「媚薬入ってるだけあって、やっぱり今日は結構、敏感になってるよね」
 いまになってネクタイを引き抜きながら、芹澤が言う。
「うん……」
「須藤は入れながら、入れられること考えちゃってたんだ?」
 こういうときに、別の男の話をするのは少し気が引けるけど、芹澤が気になるなら、言った方がたぶんいい。
「ん……」
「その子には、入れてって言わなかったの?」
「言うかよ」
「なんで?」
「は……? なんでって……」
 正直、その発想はなかった。
「そういう気は……芹澤以外……知らない、し……」
「……須藤って、俺以外に入れられたことないんだ?」
「前にも言っただろ。やってるけど、やられてないって」
「それは、日常的にやられてないってだけとか、付き合ってからはってことかなーって。付き合う前なら、ありえるじゃん」
 ありえない。
「……お前としたのが、初めてだし」
「俺としたの、付き合う前だったでしょ。めんどくさいから拒まないって感じだったし。そのあと、俺以外にも拒まなかった相手、いるんじゃないかなって……わざわざ聞かなかったけど」
「……いねぇよ」
 そう告げると、芹澤は脱ぎかけたシャツもそのままに、俺を起こして抱き着いてきた。
「脱ぐなら脱げよ」
「あとで脱ぐ。須藤……俺にしか入れられる気になんないんだ?」
「うるさ……調子乗んな」
「乗るよ。俺、須藤のことめちゃくちゃ好きだもん」
 こいつはなんでこんなにも、あっさりこういうことが言えるんだろう。
「そっかぁ。俺しか、知らないんだ……。須藤のナカがこんなに熱くて、柔らかくて、感度抜群で、たまんないの」
「……つーか……お前がそうしたんだろ……」
「ん?」
「感度……とか。最初から、こうじゃなかったし」
「ああ……じゃあ、正真正銘、俺が開発しちゃった?」
「ん……」
 ダメだ、またしたくなってきた。
 抱き締められてるだけじゃ足りない。
 落ち着けるわけでもないし、とっとと先に進んで欲しい。
「ちゃんと責任取ってあげる。須藤が欲しくなったらいつでも入れるから」
「ん……欲しい」
「え……」
 手を緩めた芹澤が、俺の顔を覗き込む。
「何度も言わせんな」
「さっき入れたのに。また欲しいんだ?」
「悪いかよ」
「悪くない。かわいい。それじゃあ入れるよ」
 俺に軽くキスをしてから、もう一度、俺を押し倒すと、芹澤はすぐにまた指を押し込んできた。
「んんっ、ん……はぁ……」
「須藤のここ、俺の指ぎゅうぎゅう締めつけてる。あったかいし、気持ちいい……」
「あ……お前は……気持ちよく、ないだろ」
「気持ちいいよ。指のマッサージ受けてるみたい。今日はいつもよりうねってる。感度もあがっちゃってるみたいだし。2本入れていい?」
「ん……」
 頷くと、芹澤は俺の股間に顔を近づけながら、ゆっくり2本目の指を押し込んできた。
「んぅん、んっ!」
「すご……めちゃくちゃ締まってるのに、ちゃんと飲み込んでく」
「見んなよ」
「いいじゃん。指も濡らさないといけないし」
 どうやら自分の指を舐めながら、入れてくれているようだ。
「はぁっ……あ……んぅ……ん……」
「射精もナカイキもしてるし、ペース落とした方がいいよね」
 2本の指を入れるだけ入れて、芹澤はそのまま指を動かさないでいてくれた。
 心地いい快感が、じんわり広がっていく。
「ん……はぁ……」
「……気持ちよさそ」
「ん……」
 入っているだけで気持ちいい。
 少しうとうとする。
 それでも体は熱いんだけど。
 さっき後ろだけでイカされたからか、性器も触って欲しくなる。
 そういえば、こっちはまだ触れられていない。
 玄関でも、触ってくれなかった。
「芹澤……」
「ん? なに? なにかして欲しい?」
 して欲しい。
「言ってよ。してあげる」
 そう言いながら、芹澤は視線を俺の股間に落とす。
 ああ、わかってんだ。
 わかってんなら、すればいいのに。
「……めんどい……」
「めんどいんじゃなくて、恥ずかしいんでしょ。全部、媚薬のせいにしていいから」
「ちが……ん……」
「じゃあ違うってことでいいから。めんどうかもしれないけど、言って? どうして欲しい?」
 恥ずかしいのか、めんどうなのか。
 自分でもよくわからなかった。
 なんでもいいけど、早くして欲しい。
「わかってんだろ……」
「わかってるよ。すごい触って欲しそうにしてるし……でも、言って欲しいな」
 完全に、調子乗ってんな。
 ……でも、触って欲しい。
 芹澤を窺うと、俺も見ずにただ、舌なめずりをしていた。
 その瞬間、触ってくれるだけじゃダメな気がしてしまう。
 あの舌で、舐めてくれたら。
 ……舐めて欲しい。
 本当は俺を見て、気づいてくれる奴なのに、俺を見ようとしないのは、言えってことだろう。
「ん……舐め……て……」
「んー……どこ?」
