力なく、自分の部屋に戻った。
俺って啓吾を好きなのかなぁ。
まさか。
啓吾から離れると、ホントわかんねぇし。
『さっき、俺ってホントに啓吾のこと、好きとか思っちゃってたっけ?』とか思ったり。
好きだって思えば好きな気がするし……
そうじゃないかもって気にもなるし……
あぁ…俺、気付かないうちに自己暗示かけようとしてるのかも。
自分で思い込もうとしてたりさ。
なんか……俺って中学のときとか、そんな目立つタイプじゃなかったし、男友達ばっかではしゃいでて、女とはほとんど話さなくって……
いや、今はもう男も恋愛対象になるんだなぁって思えてきたから話変わるんだけど。
とにかく、中学のときは、恋愛対象になるような奴とあんまり接点なかったから、『好き』とか言われたことなんて一度もなくって……。
好きとか言われたの、啓吾が初めてなんだよ…。
だから……必要以上に意識しちまってるのかもしれない…。
もし今、女の子が俺に好きって言ってくれたら、俺、すぐにそっちに転ぶかもしれないし…。
実際、そんな経験したことないからわかんねぇけど。

「…深敦くん戻ってきたんだ?」
悠貴先輩に声をかけられ、そっちを見ると、なんかもう1人いるんだけどっ。
「っな……」
ベットで2人並んで寝ころがってるわけ。
そりゃ、自分だってさっき啓吾と2人で寝ころがってたけどっ
……男同士で寝ころがってるってたいしたことじゃねぇのに、もう今となってはいやらしい目で見ちまうっつーかなんつーか……。
「俺……どっか別行ってた方が……」
「ふふ…見ててくれた方が燃えちゃうかも……」
悠貴先輩の相手の人にそう言われて、俺は出て行くことを決意した。
「出てきます」
啓吾はもうやる気ないみたいだったし……啓吾の部屋で留まってればよかったのかも……。
とはいえ、今さら啓吾の部屋戻るのも…
そうは思ったんだけど結局、啓吾の部屋へと向かっちゃっていた。
なんか、自分から啓吾の部屋に行ったことなんてなかったから変に緊張しちゃったりで…
ドキドキしてくる。
って、俺、おかしいかも。
だって、何しに来たんだーとか言われたらどう言えばいいわけ?
えっと……『ルームメイトの友達がいて、俺、邪魔っぽくって…』かな。
あぁ、でもそれだったら晃の部屋とか行けばいいわけだし。
忘れ物した…とか……って、別にしてねぇし。
はぁあ……行くのやめようかな……。
体もだるいし、もうなにもかもが嫌になってきたよ…。
別に、俺の部屋も、居ちゃ駄目ってわけじゃなかったんだよな。
でも、一旦出てきたらもう逆に戻りにくいし…。
やっぱ、ここは啓吾の部屋に……行こっか……。

「……啓吾……?なんか、ルームメイトの友達が来て、俺、邪魔みたいでさー。だいたい、俺、部屋代払ったのに、出てくなんておかしくねぇ?」
そうそう、だって、『泊まり代』だか『部屋代』だかよくわかんねぇけど、そう言われてやられちまったんだよ。
だから、部屋に泊まらないなら泊まらないでそれなりのみかえりとかさ?
「…だから、この部屋、今日は俺が使う……」
っとと……。
来た理由みたいなもんを語りながらズカズカ部屋に侵入してったはいいけど、ベットを見たら啓吾ってば、爆睡してやんの。
なんか、拍子抜け…。
「……啓吾……?」
もう、俺の言葉には無反応。
本格的に寝ちまってるみたい。
キスしたら起きたりして……
なーんて、馬鹿らし…。
俺は床に座り込んで、啓吾の寝てるベットに肘をつき覗き込んでいた。
…好き……かな……。
ほら…やられてるときとかって…その行為の方に意識がいっちゃって…
啓吾のこと、あんま深く考えてられないんだよ…。
その行為が嫌だとか気持ちイイだとか……
そうゆうのが先に来ちゃうから、相手が好きかどうかとかはその次になっちゃってたと思う。
でも…嫌な奴にされてたら、もっと俺、嫌がってるのかな。
……気持ちいいから好き……じゃなくって……
好きだから、気持ちいいのかな……。
好き…。
そう考えると、なんか切ないっていうか、こう胃の上あたりがきゅぅうって…。
「啓吾……」
耳元でそう言っても、啓吾は眠ったまま、全然動かない。
ホントに…キスしたら起きるかな。
起こしたいわけじゃねぇんだよ…。
少し、寂しい気もしないでもないけど、起きて欲しくない。
こんなまじまじと啓吾の顔見られる機会なんてそうそうねぇし。
自分からキスなんてしたことないし…。
俺、なんかもうやる気満々みたいになってて自分で自分がよくわからないよ。
でも…なんつーか無償にしたくなってきた。
もうキスなんて何度もしたけど、相手の知らないうちにするっての、変に緊張する。
「…啓…吾…」
もう1度呼んで起きないって確認しとく。
軽く開いた啓吾の唇にそっと手を触れてみるが、啓吾は無反応ですやすやと眠っている。
キスしても、気づかれないで済むかな。
気づかれたらどう言えばいいんだよ。わかんねぇし、絶対困る。
だったらキスなんてしなければいいんだけど、したいものはしたい。
バレたらどうしようってのと、好きかもしんないってので、めちゃくちゃ心臓がドキドキしてる。
俺は体をベットに乗り出して啓吾の顔に自分の顔を近づけた。
唇の位置を確認して、そっと…自分の口を押し当ててみる。
触れ合った唇が乾いてて、少し味気なく感じてしまい、そっと舌を刺し込んでみる。
舌先が啓吾の舌に触れると、少し吸い上げられるような感覚。
「…っんぅ…っ」
びっくりして口を離すが、啓吾は眠ったままで、それが無意識にした行動なんだなってわかった。
自分から、舌刺し込んだことなんてなかったから、舌吸われるのだって初めて。
「…啓吾…?」
もう一度、起きないのを確認して、口を重ね舌を絡ませた。
「っふっ…ぁ…」
やだ…俺…何してんだろ…。
変態じゃんかよぉ…。
だって、好きな奴が目の前で無防備に寝てたらこんくらいしたくなるだろ?
クチュっていやらしい音が響く。
啓吾が起きるかもしれなくってももう我慢とか出来なくって…。
「んぅ…ンっ…」
さんざん絡め合った舌先を引き抜くと、いやらしく唾液の糸が引いた。
すぐさま遠くまで離れ、啓吾が起きないか見守るがやはり起きる様子は全然ない。
ホッと一安心だけど…自分のしてしまった行動に自分で恥かしくなってくる。

