助手席のイスを倒されて、篠に見下ろされながらズボン越しに撫でられる。
 あまりにもスムーズで、やっぱり慣れてるな……なんて思う。
 俺はというと、なんだか慣れなくて、どう対応すればいいのかわからなくなっていた。
「……ホテル、入んないのかよ」
「んー……はいるよ。その前にもう1回、キスさせて」
 篠は上から覆いかぶさるようにして、口を重ねる。
 布越しとはいえ、股間を撫でられながら舌を絡め取られると、だいぶその気になってきた。
 もともとその気ではあるんだけど、思った以上に激しめのディープキスをされ、少し戸惑う。
 どういうつもりだろう。
 布越しだったのに、ズボンのボタンを外されて、チャックをおろされて。
 下着の中に入り込んできた指先が、ありの門渡りを撫でるようにして、外から前立腺を押さえつけてくる。
「ん……!」
 思わず薄く目を開けると、俺を見る篠と目が合った。
 いつから、見てたのか。
 俺のこと。
 キスした瞬間、俺はなんとなく目を伏せてしまっていたけれど。
 このまま目を合わせているのも、目を伏せるのもなんだか恥ずかしくて、俺はただ少し視線を横にずらす。
 篠はあいかわらず舌を絡めたまま、ぐにぐにと前立腺を刺激してきた。
「んん……ん……!」
 少し息苦しい。
 そんな俺に気づいてか、篠は口を解放してくれたけど、間近で見つめられたまま。
「はぁ……ん……篠……?」
「ん……さっきもここ……感じてるみたいだったけど。どんな感じ?」
 じれったい。
 でも、気持ちいい。
 いつもの……ただ、性欲が高まる感覚とは違って、ネコの気持ちにさせられていく。
「ん……う……くぅ……」
 なにか伝えようと口を開きかけると、それだけで変な声が漏れた。
「教えてよ」
「ぁ……う……それ……」
「なに?」
「ん……う……じれったい……」
「ああ……じゃあ、どうして欲しい?」
 からかってるのか、本気で聞いてるのか。
 わからないけど言いたくなくて、でも物足りなくて腰が浮く。
「んん……! はぁ……ぁ……」
「ん……余裕なくなってきてるきお、かわいい……」
 篠はもう一度、俺の口を塞ぐと、舌を絡め取りながら、さっきよりも強めにグリグリと前立腺を押さえつけてきた。
「んぅ……! んっ……んん……ん……!」
 自分では、こんな風に外から前立腺を刺激してこなかったし、あの男にもされていない。
 じれったいと思っていたけれど、さっきより強めに押されているせいか、ちょうどよくなってきた刺激に頭が蕩けてきた。
 体に力が入らなくて、ぼんやりしてきたのを見計らうように、下着から手が引き抜かれる。
「……ごめん。ちょっとだけ、ね?」
 なんのことかわからなかったけど、篠は俺の目の前で自身の指に舌を絡めると、もう一度、下着に手を突っ込んできた。
「なっ……」
 どういうつもりか頭で理解するより早く、指先が少しだけ入り込む。
「んっ……なに、して……」
「店の前で、入れてって言ったよね」
「言った……けど……!」
 すぐホテルに入れるのに。
 慣れてないから、気を使ってくれているはずだったのに。
 ついさっき言われたごめんの意味を、遅れて理解する。
 でも待ち望んでいた感触でもあった。
 1本だけ、浅く入り込んだ指先が、ナカを探っていく。
「ん、ん……ふぅ……う……」
「あれ……ナカ、準備してきてる?」
 今日は抱かれる気でいたし、それなりに洗浄して自己防衛のレベルで少しだけローションを仕込んでいた。
 配慮だったり、自分が傷つかないための準備だけど、篠に指摘されて羞恥心を感じる。
「あ……だって……」
「うん、いいよ。抱かれる気満々のきお、かわいい」
 入り込んだ篠の指先が気持ちいいところを掠めると、体がビクリと跳ね上がった。
「あっ! ん……んんっ!」
 思わず出てしまった声を隠そうと、慌てて口をつぐむけどもう遅い。
 掠めたところに優しく指の腹を当てられて、全身がゾクゾク震え上がる。
「はぁ、はぁっ……あ……う……」
「……落ち着いて」
