部屋に戻ってしばらくするとまた弟が俺の部屋に来た。
どうやら、好きな奴とうまくいかないらしい。
でも、弟の場合……両思いみたいだから、幸せな悩みだよな。
それでもとりあえず、俺は弟と一緒に、弟の好きな奴の部屋へ行ってやった。

「啓吾……?」
そこにはなぜか啓吾がいて。
「わけあってルームメイトと部屋変わってんの」
だとさ。
ちょうどいい。
弟のためにも、この部屋を空けてやって欲しい。
ちょっとした話合いの結果、その部屋を空けてくれる事を了解してくれた。

「……じゃあ俺はどこで今日寝ればいいわけ? 水城の弟くんとこ?」
そう言いながらも、とりあえず俺の部屋に行く。
出歩いているルームメイトの先輩のおかげで俺らは2人きりだった。


「実は兄貴があの部屋でさ。代わってくれって。俺が夢見悪くて機嫌悪くなってるってのに、自分勝手だよな〜」
その機嫌はすっかりよくなったのか、明るく啓吾が言った。
「仲いいのな、兄弟で」
「お前もだろ?」
たわいもない話が続く中、俺は気が気じゃなかった。
受け答えもいいかげんになりがちで。
無駄に入れたお茶の減りが速かった。


「……水城はアキのこと好き?」
一瞬の沈黙の後、啓吾が唐突に聞いてきた。
「……そりゃまぁ」
いまさら、改めて聞かれると、少しだけ、恥ずかしい気がした。
「だよな。うん……。…俺もね……好き」
その言葉に啓吾の顔が見れなくて胃が締め付けられるような感覚になる。
「……ばーか」
啓吾が俺の頭を軽くポンっと叩いた。
「俺の『好き』は、友達だから。安心しろって」
そう言われて安心できるもんじゃない。
まだ顔を上げないでいる俺を、啓吾が心配そうに下から覗いた。
「……おい。冗談だって。アキは好きじゃないって。アキは水城のだって」
俺に気を使っているようで……、そんな言葉は信じられないっての。
「……そんな顔するなって。俺が悪ぃみたいじゃん……?」
全然、啓吾は悪くないから。
啓吾がやさしくしてくれればくれるほど、辛くなるような気がした。
アキが、啓吾のことを好きになるっての、すっごく理解できちまう。
「……啓吾……。ホントは好きなんだろ……。無理すんなよ。俺なんて会って間もないし、まだアキのこと全然知んねぇしっ。もしかしたら、これからアキのこと、嫌いになるかもしんねぇしっ」
「……悲しいこと、言うなよ。水城はアキのこと、好きでい続けるだろ?」
そんな保証ねぇよ。
今はそのつもりでも、わかんねぇよ。

だいたい俺が好きでも駄目だろ……?
アキが好きなのは啓吾なんだから……。
「……水城のことも俺好きだぜ? お前がタチじゃなかったら襲ってたかもな」
「馬鹿言うなよ。なんで……そうやって誰彼かまわずやろうとか言うくせにアキだけやろうとしないんだよ」
聞いてはいけないことを聞いちゃったみたいな……。
啓吾は、感情的になった俺を驚いて見ると同時に、一瞬表情を強張らせた。
「……だからそうゆう対象じゃないって……前にも言ったろ?」
対象って? 他のやつとどう違うんだよ。
納得のいかない俺に気付いてか、啓吾は軽く溜息をついて、俺のベットに寝転がった。
「な……寝る気かよ」
近づいた俺の胸ぐらを啓吾が掴んで一気に引き寄せる。
俺は、啓吾に覆い被さるようにしてベットに倒れこんでしまっていた。
「………知りたい……?」
もったいぶるような言い方に少しだけ腹が立ったが、啓吾の表情が悲しそうだったので、その感情も一気に吹っとんだ。
「……俺……ネコもいけるんだぜ?」
「冗談……」
こんな攻め一本みたいな啓吾が受けるだなんて俺には想像もつかないことだった。
「……ここでいま水城のこと、押し倒す事も出来るし、望まれれば上に乗っていかせる事も出来るし? ま、こっちは2ヶ月くらい使ってねぇけど」
軽く笑いながら啓吾は言うけれど、少し投げやりな感じだった。
「な……んですんの? お前、明らかにタチだろ。気持ちよかったとか……?」
「……まあ気持ちはいいけど……。って、そうじゃなくって。俺、アキの代わりだから」
「は?」
覆い被さる俺の首筋に啓吾が口をつけるけど、言葉の意味が理解できない俺は、そんなことに気を留めて置けなかった。
ふいに啓吾が俺の肩を掴んで勢いよくひっくり返すと、今度は逆に俺が押し倒される。
「……啓吾……?」
「お前も受けてみたら意外とハマるかもよ……」
そのまま、俺の横にうつ伏せ状態で倒れこむと、啓吾は俺のシャツのボタンを器用に片手でゆっくりと外していった。
「……お前もって」
『も』ってなんだよ。
「……後ろね。たまったモンじゃねぇって。調教されっと無償に辛くなる時がある」
……少し疑っていたが、ホントに受けでもいけんのかとか思い直した。
体を起き上がらせた啓吾は、自分のシャツのボタンを外して俺の足の方へと移動する。
「……啓吾?」
「……アキの代わりに……ヤられてたんだよ……」
そうとだけ言って、俺のズボンに手をかけ俺のを取り出す。
「……抵抗しねぇの?」
「お前、わけわかんねぇよ。話ながらコト、すすめんなよ」
軽く笑って、啓吾はゆっくりと俺のを擦り始めた。

