「俺は中3の時。部活の後輩とね」
生徒会室で、由沙たちはいつものように、麻雀卓を囲んで持ち込んだジュースを口にしながら談話する。
「総一郎ってにっこり笑って、攻めそうだよな…」
「榛と優斗はお互いが初相手なんだろ?」
そう…
これは、みんなそれぞれの初体験がいつかって話。
この手の話が実は由沙は大嫌い。
うぅん、下ネタとかそうゆうのが嫌いなんじゃないよ。
話の内容だって、かなり興味ある。
でも…、自分にふられるのが嫌なの…。
「ずいぶん前から一緒だったわりには俺らって、やったの遅いよな〜」
「別に俺ら付き合って長いとかじゃねぇし。ただの友達じゃん。やらないのが普通だって」
「あいかわらずさりげにキツいね、榛は。由沙も聞かせて…?」
くると思った。
ふられないわけないもんね。
ふらないならふらないで、話に入れてくれないみたいでむかつくし。
でも、ふられても困る。
「…由沙は、高1の頃だよ」
とりあえず、このメンバーの中では妥当そうな年齢をあげておく。
「ふ〜ん。じゃ、やっぱこの学校の人なんだ?」
湊瀬榛があまり興味なさそうなのに、さりげなく聞いてくる。
「1年のときの、ルームメイトの先輩」
「あー、由沙は手、出される方だから先輩に目、つけられるか…。俺らの場合、逆だしね。先輩に手、出すにはちょっとひけた部分とかあったよな…」
伊集院総一郎がそう言って、佐渡優斗に同意を求めているようだった。
「そうそう。もう彼氏持ちだったり、同じタチだったりね」
逃げ出したくなる…。
「ちょっと、由沙、別のとこ行くね…」
「あ…うん…?」
行き成り言い出したからか、みんな不思議そうにしてるけど、気を使ってなのか、何も聞かずにいてくれた。



伊集院や佐渡や湊瀬みたいに…。
由沙もたまには、恋愛の話ってのに混ざってみたい。
…ホントは恋愛経験なんてゼロ。
高1で初体験ってのももちろん嘘。
でも…言えないよ…。
恋愛経験ゼロなんて…なんか、恥かしいもん。
いままで、すっごく下ネタとか言ってたし、ヌードで写真を撮られたり…。
そんな子が『実は、恋愛経験ゼロでした』なんて、なんか言いにくい。
だから、いっつも、経験豊富なフリとかしちゃってる。
だって、自分からそうゆうフリするまでもなく、周りのみんながそうやって思ってそうだもの…。
なんか、焦ってくる…。
はやく、経験したい…。


「あ…由沙先輩、こんにちは」
ボーっと一人で俯きながら歩いてると、前から声がかかる。
「……御神…?」
由沙が名前を言い当てると、『よく知ってましたね』と言わんばかりの驚いた表情を見せた。
「名前くらい、覚えるよ…。御神だって俺の名前覚えてるし…それと一緒じゃん?」
「由沙先輩は、報道部の新聞に載ったりするし、写真が売られてるから、有名じゃないですか。でも、俺は有名じゃないし…。いちいち、一ファンの名前とか全部覚えるんですか?」
うん…由沙、学内新聞に載った事があるんだから…わりとこの学校で有名かもしれない…。
「…全員はわかんないだろうけど…。一回、面と向かって名前を聞いてれば、覚えるよ」
「そーゆうところも、人気の要素なんでしょうかね…」
「…人気…」
覚えるのが当たり前でしょ…。
いくら人数が多かろうが、そんくらいは由沙もするよ…。
「ありがと」
とりあえず、ほほ笑み返しとく。
御神は、なんだか幸せそうに笑い返すと、急ぎの用事でもあったのか、走って由沙の前から離れていった。

