「淳、なんかお前に用だって…先輩が来てるぜ?」
「…俺?誰だろー…」
友達の尚吾に言われて、俺は尚吾が顔で示した方のドアに顔を向ける。
「知らない…誰?」
「いや、俺も知らねぇって。大体、お前に用があるらしいんだから…」
尚吾と言い合って、行くのを渋ってると
「あれ、委員長さんだ」
別の友達の要が口を出す。
「委員長……?」
「そうだよ」
……で、その委員長さんが俺に何の用なわけだ……??
というか、なんの委員長なんだろう。
「あんま待たせるのもよくないよ」
要と尚吾に後押しされて、俺はドアの方へ行った。

「……あの……」
「…村尾淳くん…?」
その委員長さんに言われて頷くと、委員長さんは少し困ったように笑った。
「俺ね……学祭実行委員の委員長やってる神宮寺尋臣ってんだけど。委員会ね…今日、10回目なんだけど、淳くんまだ一度も来てないだろ?そろそろ顔出してくれないと、登録抹消…っていうか委員会活動したことにならないけど…いい?」
あぁ、この人、学祭実行委員の、委員長さんか。
そう、俺、学祭実行委員やってんだぜ?
自主的に参加してんだぜ?
こうゆうのやっとくと成績に『○』かなんかつくんだよ、たぶん…。
でも、まだ1回も行ったことないんだよなぁ…。
つい面倒でサボっちまうんだ。
で、わざわざ委員長みずからお出ましってわけか。
「ボス自ら来なくてもなぁ…」
「…ボ…ス……?」
というか…
「今日、行かないと駄目なの?○つかないわけ?」
「…○っていうか……そういうことになるね」
「今日からずっと…?」
ボスは少し呆れてるっぽい……。
「だね…。休みすぎだよ。そりゃ風邪とかひいちゃったら休んでもしょうがないけど……極力休まないように。本当に取り消すから……」
「ひでぇよ、ボスーっ。気分はいつでも学園祭のことばかり考えてるのにーっ」
「誰がボスだよ…。いつも考えなくてもいいから。今日は来るんだよ」
そう言ってボスは行ってしまった…。
やばいなぁ…。
せっかく委員会に入ったんだからどうせなら『○』欲しいし…。
「なんだったんだ?淳」
興味津々に尚吾と要が寄ってくる。
「……学祭実行委員会に出席しろーって…」
「…あぁ、お前、行ってねぇの?」
「…うーん…まだ1回も行ってない…。ボスも意地悪だなぁ…。出席したってことにしてくれればいいのに……」
「それじゃぁ真面目に出席した人に悪いよぉ」
…っとに、あいかわらず要は真面目ちゃんだ。
確かにそうだけど……。

その時だった。
「……おはよ……」
少し眠そうに友達の厘が教室に入ってくる。
「もう昼―っ」
「…わかってるって…。頭に響くからあんまデカい声でしゃべらないで…」
俺が景気よく叫んだら逆に怒られちまったよ。ちぇっ
でもどうしたんだ?
不機嫌そう……。
「どうしたの…厘…」
ほらね。要も心配してる。
「……尚吾にでも聞いて……」
そのまま、席に座り込んじまった。
「尚吾―っ。尚吾に聞けってさ」
「あぁ、お子様のお前らにゃぁわかんねぇだろうなぁ?」
なんか尚吾はいやらしく笑ってそう言ってくる。
「なんだよ…お子様って。同い年だろーっ?なぁ?要っ。お前も言い返せっ。ゴーっ」
「え…俺……尚吾や厘に比べると…お子様だし……」
もーーっ。仲間がこんなんじゃ勝てねぇよっ。
「セックスのセの字も知らねぇような甘ちゃんじゃん?」
「セッ!?」
俺と要の声がハモる。
セッ……って…。
「尚吾はエロいから嫌いだ…っ」
「ちょっとした例えだろ?なんだよ。……要は『セ』くらいは知ってるもんな?」
要の頭を尚吾がポンっと叩いてからかうように言う。
…仲間の要は、赤くなって俯いちまうし…。
くっそう……。
「要を虐めるなよーっ。尚吾と違って純粋なんだぞっ」
「…要はお前よりは大人なんだよ。お前もさっさとボスにでもやられちまえ」
「なっっ……やられちまえって……」
もしかして、さっき言ってたセ……とか…。
「……俺が教えてやろうか…」
「……尚吾……俺がてめぇに付き合ったせいで二日酔いで頭痛くて腰も痛くて寝不足で死にそうだって時に、自分はそうやって楽しんじゃうんだ…」
厘が話を聞いていたのか、不機嫌そうに尚吾の後ろから現れて恐い口調で言う。
「……楽しまないって……。厘くん、素に戻ってんじゃん…」
「…ふふ…尚吾くんが戻らせてくれたんでしょう?」
この2人は小学校一緒だったんだってさ。
だから仲良しさん。
「…というわけだから、誰か別の人に教えてもらいなさいね……淳くん」
…っとに、いつもお子様扱いだ。
「いーもん。もうお前、仲間に入れてやんねーもんっ」
「…別に仲間に入れてくれなくて結構……って、言いたいとこだけど、淳が泣きそうだから、ノーコメントで」
そう言って、尚吾は厘と一緒に席についてしまった。

