ゆっくり入り込んできた舌が、俺の舌を絡めとる。
「ん……」
 いつもより、なんだか恥ずかしい。
 桐生の家だからか、手紙のことが解決したからか、父親に紹介された後だからか。
 理由はわからないけど、心臓がバクバク音を立てていた。
「ん……んぅ……」
 ゆっくり舌を擦り合わせて、髪を撫でられて、すぐその気にさせられていく。
 頬に添えられていたはずの手が、太ももを這い、俺の股間を弄る。
「ぁっ……んっ!」
「はぁ……雪之……もう硬くなってる。早いね」
「ん……」
「うるさいとか、違うとか、今日は言わないの?」
 うるさくないし、違わない。
「だって……」
「だって……?」
 気持ちいいキスをされて。
 ズボンの上からだけど、撫でられて。
「はぁっ……ぁ……あっ……んっ!」
「んー……もう気持ちよくなっちゃった?」
「んっ……あっ……はぁ……あっ……んぅんっ!」
「教えて?」
 股間を撫でられながら、耳元で桐生に優しく囁かれると、頭が蕩けそうになる。
「はぁっ……ん……きもち……」
「そっか。気持ちちいいんだ?」
「んっ……はぁっ……んっ、んっ……きりゅ……あっ……んんっ、あっ!」
 少し焦らされているような、心地よい刺激が拒むことを忘れさせていた。
 そもそも拒まなくていいんだけど。
 ズボンのボタンを外されて、チャックをおろされる。
「脱がすよ」
 ソファから降りた桐生に、ズボンと下着を引き抜かれていく。
「学校じゃ出来なかったからね。していい?」
 断る理由はない。
 頷きかけたけど、ふと持ってきたローションのことが頭に浮かんだ。
 別に出さなくてもいいんだけど。
 せっかくもらったし。
「待って……」
「なに? いや?」
「そうじゃないけど……その……」
 引き寄せたカバンの中に手を突っ込む。
「ローション……持って、きた……から」
 どう言えばいいのかわからなくて、結局、事実を伝えることしか出来なかった。
「は……?」
 想像もしていなかったのか、桐生が眉をしかめる。
 正直、喜んでくれているようには見えない。
「どういうこと?」
「別に……使った方が、しやすいかと思って……」
 取り出した瓶を、桐生に差し出す。
 桐生は、それを受け取るより先に、俺の体を抱きかかえた。
「なっ……!」
 お姫様抱っこみたいな格好。
「ベッドでしていい?」
 俺は頷くようにして、桐生の胸元に顔を埋めた。



「なんでそんなかわいいことしてくれるの?」
 ベッドで服を脱がしながら、桐生が尋ねる。
「なに……」
「ローション用意してくれるとかさ」
 やっぱり、真綾の言った通り、結構、良かったのかもしれない。
「ルームメイトが……くれただけ」
「それでも、持って来てくれたわけでしょ。使おうか」
 さすがにこの状況じゃ、断れない。
「ああ、そうだ。北海道土産の中に、ラッピングされたお菓子があったんだよね」
 ふいに思いだしたみたいにそう言うと、桐生はベッドの脇のテーブルの上に置いてあった赤いリボンを手に取る。
「雪之ちゃんのこと、かわいくしていい?」
「なにするんですか」
「結んであげる」
 結ぶって、どういうことだろう。
 理解するより早く、桐生はベッドの上に座る俺を後ろから抱きしめる。
 あったかくて、それだけで力が抜けそうになった。
 すでに勃ってしまっている性器を軽く撫でられ、少しぼんやりしかける。
「はぁ……ん……」
 気持ちよくなりそうだったのに、なぜかすぐに手を離されてしまう。
 なんで……そう思った直後、すぐその理由に気づく。
 桐生が手にしている赤いリボン。
 さっき、結んであげるって言われた。
 1センチ幅くらいのリボンが、性器にくるくる巻き付けられていく。
「な……にして……!」
「かわいくない?」
「かわいくない!」
「俺はかわいいと思うよ。こんなとこにリボン巻かれちゃう雪之ちゃん」
「くっ……下品なだけだろ」
「そんなことないって。女の子には出来ないけど、雪之ちゃんが男だから出来るんだよ?」
 女の子には出来ない。
 その言葉を聞かされて、妙な優越感を覚えてしまう。
 こんなことで、女に勝てた思うなんて、どうかしてる。
 どうかしてるのに、桐生が蝶々結びするのを、なぜか止められない。
「雪之……もう少し膝立てて?」
 次の要求をされ、リボンに触れ辛くなってしまう。
「俺……!」
「ローション、冷たいかな……俺の手で少しはあったまるか」
 そう言いながら、右手にローションを垂らしていく。
「こっち向いて。雪之」
「なに……」
 横を見ると、身を乗り出した桐生に唇を塞がれた。
 されるとは思っていなくて、少し驚いたけど、舌を絡めとられると、また頭がぼんやりしてくる。