人気か…。
「あれ…? 今日は1人?」
「めずらし〜…」
ほらさ…。
少し歩いてるだけで一応、声かかるんだよね。
まぁ、こいつらは同じクラスだから、声かけられても普通な人たちかもだけど。
「ちょっと…ね…」
軽い感じの奴ら。
すぐ手、出しちゃいそうな感じ…?
「2人は? 今日もまた誰かに手、出すつもりなわけ?」
半ば呆れ顔を作って聞いてみる。
「んー。なぁ由沙、誰か紹介してよ。友達とか…」
「もちろんだけど、会長とかはパスな?」
会長ってのは、伊集院のこと。
言われなくても伊集院をあんたらに紹介するつもりはないよ。
「いま、彼女とかいないの…?」
「もうだいぶいないって。ご無沙汰…な?」
「ちょっとなー…。1回きりって付き合いはわりとあったけど…ね?」
彼女…2人ともいないんだ…。
「…じゃ、由沙にする……?」
由沙はめちゃくちゃ緊張しながら…
それでもそんなそぶりは見せないようにして言った。
「…え…?」
もちろん…。その2人は耳を疑うかのように聞き返す。
「…だから、由沙が相手しようかって」
まるで、それがなんでもない行為であるかのように。
自分は経験豊富だってフリをする。
そいつら2人は、顔を見合わせてから軽く笑った。
「由沙ほどの上級者のテクに俺、ついてけないかも」
「それにさ。由沙のファンに怒られるって、手なんて出したら」
なるほど…ね…。
上級者ってなに…?
そりゃ、経験豊富なフリをしたのは自分だけど…。
そんなこと言われたら由沙、ずっとやれないよ。
ファンの子が怒るって言ってもね…。
それってちょっといい迷惑。
「冗談だって。じゃ、2年生の子、明日にでも紹介するよ」
断わられたことに関して、なんでもないみたいな態度をとってみる。
ホントはちょっとショックだったけど…。
「サンキュ〜。じゃ、またな」

由沙は、なんだかショックを受けた状態で、力なく寮へと戻った。
「あ…富士。早いね、あいかわらず…」
ルームメイトの富士がすでにいて、一人で雑誌を読んでいた。
「俺、部活とか入ってないし…。由沙先輩こそ、今日は早いっすね」
「ん……。ちょっと…」
富士が雑誌を閉じて不思議そうに由沙を見る。
「…なに…?」
「…いや、なんか、今日、暗いね、先輩…。大丈夫…?」
暗い…?
そんなんわかっちゃう…?
寮に戻ると、気が抜けちゃうんだよね…。
「…大丈夫じゃない…。疲れるんだよね。外面よくすんのって」
後輩の前では、一応、人気者のままでいたいし…?
伊集院たちの前でも、ついてくために結局自分を隠してるし。
「ふぅん…。俺の周りの由沙先輩ファンが、今の聞いたらびっくりしそう」
外面作ってるから…?
富士は…。
1年間ずっと一緒のルームメイトになるわけだから、もう素の状態見せちゃってる。
疲れるもん…。
「…ね…。富士のまわりに由沙のファンがいるわけ?」
「ん…。いるいる。写真買ってた」
「紹介してよ。由沙、今、彼氏募集中なんだよね〜…」
ベットに力なく寝転がったまま、富士に言う。
「…いないんだ?」
「…いないよ…。誰も付き合ってくんないもん」
「そりゃ…みんな由沙先輩には彼氏いるって思ってるだろうし…。人気あっからなんか恋人ってよりアイドルってタイプ…? 今さら告ったりする人はいないっしょ…」
そーゆうもん…?
「じゃ、由沙から告ればいいかな?」
「…さぁ…。重荷過ぎて、断わられるかも…」
駄目じゃん…。
だったら、どうあがいても無理なわけ…?
「…むかつく…」
由沙はベットから思いっきり起き上がって富士の方のベットに座った。
「…なんで…?」
「…そうやってアイドルみたいに仕立て上げたのはそっちじゃん…? それのせいで、由沙が不幸なんだよ? なんかむかつくと思わない…?」
「…俺は、アイドルじゃないから由沙先輩の気持ちとかわかんねぇけどさ…。ファンの人たちは由沙先輩のこと好きなわけなんだから……そうゆう風に言うのって…」
……むかつく……
みんながみんな、由沙にちやほやしてくれるのも、むかつくけど、そうやってはむかわれるみたいなのもむかつく。
「…由沙の気持ちがわかんないって言うんなら、変に口出さないでよっ、馬鹿っ。普通、人がグチったりしてたらノってくれるもんでしょ…? なにそれ。お前もむかつくよ」
駄目だ。
もう、どんどんストレス溜まってくるよ。
「今日、友達んとこ泊まってくる」
「ちょ…由沙先輩…っ!?」
「別に、いいでしょ…? あぁ、富士がむかつくからとかそんなんじゃないから」
いやみらしく言って、すぐさま部屋を出た。
はぁあ…。
出て来ちゃったけど、どうしよう…。
今日は金曜日だから…みんな夜、遊ぶだろうし…。
佐渡と伊集院は彼女がいるから…
湊瀬…の部屋にでも泊まらせてもらおうかな…。