「……アキのコト、女扱いする奴ともめてさ。ほら、アキって女扱いされんの嫌いだから? そいつに『お前が代わりになるんならアキのこと諦める』って言われて。そん時は何、ムキになってたんだか。受けてたっちまったわけよ」
啓吾は自分のポケットからローションを取り出して、その後、ズボンを脱いでいった。
「マジでやる気なわけ?」
「……ま、ね。2ヶ月ぶり」
笑いながらそう言って、啓吾は自分の指にローションをたっぷりつけるとゆっくりと指を俺の目の前で自分の中に納めていった。
「……っん、で……。女扱いされんのの、最悪さとか知ったわけよ。屈辱的で……。アキにはそんな思い、絶対させないって心ん中で誓ってみたり」
「アキのために、なんで代わりになったり……そこまですんだよ。好きだからじゃねぇのっ?」
啓吾は俺の上にかぶさりながら、四つん這いになって、よく聞こえるように俺の顔に顔を近づけた。
「好きだけど……友達なんだってば。俺はアキを女の代わりみたいにしたくないし……そうやってアキを苦しませた奴を、アキから遠ざけたいと思ったし……そいつらみたくなりたくねぇとも思ったし? アキの代わりにやられてきた俺が、やったらおかしいだろ」
「そんなことないだろ? 別にやったっていいじゃん」
……俺なに言ってんだろ。
わけわかんなくなってきた。
なんで啓吾とアキのコト、応援しちゃってんだ?
「……んっ……アキだけじゃなくって……。俺、女とかぶる男はやる気しないわけよ……。…女の代わりみたいにしてる気がして自分に嫌気がさしてくんの。俺のこと、アキの代わりに犯した奴らとおんなじみたいで嫌になってくる。………モロ男って奴はさ? まぁどう考えても女の代わりってんじゃなくって、ただのホモって感じだろ? だから、そーゆう奴なら抱けるんだけどね……」
「お前も、モロ男だけど、そいつらはお前、やったわけだろ? それはどうなわけ? 女扱いじゃなくって、ただのホモじゃねぇの?」
「いや……あくまで俺はアキの代わりだったからね。女代わりのアキの代わり。ムカツクくらいに女扱いされたっての」
「でも、やる気しなくてもアキのコト、好きなんだろ?」
しつこい俺に、軽く溜息をつくと、啓吾は指を増やして、いやらしく音をたてながら自分で中を愛撫する。
「……はぁっあ……だから、抱けないからっ……もっ、恋愛対象にもなんないんだって」
「啓吾は俺がアキを女扱いしてっから、その代わりにやらせてくれるわけ?」
「違ぇって……。第一お前もう、アキとやったろって……んぅっ」
散々時間をかけて中をほぐした啓吾は、指を抜き取ると、また俺のモノを手で愛撫しなおす。
「……俺がやりたいからやんの。俺、ネコでも主導権握られないんなら結構いいんかも……女扱いされてる気がしないっつーか……。ま、俺はモロ男だから女扱いする気になるかわかんねぇけど?」
そう言って、啓吾は指で押し拡げながらゆっくりと、俺のモノを飲み込んでいく。
「っくっン……いきなり腰とか突き上げたらしばくからな」
つらそうな表情を見せつつ、啓吾は自分の中に俺のを全部納めようとする。
「……無理すんなって」
「ん……馬鹿……無理なんてしてねぇよ。結構、入ってってまうやん…? 散々やってきたで……少し時間かけてほぐしゃすぐ受け入れれるわ」
余裕がなくなったのか、啓吾が言葉を訛らせる。
「……訛ってるし」
「……も、言葉に気ぃ使っとれんわ」
軽く笑うと、覚悟を決めたかのように、笑いを止めて、腰を下ろしていく。