「…セ……だってさ…要…。知ってんの…?」
「え…やだ、淳、何言って……もう淳までそんな事言わないでよっ」
「…あ…ごめん」
自分が聞いちまったことを考えるとなんだか恥かしくなってきた。
にしても…やっぱ、俺はお子様なのかな…。
尚吾の言うとおり、誰かに『やられちまえ』ば、少しは大人になれるのかなぁ…。



「先生〜…早くしてくれないと困るよぉ…」
掃除が終わったのに帰りのSTがなかなか始まらないもんだから先生に訴える。
「…なんだ、村尾…。いやに急いでるなぁ…」
「今日は学祭実行委員会行くんだよ」
「……ほぉ…。学祭実行委員会は…毎週月曜日にあるけど、こうやって村尾が急ぐのは初めてだよなぁ…?おおかた、休みすぎで注意されたからそろそろ行っとこうってとこか?」
「うん……そんな感じ…」
すげー…。
先生なんでもわかっちまう。
「…じゃ、席ついて」
先生の呼びかけにクラスのみんなが次第に席につく。
時計を見たら少しだけいつもより早い感じ。
先生もいいとこあるねぇ。
なんか俺、上機嫌かも。


「じゃぁな。尚吾。バーイ」
「へ〜い。そろそろ大人になって来いよ。バイ」
STが終わって、尚吾にそう見送られて教室を後にした。

面倒でもあるけど、ちょっとわくわくしてたり…。
どんなやつらがいるのかなぁって。
少し、廊下を歩き出してから、俺は大変なことに気付いた。
……俺、教室…知らないや……。
やばいな。
RPGで言うなら、町人の話を聞くのが面倒でAボタン連打しちゃって、次の行き先を聞き逃しちゃった感じ?
こうゆうのって、なぜか1度しか言ってくれなかったりするんだよな〜。
おかしいよ。
とにかく、先生に聞かないと…。
…職員室より、保健室の方が近いなぁ…。
保健の先生も一応先生なんだし、知ってるかな。
ちょうど職員室に行く途中に通るし、先に寄ってみようか…。
「…せんせーいっ。柊せんせーいっ」
ドアを勢いよくあけて中に入り込むと、柊先生以外に別の生徒がいて…。
その生徒と柊先生がなんとキスしてる…っ!?
「ぎゃーっっ」
つい叫んじまう。
「…淳くん…見られたこっちの方がビックリなんだけど……」
「…柊先生…駄目だよ…保健室でそんなこと…」
とは言っても、廊下とかでやられちゃうよりは全然いいけどぉ…。
「…で、どうしたの?」
「…うぅう…。学祭実行委員会ってどこの教室でやってるか知ってる…?」
「…あー…生徒会室とかかなぁ…?なんとなく…」
なるほど。
いかにもそれっぽいや。
「あー…でも…」
「ありがとっ。バイ」
俺は急いで生徒会室に向かった。
…なんか、柊先生、言いかけてた気がするけど……。
まぁいっか。

教室に入るとまだ5人くらいしか人が集まってなかった。
「俺、早いじゃん」
自分で自分を褒めながら適当な席につこうとした時だった。
「…君…は……」
背の高い…先輩…かな。俺に寄ってきた。
「…俺?2年7組の村尾淳だよ。来るのは初めてだけどやる気はたっぷりだから『○』つけてくれよ」
俺がそう言うとその先輩は軽く笑って『いいよ』って言ってくれた。
人も次第に集まってきて、いよいよ委員会の始まりって感じだ。