「おじゃましま〜す」
湊瀬の部屋に入るとルームメイトの子だけいて、湊瀬はまだ帰ってきていなかった。
まだ、しゃべってんのかな。
「…あ…れ…。由沙先輩…?」
誰…?
由沙は知らないけど、知られてるってことが多い。
とりあえず、にっこり笑っとく。
「湊瀬のルームメイト…? 今日、ちょっと部屋、変わってくれないかなぁ…? 駄目…?」
そう言う由沙に、『よろこんで』って応えてくれる。
由沙は、自分の部屋を湊瀬のルームメイトに教えて、その子に出て行ってもらった。


どっちのベットで寝させてもらおう…か…?
やっぱ、湊瀬は自分のとこで寝るだろうから、由沙はルームメイトさんとこ…?
そうこう考えてるうちに、机の上のたくさんの封筒が目に入る。
その中で、富士の名前が書いてある封筒があった。

―なにこれ…―
幸い、その封筒は糊付けされていなくって…
見ちゃだめかな…。
ものすごく見たい。
うぅうん。駄目駄目。
しょうがないから、後で湊瀬に頼もう。



しばらくすると、待ってました、湊瀬が帰って来る。
「遅いってばっ」
「…あれ…由沙、なんでいんの…?」
「今日は、ここに泊まらせてもらうよ。ルームメイトさんとももう代わってもらったんだから…」
「ん…別にいいけど…」
そう言って、湊瀬は机の上の封筒をすべて束ねる。
まるで、由沙に見られないようにするみたい。
「…ちょっ……ねぇ。その封筒なに…?」
「…ん…これ? 写真だよ、写真。予約されてたやつ、現像したから…」
湊瀬は、写真部の部長で、いろんな子をモデルに写真を撮っている。
本人の了解を得て、写真を売ったりもしている。
由沙も湊瀬に撮られてるから、由沙のもあるのかな。
「ね、ちょっと見せてよ」
「…だめだって。誰がどの写真買ったかってのは、一応、言わないでおくことになってんだから…」
さっきまで机の上に堂々と封筒置いてたくせに…。
「…でも、由沙のもあるんでしょ…? 由沙が、自分のを買ってった人を知るのはよくない? ねぇ、見せてって」
湊瀬は少し、困り顔。
「…誰がどれ買ったか、言いふらしたりするなよ…?」
「そんなことしないって」
湊瀬はしょうがないってな感じで、由沙に封筒を渡してくれた。

