「…………は?」
タチじゃなくネコのつもりできた。
そう告げると、少し間をおいて篠は聞き返してきた。
「……だから、さっきのナンパも間違いじゃなくて。あの子がタチだってわかった上で、声かけようとしてたんだよ」
「いやいやいや……なに言ってんの?」
篠は頭がおいついてないのか、俺の肩を正面から掴んでくる。
促されるようにして顔をあげると、思った以上に焦った様子の篠がそこにいた。
「じゃ、マジで俺が邪魔したってこと?」
「まあ……」
「あの子が言ってた、親友のこと全然わかってないみたいってのも……」
「それは、俺が隠してたから」
ここまで打ち明けたなら、むしろ店に戻ってまたあの子に声をかけ直してもいいんじゃないか。
もう篠に邪魔されることもない。
まあ、次は断りされるかもしれないけど。
「きお、本気で言ってる?」
「あ……?」
「さんざん確認したよね? タチしか無理だって」
なぜか篠は少し怒っているみたいに見えた。
俺が隠していたせいか。
あの子に言われた『親友のこと全然わかってない』が、いまさら効いてんのか。
3Pするくらいには、なんでも打ち明けあってきた相手だからこそ、思うところがあるのかもしれない。
「別に嘘ついてたわけじゃないよ。俺も無理だと思ってたけど、案外いけたっつーか」
「……いけたってなに? 気が変わって、いけそうな気がするとじゃなくて…いけた?」
「あ……」
言い方を間違えたと遅れて気づく。
とはいえ、これまでさんざん無理だと言っていたのに、いきなり気が変わったってのも怪しすぎるだろう。
「こないだ知り合った男と、やってみたらいけたんだよ」
「なんで……なんでそんないきなり知り合った男としてんの」
「別に篠だって、さんざんナンパして1日限りでやったりしてんだろ」
「それとこれとは話が違うよ。きおがいけんなら俺がしたのに」
たしかに篠の言うことも一理あった。
なに言ってんだよとは思わない。
タチ同士だし無理だよねって話は何度かしてきた。
そんな中、もし篠が誰かにやられて開発されて『案外ネコもいけた』なんて言ってきたら『俺でもよかったんじゃね?』ってたぶん思う。
実際、なにかしてなくても『いけそうだから、タチの相手をナンパしようとした』時点で、俺でいいだろって思うかもしれない。
そう思うくらいには、篠のことが好きだし、篠も俺を好いてくれてるんだろう。
ただどちらも譲らなくて、親友の距離感がたまらなく心地よくて。
タチ同士でいる限り、良くも悪くもこの関係は変わらない。
タチとネコになった瞬間、たぶん関係は変わってしまう。
同じ方向を向いていたのに、いきなり向かい合わせになってしまうみたいな感覚だ。
「……なんで知り合ったばっかの男に許したの?」
篠は、俺の顔を両手で包み込むように、頬に手を添えながら、こっちをじっと見つめてきた。
「許したっていうか、まあ最終的にはそうなんだけど。だいぶ強引にやられて……」
篠は疑うように、そして不機嫌そうな視線を向けた後、俺に抱き着く。
「強引にされて、流されて開発されたって? ああもう……マジでそんなことなら、俺がとっととやっときゃよかった」
「お前がそんなやつなら、こんなにつるんでねぇよ」
もし、篠が強引に俺に迫ってきてたら。
拒んでたかもしれないし、そのまま流されてやってたかもしれないし、いまとなってはわからないけど。
たぶん、ほどよく距離は置いたと思う。
それで気持ちよくなったとしても、結果的によかったってだけで、望まないセックスを強いられたことには変わりない。
そういう押しの強さがありがたいこともあるけど。
お互い男好きで、やれる相手を求めている中、入れられる側になる気はないっていう俺の意思を尊重してくれていた篠だからこそ、これまで一緒につるんできた。
俺も、篠の意思を尊重してきたつもりだ。
「……じゃあ、やなら断わって。きおんナカ、入れたい」
入れたい。
抱き着かれたまま、耳元でそう言われた瞬間、ナカが少しだけ疼いた。
入れられたいというより、入れられることを意識してしまったみたいに。
「そんないいもんじゃないんだけど。これまで篠が相手にしてきたネコみたいに、かわいいわけでもねぇし」
「そう? でも俺、いろいろ知ってるよ。3P中、入れながら感じてるきおのこと見てるし。イキ顔だって見てるし。たまに熱っぽい声漏らすじゃん。あれ……すごくエロくて好きなんだけど」
「見てんなよ」