「おい、淳。お前、なんでいんの?」
俺の隣の席に座ったやつが声をかけてくる。
「…あ、和奏先輩だっ」
和奏先輩ってのは俺のルームメイトで、なんと生徒会の副会長さん。
いろいろと遊んでくれるしいい人なんだ。
「俺、今日はじめて委員会参加するんだ」
「…ふぅん……。…でも、お前、2年7組だろ?2の7はいつも別のやつが来てるぜ?」
「…別にクラスに何人いてもいいんだよー」
「…まぁ、来るのは勝手だけどさ…?」
……それにしても……ボスの姿が見当らない。
あれだけ人に言っておいて、自分は来ないのかなぁ…。
「…和奏せんぱーい。神宮寺尋臣って先輩、知ってる?」
和奏先輩なら知ってるかも。だって、なんでも知ってんだぜ?
「あぁ、知ってるよ。同じクラスだし…。…尋臣のこと、知ってんの?」
「今日、俺のクラスに来たから知ってるよ。…ボス……来ないね…」
「…ボス?…ボス…ね。…別にあいつは関係ないしな…」
って……、関係ない…?
ボス、関係ないのに俺の教室まできて『来ないと駄目だー』って、脅しわけっ?
「騙されたー…。言ってたよ。学祭実行委員の委員長やってる神宮寺尋臣ってんだけど…って」
和奏先輩が席を立ち上がって俺の服を掴む。
「…おま……。学祭実行委員会に出席したいんだろ?」
「…う…ん…だから…来て…」
「…ここはクラス代表の集まりだっての」
クラス…代表……?
「えーーーっ」
「…総一郎……。ちょっと、こいつ、視聴覚室連れてくから…」
さっきの先輩にそう言うと、俺の腕を引っ張った。
俺は、和奏先輩に引っ張られるがままに、教室を出た。

……間違えちゃった…。
遅刻だよ…。ボスに怒られそう…。
せっかく、担任の先生に、ST早く終わってもらったのに…。
「…なぁ、淳、一回も委員会、行ってなかったんだ?」
「…う…ん…」
「…尋臣怒ってただろ。あいつ、真面目だから……」
「…う…ん…」
怒ってたかも…。ちょっと恐いなぁ…。

とうとう、ついてしまった。
視聴覚室…。
「ここであるの…?途中から入りたくないよ…」
「大丈夫だって…。俺が、尋臣に言ってやるから…」
和奏先輩がドアを開くと、みんなの視線が一気に俺の方に注がれる。
その視線から逃れるように、俺は和奏先輩の後ろに隠れた。
「……作業、続けて…」
あの声はボス…。
そっと、和奏先輩の後ろから教室を覗き見ると、みんなプリントを折ったりしていた。
「……和奏……。どうしたんだ?委員会、抜けていいのか…?」
「あぁ…。村尾淳って、知ってるだろ?連れてきた」
和奏先輩が体を反転させるもんだから、いやでもボスの方に体がいく。
「……その…しがみついてる奴ね……」
ボスが俺の衿元を掴んで引っ張るもんだから、それに従って、和奏先輩から引き剥がされる。
「…ったく…やっと来たと思ったら、今度は遅刻か」
「まあまあ…今日は教室間違えちゃったんだよ。な…」
和奏先輩が間に入ってくれる。
「だって…教室教えてくれなかったもん…」
「…なに…俺が悪いわけ…?」
ボスは少し怒り口調…。
「怒るなよ、…ボスー」
そう言ってくれたのは和奏先輩。
「…だから誰がボスだよ…。わかったから。和奏はもう戻りなよ…」
和奏先輩は俺の頭を軽く撫でてから、バイって、行っちゃった。
「……遅刻したから、今日、居残りな」
「えー…」
いやだけど、しょうがなく頷いて、俺はボスに言われた席についた。
ちょうどその時…。
「…遅れました、すみませ…」
勢いよく扉を開いて、1人の生徒がやってきた。
遅刻だ、遅刻っ。
俺と同じだ。
「…あぁ、片桐……。なんかあったのか?珍しい…。じゃ、席について…」
ボスは遅刻した奴に対して、『今日、居残り』ともなんとも言わないで席を指差す。
そんなの…。
「ボスっ。居残りにしないのっ?」
俺はボスとその遅刻してきた片桐って奴に向かって言った。
「…ボ…ス…?」
「…だから、誰がボスだよ…ったく…。お前は今日初めて来たんだぞ?10回目にして初めてなんだ。しかも、遅刻。ちょっとの居残りくらい当たり前だろう? 遅刻しなくても居残りなんて当然なくらいなんだよ、お前は…。片桐は毎回休まず来てるんだ」
「…俺は……」
結局、何も言い返せない。しょうがないけど。
「…神宮寺先輩。俺も残りますよ。遅刻したし……」
「いいって、お前まで……」
「やったーっ。お前、いい奴」
俺があまりに喜んだからか、ボスもなにも言えなくなってた。
やったぜ。
一人で残るのってなんかやだもんな〜。



