……なんで……
俺、アキのこと、やっちゃったんだろ…。
ホントに好きってんなら、もっと大事に扱うべきなのに…。
「……啓吾……」
俺のベットでは、隣で啓吾が寝転がっていた。
「……今、起きたん……?遅ぇよ…」
もう、明るいからたぶん昼近いんだろうな…。
「…水城、結構イイもん、持ってんじゃん…。俺、ハマっちゃうかも……」
いやらしく啓吾が俺の股間に手を触れる。
…あぁ……昨日、俺……啓吾とやっちゃったんだっけ……。
「…なんか…俺って、誘われたら誰とでもやっちまうみたいで嫌…」
「…なに…? アキ以外には手、出したくないってか?」
そう…なるのかな……。

「啓吾さ……。昨日、アキのとこで寝てきたって言ってなかったっけ……」
ふいに、そんな事を思い出す。
「…あぁ……やっぱ、アキの様子が気になって……」
お前がそうやって優しくすっから、アキは啓吾のこと、好きでいちゃうんだよ…。
そう思うけど、優しくするな、とも言えない。
そんなのは俺のわがまま。
「もう行かねぇよ。次からは水城が行けな?」
「…俺が行っても駄目だよ…。原因、俺だし」
それに……わざわざ、そんな気を使われると自分が嫌になる。
「…俺、最低じゃん…。啓吾とアキの仲、壊してさぁ…」
「……んなことねぇって…。…俺だっていきなり深敦のこと犯したり……。最低だっての」
それでも啓吾は他人に迷惑とかかけていないんじゃないかって思う。
アキとは会ったばかりだったけど、それでも瞬時に好きになっていて…。
こうゆうのが一目惚れってやつなんかな…。
好きだって気持ちが大きくなり過ぎて、無理やりにでも自分のモノにしたくなって…。
やってる最中に、啓吾の名前を呼ばれた。
助けでも求めるみたいに…。
すっごくショックで……
あの時、やめてればよかったんだ。
「……啓吾は……いきなり深敦のこと、やっちまって……どうだった?」
「…やり心地?」
「ちげぇよ、馬鹿…」
軽く笑ってから、溜息をついて、少し、真剣な面持ちだった。
「……深敦はアキとは違ったタイプでさ。…ただ、オナニーを手伝ってもらったって感覚しかねぇのかも……」
「…んなことはねぇんじゃねぇの…? 全然、1人でやるのとはちげぇよ」
「愛情とか伝わってなさげ」
「……いきなりやられたらさぁ、愛情とか伝わんの?」
「伝わんなきゃさ……俺も水城も困るやん?」
俺も啓吾も、なんだか行き詰まっていた。
啓吾はあまりそうゆうのを表には出していないが……。
このままなにもしないんじゃ、本当に……アキのこと、諦めざるを得なくなると思った。
気まずくなって、別の友達作って、クラスでもしゃべらなくなって……
そうなっていくのが簡単に想像できる。
本当に、好きになってるから…それじゃ困るわけだ。
アキに不快な思いをさせて、俺の悪いイメージを植え付けたままで…
そんなままじゃ、困るんだよ……。
「…俺…アキんとこ、行ってこっかな……」
「昨日、やったで、あんまやる気出んくね?」
「…別に、やらねぇって。ただ…話しに行く…」
「そっか……。なんかいいよな。お前らって、話し合いで解決しそうだし。俺、いまさら深敦と真面目に話とかするノリじゃねぇし」
話し合って解決する問題かどうかわかんねぇけど…
なにもしないでいる自分も嫌だから…。

啓吾と、昼ご飯を済まし、俺は一人、アキの部屋へと向かった。
インターホンを押して、中からドアが開くのを待つ。
アキがドアを開け、俺の顔を見ると、一瞬表情を曇らせる。
それを見てしまって、俺の気分は一気に沈んだ。
もちろん、いい表情をされるだなんて思ってなかったが、実際、会って曇った表情を見せられると、辛くなっていた。
「アキ…今日、ルームメイトは?」
「…ん……なんか……中学行くとか行ってた…」
俺を招き入れたアキは、俺の方を見もしずに答え、机の方へと向かっていく。
俺は、どうする事もできず、ただ、アキの後をついて部屋の中に入った。
出されたお茶を飲みながらどう切り出そうか考えの整理がつかなくなってくる。
