今日もまたいつものように生徒を見送った直後だ。
 携帯のバイブ音が響く。
 画面を見ると、芹澤の文字。
 高校時代からの友達であり、大学時代からの彼氏からだ。
 ……なんだが面倒だが、一応出るか。
「もしもし」
『おはよ。今日、仕事休みなんだけど、行っていい?』
「……ホントいつも急だよね。休みって昨日の時点でわかってるよね」
『前日に言ってもお前、明日になるまでわかんねぇとか言うだろ』
 まあそうなんだけど。
「……来てもなんもないよ」
『お前はいんだろ』
「……まあ」

 久しぶりだしな。
 いつもこんな感じだ。
 急に来てくれる芹澤と、なんとなく流れでやってしまう。
 マンネリ化……はしていないと思う。
 元々俺が刺激を求めるタイプじゃないから、これはこれでラクだった。
 なんていうか、落ち着いた関係だと思う。
 好きだし。
 好かれてると思う。
 友達歴も長いから、お互いのことはなんとなく把握出来ていた。
 浮気も別に構わない。
 それはただ、欲求不満の解消に過ぎないから。
 身近な人で抜いてくれてもいいよって俺は思う。

 俺たちは体だけの付き合いじゃないと思ってるし。
 というか、体関わってくるんだとしたら、俺って絶対あんまりよくないし。
 基本、流されるがままだし。
 
 めんどくさいだろう。  

「須藤ー」
 1時間くらい経っただろうか。
 芹澤が来てくれて、俺の名を呼ぶ。
 昔の癖で苗字呼びのままだ。

「……おはよ」
「おはよう。座ってていい?」
「いいよ」
 
 PCに向かう俺の後ろ。
 畳の上に座り込んだ芹澤の視線が突き刺さる。  

「……なに」
「いや、見てるだけだけど」
 うっとおしいというか、気になるというか。
 一つため息をつくと、椅子に座る俺の足元へと移動した芹澤が俺の足を撫でる。
「……なんかしてもいい?」
「……一応仕事中だから、少しなら」 
 俺がそう答えると、靴下を脱がされ、足の甲へと舌が這う。
 少し持ち上げるようにして、足の指先にも舌が絡まり、所々くすぐったくて足がビクついた。

 舌の動きが目に入る。
 丹念に舐めあげられると、好かれている実感が持てた。

 ピチャピチャと音を立てながら、足ばっか。
 こいつの頭はどうかしてるんじゃないかって思うことが多々ある。
「……くすぐったい……」
「いや?」
「……別に。なんで舐めるの?」
「んー……舐めたいから。須藤はなんで我慢してんの」
 我慢?
「なにそれ」
「まあいいけど」

 どれくらいの時間をかけられたことか。
 くすぐったいだけだと思っていた足が、しびれてきて、つい感じてきてしまう。  

 なんかもう、思う壺な自分が情けない。
 けれども、こんなしつこくされたら、しょうがない。
「ん……っ」
「もっと、早く素直になってくれるといいんだけどなぁ」
「……お前が変なんだよ」
「なんで?」
「足、舐めるとか」
「うん、足で感じるの恥ずかしいんでしょ」
 ああ、そうかもしれない。
 足で感じるとか。
 感じたくなくて、我慢……してる?
 さっき言ってた我慢ってそういうことか。

「恥ずかしいね、須藤」
 あいかわらず舌を指や甲に絡めたまま、俺をジッと見る。
「……別に」
 肯定したくなくてついそう言うと、唾液の音をわざと立てるようにして吸い付かれた。
「んっっ!」
 やばい。
 足の感覚おかしくなってるかも。
 何度もビクついてるし。最悪だ。
「……離せ……っ」
「感じるから?」
「違う」
「わかった。隣の部屋、行こう?」
 
 隣の部屋は、俺が泊まる際に使っていて、狭いスペースだが寝れるようになっている。
 外から見られることもない。
 まあ、急な来客が来た際に、呼ばれることもあるかもしれないが、郵便等が来る時間帯ってわけでもない。
 どうせやるんだろうなって思ってたし、頷いて立ち上がる。
 
 つもりがよろめいた。
 その体を抱き抱えられて、連れて行かれるがなんだか気に食わない。
「歩ける」
「んー? 片方の足、ガクガクしちゃってるじゃん」
「してない」
 ちょっと力が入らないだけだ。  

