お互いの唇が少し触れあっただけなのに、変な感じがして恥ずかしい。
「あ……」
「大丈夫? じゃあ次はもうちょっと、深いのするよ?」
深いの……。
もう一度、鳥島先生の唇が重ねる。
「ん……!」
「ん……口開けて……少しでいいからね。あーん」
重なっていた口が離れたかと思うと、至近距離で言われて、わけもわからず小さく口を開く。
「はい、おりこうさん」
そう俺を褒めた後、また口が重なって、ぬるりとなにかが入り込んできた。
「……!」
「んー……」
大丈夫だと言うように、鳥島先生は俺の頭を撫でながら、舌を絡め取っていく。
ああ、鳥島先生の舌だ。
舌が絡まって、気持ちいい。
さっき、少し股間を撫でられたときも、想像していないほど気持ちよかったけど、キスも、こんなに気持ちいいんだ……?
「ん……ん……!」
鳥島先生の舌がゆっくり動くのに合わせて、俺もまた舌を動かしてみる。
意識しているわけではないけれど、勝手に動いるみたい。
舌を味わうように、ゆっくりと。
「はぁ……うわぁ……上手だねぇ。ホントに初めて?」
「ん……」
褒められて嬉しいやら恥ずかしいやら。
その前に気持ちよすぎて頭がぼんやりしていた。
「……気持ちよかった?」
小さく頷くと、鳥島先生はにっこり笑ってくれる。
「じゃあ、これからはいつでも、佐藤先生が欲しいときにしてあげる」
働かない頭で、それでもなんとか考えようと思ったけど、やっぱり理解出来なくて。
小さく首をかしげる。
「俺もしたいしね。それより、勃起しちゃってるね。さっき俺が触ったからってのもあるだろうけど、キス、興奮した?」
キスで勃起するなんて、おかしいだろうか。
わからないけど、興奮したのはたしかだ。
わからなくて、なにも答えないでいると、鳥島先生は、俺のズボンのチャックに手をかける。
「な……」
「抜いていい? 好きがわからなくても、初めてでどうすればいいのかわからなくてもいいから。初めてが俺でもいいなら、やらせて」
「やら、せてって……」
「ああ、いきなり最後まではしないよ。手で抜いてあげるだけ。見せるの抵抗あるなら、先に俺の見せようか」
鳥島先生はそう言うと、何でもないことのように自分のを取り出す。
人の性器なんて、はるか昔に父親のを見た記憶がうっすらあるくらいだ。
あとは、モザイクがかかったエロ動画でしか見ていない。
「そんなじっくり見られると、俺も勃起しちゃいそー。どーする? 抜き合う?」
そんなこといきなり出来るはずがない。
俺は小さく首を横に振った。
「うん、いいよ。見せただけだから。じゃ、佐藤先生のも見せてもらうね?」
鳥島先生は自分のをしまうと、今度こそ俺のチャックをおろしてしまう。
うまく抵抗できない俺をよそに、慣れた手つきで性器を取り出す。
さっき見た鳥島先生のより小さい。
それも、なんだか恥ずかしい。
「ん……かわい……」
「な……」
「ああ……からかってるわけじゃないからね? 半立ちしてんの、なんかかわいいなぁって。色も綺麗だし」
「ん……」
「初めてなら、優しくしないとねー。ゆっくり、擦るよ?」
「まっ……」
「ん? 正面からされるより、後ろからの方が安心できるかな」
鳥島先生は、俺が座っていた背もたれのないイスの後ろに、自分のイスを置いて座り直す。
俺が振り返るより早く、左腕で俺を抱きながら、右手で性器を掴んだ。
「あ……」
「ほら、自分の手と同じ向きだし。ちょっと俺の手に代わっただけだからねー」
鳥島先生の言う通り、正面や横からやられるよりは、少し安心できるかもしれない。
それでも、人の手だ。
鳥島先生の手。
掴まれて、擦りあげられた瞬間、恥ずかしいくらいに身体が跳ねた。
「んんっ!」
「ああ、ごめんね。強かった? ゆっくり……ね」
ゆっくり、優しい手つきで、擦ると言うより撫でられる。
それなのに、性器が鳥島先生の手の中でビクビク跳ねるのがわかった。
性器だけじゃない。
腰も、ビクついてしまう。
「うっ……んっ……んっ……んっ……や……」
「や? ビクついちゃってもいいからね」
「んっ、ん……ああ……ん……」
「そう、声も、出せるなら、いっぱい出していいよ……」
まだ、少し撫でられただけなのに。
ビクつくし、声も出るし。
ああ、でも、ビクついても、声を出してもいいらしい。
それに、さっきかわいいって……。
「んぁ……あっ……んんっ!」
鳥島先生を意識した瞬間、イきかける。
「ん? 我慢しちゃった? いいよ。イッても。ズボンにかかっちゃうといけないし、足、もうちょっと開いておこうか」
「はぁ……はぁ……ん……んっ……」
イきそう。
人の手で?
