かなり昔……学生時代たったか。
芹澤と興味本位で媚薬を使ったことがあった。
とにかくイキたくて、少し痛くて、困った記憶が強いけど。
数日前、普段からわりとかわいがっている生徒……凍也が媚薬を飲んだとかで俺に助けを求めてきた。
凍也には恋人がいて、俺にも恋人がいる。
それは承知の上で相手になったはいいけど、あそこまで思いっきり感じられるのが少し羨ましくて。
うっかり、俺も味わってみたいだなんて思ってしまう。
興味本位で使えば、また困るに決まってるのに。
そんな俺の背中を後押しする出来事が訪れた。
「さすがにもう迷惑はかけられないってことで残ってる媚薬、凍也からもらったんだけど、須藤さんどう?」
養護教諭の柊さんだ。
凍也が飲んだ媚薬の残りを、預かっていたらしい。
「柊さん、使えばいいじゃないですか」
「俺が使ったイコール宮本先生が使ったってことになるでしょ。宮本先生、凍也の担当だし、からかわれる材料、与えちゃうのもね」
柊さんは、凍也の数学担当でもある宮本さんと付き合っている。
たしかに、柊さんが使ったとなれば、たとえ飲んだのが柊さんの方だとしても、相手の宮本さんがどれほど激しく抱かれたのか、からかう材料になってしまいそうだ。
「宮本さん、そういうの苦手そうですもんね」
「そ。俺がからかわれる分には全然いいんだけど」
俺も、そこまで気にならないというか。
媚薬使った程度で、からかわれる気はない。
そもそも、からかってもおもしろくない相手だろう。
「使わないかもしれないですけど」
「それはそれでいいんじゃない?」
芹澤とやるのは、嫌いじゃないしどちらかといえば好きだったりする。
マンネリ化してるわけでもないし、飽きているわけでもない。
ただ、芹澤がどう思っているかは不明だ。
たぶん、あいつも飽きてないとは思うけど。
考えるのが面倒になった俺は、とりあえず媚薬を鞄に入れて、芹澤の家へと向かった。
明日は休みで、久しぶりに芹澤の家に泊る。
向かう途中、仕事のキリがつかないとかで、30分帰りが遅れる連絡があったけど、それくらいどうでもいい。
合鍵を使って芹澤の家に入った俺は、部屋のソファで横になった。
夜6時。
夕飯はだいたい一緒にどこかへ食べに行くか、芹澤が作ってくれる。
芹澤が連れて来た後輩と一緒に宅飲みすることもあったっけ。
恋人だけど、友達でもあるから、たまに何人かでわいわいするのも嫌いじゃない。
まあ、2人の方がラクだけど、最終的には他の奴ら帰るだろうし。
今日は、とくに連絡もないし、芹澤1人で帰ってくるだろう。
それより、鞄の中にある媚薬のことが頭から離れない。
どうせ芹澤とはやるだろうし、一応、そのつもりで来てはいる。
いつもなら、やらなくても別にいいんだけど、今日はなんとなくしたい。
凍也としたときは攻める側で、入れられたわけじゃないし。
入れられて、気持ちよくなってる凍也を見て、俺も入れられたくなったのかもしれない。
芹澤が俺とするとき、どれだけ尽くしてくれているかも自覚した。
なんでもいいけど、とにかく芹澤としたくて。
媚薬を飲んでみたい好奇心が俺を襲う。
飲むとか飲まないとか、こんなにいろいろ考えたくないのに。
だったらもう、飲んでしまって考えるのはやめにしたらいい。
そう結論づけた俺は、芹澤が帰ってくる前に、芹澤の家の冷蔵庫に入っていたリンゴジュースに媚薬を適量入れて、それを飲み干した。
媚薬のほとんどは精神的なものだろう。
それはわかっていた。
わかっているはずなのに、そもそもしたい気持ちが高まっていたこともあって、体が熱くなってくる。
これで突発的に誰かと帰ってこられたら、さすがに困るかもしれない。
芹澤に1人で帰ってくるようメッセージを送る。
それから少しして、電話がかかってきた。
『いま終わったよ。あと15分くらいだけど。なに? 1人で帰ってくるようにって』
わざわざ電話しなくていいのに。
「別に。たまに後輩連れてくんじゃん」
『いきなり連れて帰ったりしないよ。先に須藤に聞くし。須藤が嫌って言えば、いつもだって連れてかないよ』