でも、こうゆうことしても人間起きないもんなんだ。
啓吾が疲れて爆睡してるからだろうけど。
どうしたら、俺の好きって気持ちとか伝えられるんだろ…。
だって今さら、好きとか言えるわけねぇよ。
やってる最中だったら言えるよ。
言い訳……出来るから…。
盛り上げるためだって、言い訳出来るもんな。
そん時だけだよなぁ、素直に言えるのって。
でも、逆に信じてもらえないし。
俺が『いまだけだ』って言っちゃったんだけど。


とにかく…今日はもう寝よう…。
啓吾のルームメイトのベットが空いていたから、俺はそこで寝させてもらうことにした。




「…深敦…遅刻するぜ…?」
その声に目を覚ます。
「あ…啓吾…」
昨日の夜、啓吾にバレないようにキスしちゃったのとか思いだしちまって、恥かしさから顔が熱くなる。
顔とかもう、赤くなっちゃってそうだから、眠くって起きるのが嫌ってなフリしながら布団を頭まで被った。
「…今日…俺、遅刻する…」
「…なんでやん…。ってか、深敦、いつ来たん…?」
「…いつでもいいじゃん……。もう、お前、早く行けよ」
「俺も今日、遅刻してこっかな…」
それがちょっと、俺に合わせてくれたみたいで嬉しく感じちまう。
でも、どうにもリアクションとれねぇから、俺はまだ布団を被ったまま。
啓吾の話、無視してるみてぇかも。
少しだけ、沈黙が流れたかと思うと、イキナリ啓吾が俺の布団を引き剥がす。
「なっ…馬鹿っ。睡眠の邪魔すんなよっ」
「…顔、赤…。熱とかあるん?」
そう言われて頬に手を当てられると、余計に熱くなりそう。
そんなん、どうにもごまかせなくなっちまうから、必死で顔をそらす。
「っお前が、まだ寒いのに脱がせたりするからだろっ? 体もだるいんだよ。もぉお前、どっか行けってっ」
…俺って…最低…。
啓吾が心配して言ってくれたってのに…。
でもつい言っちまう。
「………ん…じゃ…学校、行ってくるわ…」
なんでもないように言ってるみたいだったけど、なんとなく、悲しそうにも聞こえた。
なんとも思われないんなら俺もそんなに気にならないのかもしれないけど、俺の言った言葉のせいで、啓吾がショックとか受けてたら……。
思えばいつもそうだよな。
啓吾が気にしてないっぽかったしなんでもないように返してくるから気にならなかったけど、俺って酷いこと、言ってきてたかも…。
いきなりいろいろしてきた啓吾も悪いかもだけどさぁ…。
今、『ホントは熱なんかないし、別に体がだるいのも全然平気』とか言い直したい。
ホントは…俺、啓吾にどこにも行って欲しくないのに。
啓吾はそんな俺に何も言ってくれないから、怒ってるっぽくって恐くなる。
行かないでとか、怒らないでだとか、そんな事、冗談でも言えるわけねぇし。
でも言わない方がいい言葉は言っちまう…。
啓吾が、俺の頭をポンっと軽く叩いて、一言、
「わるかった…」
って、小さな声で言うのが聞こえた。
すごく、胸が締め付けられるような感覚。
違う…から…。
全部、俺が意地っ張りで素直じゃなくって照れ隠しとかノリとかでつい口にしちゃっただけだ。
それなのに謝られたらものすごく悪い気がしてくる。
気じゃなくって、実際、俺がものすごく悪いんだよ。
俺は、どうにも答えられなくってそのまま顔をそらした状態でいた。
啓吾はドアの方に向かうと、すぐに俺の視界から消えてしまった。
ドアの閉まる音が、嫌な感じに耳に響いて、一人だけ取り残された気分。
啓吾がいなくなって一人になっちまうと、我慢していた涙がポロポロと零れ落ちた。