結局、委員会終了後。
「…じゃ、冊子をホチキスで止めといて…」
「アイアイサー」
ボスは、俺と片桐くんにそう言うと、教室を出て行ってしまった。
まぁいいや。俺、ホチキスで留めるの、わりと好きだし…。
「…名前は…?」
そう聞いてきたのは、片桐って奴…。
まぁ、そいつと俺以外、この教室にはもう誰もいないんだけど…。
俺らは1つの机を挟んで、向き合いながら作業を進めていた。
「村尾淳だよ。あ…ごめんね…。なんか、お前まで居残りさせちゃって…」
やっぱ、悪いよなぁ…。
こいつはいつもは真面目に来てる奴なのに…。
「…いいよ別に…。淳くんさ…見たことあるよ。2年だろ?」
おぉお…いつのまにか見られてたのかっ??
「2年2年。俺のこと、見たことあるってことは、お前も2年なんだ?」
俺らの学校は学年ごとに階が違ったりするから、普段、あんまり他の学年の奴と顔あわせることはなかった。
「そ…。2年1組の片桐榛…。淳くんって、真宮尚吾とよく一緒にいるだろ?俺、尚吾と同中だったんだ」
「尚吾と??なぁ、あいつって中学の頃、どんなんなんだ?俺のこと、すぐお子様扱いするんだぜ?同い年なのに…」
今日、尚吾に言われたことを思い出す。
ホント、人のこと、お子様扱いしすぎだよっ。
「…尚吾は…わりと進んでるからね…。タバコも吸うし…。…淳くんはお子様扱いされるの、嫌なんだ?」
もちろんっ。
「だって、俺、お子様じゃないもん。尚吾と同じ年だし、もう高2だよっ?」
「…だね…。じゃぁ、俺が尚吾に言ってあげるよ。淳くんはお子様なんかじゃないって」
こいつ、初対面なのに、いい奴だっ。
まぁ、初対面っていっても、一方的には見られてたみたいだけど…。
「…いいの?ホント、尚吾、どうにかしてくれよぉ。頼むよ、救世主―っ」
「いいけどその前に…お子様じゃないか確かめてもいい…?」
「OKOKっ!!どんとこーいっ」
……でも…確かめる……?
どう確かめるんだろう?
考え込んでると、不意に片桐くんが俺の顔を両手で包み込むみたいに掴む。
そのまま、引き寄せられて、だんだんと片桐くんの顔が近づいて……。
「………ンっ…」
あれ……。俺……。
キス…してる……?
うそ……。
わけわかんなくって、体が動かない。
口の隙間からなんか、入ってくる。
温かくて、やわらかくて……。
……舌……?
「んっ…んっ…」
や…だ…俺の舌に絡まってくる。
逃げようと思って口を開いたら、もっと口を重ねられて塞がれちゃった。
「っ…んーっ…んっ」
口の中に、唾液が溜まってくる。
俺、自分のと一緒に、片桐くんの唾液も飲み込んじゃってるかも…。
ゆっくりと口を離されると、少し出した片桐くんの舌先から、唾液の糸が引いて、俺とつながってた。
「……興味津々に見るね……」
「…あ…」
片桐くんの言うとおり、俺ってば、興味津々に唾液の糸が引く様を見ちゃってた。
「それに……急におとなしくなっちゃったね……淳くん…」
「…そんな…こと…ないよ…」
…そんなことある…。
もう、しゃべるのも苦しいかもだもん。
「……だよね。淳くんは…お子様じゃないから…キスくらいどうってことないよね?」
そう言うもんだから、俺も『うん』って答えちゃう…。
片桐くんは、俺らの間にあった机をどかすと、椅子に座ったまま向かい合わせで、俺のシャツのボタンに手をかけた。
「……な……に……?」
「…続き……」
続きって…?
「…お子様じゃないか…確かめるの…?」
「…そう…」
にっこり笑って片桐くんは俺のシャツのボタンを上から順番に外してく。
俺、素肌に直接、着てたから、シャツ脱ぐと裸だし。
体、見るのかな…。
そっと、指先で上から下に撫でられると、体にゾクって、寒気みたいなものが走った。
「……片桐…くん…」
その後、指先で乳首を何度も何度も撫でられて……。
最初はくすぐったい気がしたのに、だんだんわかんなくなってきた。
「ぁっ…っ…」
なんていうか、くすぐったいのが耐えられなくって限界まできちゃった感じ。
「…は…ぁっ……くすぐっ…たぃ…っ…」
「…のわりには…笑ってないね…」
「……ンっ…だって……ぁ……」
くすぐったいのかよくわかんないよぉ…。
片桐くんは、椅子から降りて前に跪いくと俺の方を見上げてた。
「…まだ…淳くんには…早いかな……」
「…っ子供…扱い…する…なよぉ…」
「…平気……?」
そう言って、俺の股間をズボンの上から撫で上げる。
「…や…っ…」
「いやなら…いやって言っていいんだよ…」
こんくらい平気だもん…。
俺は大きく首を横に振ったけど、片桐くんは笑って股間から手を離してしまった。
「……片桐…くん……?」
「いいよ、無理しなくて。ちょっとからかっただけだからさ」
片桐くんは俺のシャツのボタンをまたはめてくれて俺らの間に机を置いた。
どきどきして、体が熱いよ…。
ぽかぽかする。
また、片桐くんはホチキスで留める作業を進めるから俺もやるけれど、力が入らなくって全然上手く留まらない。
「片桐くんは…大人だね……」
「…どうして?」
だって…。
あんなことして、平然と入られるなんて……。
「…俺……。だって…さっきので力…抜けちゃったよ…」
「…俺だって、やられたら平気でいられるかわかんないよ…。やるのだって、ドキドキくらいするんだよ……」
そう…なの……?
「淳くんが思ってるほど、みんな大人じゃないし、変わらないよ。…それに…俺は、子供っぽいの、好きだな。すっごく素直に生きてる感じで…」
子供っぽいって…。
いかにも、俺のこと子供っぽいって言ってる感じで少し嫌な気がしたけど、片桐くんが子供っぽいの好きって言うから、なんとなく……嫌じゃない気もした…。
複雑な気分…。
俺は、いつも子供っぽいとか言われるの、嫌だったもん…。
だけど、なんでだろう。
だって、子供っぽいのが好きだって言ってもらえことなんてなかったから…。
子供っぽいのも、案外、いいのかなぁ…?
「……素直…??」
って、どうゆうことだろう…。
「うん…。俺は、淳くんみたいに出来ないもん…。尚吾もきっとそうだよ。例えば…子供っぽい遊びだとか、みんなまだまだ好きだったりもするかもしれないよ。だけど、周りから『子供っぽい』って思われるのが嫌で、そうゆう事、しなかったりするんだ。人の目を気にして……ちょっとだけ、自分を押し殺して過ごしてるんだろうね。それに比べると、淳くん、すごいなぁって。好きなことを好きなように出来るのって、うらやましいよ」
そう言ってくれた。
「…でも…人の目を気にしないって……周りが見えてないみたいだよ…。そんなの…だめだよ…」
いくら、素直に過ごせて、好きなことを好きなように出来ても……周りのこともちゃんと見ていなきゃ駄目だよね…。
子供っぽいってやっぱ、見下されてるような気がしちゃうんだ…。
いつも、尚吾や厘や要や……和奏先輩が一緒になって遊んでくれるから、平気だけど、一人だったら、きっとたぶん、すごく苦しいもん…。
一人で、遊べないもん…。
「…やっぱ…やだよ…。子供っぽいって…思われるの…」
「…でも…そうあれるのが、俺にはうらやましいんだよ…。好奇心旺盛なところとか…好きだな。なにを見ても興味がわかない奴より、絶対いいだろ?」
うぅうん…。興味がわかないのは確かにつまらないよね…。
そんな風にはなっちゃいたくないかも…。
「無理に大人ぶってる奴なんかは、興味があっても興味がないフリをするかもしれないし……。そんなの…嫌だろ?」
確かに、それは嫌だよ。
俺は片桐くんの話を、何度も頷きながら聞いた。
「でも、そうせざる得ない時だってあるかもしれないんだ…。本当に大人になっちゃったら、いろんな事に興味があっても興味を示せなくなるかもしれない。そう思うと、今、子供っぽく素直にいられる淳くんは、すっごくいいと思うんだ」
「…俺…?」
首をかしげる俺に、片桐くんは、にっこり笑って頷いた。
「素直にいられる時期に無理して大人ぶったらきっともったいないよ」
そうかもしれない…。
本当に大人になっちゃったら、今よりもっと好きなこと、出来なくなっちゃうかもしれないし…。
今、どんなに子供っぽいって言われても、好きだと思うこと、やった方がいいのかな。
「じゃぁ…俺、子供っぽいって思われてもいいや」
「うん…」