「なんでもいいけど」
『もう家だよね。なにか食べたいもん、考えといてくれる? めんどい?』
「めんどい」
『じゃあ……なんか考えながら帰る。あと15分くらいだから』
「ん……予約とかは、しなくていい」
されたらたぶん、キャンセルすることになる。
『ああ、外食の気分じゃないってこと? だったらなにか買って――』
「いいから。とにかく来いよ」
ご飯なんてのは後回しだ。
『わかった。じゃ、またね』
芹澤は、理由を聞くこともなく電話を終わらせてくれた。
たった15分。
それがいやにながく感じる。
どうしてあんな無計画に媚薬を飲んだんだろう。
いまになってそんなことを思った。
そもそも、別に芹澤に頼らなきゃいけないわけでもない。
とっとと自分で抜いたっていいけど、まだ理性が働いた状態で、抜かなきゃいけないほどじゃない。
妙な感覚で、俺はただもやもやしたものを抱えたまま、芹澤の帰りを待った。
どれくらい経ったか、ドアの鍵が開く音がして、ソファから身を起こす。
「ただいまー。須藤いる?」
一応、ここは芹澤の家だ。
慣れているとはいえ、出迎えるくらいはした方がいい。
立ち上がった瞬間、体が重いのを自覚した。
それでもなんとか、玄関の方へと向かう。
「……おかえり」
「なに。いつもに増してローテンションじゃん。疲れてる?」
「そうでもない」
「でも外食行く気力はないんでしょ。まあいいけど」
スーツ姿の芹澤が、ネクタイを緩める。
あんまり見慣れない光景だ。
「芹澤……」
「ん、なに?」
熱い。
もう我慢しなくていい。
芹澤は、俺の異変に気づいたのか、手のひらを俺の頬にあててきた。
「うわ……赤いと思ったらあったかいんだけど。もしかして体調悪い?」
芹澤の手は冷たくて気持ちいい。
摺り寄せるように顔を傾ける。
「じゃあ今日は俺が看病してあげる」
芹澤は嫌な顔ひとつせずそう言って、頬を撫でていない方の手で、俺の頭を撫でてきた。
髪を撫でられただけなのに、なんだかゾクゾクする。
やっぱり、媚薬が効いてるのか。
「芹澤……キス……」
「俺に風邪移す気? まあいいけど」
風邪のときにキスなんて求められても普通、嫌だろ。
そんな風に思ったけど、芹澤は笑いながら唇を重ねてくれた。
芹澤の舌が少し冷たく感じるのは、俺の舌が熱いからなのかもしれない。
気持ちよくて、必死に追いかける。
「はぁ……ん……ん……」
「ん……どうしちゃったの、須藤」
すぐに口を離されてしまうのがもどかしくて、俺の方からもう一度、口を重ねる。
芹澤が逃げないように頭を掴んで舌を差し込むと、芹澤は俺の腰を抱いてくれた。
「ん……」
舌の絡む音が頭に響く。
芹澤に支えられた腰も、ぞわぞわしてたまんない。
もっと撫でてくれたらいいのに。
「ん……んぅ……ん……ん……」
「はぁ……ちょっと待った。須藤。これ以上されるとやりたくなっちゃうから」
「いい……ん……」
顔を離そうとする芹澤を無視して、もう一度、口を重ねる。
それでも、芹澤は少し強引に、俺を引きはがしてきた。
「はぁ……」
「風邪、移されんのはいいけど、こういうとき無理して、悪化させたくないから。ね?」
やっぱり芹澤は面倒見がいい。
そんなのどうでもいいのに。
俺は、顔をさげて芹澤の肩におでこを乗せる。
「お前は……恋人の体調不良と欲情も見分けらんねぇのかよ」
「え……いや、でも……欲情って……こんな熱いの、おかしくない?」
おかしい。
普通じゃない。
俺自身、そう思ってる。
だから、芹澤が間違えるのも無理はない。
とりあえず、もうなんでもいいんだけど。
「……はやく」
「待って待って。頭が追いつかない」
「後で考えろ」
自分のズボンのベルトを外して、チャックをおろす。
いつもは全部、芹澤がしてくれて、自分ですることなんてない。
少しだけ羞恥心を感じたけれど、それどころじゃなかった。
取り出したモノを、手で軽く擦りあげる。
「んんっ! ん……」
