明らかに慣れていないからか、わざわざそう言うと、篠は指先にローションを纏わせる。
 それを視界に入れた俺は、自然と膝を立てていた。
 そうしてしまった後になって、欲しがっている自分に気づく。
 もう一度、足をのばそうかと思ったけど、
「いいよ。そのまま……」
 俺の戸惑いに気づいた様子で、篠は俺の右膝を撫でてきた。

 立てた膝は戻せないまま。
 足の間に入り込んだ篠が、奥の窄まりに指を這わす。
「う……」
「うん。さっきも入っちゃってたし、大丈夫だよね」
 そう言いながら、篠はゆっくり指先を押し込んでいく。
「う……ん……! んん……」
「……苦しい?」
 俺は篠を見あげながら、小さく頷いた。
「はぁ……ん……」
「いいよ。さっきみたいに、きおから欲しがってくれても」
 車で、さっきはつい欲しがってしまったけど、一旦冷静になったからか、いまはそんなこと出来そうもない。
「むり……」
「じゃあ、俺がするね」
 結局、して欲しいって遠回しに伝えているようなもんだけど。
 入り込んできた篠の指が気持ちいいところを掠めると、一気に引き込まれる。
「ひぁっ……う……ん……!」
「ここ……きおの好きなとこだよね」
 確かめるみたいに何度も内側から撫でられて、立場をわからされているみたいだった。
「あっ、うっ! はぁ……あ……」
 実際わからされたのか、篠に身をゆだねる。
 自分でもちょろすぎだと思うし、なにより恥ずかしい。
 それでも、次第にそんなことどうでもよくなってしまう。
 撫でられるたび体がゾクゾクして、気持ちよくて、思考が蕩けてく。
「はぁ……ぁ……ん……ん……」
「欲しかった? ここ……入れられたくて、準備して、ナンパしに行ったくらいだもんね……」
 篠の言うことは事実だし、言い訳するつもりはない。
 恥ずかしいよりも、とにかく欲しくて、篠にされるがまま指の感触を味わう。
「はぁ……はぁ……あ……篠……」
「なに?」
「あ……あっ……ああ……それ……」
 篠は、やっぱりセックスが上手なんだと思う。
 篠の手で蕩けている子を何度も見てきた。
 相手がどんな愛撫を望んでいるのか、把握する能力に長けているのかもしれない。
 車でされたときは、あくまで少し確かめられていただけなのか、いまはしっかり探られて、じわじわと感じさせられる。
 強すぎない指使いで、ゆっくりしているようだけど、身も心も急速に高められていく。
「ああ……んぅ……う……ぁ……あっ……」
 抗わないと、気をしっかり持っていないと。
「大丈夫だからね」
 篠にそう言われた瞬間、抗う気が失せてしまう。
 篠なら俺を堕とすことくらい簡単だったのかもしれない。
 それでも、これまでは俺の意思を尊重して、手を出さないでいてくれた。
 いまになって、そんなことをより実感する。
「ああっ……ぁん、ん……う……し、の……はぁ……ん……」
「うん……気持ちいいね……」
 俺の気持ちを代弁してくれる篠に頷きながら、俺は腰をくねらせる。
「あぁっ……あ……あぁっ……あ、ん……んんっ!」
「いいよ。イッていいからね」
 イキそうだって伝える前に、篠の方からそう言ってくれた。
 また俺が頷くと、篠はほんの少しだけ強めにナカを押さえてくれる。
 俺から腰をくねらせなくていいように、イきやすいように。
「あぁあっ、篠……! あぁっ、あっ……あっ、はぁっ……んぅんんんっ!!」

 腰がビクついてナカイキすると、俺は篠の指をきつく締めつけた。
 もちろん、そうしようと思ったわけじゃないけど。
「はぁ……はぁ……ふぅ……う……」
「ん……2本目、入れていい? 休憩する?」
 休憩して落ち着いてもいいと思ったのに、2本目を意識させられた瞬間、続けて欲しくなる。
「いれ……て……」
「うん。少し緩められる?」
 勝手に締めつけてしまっていたけれど、なんとか力を抜く。
 収縮する窄まりを押し開くようにして、篠は2本目の指を挿入させた。

「んぅんん……! はぁ……あ……」
「うん。大丈夫そうだね。ローション仕込むくらいだし、自分でほぐしてきた?」
「はぁ……少し、だけ……あっ、ん……ふぅ……」
 2本なら、あれ以来自分でも何度か入れている。
 とはいえ、自分でするのと人に入れられるのとはだいぶ違う感覚だけど。
「篠……あ……あて、られると……あっ、あっ」
「ああ……またイきそ?」
 またイきかねない……だから外して欲しい。
 そう伝えたいのに、篠はあえて感じるところを2本の指先で軽くノックする。
「くぅう……! ああっ、あっ……待っ……ああっ、あ、ん……んん、いっ……はぁっ!」
「きおって、立て続けに何度もイけちゃうんだ?」
「あっ、ちが……あっ、あっ……いけ、な……ああっ、いくっ、いくっ!」
 矛盾した俺の言葉を聞いて、篠は笑ってくれているみたいだったけど、涙で視界が歪む。
 いまイッて満足しちゃいたくないし。
 イキすぎたらおかしくなりそうだし。
 イキたくない気持ちと、イきたい気持ちが入り混じる。
「いいよ。またイっちゃおうか」
 篠に促されて、それが正しいことのように思わされて。
「あぁっ、ん、んっ……あっ、あっ、ぁんんんっ!!」
 また軽い絶頂を迎えてしまう。

「はぁ、はっ……あ、う……はぁ……はぁ……」
「ん……ごめんごめん。苦しくなっちゃった?」
「ん……はぁ……はぁ……」
 指の動きを止めてくれる篠に頷きながら、荒い呼吸を繰り返す。
「前にしたときも、こんな風に立て続けにイッちゃった?」
 そんなことを聞かれて、俺は男としたときのことをぼんやり思い返した。
 ただ――
「……他の誰かと、どうしてるかなんて……いま言うことじゃないって……」
 そう言ったのは篠だ。
「ああ、ごめんね。気になっちゃった」
 別に、雰囲気を大事にしたいとか、そこまで思ってるわけじゃないけど。
「……イッたのに……終わらせて、くんなくて……」
 そう伝えると、篠はゆっくり指を引き抜いてくれた。
「……きお」
 俺に覆いかぶさってきた篠が、唇を重ねてくる。
 優しいついばむようなキス。
「いっぱいイッいいよ。でも、いやなら落ち着くまで待つから」
「ん……」
 自分はその男とは違うんだって、言ってるみたいだった。
 友人として、タチとして、当然の気遣いかもしれないけど、嬉しくて、照れくさくて、顔が熱くなる。
 落ち着きたいけど、まだしたい。
「篠……もうちょっと、待たせる……」
「うん。いいよ」
「篠が、よければだけど……指で、もう少し……」
 まだ慣らして欲しい。
「じゃあローション足して、次は3本入れようか」
 それを告げる篠は、すごく欲情した顔をしていた。