 自分がいま、全然落ち着けていないと気づいたけれど、だからといって落ち着けそうもない。

 2週間待った。
 自分とは違う。
 人の指でナカから押さえつけられる感触は、あの快感を思い起こさせる。
「あ……ん……んん、篠……っ!」
「うん……?」
「はぁっ、はぁ……ぁ……んぅん……! そこ……」
「ここね」
 俺を見下ろしてくる篠の服をぎゅっと掴んで頷く。
「はぁ、はぁ……ん……腰……抜けそ……」
「いいよ。抜けちゃったら、俺が部屋まで運んであげる」
 篠は少しだけ刺激を与えるように、緩く指先でソコを押さえつけてきた。
「ぁっ……ん、んん……はぁ……ぁっ、ぁっ……ん……!」
「声も出していいよ。大きい声出ないように我慢してるでしょ」
 軽く指先を曲げるようにして、優しくトントンされると、始めたばかりにもかかわらず、絶頂が頭をよぎる。
「はぁっ、あっ……待って……やっぱり……」
 射精は以前にも見られたことがあった。
 でも、あえて見せてきたわけじゃない。
 そもそも、これまでそんなにじっくり見られてるとは思ってなかったし。
 けど篠の話しぶりからして、結構、見られていたかもしれない。
 いまは、完全に見られてる。
 というか篠にされてるし。
 射精じゃなく、ナカでイかされる姿を篠に見られるのは、やっぱり抵抗があった。
 イきたいけど、恥ずかしいのか少しセーブがかかってしまう。
「なに?」
「ん、ん……はぁ……やっぱり……んんっ……篠……」
 指先1つでこんなに感じて、あからさまに開発された姿を篠に晒すのは、普段の自分を知られているからこそ恥ずかしい。
「い……う……ん、いき、たくない……」
「なんで。いいよ。イッて」
 なんとなく俺の考えていることは、理解してくれているだろう。
 たぶん理解した上で、それでも構わないとでもいうように、篠は少しだけ強めにナカを押さえつける。
「ぁっ、んぅっ!」
 篠は愛しいものでも見つめるみたいに優しい笑みを浮かべていたけれど、俺は、篠がこういう表情を作れる男だって知っていた。
 ただ、それは悪いことじゃない。
 相手をその気にさせるのがうまいってだけ。
 わかっているのに、まんまとその気にさせられていく。
「からかったりしないから。ね……きおのこと、かわいいって思うだけ」
 それが恥ずかしいんだけど。
「はぁ……あ……ひい、たり……」
「しないよ。なんでひくの」
「ぁ……ん……俺……ん……すごい、開発、されて……」
「いいよ。いいから」
 篠なら大丈夫。
 そう頭で理解しても、まだ最後の一歩を踏み出せないでいた。
「はぁ……はぁ……待って…………あっ……変に、なってる……」
「変?」
「んんっ……ん、はぁっ、はぁっ……! い……んん……いけ、ない……」
 いきたいのに、覚悟が決まっていないのか、体がイクのを我慢しているみたい。
 それでもイかされそうで、どう受け止めていいのかわからない。
「大丈夫だから。ね」
 なにが大丈夫なのかわからないけど、そう言われてまたキスされると、なんとなく大丈夫な気にがして力が抜けてしまう。
「ん、んぅっ……だめ……あっ……あっ……いく……」
「うん、いけそう?」
 いかされる。
 開発された自分の体を、篠に暴かれていく。
「ぁっ……あっ……待って……あっ……んっ……まだ……!」
「ん……いこ?」
 篠は俺がうまく感じられるように、継続的に弱いところをトントン押さえ続ける。
 これ以上強くされたら、強制的にイかされそうだけど、俺の覚悟が決まるのを待っているのか、優しく導いてくれているみたいだった。
「はぁ……あっ……んん、ふぅ……い……あっ……やぁっ……あっ!」
 勝手にセーブしてしまっていたけれど、徐々に高められて、制御できる範囲を越えていく。
「やめ……篠……あっ、あっ、いく……ああっ、いく、からぁ……!」
「うん。イこうよ。ね。イきたくない?」
「わか、な……ああっ、んっ、ほんとに……あっ、あっ!」
「いいよ。イって。ほんとは、イきたいでしょ」
 イきたい。
 気持ちよくなりたい。
