寮に戻ってももちろん誰もいない。
ま、早退みたいなもんだしな。
ゆっくり休めるってもんだ。
……またいつ悠貴先輩が来るかはわかんねぇけど……。
まだ、昼の11時だし、しばらく一人でゆっくり出来るよな。
熱で体が辛いながらも……ってか熱だけじゃなくって、啓吾にやられちまったせい。
そんなこんなで体が辛いんだけど、とりあえず寮に設置されてる風呂でシャワーを浴びる。
はぁ……気持ちいい。
湯船の中でボーっとして暖まる。
なんか、やっと一人きりでゆっくり出来るなぁ……って感じだ。
―ピーンポーン…―
部屋のチャイムの音に、湯船の中で寝そうになってた体を起こす。
うん、ココってチャイムもわざわざ付いてるんだぜ?
昨日は気付かなかったけど。
……にしても誰だろ?
悠貴先輩だったらチャイムなんて鳴らさずに入ってくるだろうし。
ってか、悠貴先輩が来るには早すぎだし?
とにかく俺は風呂から上がってタオルで体を拭きながらドアの方に行く。
覗き穴から外を見ると、知らない奴。
クラスにいたような……。
なんだろ?
あ、1年は午前中で授業終わりだから、もう終わったのか。
とりあえずそのタオルを腰に巻いて、ドアをあける。
「……なに?」
「え? あ……その」
そいつは、俺の格好に途惑いながらもカバンの中をごそごそと探る。
「あ、中入る? 俺この格好だし、ずっと開けてんのもなんだし」
「う……ん」
机の前にそいつを座らせて、ついでに冷蔵庫からお茶出して入れてやる。
「ちょっと服着てくっからな」
俺は風呂場の方に戻って、さっさと服を着る。
大した用じゃなかったら、わざわざ中に入れるようなことして悪かったかな。
うん……。俺がこんな格好なばっかりに。
ま、いっか。どうせひまだろーし。なんの根拠もねぇけど。
ついでだからいろいろと仲良くなっちゃったりな。
いや、もちろん啓吾とかの言う『仲良く』じゃなくって普通の友達としてだ。
「おまたせー」
俺が戻ると、飲みかけていたお茶を置いて、そいつはカバンからプリントを取り出した。
「あのこれ。今日、高岡くん早退したでしょ。先生から預かったから」
うん?
なんか今月の行事予定みたいな紙。あとクラスの名簿の載ったプリントだ。
別に明日でもいいような内容だけどな……。
「ん。わざわざありがとなー」
ホント、わざわざどうもだぜ。
「……名前は?」
って俺、高岡って知ってもらってんのにかなり失礼じゃん。
「あ……渡辺晃」
「ふぅん。よろしくな」
「うん」
こいつって結構口下手……ってか人見知りするタイプなんかな。
話かけられたり、慣れてくると結構話すタイプ?
俺はそういった奴の方が話しやすくて好きだけど……。
「お前も寮?」
「うん。寮だよ。ここから5部屋くらい離れたトコ」
あ、なんか今、いやなこと思い出しちまったけど。
『まともな奴はせいぜい寮にしないよね』っての。
こいつもバイだったりホモだったりしちゃうのかな。
ちょっと疑っちまったり。
「……なぁ。お前……えっと渡辺くん?」
「晃でいいよ」
だよな。苗字でってなんか俺に合わねぇし。
「じゃ、俺も深敦でいいや。あのさ、晃……。晃はさ、この学校がどんな学校か知ってて受験した?」
これって俺にとっては結構重要…。
だって、俺はこの学校が、バイとかホモが集まりそうな学校だなんて知らずに入ったわけだし?
ってか、その前に、受かるとも思ってなかったけどさ。
やっぱ、第2志望の学校に行くべくだったかな。なんで、ココ受けたんだろ、俺……。
「……うん。知ってたよ。でもだからって入ったわけじゃないんだけどね」
ってことは男狙いってわけでもないんだな。
「僕は啓ちゃ……佐渡啓吾って知ってるでしょ」
啓吾か。ちょっと今、啓吾のこと忘れてたんだけどな……。
思い出しちまった。
「あぁ。知ってる」
とりあえず、笑顔を作って返す。
「同じ中学だったんよ。小学校も一緒で」
幼馴染みたいな?
「ん……じゃ啓吾に合わせたんだ?」
「うん……。変とか思う?」
変? ……ってか晃は啓吾が好きなわけ?
「別に……変じゃねぇよ」
いやに真面目そうな晃に対して、ホモだとか、そう言って気持ち悪がったりできねぇよな……。
まだホモって決まったわけじゃねぇけど……。
「……啓ちゃんはさ。その、男好きだからこの学校来たかったみたいで。
頭は良かったから、選択の幅は結構あったんよ。だから、行きたいと思ったトコ、どこでも楽に入れちゃうみたいな」
「うん……」
何が言いたいのかわからなかったけど、俺は次の言葉を待った。
「でも僕は馬鹿だしここ入るの難しかったんだ」
「うん」
「……啓ちゃんにとってこの高校ってだいぶレベル低いんだよ」
あいつってそんな頭いいわけ……?
「僕が行きたかった高校は。もう一つ、レベル低いとこ。家も近くて。僕にとっちゃ、ソコもちょっとがんばんなきゃ駄目だったんだけどね……。ってか、ごめん。なんかぐだぐだ語りだしちゃってっ」
ふいに慌てたように、顔を上げる。
「いや、全然かまわないけど……むしろ結構聞きたい感じなんだけど」
それを聞いてか、晃は安心したような表情を見せて、お茶を一口飲んだ。
俺はというと、ホント、結構気になっちゃってたり……。
「僕って人見知りとかしちゃうし、ずっと一緒だった啓ちゃんとおんなじ学校だと心強いって部分があったんよ。うん。だからさ。めちゃくちゃがんばって啓ちゃんと一緒の学校にしたってわけ」
なんか隠してるみたいだったけど、あえて聞かずにおいた。
「……啓吾の奴、晃に合わせてあと一つくらいレベルさげてくれてもいいのにな」
そう言うと、ちょっと苦笑いで俺を見てから、顔を下げる。
「僕が啓ちゃんに一方的についてってるだけだからさ。 啓ちゃんは別に僕と一緒の学校行きたいとか、そうゆう気持ち、なさそうだし。啓ちゃんは、この学校来たかったみたいだし」
「そっか……」
なんか、悪いこと、聞いちゃったような……。
「啓ちゃんは、ホント人見知りとかしないみたいだからさ」
「……だろうな。いいよな、そうゆう奴って。人見知りの奴に比べると、だいぶ楽してると思うよな」
普通に考えれば友達と一緒の学校に行きたがる奴なんだろーけど。なんだか、今の俺の頭ん中は、もうホモでいっぱいで最悪なんだけど……。
「……なぁ。晃って啓吾のこと、好き……なわけ? 恋愛的にさ……」
おそるおそる聞いてみる。
「そうだって言ったらどうする? 気持ち悪いとか思う?」
もう、ホモが気持ち悪いだとか、そうゆう意識はねぇけど……。
「別に、思わねぇよ」
というかやっぱ、そうなんだよな……。
俺って、啓吾とやっちゃったのとか隠した方がいいのか?
「……でもね。啓ちゃんが今、目つけてる人とか知ってるんだ。今日も、教室で啓ちゃんが話してたの聞いちゃったし。……深敦くん、手、出されたんでしょ……」
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