啓吾は、俺が泣いてるってのに、気づいてるだろうけど、それに対しては、あえてなにも言わないでいてくれた。
「…いつ…?」
いつとか言われても…。
自覚さえしていないのがなおさらむかついた。
ほかに好きな奴がいるのに、俺のことやったりするなんて、そんなん裏切り行為じゃないのかよ。
だから、いつって言われても…。
もう、いっつも…俺は裏切られて…。
「深敦…俺のこと嫌い?」
俺は、壁側に体を押し付けられた状態で、俯いた顔をさらに下に向けて頷いた。
手首を掴む手がそっと緩んで、啓吾が少し俺から離れる。
「…最後にさ…。1回、やらせてよ…」
「やだって」
「もう…これで最後にするから…」
俺だって、一応、啓吾が好きなわけで…。
啓吾にそうやって望まれるのが、嫌だけど嫌じゃないっていうか…。
やっぱ、嬉しいんだよ。
小さく頷くと、啓吾は俺の手を取ったまま、スタスタと歩きだして、俺はそれについて歩いた。


つれてこられたのは寮で、俺らは授業をサボることになった。
寮までの移動時間に、会話はなくて、ただ気まずさだけが漂って。
掴まれた手だけが、嫌な具合に温かかったりもした。


啓吾の部屋は、少しだけ荒れていた。
「…深敦……暴れたん…?」
「暴れてねぇよ…。優斗って奴が……携帯、捜してたから…」
それでこんな風なんだって…。
優斗の名前を出すと、啓吾は少し、嫌そうな顔をする。
やっぱ、啓吾は優斗って人と付き合ってるんだ…。
少しだけ、違うんじゃないかなとか思っちゃってたんだけど…。
「携帯…ね…」
啓吾は自分の携帯を取り出して、どこかに電話をかける。
すぐに、着メロが鳴り響いて、啓吾が優斗って人の携帯を探してあげたのだと分かった。
音のするベットの布団の中あたりから啓吾が携帯を取り出す。
なんで…そんなとこに携帯が落ちるんだよ…。
啓吾がなんでもない行為だったように、その携帯を机の上に置いた。
「深敦……会ったわけ…?」
優斗と…?
「朝、会った」
「なんか言ってた…?」
言いまくってたっての…。
「…啓吾と…付き合ってるって…」
あぁ…。
コレ言ったら、俺、明らかに嫉妬してるみたいじゃん?
啓吾が優斗と付き合ってるっての、聞いてから機嫌悪くなって、裏切られたとか言って…。
それでも、事実だから、もうどうでもよくなっていた。
「…そんなこと言ってたわけ…。付き合ってねぇよ…」
「…言ってたもん…」
「それで機嫌悪かったん…?」
「ちがう」
違わねぇけど、違うとか言ってしまう。
うぅん。俺、優斗と会う前から、ちょっと機嫌悪かったじゃん。
なんだっけ。
そう…。
俺が、啓吾のこと、好きなのに意地はったりして、啓吾にちゃんと言ってやれてないから…。
ホントは好きなのに…。
「…優斗って…なんなの…」
「気になるん…?」
俺が機嫌が悪かったのがそいつのせいだとわかってなのか、変に強気になって、そう言われるとむかついてくる。
「気にならねぇよ。どーでもいいから、さっさと1発、すまそうって」

どっちなんだよ…。
付き合ってんのか、そうじゃないのか、はっきりしろって。
啓吾は、俺をベットの上に寝転がらせて、ゆっくりとシャツのボタンを外していく。
改まって、こうやられると、恥かしさ倍増…。
「…ぁ…やっぱ…やだ…」
「さっさと済まそうっつったのは深敦だろ…」
俺のシャツのボタンを全部外してしまうと、そっと胸の突起に舌を這わせる。
「っぁ…っんぅっ」
「…ホント…優斗ってのは、付き合ってないし…。っていうか、俺の兄貴…」
「っうっそ…」
「ホントだって」
そりゃ…似てたかもしんねぇけど…。
他人の空似とかって場合もあるし。
「…そんな…兄弟でいいのかよっ?」
「…だから、付き合ってねぇって…」
「もぉ…お前なんて信じらんねぇもん…。やだ…」
啓吾は、腕を引っ張って起こさせると、俺の体を反転させ後ろから抱き寄せる。
「…なに…? 深敦は、俺よりも今日会ったばっかの兄貴の方を信じるわけ…?」
そう…だよな…。
なんでだろう?
啓吾の方が信頼出来るはずなのに、優斗の方の言葉を鵜呑みにしちゃうのは…
やっぱり、不安だからとか?
物事をイイ風にとってばっかいられないんだよ。
俺って弱い人間だから、悪い方向ばっかに考えちまう。
少しでも可能性があると…気持ちがすっきりしないというか…