 恥ずかしいからって、こんなところで終わりたくはない。
 覚悟を決めたつもりはないけれど、篠から与えられる快感に意識を集中する。
「あっ、んぅっ、はぁっ、あっ……んぅんっ! いっ……ああっ、あぁあっ、あぁんんっ!!!」

 とうとう声をあげて、ナカでイッてしまう。
 すぐさま押し殺したけれど、なんだか余計いやらしい声になってしまっていた。
 こんな風に声をあげてイく姿を、篠に見られるのは初めてだ。
 羞恥にかられるけれど、それを上回る絶頂で、頭が蕩けてく。
「ん……気持ちよかった?」
 篠に聞かれて、俺はただ頷いた。
 頷く俺に、篠はまたキスをくれる。
「ん……ぅん……」
 俺からもたっぷり舌を絡めていく。
「はぁ……ん……力、はいんな……」
「うん……かわいい……」
 動かさないでくれているものの、篠の指はいまだ入り込んだまま。
「はぁ……はぁ……篠……」
「ん……?」
「そこ……ぁ……ん……」
「ん……気持ちいい?」
「はぁ……ぁ……あ……ん、きもち……んぅ……あ……」
 頭がうまく働かなくて、リミッターが外れてしまったみたいに、今度は俺から、篠の指を求めて腰を揺らしてしまう。
「はぁ……俺の方がとまんなくなっちゃいそう。いったん抜くね」
 そう言って、ゆっくり指を引き抜きかける篠の手首を掴む。
「待っ……あっ……はぁ、はぁっ……も、少し……はぁ、んっ……」
 すごく恥ずかしいことをしている自覚はあった。
 それでも止められなくて、篠の手首を掴んだまま、腰をくねらせる。
「はぁっ、はぁ……ぁん、んっ……はぁ……あっ、あっ……んん……!」
 まるで焦らされているみたいだった。
 一回だけじゃ物足りなくて、でも篠からはもう指を動かしてくれなくて。
「あ、んっ! 篠……あっ……んん、そこ……!」
「なに……欲しくなっちゃった?」
 からかわれているのかもしれないけれど、もしそうだったとしても、欲しいものは欲しい。
 我慢してたのがバカみたい。
 篠はゆっくりと、また感じるところを指の腹で撫でてくれる。
「あぁっ! あっ、んっ、あっ、あっ……篠、ぁんぅ……!」
「はぁ……もっと欲しい?」
「ぅん、んっ……あっ、あっ、もっと……ぁあっ、あ、んっ!」
 素直に欲しがったのに、くれると思って俺が手首を離した瞬間、篠はこんな最悪のタイミングで、指を引き抜いた。
「んぅ……! ん……はぁ……あ……はぁ……なん、で……」
「このまま、きおが満足するまでしてあげたいけど、思う存分、かわいがりたいし。ね?」
 とっととホテルに入ろうってことだろう。
「はぁ……そのつもりだったのに、篠が手出してきたんだろ」
「ごめんごめん。でも、1回イッたのに連続で欲しがるとは思わないじゃん?」
 俺だって、連続で欲しくなるとは思わなかったけど。
「も……早くしないと、狂いそ……」
 そうモヤモヤした感情を篠にぶつけると、篠は俺をジッと見つめてきた。
「俺も……狂いそうだよ。こんなかわいいきお、見せられてさ」
 もう何度かわいいって言われただろう。
「……やっぱ、はずいって。開発されたの、バレてくみたいで……」
「俺は知りたいけど。どう開発されちゃったか、全部教えてよ」
 すべて晒したら、逆にもうなにも恥ずかしくなくなるんだろうか。
「知って、どうすんの」
「俺の知らないきおのこと知って……それから、今度は俺もきおも知らないこと、一緒に知ろう?」
「どういう意味?」
「さすがに、なにもかも網羅したってわけじゃないでしょ。まだ開発されてないとこ、俺が開発したいってこと」
 冗談かと思ったけど、篠は意外にも真剣な表情を浮かべていた。
「……笑って言うとこだろ」
 つい、そう突っ込む。
「そうかなぁ。俺は結構、マジで言ってるよ。きおくん、俺だけにさ……特別ななにかちょうだいよ」
 俺を抱いた男に対して、どこか嫉妬や対抗心みたいなものがあるらしい。
 親友としてか、ただの独占欲かわからないけど。
 そんな篠が愛らしく見えて、篠の望みを叶えたいだなんて思うのだった。