 隣の部屋にあったコタツの上へと座らされ、芹澤はその前にちょこんと座り込む。
「見せて」
「……めんどくさい」
「しょうがないなあ」
 
 シャツを脱がされて、ズボンと下着も剥ぎ取られていく。
 どうせ脱がされるんなら、抵抗するのも面倒だ。
 すでに見られまくっている体だし。
 俺ってたぶん、つまらない相手だ。
 自分でもそう思う。

 それでも、芹澤は来てくれて、こうやって相手をしてくれる。
 全裸で座る俺を、ジロジロと見るが、なにが楽しいんだろうって思ってしまう。
「……何度ももう見てるだろ」
「何度見ても飽きないよ」
「ふーん……」
「須藤だって、何度見られても感じてるだろ」
「……見られるだけで感じるとかないよ。俺、お前相手に演技するつもりないから」
「はいはい。全部、本物ってことね」
 そう言うと、指先で胸の突起を軽く押さえる。
「硬くなってる」
「普通だよ」
「そう?」
 指の腹でくねくねと転がされると、体が軽くビクついた。
「っ……ん」
 もう片方の乳首も転がされ、次第にぷっくりと膨らんでしまったそれを両方とも掴まれてしまう。
 先の方だけ摘んで、きゅっきゅと揉まれて。
 揉み心地のいい巨乳じゃあるまいし、そんなことを繰り返して、こいつは楽しいんだろうか。
 
 軽く少し引っ張られて捻られると、さすがに体が跳ね上がった。
「っ……んっ」
「お前、これ好きだろ」
「っ……ンっ」
 さすがにそんなにも引っ張られたら痛いに決まっていると、頭では思うのに気持ちがいい。
「んっ……ぁっっ」
「もっと声出して」
 リップサービスする気はないが、自然と声が洩れていた。
 
 なんでこんなのが気持ちいいのか理解出来ない。
「っ……こんなのっ」
「嫌? 須藤のチンコすっげぇびくびくしてる」
「んぅっ……っっ」
 気持ちよくて、頭がボーっとしてしまうと、それを見計らうようにして手を離される。
 
 焦らして、俺の反応を楽しみたいんだろう。
「……須藤、乳首だけでイきたかった?」
「……別に」
「そう。直接触るよ」
「ん……」
 すでに硬く上を向いてしまっている股間のモノをぎゅっと握り、すばやく上下に擦りあげられると、少し湿った音がした。
 先走りの液が、くちゃくちゃと音を立てる。
「はぁっ……んっ」
「一回、イっておこうか」
「ぁっ……んっんっ! あっんっ……んぅんっっ!!!」

 言葉通りイかされて、ドロっとした液体を手に取ると、俺の顔を覗き込む。
「須藤……溜めすぎじゃね?」
「……そんなことない」
「いいけど。抱きしめていい?」
「……いちいち許可取らなくていいよ」
「うん」
 腕を引っ張られ、俺はこたつから降りると芹澤に抱きしめられた。
 珍しい。
 いつも、セックスはするがこんな風に、中断するようにして抱きしめられることはない。
「……なんかあった?」
「……さすが須藤は、わかってくれちゃうね。そういうとこも大好き」
「お前が普段と違うことするからだろ」
 芹澤は笑いながらも俺の頭を撫でてくれる。
「職場の後輩に告られちゃって」
「ふーん。女?」
「女」
 いい歳だし、もしかしたら俺たちの関係はここで終わるんだろうか。
 女と結婚して、普通に家庭を持つ方が幸せに決まっている。
 ずっと、学生時代からずるずるしてきたけれど、これでいいのかどうかはわからなくて。
 ただ、俺は面倒だからそういったことは考えないようにしていた。
 そろそろ考えなければいけないのかもしれない。