とりあえず、富士。
他の人はまぁいいや。
富士ってどんな子の買うかなんか気になるもん。
口が悪いから、きっと趣味も悪いね。
そう…思ったのに…。
「…由沙だ…」
富士の名前が書かれた封筒には由沙の写真ばっかり…。
友達に頼まれて、富士の名前で買ってるとか?
うん。あり得る。
「これ、由沙が持ってってあげようか…?」
「おい……駄目だって。隠れファンとかもいるんだから…。秘密だって言ってるだろ…?」
ちぇ…。
「わかった。言わないし、なにも見なかったフリする。……あのさ…。富士って、由沙のファンなの…?」
「…富士…?」
由沙は、富士の名前の封筒を湊瀬の前に出す。
「ほら、この子。由沙のばっか買ってんじゃん? 友達の代わりとかで買ってんのか、本人が買ってるのかどっちなんだろって」
「…秘密厳守してるし、メールで予約受け付けてるし…。望まれれば封筒も普通の手紙みたいにポストに入れたりすっから、平気で買えるような状況だと思うけどね…、友達になんて頼まなくっても…」
「めんどくさくって、他の人と一緒に買うとかは…?」
「…同じ写真が何枚も頼まれてたらそーゆう可能性も高いだろうけど…」
富士のは…
同じ写真が何枚もあるわけじゃないし…。
なんにしろ、富士の名前で買うってことは、少なくとも1枚は、富士も買うわけなんだよね…。
富士は…由沙の、ファンなわけ…?
だったら、なに…?
―疲れるんだよね。外面よくすんのって―
そう言った由沙に
―由沙先輩のファンが、今の聞いたらびっくりしそう―
って…。
富士自身がびっくりしたの…?
「…富士って、1年のころから買ってる…?」
今は2年生。由沙とルームメイトになったのは、富士が2年になってからだった。
「ん…買ってるよ。常連さん」
やっぱり…。富士は1年のころから由沙のファンだったんだ…?
由沙とルームメイトになって…
由沙の本性知って…
富士はショックとか受けたんかな…。
だって、まさか富士が由沙のファンだなんて知らなかったし、素、出しちゃってたよ…。
「…ちょっと、部屋戻る…」
俺は湊瀬にそう言うと、自分の部屋まで戻った。


