水城くんにやられちゃって……。
自然と涙が溢れてきた。
自分の気持ちがよくわからない。
「……ごめん」
水城くんは、ひたすら謝った。
「謝らないでよ……。なんで………謝んないでよ」
今さら……謝るくらいなら初めからしなければいいのに。
やってしまってから謝るなんてずるすぎる。
許しそうになる自分がいるもの。
いいよって言いそうになる。
だって……こんな風にされたのに感じまくっちゃって。
「……もぉ……戻るね……」
そう言って、ベットから立ち上がる僕の手を取る。
「待って」
「あっっ……くっ」
ゾクリとした感覚とともに、中に放たれた水城くんの精液がゆっくりと流れ出そうになる。
「ごめん……俺」
それに気付いてか、また水城くんは謝って、僕の方を見上げた。
「……いいよ。も……早く体洗いたいから」
「ごめん……」
少し……キツく言い過ぎてしまったと思ったけれど、言い直すこともできず、僕は水城くんの部屋をあとにした。

部屋に戻って、シャワーを浴びつつ思い出してみる。
信じられなくって……。
自分の指を中に入れて、まだ残っている液体を取り除く。
「ぁっ……あっ、ひぁ……」
こんなの……。いきなりすぎるよ。
自分の気持ち、考える間もなかったもん。
でも僕、啓ちゃんのこと、思い出してた。
啓ちゃんのこと、好きだから?
好きってなんなのかよくわかんなくなってくる。
恋愛感情なのか、そうじゃない『好き』なのかわかんないよ。
あの時、僕、啓ちゃんにされたいって思ったけど。
でもそれは薬のせいで体が誰かを欲しがったのかもしれなくって……。
今、正気の状態……冷静になって考えてみるとどうだろう。
啓ちゃんのことはやっぱ好きなんだよ。
恋愛感情かよくわかんないけど、水城くんにされた時、会って間もない水城くんにされるくらいなら啓ちゃんに……そう思った。
だって僕は水城くんのこと、全然知らないんだもん。
水城くんだって僕のこと、全然知らないのに。
ただ誰でもいいからやりたかっただけだったりして。
そんな風に思われてたらやだな。


啓ちゃんは僕のことどう思っているんだろう……。


啓ちゃんは中学生の頃、休みがちだった。
でも、学校に来た時はわりとずっと僕といた。
それでもまったく僕には手、出さなかったよね。
他の男にキスされてたのとか見たことある。
してるのだって見たことある。
僕には絶対、手を出さないんだよね。
紳士的って言っちゃえばそうかもだけど……
僕のこと好きじゃないのかな。
嫌い?

考えながら風呂場を出たときだった。
『ピーンポーン』
インターホンが鳴る。
「は……い」
僕はパジャマ代わりのTシャツとジャージでドアに出た。
「アキ……邪魔するよ」
そこにいたのは啓ちゃんで、そう言って僕の部屋に入り込んで来た。
啓ちゃんの顔を見ると、また涙が溢れそうになる。
もとから力の入ってなかった体が、啓ちゃんを見たせいで安心したのか、よけいに力が抜ける。
そのまま、僕は啓ちゃんの方に倒れ込んでいた。
啓ちゃんは僕をゆっくりとベットまで運んでくれた。
そのまま、啓ちゃんは去ろうとする。
ね……やっぱ啓ちゃんは僕のこと、嫌いなの?
どうして……僕には手を出さないの?
水城くんに言ってたみたいにそうゆう対象じゃないの……?
それとも、僕がそういったセックスとか、そうゆうの苦手だと思って、気を使ってくれてる?
しょっちゅうあったよね。
2人きりで部屋にいたり。
その時は意識してなかったけど、今考えてみると、やってもおかしくなかったと思う。
どうしてなにもしなかったの?
それとは対照的に深敦くんには、すぐ手、出しちゃったよね。
深敦くんだけじゃなくって……他の男の人としてたのは?

たぶん、僕みたいな子には手を出さないんだ。
わかってる。
啓ちゃんって……女っぽい子嫌いなんだなぁって。
うすうす感じてた。
友達としては問題ないんだろうけど、やっぱそうゆう対象にならないんだろうなぁって。

僕に気を使って手を出さないの?
対象外なの?
はっきりわかりたいよ。
「……して」
ベットで2人きりで……ものすごくいい環境なんだよ。
啓ちゃん……。
これではっきりわかるから。


「疲れてんだろ」
僕は全然、疲れていない、大丈夫だと答える。
「昼間っからするもんじゃねぇよ。……また後でな」

「うん……」
また後で……。
かなわないだろう約束を交わす。

初めて自分から、誘ってみた。
昼だからとかそんなの言い訳にすぎないっての、充分わかってる。
もうわかったから。
啓ちゃんにとって僕はそうゆう対象じゃないんだって。
はっきりわかったから……。
やさしく頭を撫でないで。
どうせやらないのなら『あとで』とか言わないで。


啓ちゃんは……やっぱやさしいね。
やさしいからつらくなる。

涙が溢れてきて、我慢しようと思えば思うほど、止めれなくって。
なんでもないフリをして啓ちゃんに背を向ける。
後ろから啓ちゃんは頭をやさしく撫でてくれた。



もう多くは望まないから……。
顔を見られないように、啓ちゃんの方に向き直る。
……最初で最後。
このまま今だけでいいから。
啓ちゃんのそばで眠らせて。
眠りにつくまで、その手を僕の頭から離さないで。