「ん……ん……」
「声、我慢しないで。気持ちいい?」
鳥島先生の手が、掴んだ俺のを擦りあげていく。
すごい、気持ちいい。
「はぁ……ん……んん……」
「んー……かわいー。おちんちん弄られるの、そんなに好きなんだ?」
「ん……ぅん……ん……んぅん……」
「あーあ。ビクビクしちゃってる。こんなに弄られるの好きなら……やっぱり、入れたい? それとも、ナカはもっと好きだったりする?」
ナカ……。
「あ……」
「ああ……わかんない? じゃあ、教えてあげるね」
教えてくれる?
鳥島先生が、俺に……。
「ぅん……あ……んぅんんん……!!」
……最悪な目覚めだ。
同僚に、手で扱かれる夢を見るなんて。
しかもその先まで進みそうだったし。
鳥島先生は、俺と同じタイミングで赴任してきた体育教師だ。
科学担当の俺とは、まったくタイプの違う人間だけど、同じ学年を担当していることもあって、自然と親しくなった。
とはいえ、気づいたら近くでコーヒーを飲んでるとか、たまに仕事後、一緒にご飯を食べに行くくらいの関係だけど。
職場で、生徒以外で唯一タメ口でしゃべれる相手でもある。
俺にだって後輩はいるけれど、敬語で話しかけてくる大人相手に、タメ口で返すのは苦手だ。
こんな夢を見てしまった原因は、なんとなくわかってた。
昨日のこと。
もし鳥島先生とやるなら、受けか攻めかどっちがいいかなんて、数学担当の樋口先生に聞かれて。
当然、答えず流したけれど、その樋口先生の突拍子もない質問は、鳥島先生の質問でもあったらしい。
鳥島先生は、俺がどう答えたか、どういう反応だったか、樋口先生に尋ねていた。
それも、ドア越しに俺に聞こえるように。
からかわれているだけなのか、本気なのかよくわからないけど。
まるで俺とやる気でもあるかのような鳥島先生の言動に、振り回されてしまう。
「はぁ……」
鳥島先生のことは、嫌いじゃない。
どちらかと言えば好きだけど、そういうんじゃないっていうか。
いい人だし、頼りになるし、まあ、かっこいいし。
でも、どうにかなろうなんて。
……なれるのか?
いや、無理だ。
社内恋愛なんて絶対、めんどくさいし。
どう接すればいいのかわからない。
だから意識したくなかったのに。
今日、どんな顔して、鳥島先生に会えばいいんだろう。
学校に着くと、さっそく鳥島先生が俺に声をかけてくれる。
「佐藤先生、おはよー」
「お……はよう」
平静を装いたいのに、思わず目を逸らしてしまう。
最悪だ。
完全に意識してる。
でも、鳥島先生からしてみれば、ただ態度が悪いだけ。
だからやだったのに。
「あれ、元気ない?」
「別に……コーヒー取ってくる」
「じゃ、俺も行こうっと」
「……ついでだし、鳥島先生の分も入れてくるよ」
2人で給湯室に行くのはだめだ。
「えー? どうしたの? いつもそんなことしないじゃん」
しない。
ダメだダメだ。
どうする?
まともに頭が働かない。
「もしもーし。寝不足?」
俺の顔の前で、鳥島先生がひらひらと右手を振る。
あの右手で、俺の……。
「佐藤せんせー? おーきーてー」
両手で顔を挟まれて、ハッとする。
「なっ……あっ……なにして……」
「ぼんやりしてるからでしょ。授業始まる前に、目覚まさないとね。コーヒー取ってこよ?」
笑いながら、一足先に給湯室へと向かう鳥島先生の背中を見送る。
朝からなんて元気な人だろう。
それにくらべて俺は……もともと朝はそれほど強くないけど、今日はとくに……だ。
全然、うまく対応できてない。
「はぁ……」
「……恋?」
「は?」
突然、背後から声をかけられ振り返る。
そこには、元凶の1人でもある樋口先生が立っていた。
「……おはようございます」
「おはようございます。恋しちゃったんだ?」
「なに言ってるんですか」
「そのままの意味だけど」
「してません」
この人は、いつも淡々とローテンションで冗談を言う。
もっとわかりやすく、ハイテンションでからかってくれた方がいっそラクだったかもしれない。
俺はそんな樋口先生の冗談やからかいを、いつもあたり前のように流してきた。
いまだって当然、流してるつもりだし、実際、恋なんかじゃないけど、あれはダメだ。
絶対に、悟られるわけにはいかない。
「コーヒー取ってくるんで」
「鳥ちゃん追いかけて?」
「俺が先に行くつもりだったんです」
「じゃ、俺も行こー」
「なんでですか」
「コーヒー飲みたいだけだけど」
ダメだダメだ、このノリ。
樋口先生のペースになってる。
「あ、どっちになろうか考えすぎて、寝不足とかー」
「……なんのことですか」
「やるなら、受けか攻めか……」
「そういう話、こんなところでしないでください」
「科学室ならいい?」
「ダメです」
「でも、考えたでしょ」
考えてない。
考えないようにしてたのに、夢に出てきて……。
あれは考えたうちに入らない。
「…………ま、いいけど」
なにか察した様子で樋口先生が、追及をやめる。
「考えてないですから」
「うん、わかった」
「本当に……!」
「佐藤先生……」
樋口先生の左手が、俺の頭を軽く掴んだかと思うと、反対側の耳に口を寄せてくる。
「ペース、乱れすぎ」
「っ……」
「鳥ちゃんは、本当にどっちでもいいみたい。好きな方、選べますね」
「……しませんから」
なんとか平静を装い、声を荒げないようにして言い返す。
「じゃ、俺、鳥ちゃんとしていい?」
「は……? そんなこと、俺に許可取らないでください」
鳥島先生と樋口先生が……する?
いや、別に俺には関係ない。
この人たちは、こういうこと慣れてるんだろうし。
…………俺と違って。
だから嫌なんだ。
アラサーなのに恋愛経験ゼロのこの俺が、いまさら、コミュ力高めでモテて、やりまくってきただろう鳥島先生とどうにかなるなんて。
「あ、ちょっと智巳ちゃん、なにしてんのー?」
鳥島先生の声がして、ハッとする。
「おはよー。ちょっと佐藤先生からかってた」
ああ、やっぱりからかわれてたんだ。
「ダメでしょー。佐藤先生からかっていいのは、俺だけなんだから」
「どっちもダメです」
やっと、俺は樋口先生の手を頭から引きはがす。
「佐藤先生、全然来ないからコーヒー持ってきたよ」
そう言って、コーヒーの入ったコップを1つ俺に手渡してくれた。
「あ……ありがとう」
「いえいえ。佐藤先生と夜明けのコーヒー飲めるなんて、光栄です」
「変なこと言わないでください」
軽く突っ込みながら、コーヒーを口にする。
「そうだよ、鳥ちゃん。そういうことは、ちゃんと事後、夜明けに言わないと」
「ごめんごめーん」
樋口先生と鳥島先生が、楽しそうになにか言ってたけど、俺は聞こえないフリをした。
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