鳥島先生の前で?
イっていいのか?
してくれてるのに、イかない方が失礼?
わからないし、せっかく我慢したのに、少しだけ強く撫でられて、鳥島先生の指が鈴口に触れたとたん、誘発されるみたいに、奥から溢れてきてしまう。
「んんんっ!!」
「おっと……」
イった。
こんな早く?
ありえない。
恥ずかしくてたまらない。
「あ……あ……俺……こんな、はやく……」
「いいよ。初めてだもんね。でも、もうちょっと堪能していい?」
鳥島先生はそう言うと、いったん止めていた手をまた動かす。
さっきと違う……俺の出したモノで、鳥島先生の手が少しぬるついてるみたい。
それに今度は、ちゃんと俺のを掴んで、擦りあげるみたいに……。
「あっ、んん……! んっ……ああ……」
「あ……かわいー声、出てきた……。もっと声、出して?」
「あ……あっ……ん、あっ……ぁ……ん、んぅ……んっ」
なんで?
なんで2度もしてるんだろう。
立て続けに、こんな……。
「いつもはどうしてんの? さっきみたいに撫でるだけ? それともちゃんと擦ってる?」
ちゃんと擦ってる。
もっと強くしてるし、もっと持つのに。
鳥島先生の手は、全然違う。
イッたばっかで、いまは敏感になってるとか、それだけの問題じゃないと思う。
「うぅ……ん、わか……な……」
「ああ、ごめんね。余計なこと考えなくていいから。腰、揺れてるね。もっと擦って欲しくなっちゃったのかな」
擦って欲しい。
イったばっかりだけど、またイきたい。
なにより、鳥島先生の手が気持ちよくてたまらない。
「はぁ……はぁっ……あっ、あっ……んぅ、んっ……ああっ、んんっ!!」
「……またイっちゃいそ? いいよ。イかせてあげる」
少し強めに握り直されて、さっきよりも速いスピードで擦られると、体がビクビク跳ねた。
こんなすぐ2回もイクなんて、絶対早いし、おかしいのに。
「ああっ、あっ、んぅっ……んっ……あっ、あっ……んぅんんんっ!!」
2度目の射精を迎えて、体はスッキリしているはずなのに、頭はぼーっとしたまま。
ああ、やっぱり体も、なんだか力がはいらない。
「……佐藤先生、かわいすぎ」
からかうようなことを言われても、反論するだけの気力はなかった。
冗談じゃなければいいのに……なんて、心のどこかで思っているのかもしれない。
「これ以上は、落ち着いた場所でした方がいいかな。初めてはどこでしたい?」
「は……? なに、を……」
「なにをって。これ以上のこと。俺の家? ホテル? 佐藤先生の家でもいいけど」
「……なに言って……しないから」
やっとまともに声が出るようになってきた俺は、取り繕いながらそう答える。
「えー。気持ちよかったのに? いきなりハメたりハメさせたりしないからさ。とりあえず……もっかい抜いたげる。しゃぶったりしてさー」
「だから、そういうの……」
「……先に『好き』がわかってからにする?」
それは……もう、わかりかけている。
初めてが恥ずかしいだけじゃない。
鳥島先生に優しくされて、教えられて、心がときめいてる。
でも……。
「……対等じゃ、なくなった……みたい」
「え?」
「俺のこと、すごい下に見てるっていうか」
「下じゃなくて、かわいいなぁってだけだけど」
これまで、教師として一緒に生徒と向き合ってきた。
対等な関係だったのに。
恋愛に関して、俺があまりにも未熟すぎるから。
まるで子ども扱いされてるみたい。
実際、子どもみたいなもんなのかもしれないけど。
「佐藤先生がしたいなら、俺のことリードして、かわいがって、いろいろ教えてくれてもいいんだけど?」
「馬鹿にしてる?」
「してないしてない」
リードなんて、できるはずがない。
……でも、だからこそ、鳥島先生以外の人とじゃ、本当になにもできないかもしれない。
「はぁ……」
鳥島先生がめちゃくちゃ年上だったら、もう少し素直に受け止められていただろう。
「とりあえず、ここ掃除しないと……」
「そだねー。だいたい手で受け止めたけど、科学室って、水道あっていいよね」
手で受け止められた事実を口にされ、また、かぁっと顔が熱くなる。
鳥島先生の方はというと、特にからかうつもりもないようで、普通に手を洗っていた。
かと思うと、濡れたハンドタオルを持ってきてくれる。
「精液、塗りたくっちゃったから。拭く?」
「あ……う……」
「俺が拭こうか」
「い、いい! だいたいそれ、鳥島先生のタオルじゃ……」
「そうだけど」
「そんな、そんなので……!」
「いいっていいって。気にしなくてさー。あ、汚れてそうってこと? なんとなくポッケに入れてたけど、使ってないからきれいだよ」
「そういうことじゃ……」
「はい、拭くからね」
うろたえてる俺を無視してタオルを押しあてられて、性器を拭かれてしまう。
「んん!」
「強すぎた? 優しくしてまた勃っちゃっても大変だからねー」
「も、もういい」
鳥島先生の手を押しのけて、下着の中へとしまい込む。
身だしなみを整えてる間に、床に零れてしまっていたモノも、鳥島先生がティッシュで拭って綺麗にしてくれた。
「タオル……その……洗って……」
返されても困るか?
