いつもよりだいぶ早い時間に寮へと戻った。
ルームメイトもまだいない。

ベッドに乗りあがると、そのまま目を瞑った。

今日も、桐生は忙しそうにしていた。
それを見ることができて。
少しだけ、安心して。

本当に、俺にかまってる暇なんてないんだなってわかったから。

うざかったのに。
数日、無視…ではないけれど、一般の生徒として扱われただけで、こんなにも俺の心はめちゃくちゃになってしまうものなのか。



どれくらい時間がたっただろう。
扉の開く音に目がさめる。
部屋はまっくらで、いつのまにか、3時間以上は寝てたんだろうということがわかった。

明かりをつけようと、体を起こすと、ベッドにまた押し付けられる。
「っな…」
「雪之…」
耳元で。
ゾクゾクするような声。
「っ…」
ベッドに押し倒された俺の口を塞いで。
ゆっくりと舌先が入り込む。
「んっ…んぅ…」
少し久しぶりな。
馴染みのある感覚。
目では確かめれないけれど、すぐわかる。
桐生だって。
桐生が、この部屋に来ることなんて、いままでなかった。
わざわざ、来てくれたのかと思うと、変に体が熱くなる。

口を開放されてからは、首筋や鎖骨のあたりに何度も、口付けられた。
「っんっ…ん…」
甘ったるい愛撫に、逆に羞恥心をかられる。
「待ってた…?」
少したくらむような口調。
「っ誰がっ…」
「たまには素直に甘えろよ。昔はそうだったろ?」
そう言うと、ズボンの上から、俺の股間を弄った。
「っぁっ…ん…」

どうにも抵抗しづらい。
もう、この人がいないとだめなんだって、気づいてしまって。
こんなに真っ暗だからってのもあるけれど。

俺のプライドは、この人に崩されてしまったから。

少し離れて実感する。
この人のいない生活。

「おとなしいねぇ」
そう言うと、俺のズボンと下着を脱がされる。
「っちょっ…桐生っ…」
「うれしいね。声だけで、俺だってわかってくれるんだ? それとも、感触?」
楽しそうにそう言って。
俺の足を大きく開脚させる。
「っなっ…あ…」
「もうあんまり俺に対して恥じらいとかないだろ」
そんなことはない。
いつだって。
新鮮なくらいに、羞恥心を感じるし、緊張だってする。
いまならなおさら。
久しぶりなこともあって、いつも以上にそれを感じていた。

舌が、開脚された足の中心部、後ろの秘部に這わされる。
「っひぁ…っ…あっぁあっ」
「今日は、どうしたわけ? わざわざ職員室まで。俺に会いにきてさ」
「っ違っ…んっ…」
「違わねぇだろって。いらん理由つけて? かまってほしかった?」
あまりにも、図星なことを言われると、恥ずかしくてたまらない。
否定の言葉も出ないから。

湿らせた指が、中に押し入れられて、体がビクつく。
「っぁっあっ…」
「な…。どうなんだって。俺に犯されたくて、職員室まで来たわけ?」
わざと、いやみらしい言い方。
「違っあっ…ん…んっ」
「浮気した?」
指を動かされながらそう聞かれ、一気に体がこわばる。

知っているのか、知らないのか。
してない。
と答えるのは、心苦しかった。
智巳先生に手を出されているから。
だけれど、俺は別に、桐生と付き合っているわけじゃないから。
浮気という言葉が当てはまるのかもわからない。
「っんっあっ…ゃめっ」
「やめて欲しくないのに、そういう声、漏らすのはよくないな」
そう言うと、2本に増やした指で中を探っていく。
「っひぁっあんっ…ぁっ」
「雪之…。俺以外のやつとやったんだろ?」
耳元で、やさしくそう聞いてくる。
「っなっ…」
「ただ、久しぶりなだけ…ってな感じの態度じゃないし? 隠し事してますって雰囲気でまくり。いや、まぁ俺も無節操って言われたらそうだし、いいんだけど」
俺の態度の問題?
樋口先生自身には聞いていないのだろうか。