それ以前に、俺って別に啓吾と付き合ってるとか、そーゆうわけじゃないんだよな…。
なに…やってんだろ…。

啓吾の手が、そっとズボンの上から俺のモノを擦り上げてくる。
「んっ…啓吾…」
「…そりゃ、会ったばっかで俺のこと信頼しろってのも、結構無理な話かもしんねぇけど…? 信じてもらえないってのも…わりと辛いっての…」
なに…それ…。
俺が啓吾を傷付けてたってわけ…?
だって、いきなり好きだとか信じられなくて…
信じかけたら他に付き合ってる人がいるとか…
いろいろと疑いたくもなるよ。

むかつくし…悔しいけど、やっぱ俺は啓吾を好きになっちゃってて…
だからこそ、啓吾のことで、こんなに苦しいんだよ。
「好きだっつっても信じてもらえないし…。付き合ってもいない奴と付き合ってるって思われたり、違うっつっても信じてもらえなくって……。どうすればいいわけ?」
あぁ…
ちょっと、グチっぽく言われて、頭が重くなるような感覚。
俺って結構、最低な人間だなぁって。
全然、啓吾のこと信じてあげれなくって…
「だって……」
「なに…?」
不安だから…。
全部、信じちゃっていいのかわからないっての。

つい最近知り合ったばっか。
ホントは言葉が訛ってるだとか知ったのだって、つい2日くらい前の話。
知らないことばっかで、なにを信じればいいのかわかんなくなってくる。
「啓吾は…どうなんだよ…。お前の方こそ…俺のこと信じられないだろ…?」
啓吾は軽く笑って、俺のズボンのベルトを外していく。
「自分に都合のいいことだけ、信じるようにしてる…」
「…なにそれ…」
「たとえホントでもさ、信じたくないことは信じないし…? いくら後から『嘘だった』って言われても…信じてることだってあるわけよ」
じゃぁ、お前は俺の何を信じて、何を信じてないわけ…?
俺が、そんなことを考えている最中でも啓吾は、俺のモノを取り出して上下に擦り上げていく。
「ンっ…はぁっ…やっ…啓吾っ」
そうやって、真面目っぽい話をしたかと思えば、手を出してきたりするから…
「なっ…いきなりっ…するなっ…」
「…なんで…?」
「…お前の言葉…全部、冗談っぽく聞こえるっ…」
そんな風に、手を出されながら言った軽いセリフじゃ、信じ難い。
「…俺はね…。好きな奴前にして、手を出さないで淡々と語ってられるほど、いい人ぶれないわけ…。 我慢できるようなモンじゃねぇし? 我慢できる奴がおかしいんだって」
それほどまでに、お前が好きだから……
とは、言われてないけど、そんな感じに、受け取っちゃっていいわけ…?
あぁ、自分が考えちゃった事に対して恥かしくなってくる。


そうだった。
啓吾は、ずっと晃と一緒だったのに、晃には手、出してなくって…。
体だけが目当ての奴だったら、すでに晃に手、出してるよな。
でも、それは晃が大切だから、手を出さなかったのかもしんないし…。
…体目当てでやっちゃうような奴だったら、いくら大切な友達でも、手、出しちゃうか。

つまり…
啓吾は、体目当てでバンバンやっちゃうよなやつじゃないってこと…?

俺のこと、好きだからやりたいって思ってくれてる…?
「ぁっン…啓吾……何を…信じて…何を信じてねぇの…?」
擦りあげられる刺激に、頭が働かなくなってきていた。
でも、気になってうやむやにしたくないところ…。
「知りたい…?」
「っ誰がっ…」
からかうように言われると、つい、恥かしいようなむかつくような感覚になって、反抗しちまう。
違う…。
ホントは…
「…っ…知りたぃ…」
やたら、後ろから抱き締められるようにまわされた手とか、そっと包みこまれている感触があったかくって…
そう、口走っていた。
それでも喉に言葉が絡まるみたいな感じがして、涙が出そうな一言で…
はじめて…
啓吾に、願った一言。
何を信じてて、何を信じてないのかとか…
それだけじゃなくって、もっと啓吾のことホントはたくさん知りたくって、
知らないことがあると、むかついて、
隠されたことに腹が立って…