「ん? ああ、いいよ。おかずにしちゃうから」
「は……?」
「怒んないでよー。それより、早く食べないと、次の授業、始まっちゃうな」
勢いよく弁当を食べ進める鳥島先生を横目に、俺もまた、残りの弁当を口にする。
鳥島先生は、しゃべる間もなく食事を終えると、弁当箱を片付けて席を立った。
「佐藤先生は、このまま隣で授業? 早めに生徒来ちゃってもまずいし、そろそろ行くね」
そう言いながら、廊下に続く扉を開ける。
するとそこには、なぜか樋口先生が立っていた。
「あ、智巳ちゃん? どしたの」
「鳥ちゃんが化学準備室行くって言うから」
「えー、ついて来ちゃったの? 聞き耳立ててた?」
それは困る。
そう思ったけど――
「いや、そこまで野暮なことしないし。結果聞きに来ただけ」
どうやら、中での会話を聞かれたりはしていないようだ。
そもそも、そんな聞こえるほど大きな声で話してないけど。
「結果って……」
この人、鳥島先生がここへなにしに来たか知ってるんだろうかと、つい口を挟んでしまう。
「佐藤先生、朝から様子おかしかったから。大丈夫か俺も一応、気になって」
樋口先生なりに心配してくれてたんだろうか。
「大丈夫です。なんでもないですから」
「やっぱり、恋……」
「黙ってください」
「いつもなら、そんな強く反論しないのに……」
いつもの調子で流せていない自分に気づき、小さくため息を漏らす。
そうしていると――
「智巳ちゃん。俺、佐藤先生に告っちゃった」
鳥島先生が、そんなことを暴露する。
「なっ……」
「返事は?」
「それは待ってるとこー。智巳ちゃん、俺より先に聞き出しちゃダメだからね?」
「てか、絶対オッケーの流れじゃん。佐藤先生、とっとと答えたらいいのに」
「まだわかんないの。急かすの禁止―」
「……はーい」
とっとと答えたらいい。
わかってる。
でも……。
「佐藤先生―。一応、ちょっと言っときますけど、鳥ちゃん、モテるから」
モテるから、俺なんて釣り合わないと思ってた。
そもそも経験値が違い過ぎる。
対等じゃなくなるのも嫌だ。
好きになったら、うまくしゃべれなくなりそうだし。
でも、モテるから、いつ、他の誰かとくっついてもおかしくはない。
「もー、智巳ちゃん、なんでそんなこと言うの?」
「佐藤先生が後悔しないように」
樋口先生は、そう言い残して、その場から去っていく。
まるでいま、返事をする機会を与えてくれるみたいに。
2人きりにしてくれる。
「あの人はまた、佐藤先生のこと急かして……」
急かされなかったら、俺はいつ答えられるんだろう。
「ゆっくりでいいからねー」
ゆっくりしてたら、後悔する?
……好きかどうかわからなくても、はっきりしてることくらい言っておいたらいい。
「俺……鳥島先生のこと……」
「……うん?」
「…………意識……してます」
「……うん。ありがとう。じゃあ、これからちゃんと、佐藤先生が理解できるくらい好きにさせてみせるね?」
嬉しそうに笑顔を見せる鳥島先生を見て、理解できてしまいそうな気がするのだった。
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