「須藤は俺のこと好き?」
「……いまさらなに言ってんの」
「だって須藤っていっつも面倒だなーってオーラ出まくっててさ。正直、俺が告ったときも、断るの面倒だって感じじゃなかった?」
 確かに、それはある。
 何度か冗談っぽく告白されて。
 それを流すのが途中でめんどくさくなった。
「須藤のこと、よくわかってるつもりだよ。だから、お前がいっつも無気力でも構わないし。それを受け入れられるのは俺くらいだなんて思ってる」
 たぶん、俺は感情表現が苦手だ。
 というか、めんどくさい。
「須藤は俺のこと、面倒だからって理由で、なんとなくで受け入れてくれてる?」
「……言ってる意味、よくわかんない」
「面倒じゃなければいいんだけど」
 ……さすがに、手、抜きすぎたか。
「……人に合わせて笑顔作ったりすんのは面倒だよ。……お前は、それしなくていいから楽」
「そう。よかった」
「っつーか、なんで面倒だと受け入れるってことになるの」
「だから、断るの面倒とかさ」
 それも昔はあったけど。
「……断るの面倒でセックスするって?」
「……えーっと」
「そこまで堕落してないよ。まあお前に関しては断るの面倒だしやっちゃえばいいかなって思ってはいるけど。誰が来ても空気嫁みたいにやられるわけじゃない」
「須藤は、俺とセックスしたいって思うことあるの?」
 ちょっと面倒な質問来たな。
 それでも、少し強く抱きしめられて、その答えを真剣に求められている気がした。
「……あるよ」
「それってどういうとき?」
「うるさいな」
「教えてよ。すっげー気になる」
 今日は言うか。
 というか、言わないと本当にこいつは会社の女子に走るんじゃないかって。
 そういった不安もよぎる。
 ……しょうがないことかもしれないのだけれど。
「……人のノロケ話聞いたときとか、カップル見たときとか」
「なにそれ、すっげぇうれしい」
「なんで。たまにセックスしたいって思うくらい普通だろ」
「でも、須藤が俺とやりたくなるのは溜まったときじゃないんだろ。つまり俺は、欲求不満解消の相手ってわけでなく、イチャつきたい相手ってことだろ」
 ……そうなるのか。
「溜まったときは別に、一人で抜けばいいし。やろうと思えばそこら辺にも相手いるし」
「そっか。俺は須藤にとって性処理道具じゃなく、恋人なんだな」
「いまさらなに言ってんの」
「実感したかっただけ」
 なんだか、付け上がらせてしまったようでちょっと腑に落ちないが、これくらいなら構わないか。
「須藤ってあんま感情表してくんないからさ」
「……そうだね」
「なんとなくはわかるけど」
 そう言うと、俺を抱いたまま尻を撫で割れ目に指を這わす。
「っ……」
「指、入れるね。ローション付けるから」
「ん……」

 ゆっくりと中に指が入り込んでくる。
「んぅっ!!」
 ビクビクと体が震え上がった。
「須藤とセックスすんの、俺、すっごく好きだよ」
「……んっ」
「自覚あんのかないのかわかんないけど。須藤って、すごい体素直っていうか。普段あんまり言ってくれないのにセックスんときはすごい反応してくれる」
 そんなつもりはない。
 流されるがままにやってるだけだ。
 そう答えたいのが伝わったのかはわからないが、あいている手で頭を撫でられそれだけでまた体がゾクっとした。
「初めは乗り気じゃなくてもいっつも、欲しがってくれるし。今日はいつもより俺の指、締め付けてる」
 耳元でそう言って、それを示すみたいに指で中を緩やかに掻き回す。
「っ……あっ! んっ」
「行かないでって言ってくれてるみたいでホント、かわいいよ」
 こいつはバカだ。
 そう思うけれど、俺自身よくわからない。
 女のところへ行って欲しくないという気持ちがあるのは確かだ。
 それを言っていいのかどうか。
 面倒で考えたくないのに、体はつい反応してしまうのかもしれない。
 なんて解釈してしまう俺もバカだ。
 こいつのデマカセかもしれないのに。
「あっぁっ……んっ! んぅっ」
 くちゅくちゅと音を立てられる。
 指が次第に大きく中を掻き回し始めると、その刺激に耐えるべく背中に爪を立てた。
「んぅっっ……ぁっあっ……ぁあっ」
「ほら……いつもより腰揺らしてる」
 わざわざ教えてくれるけれども、自覚はない。
 いつもと変わらない。
 芹澤はホントに勝手なことを言う。
「あっ……ぁあっ……んっ! んぅっ!! あっ……」
「いつもよりHだよ。須藤……」
「ぁあっあっ!! んっ、んぅんんーーっ!!」