「アキ……俺…その…昨日……」
「…水城くん……欲求不満……とかだったん……?」
俺の方を見もせずに、俯いたまま、アキは俺の向かい側に座ってボソっと聞く。
欲求不満だったわけじゃない。
そうじゃなくっても、好きと思った子がいたら、そりゃ手を出したくなる。
「違うよ。でも……」
「男子校だもんね…。僕…女の子みたいとか言われたことあるし……されたのは初めてだけどそうゆう風な目で見られるの、慣れてるから…。 それに……女の子みたいに…妊娠しないしね…」
まるで、俺のとった行動は、普通の人間なら思い立ってしまうような考えとでも言いたいかのようだった。
広い心で許してくれているようだったが、そんなのは俺の求めている結果とはかけ離れたもの。
「アキ……俺……男が好きなんだ」
アキのことをちゃんと男として見てるのをわかってもらおうと思った。
そう言う俺をアキは少し、不思議そうに見る。
「……だから……女っぽいからアキが好きだとかじゃなくって…。男としてのアキが好きなんだよ…」
そうは言っても、アキは少し疑っているようだった。
「…水城くん…男が好きなの…?…だったら…もっと、男らしい人…好きになればいいのに…」
「アキは…俺なんかより男らしいよ」
なんだか、いかにもアキに好かれるために言ってる言葉みたいで自分でも嫌になってくるけど、実際、俺って、女々しい気がしていた。
ずっと、アキのことでめちゃくちゃ混乱してたり……。
こうゆう女っぽさだとかは見た目の問題じゃない。
「…男だからだとか女だからとか……性別とか関係なくって……」
自分でもなにが言いたいのか混乱してきていた。
「…女の代わりとかにしたわけじゃなくって……好き…なんだ…」
それを聞いてか、アキは恥かしそうに俯いた。
「…なんで……僕なんか……」
「…好きってのに理由とか…なくない?」
どこが好きかとか言われたら、それは全部で…
なんでか聞かれても、よくわからなかったりで…
とにかく、好きになっていた。
「……だからって…あんなこと、イキナリするなんて…」
好きだからしたんだとか、そうゆうのは、どんだけ言っても言い訳がましい。
好きだと言えば、なんでも許されるわけじゃない。
たとえ、そういったアキを想う気持ちから、とってしまった行動であっても、アキのことを考えてやれていなかった。
「……ごめ…ん……。アキは…啓吾が好きなのに…」
「…啓ちゃんのことはもういいよ…。好きだけど…恋愛感情かよくわかんないし…啓ちゃんが好きなのは深敦くんだって、知ってるから…」
「でも……あいつ、アキのこと、ホント大切に思ってるんだ。中学校の時もアキの代わりになって……」
こんなこと言ったら…ますますアキが啓吾のこと、好きになっちまうんじゃないかって思うけど…
言わないでいると、なんだかもどかしさや後ろめたさみたいなものを感じてしまう。
アキには、そういった啓吾の行動だとかを知っていて欲しいと思った。

たとえば、もし……アキが俺のことを万が一好きになったりだとかしたとして。
そういった場合、後からその事実を知ったら、知っててそれを隠していた俺をどう思うだろう。
やっぱ…啓吾のことを好きにさせないために隠してたみたいで…
それはしょうがないことかもしれないけど、そんな風に思われるのは嫌だった。
それに、俺は啓吾も好きだったから…。
いい事なのかはよくわからないけど、人の代わりになってあげたのに、それで感謝の1つもされないなんて、そうゆうのはなんだか辛かった。
俺が言っていいことなのかわからないし、言う立場じゃないかもしんないけど。
「……なんとなく……わかってた……」
意外な答え。
「噂とかになるんよ、そうゆうのって…。僕の代わりだとかまでは噂にならなかったけど、男にやられたとか……。 普段、僕のことかまってきてた人が、啓ちゃんといきなり親しくなってたりしたから……そうなんじゃなかって思ってたん…」
そこまで言うとアキは急に泣き出しそうになって、俯いた。