そうゆう事言える片桐くんって、大人っぽいと思った。
すごいなぁ。やっぱ…俺と違うから、俺、子供っぽいって思われちゃっても当然だよ…。
でも、もう子供っぽくってもお子様って言われてもいいやって思えるようになったかな。
やっぱり、大人っぽい人は、いいなぁって…すごいなぁって思うけど……。
特に……片桐くんは同い年なのに、すごいや。
憧れちゃうよー…。
まぁ、そんな片桐くんが言ってくれたから、俺は無理して大人になろうとしないし、子供っぽくてもいいやって思えるんだけどね。
「尚吾―っ。遊ぼーっ」
俺は思いっきり尚吾に飛びついた。
「あいかわらず、お子様街道まっしぐらだな、お前は…。昨日はどうだったわけよ。ボスにやられた?」
だから、やられたって…なにをやられるんだか…。
「…なんもやられてないよーっ。でも、昨日で俺、少しだけ大人になったもん」
子供っぽくてもいいやって思えるようになったあたり、少しだけ……そう考えれるようになった分だけ大人になったかなぁ…なんて…。
「…大人?お前が?何があったんだよ。途中までやられちまった?」
「だから、なにもやられてないってば…」
あ…キスとかはしちゃったけど……。
「そうだ。尚吾って片桐くんって知ってるだろ?同中だって、片桐くんが言ってたよ」
「…あぁ、知ってる知ってる。あいつと会ったんだ?あいつもめちゃくちゃガキだろ?もう高校に入ってから会ってねぇけど……」
ガキ……片桐くんが……?
「違うよーっ。大人だもん。すっごく大人だもん」
「あいつを大人だと思うあたり、やっぱお子様なんじゃねぇの?お前……」
昨日、だって片桐くん、すごい大人っぽくって、俺、憧れたもん…。
しょんぼりうなだれてると、尚吾は気を使ってか、俺の頭をポンっと叩いた。
「…じゃ、高校から変わったのかもな」
きっと……そうだよ。
高校から、変わったんだよ、片桐くんは。
尚吾の知ってるガキっぽいのから、俺の知ってる大人っぽい片桐くんに…。