「は……ぁっ……なぁ、声、出してい?」
「別に……いいけど」
「俺のコト、女扱いしたらしばくからな……あと誰にも……俺がこんなんだって、言わんといて」
「わかってる」
俺の返事を確認してから、我慢していたのか、想像出来ないような、色っぽい少し掠れた声を洩らしてゆっくりと腰を上下に動かした。
「はぁっ……ぁっ……あぁっ……ン」
啓吾らしくない啓吾を、つい不思議な目で見てしまう。
その俺に気付いてか啓吾が少し顔をしかめるのがわかった。
「っ馬鹿……っ…そんな目で、見んじゃねぇよっ……」
「あ……悪い」
一旦行為を中断して、啓吾が俺をガンつける。
少しテレたような、啓吾がちょっとかわいらしく思えたりもした。
口が裂けてもそんなコト、言えねぇけど。
「俺だって、こんなん出来ればしたくないんっ。でも…っ…欲しくなるときあるやんかっ」
同意を求められても俺にはわかんねぇけど……。
啓吾の気持ちはわかってやりたいと思った。
思い出しちゃったりすんのかな。
「……啓吾。もっと気ぃラクにしろって」
そんな言葉は単なる気休めにしかならないってのはわかってるけど、なにか言ってやれればと思った。
忘れろって言っても……無理なんだろうな。
めちゃくちゃ…啓吾が悔しそうで、こっちまで辛くなってきた。
「啓吾……」
ごめん……。
お前のこと、不思議そうに見ちまって……。
心の中で謝った。
声に出すと……なんか余計啓吾に意識させちまいそうでそれは避けたかった。
啓吾の眼鏡を外してやると、悔しそうな顔をまたしかめさせて、焦点を合わそうとしているのが解る。
俺が、手を伸ばして啓吾の股間のモノに触れると、思いがけなかったのか、ピクンと体を跳ねさせ、俺を見た。
「な……に」
「……別に女扱いとか、俺、しねぇから」
それでも、啓吾にとって男にやられるってのは、やっぱ多少なりとも屈辱的なのだろうか。
屈辱と快楽と。
複雑な表情をしたまま、啓吾はまた行為を再開させる。
「……んっ……あっ……はぁ」
下手になんか口走ると、また啓吾の機嫌をそこねそうで、俺は何も言えずにそのまま啓吾の行為を受け入れた。
慣れた腰つきで、入る時にはしっかりと受け入れ、出て行く時には絞り取るように締め付ける。
上手い……ってのも、言ったら機嫌悪くさせそうだよな……。
そんなことを考えながら、手にした啓吾のを愛撫しつつ、自らも啓吾に合わして軽く腰を動かす。
「はぁっ……あっ…あっ…くぅっっンっっ」
「啓吾……も、イく……」
「んっ……ぅンっ」
過剰に頷く啓吾を確認し、啓吾と共に、欲望を放った。



「な……啓吾。俺のコト、そのアキの代わりとしてお前をやった奴みたいに思ってるわけ? アキを……その女扱いしたやつみたいに……」
つい緊張しながら聞く俺に対して、啓吾は軽く笑った。
「別に………そんだったら、昼、お前がアキをやるって聞いた時点で止めてるっての。 それに部屋とかわざわざ行かねぇよ……関わりたくねぇし……。関わるっつったら、またアキの代わりでやられるっつーくらい?」
冗談めくように言った。
だよな。
昼、アキについて啓吾に少し聞いてみた。
聞き返された部分もあった。
今思えば、それで啓吾は俺のこと判断してたのかもしれない。
俺がアキのこと、どう思ってるかって……。
「別にアキが女みたいだからっつー理由で好きなんじゃねぇんだろ?」
軽く頷くと、啓吾は余裕のある表情で、俺の頭に手を置く。
「アキのこと、よろしく頼むな」
「……ああ……」