「僕、啓ちゃんにすっごく悪いことしたんだ。啓ちゃん、そのせいで、周りから変な目で見られたり、噂立てられたり、 学校休めば休むほど逆に、来たときの回りの反応とか大きくて…。 わりと…啓ちゃん自覚ないみたいだけど美形タイプだから、それほどまでに酷い言われようとかではなかったんだけどっ……。 それでも嫌だったと思うんよ……。でも僕、啓ちゃんは僕の代わりにやられてるんだって言えなくって……っ」
「ごめん、アキっ…。そんな風にアキが思ってるだなんて知らなくって……。罪悪感持たせるような聞き方しちゃって…」
「うぅん…。だからね……だから…僕、啓ちゃんのこと…好きでいなきゃいけない気になってたのかもしれないんよ……。 昔から、友達として好きだったけど……中学でそれがあってから…変に自分だけは絶対啓ちゃんの事、好きでい続けなきゃって使命感みたいなものまで感じちゃってて……。 だから…ホントに恋愛感情で好きか聞かれたらよくわかんないんよ…。 もしも啓ちゃんが一人だったら、誰よりも優先して今度は僕がなんとかしてあげたいって思うんだけど……今は深敦くんがいるから……それに…そんな偽物みたいな『好き』じゃ…啓ちゃんも嫌…だよね…」
「そ…んな……」
「でも、無理やり好きって思い込んでるわけじゃなくって、友達としてはホントに大好きなんよ…。 だから…啓ちゃんが望むことならなんでもしてあげたいって思ったし…。罪悪感とか使命感とか………友情と愛情の違いとか…よくわかんないけど……。 啓ちゃんが僕のこと、好きだったとしたら、なにがなんでも応えてあげたいって思うんよ。 でも…もうフラれちゃったから……。やっぱショックだけど…少しだけ……なんかホっとしてた……。 啓ちゃんが…僕なんかを好きじゃなくてよかったとか思ったんよ。 ずっと…罪悪感とか使命感とか感じたまま……どんだけ気持ちを込めても義理みたいな『好き』しか言えない気がするから……」
アキが語るにつれて…
表に出してないけれど、ホントはいろんなことを深く考えてるんだと知り、変なところで剥き出しの俺なんかより、やっぱすごくって…
もっと、好きになっていく。
「…あ…ごめん、水城くん…。俺、変に語っちゃって……語り出すと止まんなくって…」
「…うぅん……なんか…アキって、自分の中にいろいろ溜め込んでるみたいだから…そうゆうの話してくれるとなんか…嬉しい…」
心を…少し許してくれた感じが嬉しかった。
少しだけ表情が緩んだのを見ると、また嬉しくなっていた。
「…だから…啓ちゃんのことは…いいんよ……」
啓吾のことを恋愛感情で好きじゃないんだとしても、俺のしたことってのは消えるわけじゃないし、どうにもならないと思った。
「水城くん……好きとかってどうやったらすぐわかる? まだ会って間もないから……信じられない…」
「……見てるだけでドキドキしたり……ずっと一緒にいたいって思えるのとか……好きだからだと思うんだ…」
「……………例えが悪いんだけど………レイプ犯だとかストーカーだとか…そういった人たちがいくら相手のことを好きだって言っても……被害者は…加害者を好きにはなれないと思わない……?」
それを言われて、自分が強姦まがいのことをして、いかにアキを傷付けて恐がらせたのかということを自覚する。
「…ご…めん……」
あやまってもどうにもならないことぐらいわかってるけれど、謝る以外のことが出来なかった。
本当は……二度と近づかないのが一番いいのかと思ったけれど、そんな風になるのも嫌で、自分のわがままで欲張りさが嫌になってくる。
でも……やっぱ、俺近づかない方がいいのかも…。
そう考えたときだった。
「……だから……時間がかかると思う……」
アキはそう言って、こちらをそっと見る。
「……時間……?」
「……水城くんに好きって言われて、やっぱ嬉しいから……。でもそれに応えられるのに……時間かかりそうなんよ。……待っててくれる?」
「………」
一瞬声が出なくって、それでも自分の気持ちを出そうを、アキの方を見て、頷いた。
…ゆっくり……時間をかけて、距離を縮めていきたいと思った。