「あぁ、由沙先輩、戻ってきたんだ…?」
あいかわらず、雑誌に目をやりながら聞く。
もう1人、さっき由沙と代わってもらった湊瀬のルームメイトがいた。
「…ごめんけど…やっぱ、部屋戻してくれるかな…。ホント、ごめんっ。今度なんか穴埋めするっ」
「あ、別に気にしないでください」
快く、湊瀬のルームメイトは部屋を出て行ってくれた。
「…富士…の友達に由沙のファンがいるって言ってたよね…」
「うん…?」
「…由沙が、ホントはどうゆう子か、富士、言った…?」
由沙が、口悪くって、グチばっか言ったり…。
わがままなこととか。
「…別に…言ってない」
由沙は少しだけ安心した。
「…そんなに…隠したいの…?」
…由沙は…由沙を好いてくれている人たちを裏切りたくないだけ。
…もう…富士のことは裏切っちゃったことになるの…?
「素のままでも…ついてくるファンもいるんじゃない…?」
あいかわらず、そっけなく、こっちも見ずに富士は言った。
それって、自分のこと…?
1年のときから、ファンでいてくれて…
いまでも、ファンでいてくれるんだ…?
由沙なんて…
なにも考えずに、ファンのこと、むかつくとか言っちゃったよ…。
確かに、富士は、由沙の気持ちがわかんないかもだけど…
ファンの気持ちの方はわかってたんだ…?
―ファンの人たちは由沙先輩のこと好きなわけなんだから…そーゆう風に言うのって…―
って…。
たくさんの人に好いてもらってるのに、不幸だなんて…。
「なんで言わないわけ…? ホントは由沙はすっごいわがままでグチばっか言ってるやつなんだって、友達に教えてやればいいじゃん。なんで…言わないでいてくれるわけ…?」
「…別に…由沙先輩が外面作ってんなら、素を俺が言いふらすわけにもいかないじゃん」
「さっき、素のままでもついてくるファンも…って言ったじゃん」
「…だから…疲れるなら、外面とか作らなくっていいんじゃない? ってこと。俺が自ら由沙先輩のこと、言いふらすとかじゃなくってさ」
よく……わかんないよ…。
富士が、そうやって言ってくれるのは、由沙のファンだから…?
由沙のことが…好きだからなの…?
「…素を…好いてくれるファンばかりじゃないよ…。富士だって、はじめびっくりしたでしょ…」
―由沙先輩のファンが、今の聞いたらびっくりしそう―
そう言ったのは富士じゃんか…。
「…びっくりしたけど…。でも、だからってそれはそれでいいと思うし。その方が人間らしいよ。親近感わく」
「親近感…?」
じゃ、富士は、由沙のこと、アイドルとかそういった感じには見てないの?
それでいて…好きでいてくれる…?
「…あの…さ…。富士って、付き合ってる人とかいる…?」
なにを言い出すんだと言わんばかりに、驚いて、こっちを見る。
「…い…ないけど…」
「じゃぁ、付き合って」
「え…?」
富士は驚いて、一瞬何も言えずに、固まっていた。
少しの間、沈黙が続く。
「な…んで、なにも言わないわけ…? 聞いてるの?」
「…聞いてるけど…なんで…」
なんでって…?
由沙、富士のこと好きなの…?
わかんないよ。
わかんないけど…。
富士が、作ってる由沙も、素でいる由沙も好きでいてくれるんなら…。
好きだっていうんなら、もっとかわいがって欲しいよ。
「ばっかじゃないの…。もっと、普通のファンの子たちみたいに、由沙にちやほやしてよ。なんで隠すわけ…?」
気づかなかったじゃんっ。
「…は…ぁ…?」
「由沙の…ファンなんでしょ…?」
なんだかむかついたりしていて泣きそうになってる由沙を見て、富士は困ったように頭をかいた。
「…ちがうの……? …写真…買ったでしょ…?」
だんだん、不安になってくる。
湊瀬はああ言ったけど、やっぱり富士本人が買った写真じゃないかもしれない…。
「違うならいいよ。…忘れて…。やっぱ、今日は別のとこで寝るよ…」
少し、富士との距離を置こう…。
そう思って、ドアに手をかけたときだった。
空いてる手を、富士につかまれる。
「…っな…ぁ…?」
「……写真は買った…」
やっぱり…?
「富士が…?」
振り返りながら言う由沙に、少しだけ困ったように頷いた。
「やっぱり…ファンなんでしょ…? だったら、隠さないでよ。由沙のファンだって隠さなきゃならないことなの…?」」
「…隠さなきゃならないのは…ファンじゃなくって、本気だからなんだけど…」
意味がわかんなくって、一瞬、何にも考えられなくなる。
「…本気…?」
「…ファンみたいに…由沙先輩のこと、遠くでアイドル視してるんじゃなくって……。本気だから、隠してたかったんだよ…。俺みたいな奴が、本気で由沙先輩の事好きだなんて…みんなに馬鹿にされそうで…」
本気で好き?
ファンとかじゃなくって…?
「じゃぁ…付き合ってよ…」
「…でも…」
なに…?
やっぱ、富士も、由沙と付き合うのは、重荷なの…?
「…やだ…。そんな風に敬遠されるなら由沙もうファンなんていらないもん」
「そんなこと…。俺だって、1年のときとか…ファンだったんだから…そーゆうの言われるとショックだし…」
「だってっ…。じゃぁ、付き合ってよ。由沙のこと、敬遠しないでよ。好きならなんで駄目なの…っ?」
「駄目じゃないって…。由沙先輩の方こそ…なんで俺なわけ…?」
なんでって…。
富士が、由沙のこと、好きでいてくれるから…?
素な状態も…全部知っても、なお好きでいてくれるから…。
好きでいてくれればいいもん。
多くは望まないもん…。
「…理由なんていいでしょ…? 由沙の目に狂いはないんだから…っ」
そう言うと、富士は軽く笑って、『わかった』って言ってくれた。


