「佐渡。お前、戻ってきて大丈夫なのか」
 教室入ったとたん、先生が俺に言う。
「ああ、俺は大丈夫です。保健の先生がいなかったから、ちょっと相手してて」
 そりゃもう、いろいろとね……。
「……まぁわかったから。とにかく、席に……」
「はい」
 すっきりした気分で俺は席につく。
「啓ちゃん、遊んできたん?」
 啓ちゃんなんて馴れ馴れしく呼ぶやつは、このクラスじゃ1人。
 小、中、高と俺と同じ学校の渡辺晃だ。
 今は一応ホームルームなんだけど、係り決めらしく席とか移動しちゃってる奴も多い。
 もとからこいつとは席近くて斜めなんだけど、俺が着くと同時に寄ってきた。
「んー……まあ、一発ね」
「……え……? 一発って」
「なに? 嫉妬? アキもして欲しいって?」
 冗談で俺が流し目送ると、一歩後退する。
「……まだ入学して2日目やんっ」
 そう言って、自分の席まで逃げるように下がってしまう。
「おい……」
 とはいっても、近いから、しゃべれる距離なんだけど……。
 こいつって、俺の友達の中ではめずらしく純粋というか……。
 ってか、アレ、むっつりスケベなんじゃねぇのかな。
 ただの恥ずかしがり屋とも言うけど。
 からかうと面白いタイプ?
「……あの子、アキっつーの? なーんか、おもしろい子」
 前の席の奴が振り返って俺の斜め後ろの席のアキを目で示す。
「ん? あぁ、晃っつーの。アキって呼んでいーから」
 とか俺が言ったとたんにアキが飛んでくる。
「な……なんで啓ちゃんが言うのっ?」
 聞こえてたか……。
 前の席のやつが、さりげなく軽く笑うと目線をアキの方へやる。
 あ、こいつ俺と似たタイプの人間だな……なんて。
「アキって呼んでいい?」
「え? ……うん……」
 アキはそう頷くと押し黙ってしまう。
 なに、この雰囲気。
 俺、間にはさまれちゃって……。
「じゃ、アキ、処女だからよろしく」
 とかとりあえず、言ってみたり。
「なっ、啓ちゃ……っそんなことっ」
「あ、先生が見てっから、席戻った方がよくね?」
「……うぅ……」
 しぶしぶと席にアキがつく。
 アキだって、この場にいても、どうとも言えないだろ?
 ホントに処女だし?

 アキが席に戻って。
「なに? お前ら、仲よさそーだけど、手、出してないの?」
前の奴が、小さめの声で言った。
「んー……仲はまぁいいんだけど、アキみたいなタイプとやるって気になんねぇのよ」
友達止まりだよなー……。
「俺はさ、みつる……ってほら、俺が保健室送ってった金髪の。あーゆうのがタイプなわけよ」
「気の強そうな? あいつ、ノーマルっぽかったけどな」
 だからちょっと気になったってのもある。
「気、強そうだけどなー……。熱っぽかったせいもあってか、意外にあっさり、『啓吾さま』とか言ってくれたぜ?」
「……マジかよ。それちょっといいかもな」
 もうちょっと粘るかなとも思ったんだけど。
 次は風邪じゃなくって正気の時にでも……とか思ってたり。

「水城ー。お前、高岡と寮、隣だから、プリント持ってってくれ」
 先生がそう言うと、前の奴がプリントを取りに席を立つ。
 ……水城っつーんか。
「な。そのプリント持ってく役、譲ってくれない?」
「うーん? ちょーっと、からかってみたかったんだけどなー。その『啓吾さま』ネタで」
 そうボソボソ話しているとアキが傍に来る。
「そのプリント……僕に持ってかせてくれん?」
 めずらしいな……。アキって結構人見知りだから。
 あいかわらず、下向いてっけど。
「…じゃあ、頼んじゃおうかな」
 なんだかな……この態度の違いは。
 にしてもアキのやつ、人見知りのくせに、わざわざ水城に声かけて……。
みつるに会いに行きたい用事でもあんのかな……。