あれ…?
だとしたら、片桐くんって……
昨日、無理して、大人になるなって言ってたのに……。
自分は、無理して大人になっちゃったのかなぁ…。
それとも、自然にそうゆう風に変わっちゃったのかなぁ…。
どっちにしろ…中学のころ、子供っぽかったからこそ、昨日みたいに…子供っぽいのもいいって言えるのかな。
だから…あんなに説得力あること、言えるのかな…。
変わっちゃうのって…どうなろう…。
片桐くんは、それでよかったのかな…。
俺のこと、うらやましいって言ってくれてたから…それが本当なら、片桐くんは変わりたくなかったのかもしれないよね…。
自然に…いつのまにか、素直でいれないようになっちゃったのかなぁ…。
俺も、そうゆう時、くるのかも…。
片桐くんは、そうなっちゃったのを嫌に思ってるから、俺に今、無理に大人にならずに子供をエンジョイしとけって言ってるのかも。
「おーい…なに、考え込んでんだって…」
「…うぅん…。なんでもない…。なにして遊ぼう?」
「淳が、決めな」
「うん」


今度…片桐くんを誘ってみようかな。
きっと、俺のお子様な遊びにも付き合ってくれそうだもん。
表には出さないけど、片桐くんだって、本当は子供っぽい遊び、したいのかもしれないし……。
今のうちに、出来ることしたいって思ってるのは俺だけじゃないと思うから、誘いたいんだ。
なんか、ドキドキするね…。
俺にいろいろ考えさせて教えてくれた片桐くんが、中学の頃は、俺みたいに子供っぽかったなんてね…。
ちょっと、嬉しくも思ったし、これから自分はどう変わるんだろうかって思うし…。
ドキドキする。
…今…、俺、すっごく楽しいかも…。