「…由沙先輩って…モテるんでしょ。ちょっとの期間でも彼氏がいないと寂しくなっちゃうタイプじゃないの…?」
富士は、由沙がシャツのボタンを外していくのを見守りながら言った。
「どうゆう意味…?」
わけわかんないよ。
「…今…俺と付き合おうって言ってくれたのは…次の彼氏が出来るまでの繋ぎじゃないかって…こと」
「…そんなんじゃないってば…。由沙は、前は先輩とかにわりとかわいがられてたけど…それって恋人とかそうゆうのじゃなかったし…。なに…経験豊富な方が好き…?」
不安になって、ボタンを外す手が、途中で止まった。
「…ううん…。…いいよ…」
富士は、由沙のことを、そっと押し倒す。
由沙は、シャツのボタンを全部外して、富士を見上げた。
「…いい…の…?」
そう聞く富士に頷くと、肌に触れた手が、滑らかにすべっていった。
「っ…富士……」
胸の突起を指先で遊ばれると、ゾクゾクして、体が震え上がっちゃっていた。
「っん…っぁっ…っ」
「…由沙先輩……ホントに…」
「…いいって、言ってるでしょ…? 何度も言わせないでよ」
そっと笑って、『わかった』って言うと、股間の方に手を忍ばされる。
「っン…」
ゆっくりとした速度で、ズボンを下着を脱がされて、すべてをさらけ出してしまうと、由沙は恥かしいってゆうのより、なんか、全部見てもらえるって感じで、温かい気持ちになっていた。
富士は、なんのためらいもなく、由沙の股間のモノを口に含んじゃう。
「っぁ…ふぁっ…ン…富士ぃ…」
富士は…こーゆうの慣れてんだ…。
やだなって思うのは、やきもちとか嫉妬とか…。
そういう感情なのかな。
富士にとっての一番が、自分であって欲しいなって、思うのは…
やっぱ、由沙、富士のことが好きだから…?
少し、いやらしい音を奏でながら愛撫を繰りかえされると、由沙の方も限界になってくる。
「はぁっ…ンっ…くっ…ぁっ…やぁンっ」
引っ張るでもなく、押すでもなく…
そんな感じで、由沙は、富士の頭に手を置いていた。
「ぁンっ…富士ぃ…も、やば…ぃよ…っ…ぁっン…イキそぉ…っ」
そうは言っても、富士は止めないで、そのまま愛撫を続ける。
やめられても辛いけど…。
「…駄目…ぇ…出ちゃ…ぅ……離し…」
聞こえない…わけないよねっ。
「ぁあっ…やっ…もぉ出ちゃう…ってばぁ…っ…富士ぃ…っやぁああっ」


「…ば…かじゃないの…? 出るって言ったじゃんかっ」
由沙は、富士の口の中に出してしまっていた。
富士は、自分の指先にさっき由沙が出したモノを出す。
「や…めてよ。なにそれ、いやがらせ?」
恥かしくってイライラする。
「…別に…口に出されてもかまわないから、続けたし…いやがらせするつもりもないから…」
「じゃぁ、なんで由沙が…恥かしがるようなことするの?」
「…そうゆう…もんじゃん…? 由沙先輩…したこと…ない」
「あるよ、馬鹿っ」
富士に本当のことを言われて、つい恥ずかしさから嘘をついてしまう。
全然…こんなの平気だもん。