啓吾のこと、好きだから…。

「…深敦が言った『嫌い』は信じてねぇよ…」
意外とあっさりと言えた『嫌い』は、後から俺の中でずっと嫌な感じに残っていた。
取り消すことも出来ないし、ものすごく後悔の念に苛まれた。
「まぁ、いくら俺でもそこまでうぬぼれたヤローじゃないし…? まるっきり信じてないとも言い切れないし、ショックにはショックだけど…。 信じたくないって思ったし…。その後、深敦が泣くもんだから……」
あぁ、俺、なんか感情高まって、涙が出て来て…
「あのとき…どうして泣いたん…?」
嫌いって言って…
泣けてきたのは…ホントは好きだから…。
好きな相手に嫌いって言っちゃうほど辛いことってなくって、苦しくって…
自然と涙が溢れてたんだ。
「泣かれて……正直、どうすればいいのかわかんなくなってた」
啓吾は、後ろから俺を少し抱えて腰を浮かせると、ズボンを剥ぎ取っていく。
「…っ…」
俺は、恥かしかったけど、なにも言えなくなっていて、そのまま啓吾の言葉を待った。
「…逃げられて…嫌われて泣かれて…。ほっとくわけにもいかねぇし、かといって、なんにも出来なくて…。 嫌いってのは、信じてないつもりだったけど、それって結局自分に言い聞かせてただけで、ホントは嫌われてるんじゃないかとか、やっぱ思っちまうわけで……。 これ以上、構わない方がいいんじゃないかって……だから、最後にこうやって…さ…」
なに…?
最後に…思い出作りみたいな…?
やだ…。
「…でも、ホントは、最後にしたくない…」
俺の思いが通じたのか、啓吾はそう言ってから、そっと俺の前に指を差し出す。
「な…?」
「最後って言っても…結局、またやらしてくれるんじゃないかって甘い考えとかあったりで……騙すつもりじゃねぇけど…」
うん…。
最後って言っても結局、また来るんじゃないかとか…
少し、思ってた。
でも、最後なんじゃないかとも思ってて…
どっちかわからなくって、気持ちが落ち着かなかった。

指先が唇を触れて、そっと口を開かせると中に入り込む。
「ぁ…」
口内を指が這いまわって、自然と逃げるように舌を動かす。
そのせいで逆に指に舌がからまるような感じになって、いつのまにか逃げるのを止めてしまっていた。

「ほら…俺っていつも軽いノリだし…? 深敦が俺のこと信じられないってのもわかる気がする。 誘われて他の奴ともセックスしてた人間だよ、俺は。でも、望んでやったりはしてねぇよ…」
誘われて他の奴とも…?
そんなん、むかつく…。
あぁ、でも俺も悠貴先輩にイかせてもらったりして。
アレも、行為的にはぬるいけど、似たようなもんかもしれない。
そんなに自分、嫌がってなかったような気さえするし。
先輩とかが止めてくれなかったら、最後までしてたかもしれない。
「性欲を吐き出すだけのセックスと、そうでないのがあるやん…?」
…俺は…?
そうでない方…?

啓吾は、俺の口から指を引き抜いて、そっと前から入口に押し当てる。
「ンっ…」
「…深敦が言ってくれた『好き』ってのは、信じてるんよ…」
「っ恥かしいこと、言うなっ」
自分が以前言った『好き』って言葉を思い出すと恥かしくて苦しくなる。
「っあれは…今だけって…あのときだけって言っただろ…?」
「確かにね…。嘘でもいいから好きって言ってつったのは俺だよ…。最後に、お前、なんか言いかけただろ…?」
最後に…?
あぁ、啓吾に…好きって言ったやつのこと…
どう言うわけでもなかったけど…
『嘘でもいい』って言われたから言って…
それでも、気持ちは本気になってたから、『あれは、本気だったんだ』って言おうとしてた…?
いや、そんなこと言えるわけないけど…。
「深敦から、あれは嘘だって、言われるのがいやでさ。自分から、言ったわけ…」
自分から…?
弁解しなくてもわかってるって…
あれのこと…?