 付き合ってるし。
 桐生の前なら、かっこ悪くてもいいし。
 ……かわいくなっても、たぶんいい。
 いまだ自分が、かわいくなりたいのか、よくわからないけど。

 女扱いされるのは、恥ずかしいし屈辱的だって思ってた。
 でも、女の代わりってのが嫌なだけで。
 男として、その上で、女の子みたいにかわいがられるのは、たぶん悪くない。

 女々しい自分も、好きじゃなかったけど。
 そんな俺を桐生が受け入れてくれるなら。
 俺は女々しくていい。
「ん……ぅん……はぁ……ん……」
「足開いて……入れるよ」
 口が離れた瞬間、桐生に告げられる。
 足の間に手を割り込ませると、桐生はローションで濡れた指を、ゆっくり挿入させてきた。
「あぁっ……ん、んぅっ! あっ、あっ!」
 舐めた指が入るのとは違う。
 それよりも、ぬるついていて、すんなり奥の方まで入っていく。
「はぁっ……あっ……!」
「学校でも入れたし、これくらい余裕か」
 きつくはないし、苦しくもないけど、余裕ってことはない。
 なんせ桐生の指が入ってる。
 その上、後ろから抱かれて、体がゾクゾクしてたまらない。
「もう1本、入れるよ」
「待っ……あっ……んんんっ!」
「ん……待った方がよかった?」
 まだ落ち着いていないのに、2本目の指が入り込んでくる。
 体が小さくビクンと跳ねた。
「今日はいつもより感じてんな。ゆっくりしようか」
 いつもより感じてる。
 なんとなく自分でも自覚してるし、恥ずかしいけど、いつもの俺を覚えてくれている……そう思うと、嬉しくなってしまう。
 俺を抱く桐生の左手が、右の乳首をわずかに掠める。
 たったそれだけのことで、過剰に反応してしまった。
「ふぁっ……ああっ……!」
「ん……ここ、撫でようか。雪之ちゃんて、最初から結構、胸の感度よかったよね」
「知らな……」
「最近は、もっとよくなってる。はぁ……かわい……」
 突起を転がされながら、耳元で吐息混じりに話されると、体中がゾクゾクした。
 胸も、弄られてる中も、興奮してくれているのか少し熱っぽい吐息がかかる耳も、全部、気持ちいい。
「はぁっ……んっ……んんっ……あっ!」
「聞こえる? ローションで、お腹の中からやらしい音してる」
 指をぐにぐに動かされるたび、ナカでクチュクチュ音が鳴る。
「はぁっ……や……やらしぃ音じゃな……」
「そう? 俺にはすっごくやらしく聞こえるけど」
 ただローションの音だ。
 別に俺が出した液でもない。
「んんっ……ローションが……」
「ローションが出してる音って? 違うよ。これはね、俺が雪之ちゃんのナカ、たくさん掻き回して、押さえつけてる音」
「え……あ……」
 桐生に言われて気づく。
 ローションだけで音が鳴るわけじゃない。
 桐生の指が、俺のナカで動いてる音。
 いつもは聞こえないけど、いまは、ローションのおかげで聞こえる。
「ああっ……ぁんんっ……やっ」
「あと……俺の指に合わせて、雪之ちゃんのナカが、きゅうきゅう締まっちゃってる音かな」
「ちがっ……あっ、あうっ……んっ!」
「なに、意識したらやらしい気分になっちゃった? かわいいよ、雪之……もっと感じて」
 桐生の舌が、俺の耳を舐め上げる。
 わざとだろう。
 ピチャピチャと音を立てるようにして、何度も舐められて、息を吹きかけられて、頭がぼんやりしてきた。
 やらしいのに、気持ちいい。
 やらしいから気持ちいいのか。
 どんどん、思考が蕩けてく。