「はぁ……ここ……ぁあっ!」
 自分の指で亀頭に触れると、体がゾクゾクしてじれったいようなもどかしいような感覚に陥った。
 物足りなくて、指先で何度も円を描くように撫でていく。
「ふ……ぁっ……あっ……ぁんぅ……んんっ……んっ」
「自分でしちゃうの、ホントかわいいんだけど……ちょっと見てていい?」
「ふざけ……あぁ……んんっ……ぃっ……あぁあっ」
「……もういきそうになってる?」
 見られながら、指を入れられながら、溢れる蜜でぬるついてきた亀頭を撫でるたび、軽く腰が震える。
 勝手に締まるナカが芹澤の指を感じて、芹澤の言うように、もうイきそうになっていた。
 舐められたいのに、舐められてイきたいのに。
「ん……ぁ……舐めんの……やなのかよ……」
「やじゃないよ。舐めてあげたいけど、自分でそうやってさきっぽ撫でてる須藤、かわいすぎなんだよな」
 むかつく。
 恥ずかしいし、でもなんか嬉しいし。
「言ったら、するって……」
「するよ。けど……なんていうか、前から思ってたけど、俺、焦らされて乱れちゃう須藤、ツボみたい」
「んっ……ふざけんな……はや、く……んぅっ! ぁっ、んぅんんんっ!!」
 体中がゾワゾワして、たまらなくて、大きく体が跳ね上がった。
「あー……イッちゃった? ナカすごい締まったけど」
 射精もせずナカでイクと、芹澤は亀頭に触れていた俺の指を取る。
 その指をしゃぶったあと、伸ばした舌先でぬるぬるの亀頭をゆっくり舐めてきた。
「ぁあっ、あっ……いまじゃ……んんっ!」
「じゃあ、舐めない方がいい?」
「はぁっ……あっ、あぁあっ……だめ……あっ、あぁんぅ……あっ、あっ!」
「かわい……奥の方ビクビクしてきた……ん、それにトロトロ……いっぱい溢れてる」
 舐めながら、ちゅっと音を立てるように軽く何度も吸われて、そのたびに腰が震える。
 わずかだと思うけど、指でナカを押さえつけられると、また体が跳ねた。
「あぁあっ!! あっ、あっ! んぅう……っ!」
 立て続けにイッた体は、自分でも制御が効かなくて、力を抜きたいのに強張ってしまう。
「ひぁ……ぁあっ……ん、んぅ……」
「ごめん。虐めすぎちゃった? 大丈夫だからね。そろそろ射精もしたいでしょ」
 なにが大丈夫なのか、わからないのに、芹澤にそう言われると大丈夫な気がして、少しだけ力が抜ける。
 ナカに入り込んだ指は動かさずに、今度はもう片方の手で掴んだ性器を擦りあげてきた。
「ぁあ……ん……んぅ……はぁ……あっ、あっ……待って……」
「なに?」
「あぁ……あっ……あぁあっ……ん、んぅっ……だめ……ひぁっ」
 声にならなくて、小さく首を横に振る。
「ああ……これ、強すぎなんだ? ごめん」
 なんとか伝わったらしい。
 優しく掴み直すと、芹澤は速度を抑えるようにしてゆっくり、上下に動かしてくれた。
「ふぁ……あっ……ぁあっ……芹澤ぁ……あっ……あん……」
「……んー……これ、ちょうどいい?」
 芹澤が、わざわざ俺の目を見ながら尋ねる。
 俺もまた、なぜか離せなくて、目を合わせたまま頷く。
「はぁ……あぁ……ぅん、ん……きもちい……あっ……あぁあっ、あっ、あぁっ……あんぅ……」
「声、とまんなくなっちゃってるね。めずらしー」
「あっ……あ、んっ……くっ……あんっ、ん!」
「ああ、いいよいいよ。出して。殺すのめんどいでしょ。息苦しくなっちゃうし。殺そうとして洩れちゃう声もかわいいけど。素直に出していいから」
 芹澤は、全部お見通しだ。
 いまさら、声が聞かれて恥ずかしいとかそういうのはあんまりない。
 でも、俺の声で興奮してる芹澤は、見ててちょっと恥ずかしい。
 少しだけ力が入った指の感触で、こいつの興奮が伝わってきた。
「はぁ……あっ……あっ、ああっ……んっ、んっ、いく……」
「ナカイキじゃなくて、出せそう?」
「ぅん……あっ……あぁあっ、でる……あっ、あぁあっ、芹澤ぁ……あっ、あぁああっ!」
 いつもなら、絶対ぬるいと思うくらいの手つきで擦られて、芹澤の手で射精する。
「んぅ……ん……はぁ……あ……」
「ちょっとは落ち着いた?」
 落ち着いた?
 そんなわけない。
 芹澤が変に焦らしたり煽るせいで、余計に火がついた気さえする。
 イけばいいわけじゃない。
 指2本しか入れられてないし。
 乳首は全然、触られてないし。
「芹澤……ん、指、抜いて……」
「うん」
 俺の言葉通り、芹澤がゆっくりと指を引き抜いた後、なんとか体を起こす。
「今日……2回も焦らされた」
「ごめんって。今度こそ、須藤の言う通りにする」
 よく考えたら、言わないだけで、芹澤の方が焦らされてるのかもしれないけど。
「っていうか、焦らされてるって思うくらいに欲しくなってる須藤、たまんない」
 ……まあ、こいつのことはもう少し焦らしておこう。