 イってしまうと、ゆっくりと指を引き抜いてくれ、体を押し倒される。
「じゃあ次は2本ね。中、拡げてほぐさないと……」
 俺の体に覆いかぶさりながら、言葉通り2本の指を押し込んでいく。
「んぅっ! んっ!」
「……すご。中、めちゃくちゃ熱……。俺が女に告られて、妬いてくれてる?」
 別に。
 そう答えたいのに、中をクチャクチャと掻き回され、体が跳ねる。
「ぁっあっ! ぁんっ! あっ」
「すぐほぐれてきちゃってるし。早く欲しい?」
 答えたくないのに、腰が揺れる。
「ひぁっあっ……ぁあっあっ」
「須藤の足舐めてさ。立てないくらい感じてんのにそれ口にしないのとか、すっげぇかわいいと思ってんだよ、俺は。面倒なら、言わなくていいし、演技もしなくていいから。俺が、ちゃんと読み取ってあげる」
 本当にバカだ。
 頭ではそう思うのに、体が勝手に熱くなる。
「あんっ……はぁっあっあっ……」
 欲しい。
 そう思ったと同時くらいにゆっくりともう1本指が入り込む。
「ゃあうっ!! ぃくっ」
「んー……須藤がそうやってイクって言ってくれるの珍しいねぇ。余裕ないんだ?」
 つい口に出してしまった言葉をこいつは聞き逃してくれない。
 俺も本当に余裕が無くて、いつもなら言わない一言を言ってしまったことに対して、どう思えばいいのかわからなかった。
「あっぁあっ……あぁあああっっ!!!」

「あーあ。立て続けにイっちゃって。中、すごいビクビクしてるよ」
 中に指を3本入れたまま、もう片方の手で精液をぬぐわれる。
 目を向けていると、その精液を口に含んでいた。
「……はぁっ……」
「……これって、須藤が感じてくれた証なんだよね。うれしいかも」
 なんでそんなん舐めるんだと、聞こうと思ったがそう先に答えられた。
 あいかわらず理由はバカっぽい。
 直接舐める理由にはなってないけれど。

「余裕ない須藤、かわいいなぁ。落ち着いちゃう前にもう入れるよ」
 落ち着きたいのに。
 まだ、イった余韻みたいなもんが残ってる。
 それなのに指を引き抜いて、代わりに、猛り切ったモノが押し込まれてくる。
「ひぅっ! あっ……ぁあっ!! んぅ……っ」
「……やば……。入れただけでもってかれそう」
 俺も、入れられただけなのにまたイきそうになった。
 最悪だ。
 体がビクビクと跳ねてしまう。
「ぁっ! んぅっ!」
「……須藤。ホント、余裕なさそ」
「っ……はぁっあっ……」
 自分の体が跳ねるたび、硬い部分が内壁を押してまた気持ちよくなる。
 自然とつい腰を下から突き上げるように動かしてしまっていた。
「んぅっ! はぁっ……ぁっあっ」
「んなに動いて大丈夫? 腰、砕けるよ。俺が、動いてあげるから」
 俺の腰を掴んで、引き寄せると奥の方まで突き上げられる。
 少し退いて、ゆっくりと腰を回されていく。
 俺の腰が回されてんのか、芹澤の腰が動いてんのか理解の範囲を超えていた。
「はぁっあっ……ぁあっ、あっ」
 中に入り込んだローションのせいでクチャクチャといやらしい音が響く。
 俺がこういうのに弱いってわかってて、わざと音を立てているのかもしれない。
「……すごいね。須藤。締め付けすぎ」
「ぁあっ……ぁんっ! あっ……あぁあっ」
「須藤がそんな、締め付けると……俺も、すっげ、でかくなっちゃうしっ。……声、殺せないの?」
「ぁんっあっ……やぁあっっっ……ぁあっっ!!」
「っ……はぁっ。ホント、今日、どしたの、も、イきそ? 俺がイクまで、付き合ってよ」
 
 そう言うと、緩やかに掻き回していた腰を前後に動かし、内壁を擦られる。
 出入りを繰り返し、器用にも、俺のすでにイってしまいそうなモノにまで手を這わしてくれた。
「はぁっあっ……芹澤っ……ぁっあっ!」
「……行かないよ。……行かないから」
 なにも聞いてないのに、そう言って、俺の中を掻き回す。
「ぁんっ! あっ、芹澤ぁっ……んぅっんっ!! あぁああっっ!!」