富士は、その濡れた指先を、そっと後ろの入り口へと這わせる。
「…ぁっ…」
そのまま、ソコを押しひろげてゆっくりと指先が中に入り込んできた。
「はぁっ…ンっ…んっ…」
気が遠くなりそう…。
どんどん入り込んで来る感じ。
奥の方まで入ってしまうと、次はその指が変に中を探るように動く。
「ぁっ…あっ…ンぅうっ…富士ぃ…」
体がおかしいよ…。
膝をたてた足で、ギュっとベットを踏みしめながらその快感に耐える。
「由沙先輩…。どうしてそんなにさ…外面よくしたり…見栄張ったり…するわけ…?」
見栄張ったり…?
「ぁっ…してな…」
「…そう…? …あまり…嘘とか…つかないで欲しいんだけど…」
富士には嘘だってわかるの…?
嘘じゃないってば…って…
怒りたいとこだけど…
なんか、言えなくなってた。
そっと、頷くと、富士は滅多に見せない笑顔を見せる。
いつもとは違う笑い方。
微笑みって言葉が似合う。
「…馬鹿…」
そーゆう表情見せられたら、嘘なんてつけなくなるじゃんか…。
馬鹿…。
そうこう考えてるうちにも、富士は入り込んでいる指にそって、もう1本、指を増やそうとする。
「ぁ…やだ…富士…」
「…なんで…?」
「…っ…は…いんない…」
大丈夫って、言うと、富士はゆっくりと、指を中へ押し込んでいく。
「あっ…くっ…ぅンっ…ぁ…富士ぃ…」
中に…人の指が2本も入るなんて…信じられない…。
「…痛い…?」
俺は、首を横に振って答える。
富士って……
淡々と、やり進めるくせに…
そうゆうとこは、ちゃんと気を遣うんだ…。
もうちょっと無神経なのかなぁとか思っちゃってた。
由沙……富士のこと、全然知らないや…。
「ふぁ…ンっ…富士ぃ……」
気持ちよくって、頭がボーっとしてくる。
どんどんと、ソコがほぐされてって、由沙は早くイきたいだとか…
そういった気持ちよりも、もっと味わっていたいって感じになっていた。
頃合とみてか、富士は指を増やしていく。
「ぁっ…んぅう…っっ…やぁっン」
あぁ…まだ…拡がっちゃうんだ…。
気が遠くなりそう。
3…本も指、入っちゃってる。
あいかわらず、富士が指を動かすたびに濡れた音が耳につく。
「っはぁっ…や…富士……そこ…っ」
「…ここ…?」
つい口に出してしまった言葉を確かめるように、富士が指で突く。
「あっ…やっ…駄目…ぇ…っおかしぃ…っ」
あ…そっか…。ココが、前立腺ってやつ…?
後ろ突かれてんのに…前にすごい刺激が伝わってくる。
少しだけ焦らすように、ソコを撫でられて、強すぎず弱すぎず…丁度いい
刺激が堪らなく心地いい。
「ぁふっ…ンっ…富士ぃ…」
駄目…。
なんか、腰動きそうだし…。
「もぉ…っ…指…っいい…からぁ…っ富士ぃ…」
指だけでこんなところでイっちゃったら…富士に悪いじゃん…。
富士は、ゆっくりと指を引き抜くと、すでに勃ち上がっている自分のモノを押し当てる。
「あ…」
入る…?
「…いい…?」
そう問う富士に、そっと頷くと、それが引き金だったみたいに、中へと押し込まれていく。
「あっ…んーっ…やぅっ…ンっ…」
こんなの…
駄目。おかしくなりそう…。
入っちゃうもんなんだ?
少ししか、入り込んでないっぽいのに、すっごく奥まで入ってるような感覚。
「…もうちょっと…入れば…ラクになるから…」
富士は、そう言って由沙の頭を撫でてくれる。
なんで…そんなこと分かってるわけ…?
あぁ、富士って、いままであんまり見てなかったけど、かっこいいかも…。
モテてたとか…。
「ン…はぁっ…あ…っ…富士ぃ…っ」
ホント…
富士の言うとおりで、奥の方まで入り込んでしまうと入口で漂ってるのより ずっとラクで…
それでいて、圧迫感が堪らなくなってくる。
「駄目ぇ…っ…動か…ないで…」
「じゃぁ、このままでいるわけ…?」
自分の体が自分の体じゃないみたいで…
わけわかんないもん…。
由沙が、そっと首を横に振ると、富士はゆっくりと腰を後退させ中から引き抜いていく。
「ひぁあっ…ンっ…あっ…やぁっ」
入口付近まで引き抜かれたソレは、また躊躇なく奥へと押し入る。
「んぅっ…やぁっ…駄目っ……富士ぃ…」
「…由沙先輩…なんか、壊れそう…」
奥まで入り込んでしまうと、そっと俺を抱き上げる。
「…富…士…?」
向いあって、富士の上に座らされて…
なんか、変な気分…。
こんな近距離で富士の顔見るなんて初めてだし。
雰囲気に流されて、そっと口同士が触れる。
富士ってこんなやさしいキスしちゃうんだ。
なんか意外…で、少しおもしろい。
「…由沙先輩…」
「…なに…?」
「…もうさ…いくら由沙先輩が嫌がったとしても、自制とか出来そうにないからさ…。嫌だったら、俺のこと殴って…」
「…は…ぁ…? なにそれ」
笑いながら答える由沙に、富士は少しだけムっとした顔を見せる。
「…今まで、ずっと同じ部屋で…物理的には近かったのに、あんなに遠くにいた人と…やってんだよ…」
「…ん…由沙は…別に遠い人間なんかじゃないって…」
まわりが思うより普通の子で…。
こんなことするのも初めてで…。
「…もっと…同等に見てよ…」
「…わかるけど……どっちにしろ、自制って難しいから」
そう言うと、富士はそっと由沙の体を揺さぶる。
「ぁくっ…んやっ…はぁっ…あっ…富士っ」
もう…なにかにしがみついてでもいないと体のどこに力を入れていいのかとかわからなくって、富士の背中に手を回す。
「やンっ…ぁっ…駄目ぇ…富士ぃ…」
何度も、抜き刺しを繰り返されるうちに自分が自分じゃないような感じになってきて、次第に慣れてきたのかよくわかんないけど、自ら動きに同調してくる。
富士の手が、由沙の体を支えてくれて、その手の感覚までもが妙に快感を与えてくれている感じがした。
「はぁっ…ン…やっ…そこっ…ぁあっ」
あ…っと、前立腺だっけ…。
富士はもう、抜き刺しするだけで気持ちいいんでしょ…?
ちゃんと、由沙のことも考えてくれてるんだ…。
それって、すっごく嬉しいかも…。
「いい…よぉ…っ…富士ぃっ…駄目ぇ…もっ…イクっ…ぁっあっ…やぁあンっっ」