「腰振って、イきそうになってるきおとキスすんの、めちゃくちゃ好きなんだよね。感じて、息苦しくなっちゃってんの、かわいかったなぁ……」
興奮した様子の篠に、羞恥心を煽られる。
「もう篠とは3Pしねぇ」
「きおとセックスしたくて3Pしてただけだから。2人でやれんならいいよ」
完全に、篠は俺をそういう対象として見始めていた。
いつからそう見てたのか、わからないけど。
「……ホントに、慣れてないし」
「いいよ。つーか今日、他の誰かに抱かれる気だったんだよね? 慣れてないならなおさら、俺の方が絶対いいでしょ」
たしかにそうかもしれない。
ただ、慣れない姿を親友に見せるのは、知らない人に見せる以上に羞恥心を感じる。
「きお。俺じゃ駄目?」
その聞き方はずるい。
他の人はよくて、篠は駄目なんて、言いづらいにきまってる。
なにも答えないでいると、篠の手が腰の方から下着の中まで入り込んできた。
ありの門渡りを押さえつけられて、外から前立腺を刺激されると、思った以上に体がビクつく。
「ん……!」
「ここ……感じる?」
感じる。
でも外からじゃなくナカからして欲しい。
そうとも言えず、篠の質問にも答えないでいると、篠は指先をずらして、窄まりを揉みこむように撫でてきた。
「は…………篠……」
「ん……? なに、教えて」
欲しい。
ここ最近、ずっと欲しくてたまらなくて、自分の指で何度も慰めてきたところ。
でも、自分より人の指の方が断然感じるに決まってる。
入れられるつもりで今日は店に来てたし。
「……いれ、て」
そう告げると、篠はゆっくり下着から手を引き抜いた。
「な……」
「慣れてないんでしょ。乾いたままじゃ入んないし。一応、店先だし。ホテルがいい? うち来る?」
もう、これはやる流れだ。
まだ断れるけど。
「…………ホテル、で」
車で来ていた篠に乗せてもらい、ホテルへと移動する。
その間、俺は篠にこれまで伏せていた学祭での出来事を報告した。
かなりざっくりだけど、かわいい子をナンパしたこと。
いい感じに流されてくれていたけど、その彼氏が乗り込んできて、未遂に終わったこと。
その後、その彼氏のツレらしき男に、逆に誘われたこと。
そいつは普段ネコの男で、意気投合してそのままホテルでセックス……のつもりだったけど、実はネコもタチもいける男で、だまし討ちのような形でやられてしまったこと。
「それは、拒めなかったの?」
「拒んだ方が、やばいことになる感じがしたんだよ。本気かわんないけど、逃げる気なら、いますぐ拘束して、友達と一緒にマワすみたいなこと言われたし」
そう伝えると、篠は運転しながら、俺の右手をぎゅっと掴んできた。
「……一応、無事みたいでよかった」
その手は思った以上に力強くて、篠の本気が伝わってくる。
「……うん」
「やなことされてない?」
「……とりあえず大丈夫」
「もう、ナンパすんのやめよ」
篠はそう言うと、俺の右手にキスをした。
「……でも」
絶対、ナンパしたいわけじゃないけど、声をかけないことには、出会うきっかけもない。
「やりたかったら、俺がする」
夜で暗いし、篠の表情はよくわからなかったけど、ちゃかしてる感じではなかった。
「俺が誰か突っ込みたくなったら、どうすんの?」
「……それも、俺がする」
「は?」
「もともとその気じゃなかったきおが受け入れてくれんなら、俺だってするよ」
「したことねぇだろ」
「ないけど」
俺を心配してくれている……というより大事にしてくれているような気がして、むずがゆくなる。
「それ……さぁ。セフレ?」
「ん……そうかもしんない。でも、それだけじゃなくて……きおには、いろんな意味でパートナーになってほしいけど」
さらっと告げられた言葉に、深い意味を感じてしまい、心臓が高鳴る。
セックスのパートナーだったり。
友達として、相方的な意味だったり。
もしかしたらそれ以上の意味を、持たせているのかもしれない。
俺がなにか答える前に、ホテルの駐車場に着いてしまう。
駐車のためとはいえ、掴んでいた右手を離されると少し、寂しく感じた。
「……体の相性悪いかも」
駐車を終えた篠に伝える。
「合わせる」
「んなこと、できんのかよ」
「できるまで、試させて?」
篠は運転席から身を乗り出すと、助手席に座る俺に唇を重ねてきた。
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