 俺がイってしまうのと同じくらいのタイミングで、芹澤が中に出す。
 めんどくさいことをしてくれた。
 いつもならそう思うのに、今日はなんだか、そうでもない。
 妙な感覚。
 ……うれしいとか思ってんのか、俺は。
 中に出されて?
 バカだ。
 面倒なだけだ。

「須藤の中で、出しちゃった」
「……悪いと思ってないだろ」
「須藤こそ、嫌だと思ってないだろ」

 芹澤の言う通り。
 図星で、ため息をついた。
 中に入り込んだまま、少しでも動けば抜けてしまいそうだが、面倒だし、とりあえずそのまま。


「芹澤、どう答えたの。その会社の女に」
「付き合ってる人がいるからって、断ったよ」
「相手は女だろ。……それでいいのかよ」
「いいよ。今日、須藤に会って、やっぱ俺、間違ってなかったなって思えたし」
 やたら芹澤は上機嫌だが、俺としては素直に受け止めていいのかわからなかった。
「……女とくっついた方が、将来あるよ」
「須藤の口から将来って。……面倒だからいまが良ければそれでいい、じゃ駄目なの?」
「……そろそろ、そうも言ってられないだろ」
「須藤は、女と付き合いたい?」
「俺は、面倒だからそれは無いけど」
 芹澤は、軽く笑って俺の体を起こした。
「俺は一生このまま、須藤とずるずる関係続けたいな」
「……もったいないよ。お前は俺と違って面倒見いいし、女にモテるのに」
「須藤といる方が俺はイイよ。須藤は、俺といるの嫌?」
 嫌だ。
 そう言えば芹澤は俺から離れて女と付き合うのだろうか。
 その方が、幸せになれるのならば、俺は嫌だと言ってやるべきだ。
「俺が、嫌だって言ったら……女のとこ行く?」
「……どうだろ。行かないかな」
「なんで」
「別に、その女のこと好きってわけでもないし。っつーかさ。学生のころからずっと須藤だったから。いまさら須藤いなくなったら、俺、行き場無くすし」
「重い」
「ごめんごめん。でも女にモテるとか関係ないよ。須藤がいるか、誰もいないか。それしか俺、選択肢ないから」
「あいかわらずバカだよね」
「照れた?」
「照れてない」
「今日は珍しくセックス中に俺の名前なんか呼んじゃって、ホント、かわいかったなー」
「…………そう」
「そうって。行かないでって言われてる気がして。すごい嬉しかったし」
 行かないで欲しい。
 確かにそう思った。
 行かないからと言われ、素直に嬉しいと思った。
 それをどう表現すればいいのかはよくわからないけれど。
「……須藤、否定しないんだ?」
「なにが」
「んなこと思ってねぇよーって」
「……それは否定しないけど」
「面倒だからとかでなく肯定してくれるの?」
 だんだん面倒になってきたな。
「……行かないで欲しいよ」
「え……いや、素直に言われるとちょっと慣れないな」
「めんどくさ。なにお前」
「あ、いや、言ってくれていいよ、いいんだけどっ」
「……芹澤は俺といると結局、なんも広がらない。視野も将来も狭いまんま。……だからどっか行けばいいのにって思う気持ちも少しはある」
 俺が、芹澤の将来を狭めている。
 というか、縛り付けているような気がしてしまう。
 大学時代からずっと。
 モテるくせに、女と付き合わず、俺なんかとずるずる続けて。
 縛りたくはない。

「……須藤。一緒でも広がるよ。だいたいそれ、泣きながら言うことかよ」
 泣きながら?
 気付かないうちに涙腺が緩んでいたようだ。
 視界がぼやける。
 芹澤は、そんな俺を見てか、ぎゅっと抱きしめ直してくれた。
「行かない。須藤と一緒にいたい。だから泣かないで」
「泣いてないし」
「はいはい。……もう1回くらいセックスしたいなぁ」
「……めんどい」
「せっかくだし、俺の名前もっと呼んでよ。……ああ、中で出したのかき出してあげる。面倒なの嫌いでしょ」
 確かにそれは面倒だ。
「……かき出した後、また中で出すなよ」
「外ならいいってことね。オッケー」
 否定するのも面倒だし。
 まあいっか。
 このまま流されてしまおう。