「…ご…めん…」
「…なに、謝ってんの…。付き合いだしたんだから、やったりするのって別に普通でしょ」
それでも、富士は少しだけ申し訳なさそうで…。
「…でも…自分が由沙先輩と付き合うことになったの自体、まだ信じられないし…。こんなんやったなんてバレたら…」
ファンの子に怒られるって…?
「…もっとさ…。富士は自信持てばいいじゃん…。なんていうか…『俺は由沙先輩に選ばれた人なんだぞ』ってさ」
そう。
由沙が選んだんだから…。
「…でも…さ…。アレでしょ…。なんていうか…もし、由沙先輩のルームメイトが俺じゃなくって別の人だったら…由沙先輩は別の人と付き合うことになってたでしょ…」
そりゃぁ…
そーゆうこともあるかな。
ものすごい悪い性格とかでない限り…由沙からモーションかけちゃうかも…。
っていうか、富士のときみたいに、半強制的に『付き合って』って言っちゃったり…。
「…そうだね」
あっさりそう言う由沙に、少しだけショックを受けたような表情をする富士がなんだかおもしろい。
由沙は、ちょっと笑っちゃってた。
「でもさ。それはしょうがないんじゃないの…? なんか…ほら。もしすっごく気の合う人がいても、それが遠くに住んでる人とかだったら会えなくって…存在も知り得ないわけだし…。そーゆうのと一緒じゃない? これだけはさ…『運』とか…そういったもんなのかなぁ…」
「じゃぁ、俺は運がよかったって…?」
「わかんないけど…。今いる恋人同士とか、いくら仲良く見えても、どこか知らない場所にはもっと気の合ういい人がいるかもしれなくって…。出会えるか出会えないかによって変わっちゃうんだよ、そーゆうのは」
複雑な表情で富士は由沙の方を見る。
「…みんなさぁ…一番いい人と出会えるとは限らないってことかなぁ」
「…ふぅん…」
あれ…。なんか、不機嫌そう。
「…なんで富士が怒るわけ…?」
「…怒ってないけど…。結局、由沙先輩は、俺のことは、『出会えたとりあえずのそれなりの人間』って風にしか見てないわけでしょ…? ルームメイトが別の人だったとしても、そいつと同じくらいの価値のさぁ」
「…馬鹿…。まぁ、そーとも取れるけど……由沙の言いたいことくらいわかれって言いたくなっちゃうよ」
「もう、言ってるじゃんか…」
…まぁそうだけど。
「…そうじゃなくって…。もし、ルームメイトが富士じゃなくって別の人だったらの話。そうだったら…その人と付き合っちゃって…それでいて、他のもっといい奴とは知り合えなかったなぁって…そう実感はしないだろうけど、そうなんだろうって」
もう…自分で言っててこんがらがってくるよ…。
「…だから…富士と出会えたってのは、由沙にとって運がよかったってことになるんだろうなって…」
結論はそれかな。
「…もっと…知らないだけでいい人いるかもしれないよ」
「知らないなら知らないでいいよ。これからずっと知らないんだもん」
これから先、別に知りたくもないし。

「…由沙のルームメイトが富士で…よかったって思ってる…」