 いつもみたいにからかってくれないから、俺もうまく反発できないし。
 いや、からかわれてる?
「ふぅ……あっ……ああっ、かわいいって……」
「言うな? 言って?」
「んんっ……あっ……ん、からかって……!」
「からかってないよ。からかうのだって、愛情表現のひとつだけど。てか、からかわれるのも好きだろ」
 好きなはずがない。
 そう思うのに、ときどき俺をからかう桐生が楽しそうで、それは好きかもしれない。
「だいたい、やめたらやめたで怒るよね。俺は怒っちゃう雪之もかわいくて好きだから、いいんだけど」
「ああっ、あっ……バカに、して……」
「してないよ。だって、俺のこと好きで怒ってる感じだし。ホント……たまんない」
 たまんないなんて、熱っぽく耳元で言われたら、こっちこそたまんない。
「ふぁっ……あっ、ああっ、んっ……ああっ!」
「気持ちよくて考えまとまんないんでしょ。無理に話さなくていいから。素直に感じて」
 桐生の言う通り、ナカでずっと桐生の指が動いてて頭が働かない。
 とにかく、俺はかわいがられたいし。
 さっきもう認めちゃったし。
 桐生は、本当にかわいがってくれてる。
 そう割り切ってしまえばいい。
「はぁっ……ああっ、あっ……んっ、きりゅ……あんっ……あっ!」
「ん……すご……雪之、見える? たくさん出てる」
 胸を弄っていた桐生の指が、俺の亀頭に触れる。
「ああっ、あんんっ!」
「ほら……やらし……」
 指が離れると、そこは透明の糸を引いた。
 優しく亀頭に触れて、離れて、そのたびに、ぬるついた粘液が溢れているのを実感させられる。
「んんっ、やっ……ああっ、あんっ! いくっ!」
「雪之……おっきくさせすぎ。リボンきつくなっちゃったでしょ。これじゃあイけないよ?」
 さっきよりも、きつい。
 締めつけられる。
 だけど、コードとは違う。
 リボンに圧迫される感触は、決して悪くない。
 桐生が作ってくれた蝶々結びが、かわいいとさえ思えた。
 こんなところをかわいくするなんて、まるでしてはいけないことをしているみたいでゾクゾクする。
「ああんぅっ……あっ、あっ! きりゅ……あんっ!」
「ナカ、すごいヒクヒクしてる。イけそうだね……もっと押さえてあげる。こっちも、さっきからこんなにたくさん溢れて……」
 イけそう。
 桐生はそう言うけれど、うまくイける気がしない。
 そもそもさっき、イけないよって言ったのは桐生だ。
 イきそうだったのに、止められて、戻されてるみたい。
 射精感よりも、撫でられてる亀頭とナカの感覚が上回って、自分でも、わからなくなってくる。
「はぁっ、あっ、あんっ、あっ……あぁんっ、ん、ああっ、あっ!」
「んー……いつもよりたくさんかわいい声出てる。もっと聞かせて?」
 首を横に振るけれど、全然、声が抑えられなかった。
 かわいいとか、聞かせてだとか。
 恥ずかしい……というよりたぶん、照れくさくて、本当は嬉しくて。
 体が、さらに熱を帯びていく。
「ああっ……ぁン、んっ……も、だめ……ああっ、あっ……がまん、れきなっ……」
「んー……射精したい?」
 耳元で囁かれるだけで、体がまたぞくりと震えあがった。
 なんとか頷いてみせるけど、もちろんそれで済ませてくれる人じゃない。
「言ってよ、口で」
 このままじゃ、体がおかしくなる。
「したぃ……ああっ……しゃせぇ……あんっ……あぁあっ……だめ……あんっ……んっ……そこぉ……!」
「うん、ここ……気持ちいいね?」
 桐生が重点的に、何度も何度も指で中を押さえつける。
 そのたびに、ビクビク跳ねて、自分の体なのに制御できない。
「雪之ちゃん、本当に射精したい?」
 なんで疑われているのかわからなかった。
 そもそも俺自身、本当に射精したいのかわからない。
 それでも小さく頷くと、桐生は耳元に舌を絡めながら、囁く。
「じゃあ……リボン、取る? 自分で取っていいよ」
 桐生が結んでくれたリボン。
 うまくイけないのはこれのせい。
 外した方が絶対、ラクなのに。
 かわいいからって、桐生がつけてくれて。
 女の子みたい……だけど、女の子には出来ないことで。
 だから、どうしても外せなくて。
 なにも出来ずにいると、桐生は余っているリボンの端を自分の指先に巻きつけた。
「ん……リボン、気に入っちゃった? 雪之ちゃん、たくさん零すから、べたべたになっちゃってるけど」
 リボンを巻いた指で、亀頭を撫でられて、またビクリと体が跳ね上がる。
「あぁんっ、あっ、ああっ……やめっ……あぁあっ、も、だめっ……ああっ……おかしく、ああっ」
「大丈夫……かわいくなるだけだから……ね」
 どういうことか、理解出来なかった。
 ただ、後ろから抱かれて、ぐちゅぐちゅと音を立てながらナカを掻き回されて。
 リボンでかわいくされた性器から、溢れてくる蜜を何度も塗りたくられて。
 苦しいけど、それ以上に、嬉しいような、妙な感覚で。
「あっ、あっ、ぁんっ……あぁっ、ン……あぁあああっ!」

 なにかが崩壊した。
 体が一際大きく跳ねた後、桐生の指をきつく締めつける。
 頭が真っ白で、亀頭からはたくさん透明の液を零していたけど、射精はしていなかった。