啓吾は、入口でさまよっていた指をそっとアナルに押し込んでいく。
「ぁっ…やっ…んぅっ」
「でも、深敦に言われた好きがホントだったらとか思うわけよ」
恥かしいことをよくもベラベラしゃべるもんだ。
「はぁっ…嘘っぽいっ」
「なんで…? 俺が、手、出してるから…?」
頷いても、啓吾は止めてくれなくて、中を指で掻き回す。
「やぁっ…んっ…啓吾っ…」
「普通の状態の深敦に言えるわけねぇだろ。こんな馬鹿みたいにこっぱずかしいセリフ…」
あぁ、啓吾も恥かしいとか思うんだ?
…嘘だったら、恥かしくないよな…。
じゃぁ、ホント…?
ホントに、俺の好きがホントだったらって思ってるわけ…?
「お前…っ…信じてるわけ…?」
俺の、好きを…。
信じてるって言ったよな…?
「…言ったやん…。 いくら後から『嘘だった』って言われても…信じてることもあるってさぁ?」
「なんで…そう都合よく…信じるわけっ?」
「都合のいいことだけ、信じるようにしてるから」
あっさり言うもんだから、もうなんにも言えない…。
「…いい…?」
「…なにが…?」
「だから…信じても深敦はいいわけ…?」
そっと、指を引き抜くと、俺の体を反転させて、正面を向かされる。
「駄目っつっても……信じるんだろ…?」
啓吾の方、まともに見てらんないから俯いて言うと、そっと頬を掴んで上を向けられる。
「……信じるよ…」
不適に笑うと、啓吾はそのまま口を重ねてくる。
「ン…っ」
駄目なんかじゃない。
信じてくれてもいい。
…むしろ、信じてくれてた方がいい…。

「駄目…?」
「なに…?」
「信じてもいいか、深敦の口から言って」
駄目って言っても信じるんじゃんか…。
わざわざ俺の口から言うわけ…?
なにも言わないで黙り込んでると、啓吾は、俺の頬をつねってみせる。
「痛ぇって」
「駄目って言われたのに信じてるのと、いいって言われて信じてるのと、全然、違うだろって」
「勝手に信じてればいいだろ? めでたいヤローだなぁっ」
俺も啓吾の頬をつねってやると、啓吾はやっと手を離してくれる。
「馬鹿…じゃん…」
「なんでやん…?」
「…啓吾…だって…っ」
俺のこと、なんでそんなに信じれるわけ…?
あぁ、でも嫌いってのは信じてないんだっけ。
「うらやましい性格」
啓吾は、背後に回した手でそっと双丘を掴みあげると、自分のモノを俺の中へと収めていく。
「ぁっふぅっ…ぁあっんぅっ…」
「深敦……好き…」
「はぁっ…嘘ぉ…」
でも、ホントは、もう信じたいって思ってる。
「嘘じゃねぇって…」
「…後から…っ…嘘ってっ…」
「…言わねぇって…」
好き…。



「ぁあっ…ふぁっ…啓吾ぉ…っ…ンやぁあっ」
啓吾が、俺の体を揺さぶって、イイ所をついてくるけれど、もう、刺激が強すぎておかしくなりそう…。
「やぁっ…ソコ…やだぁっっ…やめっ…ぁあっ…もぉ…やぁああっっ」
思いっきり、啓吾の背中に爪を立てて、ついでに抱きついて…
俺は、欲望を弾け出してしまっていた。

なんていうか…
やっと、ちょっと素直に、好きって気持ちが表せて、こうやって抱きつけるような感じがした。




しばらく眠ってしまっていたようで、誰かのしゃべり声で目が覚める。。
「…おい、ふざけんなよ、お前。深敦に変なこと言っただろっ?」
啓吾の声。
怒ってる?
そっと、布団を被ったまま、こっそり覗き見ると、そこには優斗がいた。
なんか、すごく緊張する。
もしかしたら、やっぱ付き合ってて、口止めしようとしてるとか…。
「変なことなんて言っとらんて。真実を言ったまでやん?」
真実…?
「はぁ? 兄貴、俺と付き合ってるとか言ったんやん…?」
「……言ってないけど? そんなことは…」
「深敦が言ってたんだよ」
優斗は、少し考え込んでいるようだった。