自分でも思っていた以上に我慢していたのか、ちょっと擦っただけで、体が小さく跳ね上がった。
「須藤……」
芹澤が少し距離を取って、俺を見つめる。
早くすればいいのに。
芹澤が代わってくれないから、自分でするしかない。
止められなくて、右手で何度も自分のモノを擦ってしまう。
「はぁっ、んっ……んっ! ぁっ……ん……芹、澤ぁ……はや、く……」
「……わかった。わかったんだけど……俺の前で我慢出来なくてオナニーしちゃう須藤……めちゃくちゃ興奮する」
芹澤を窺うと、たしかに興奮しているみたいな顔をしていた。
「なに? 媚薬でも飲んだ?」
「ん……ぅん……い、から……はやく……」
「このまま、とりあえず1回イク? いいよ。出して」
「ん……」
芹澤には何度もイクのを見られてきた。
それでも、オナニーを見られたことはなかったかもしれない。
芹澤も興奮してるみたいだけど、乱れているのは俺だけだ。
芹澤にも飲ませればよかった。
なんていま思っても仕方ない。
「芹澤……ぁっ……んぅ……ん……!」
芹澤に抜いて欲しい。
とっとと触ればいいのに。
「イきそ? マジでかわいい……須藤……」
芹澤の左手が俺の頬を撫でる。
右手は、俺の空いていた左手を掴むだけで、なんの愛撫もしてくれない。
そう思っていたけど、指を絡ませられるだけで、ゾクゾクした。
「ぁ……ん……ん……んぅっ」
「あれ……須藤、我慢してる? もしかして、恥ずかしい?」
イカされるのとは違う。
自らイッて見せるのは抵抗があるのか、どこか自制しているのかもしれない。
「足りないって感じじゃないよね。めちゃくちゃ先走り溢れちゃってるけど。我慢しないでいいよ。ここで出していいから」
芹澤がしてくれたらラクなのに。
ああでももう、それを伝える余裕もない。
芹澤がいいって言ってんだから、なんでもいい。
「はぁっ……ん……んっ……んぅんんっ!!」
そのまま射精してしまうと、少しだけ我に返った。
いまさら恥ずかしくなってくる。
「どういうことか、話してくれる?」
恥じらう俺をからかうこともなく、芹澤は優しい口調で尋ねてきた。
「媚薬飲んだだけ」
「なんでまた……もしかして、俺とのセックス、飽きた?」
そんなんじゃない。
こいつには、ちゃんと全部言った方がラクだ。
甘えかもしれないけど、こいつは俺のことわかってくれる。
「少し前、仲のいい生徒が媚薬飲んで困ってて……やったんだけど」
一瞬、芹澤の顔が歪む。
「……やられた?」
「やられてない。やっただけ」
「そっか。それで?」
「すごく気持ちよさそうで……」
「うん」
「俺も……されたくなった」
そう告げると、芹澤は俺の体をぎゅっと抱きしめてきた。
「ごめん。須藤に自分でさせちゃった」
「別に」
芹澤が謝ることじゃない。
「昔、媚薬使ったとき、苦しいからもうやだって言ってたのに。大丈夫?」
「ん……」
大丈夫だと頷いて、芹澤の背に腕を回す。
「須藤……どうされたいか教えて?」
「めんどい」
「えー……じゃあ、また焦らしちゃうかも」
ああ、それはキツいかも。
「ん……入れられたい」
「え……」
「え、じゃねぇよ」
「いや、マジで言ってくれると思ってなくて」
「お前が教えろっつったんだろ。いちいち照れんのもめんどいし」
言い慣れないけど。
「どうしよう。マジでかわいいんだけど。とりあえずもっかい抜く? しゃぶろうか」
「入れろっつってんだろ」
「あとで入れるよ。その前に――」
「あとじゃ……だめなんだって……もう……」
早く入れられたい。
入れられることばっかり考えていたせいか、ナカがさっきからうずいてる。
「はぁ……わかってんだろ……はやく……」
「……イキたいんじゃなくて、入れられたいんだ?」
やっぱりわかってる。
いまわかってくれたのかもしれないけど。
「ん……」
しがみついて頷くと、芹澤は俺を抱きかかえるようにしてベッドへと運んでくれた。
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