「もしかして、深敦くんは啓の彼女…?」
「そんなん、兄貴に関係ないやん…」
俺って…うん…べつに、啓吾と付き合ってるってわけじゃないけど…。
「深敦くん、凪と体の付き合いがあるとか言うんよ」
「言ってないだろって。凪って誰だよ」
俺は、つい飛び起きていた。
もう、盗み聞きしてたなんていう、罪悪感なんてほったらかしで…。
「…お前ら、何話してたんよ、朝っ」
少しキレかけながら啓吾が言う。
「だから…俺が、ここの主の彼氏だって自己紹介したら、深敦くんが、違うもんって言うからぁ…。何が違うかって聞いたら、『俺も、ある』って…体の付き合いが…」
ああ…。
もしかして、もしかしなくても…
優斗の言う、『ここの主』って、この部屋の人ってわけで…
つまり、啓吾の…ルームメイトにもあてはまるわけで…

啓吾は、優斗と付き合ってないって言うし…
優斗も『啓吾と付き合ってる』なんてことは言ってないって言うし…
俺が、凪ってやつと体の付き合いがあるとかそーゆう話が出てるって事は、俺…
啓吾と啓吾のルームメイトと間違えてた…?

優斗の、彼女は啓吾のルームメイトの凪って人のこと…?
「それに、すっごい言い張るもんだから、つい言い合いになっちゃって…」
「あーーーーっ、もう黙ってっ」
俺は、慌てて優斗の言葉を制す。
これじゃあ、俺が啓吾のことでムキになってたみたいで恥かしいじゃんかよ。
いや…実際、そうだけど…。

「…つまりなに…? 兄貴は、深敦が凪先輩とやってる関係とか思ったわけ…?」
「違うん…? そう言ってたけど…?」
言ってない…。
俺は…啓吾とだと思ってたから…。
でも、そうとも言えずに黙秘…。
「で…? 深敦は、兄貴が言う『ここの主』っての…。俺と間違えたわけ…?」
あぁあぁ、そのとおりだよ。
恥かしくて、何も言えなくって顔を背ける。
だって、お前と間違えてたってのわかっちまったら、俺、啓吾のことで言い合ったのバレバレじゃん?
馬鹿。
「…あきらかに…ありえねぇだろ…。俺と兄貴が付き合って、凪先輩と深敦が体の関係あるなんて…。どっちがどっちだっての」
「だって…優斗があまりにも、付き合ってるとか、自信ありげに言うから啓吾に似合わねぇとか考えなかったんだよっ」
「…なんやん。深敦くんの相手は啓なんか。てっきり言い返してくるから凪かと思ったで。ってか、凪のベットにいたし…。凪も、変わったタイプに手、出したなぁって思ってたんだけど…」
変わったタイプに手、出した?
「なんだよ、それ…っ。人が真面目に苦しんでんのに、『変わったタイプに手、出したなぁ』ってそんくらいにしか思ってなかったのかよ。なんだよ、その勝ち誇り具合はさぁっ」
そうとう、2人、信頼しあってるんだ?
あぁ、別に啓吾じゃないんだから、俺、もうどうでもいいよな。
なのに、感情的になっちまって、言い返してた。
「ごめんて。深敦くんが、どんくらい啓のこと好きかはわかったで? ホント、俺が啓と付き合ってるって勘違いして、泣き出したもんな」
「泣いてね…ちがっ…変なこと言うなよっ」
俺は、もうそこの布団に包まったまま、ドアへと逃げる。
なんか、恥かしくって布団が手放せねぇんだよ。
「布団置いてけって、おいっ」
「やだっ」
馬鹿馬鹿馬鹿っ。
恥かしくって、泣きそう。
もう、啓吾に顔向けらんない。
布団が邪魔で、踏んづけちまうと、思いっきりドア付近で転がるようにコケてしまう。
「…馬鹿…」
「っうるさいっ。お前の布団が悪いんだよっ。俺の足にくっつくからっ」
いやな具合に絡まってくるしっ。
立ち上がろうとしたときだった。
啓吾が布団の上から俺に抱きつく。
「な…に…っ」
「…苦しんだ…? 泣いてくれたん…?」
「っ…ち…げぇって…」
いつもなら、こーゆうの、お前、からかって言うだろっての。
なのに、今回にかぎって、真面目っぽく言うもんだから、反抗し難いじゃんかよ…。
ホントは…
苦しくって、たくさん泣けてきて…


「…俺のこと…好き…?」
そう聞かれても好きじゃないって、言い返せない…。
嫌い? って聞かれて頷くことは出来ても…
好き? って聞かれて首を横に振ることは出来なくって…

そっと、頷いた。