「っんっくっ…」
「だから、怒ってるわけじゃねぇんだけど、ただなんつーか、雪之は、俺と違って、そんな何人もとやるタイプじゃないように思えたから?」
確かに、そんなにも他の人とやるつもりはない。
桐生だから許してたことで。
他の人になんて。
だけれど、あまりにも桐生が俺を、ほっとくから。
桐生のせいじゃないのはわかってるけれど。

だめだもう。
なんだか、悔しいような感覚で涙があふれて来る。
「違…っ」
「違うって? なにが? 俺以外の人としてないって、言うわけ?」
「……あっ…少ししか…」
「…中途半端だな。少しでもまぁ、気持ちの問題だろ」
 そう言われ、一気に俺の罪の意識は大きくなった。

この人は俺のことやすやすとやるような子じゃないって思ってくれていたのに。
俺は、やってしまって。
涙が溢れる。
「はぁっ…あんんっ」
「俺に、操たてたりとかしてくれないわけ?」
 少し冗談っぽく言ってくれるけど。  
俺の中ではすごく重い問題で。

 付き合ってもいないのに。
 操とかたてる必要なんてない。
 そうは思うけれど。
 操たててくれないのかって聞かれるのがうれしいし。
 それを裏切ったことに関して、罪悪感でいっぱいになる。

 部屋が明るかったら絶対我慢していた。
 暗いから、見えないだろうって。
 そういう意識もあるんだろう。
 溢れる涙を止めれない。

 そんな俺に気づいてなのか。
 桐生は、指を引き抜いて、俺の腕を引く。
「なっ……」
 引かれるがまま、体を起こされ、抱き寄せられる。
 こんな風に抱かれたのは、久しぶりの感覚だった。
 初めてかもしれない。
 優しい手つきで、俺の頭を撫でる。

 なんのつもりなんだよって。
 思うけれど、聞く余裕もなくて。
 
 ただ、泣けてきて。
 なんで泣けるのかって、聞かれたらうまく説明出来ないけれど、止まらなかった。

「雪之……」
 耳元で、ささやくようなトーンのこの声が、好きだ。

「お前さ。真面目すぎ」
 いつもみたいなからかう感じではなく。
 普通の口調で言うもんだから、こっちの反発心もなくなっていた。
 
 俺はただ、黙って。
 桐生に抱き寄せられたまま。

「俺がお前くらいの頃には、そりゃ無節操にいろんな奴とやりまくってたし。好きだと思える人じゃないやつとだってやったし。だけど、人を選ぶ目はちゃんと養ってんだよ」
 なにか、いままで隠してたことを、決心がついたかのように、打ち明けてくれているようで、少し心地がよかった。
 同時に、なにを聞かされるのか、妙な緊張感にも見舞われた。
「雪之がすごく真面目な奴だってのは解かってるから。こうやってお前とすんの、割り切った行為だとか軽々しくしてるつもりねぇし。お前みたいなタイプとすんの、俺的にはありえないことなわけで」
 だんだん自分でなに言ってるのかわからなくなってるのか、少し言いとどまる。
「まぁほら、遊び人ってやつ? そういう奴となら気軽にやれるじゃん? でもお前、まじめだから。気軽に手を出したら後が怖いっつーか、変に傷つくだろうし、そういうの、やっぱ俺も傷つけたとか、嫌だし? だから、いわゆる遊んじゃいけない相手で……お前はそういうタイプで。ちゃんとそこは俺も理解しててさ」
 また言葉をとめて、俺の頭をやさしく撫でる。
「……お前みたいなタイプ、遊びで相手出来ないから……だから、俺は考えた上で、手出してるわけよ。お前を裏切るつもりねぇから」
 真面目な口調だった。
 信用してもいいんだろうか。

 そっと顔を上げてみる。  
俺が桐生の表情を確認する前に、顔を寄せられ、口を重ねられる。
「んっ…んぅっ…」
桐生の手が、背中を支えながら撫でていた。
「んっ…」
 舌が絡まって、呼吸困難に陥るくらいの長いキス。
 口が離れて、少し放心状態で息を整える。
 目の前の桐生から、目が離せないでいた。

 桐生もまた、俺をジっと見て、頬を撫でる。
「……もうそろそろ崩れた?」
 冗談でもなく、真面目な顔でそう俺に聞く。
「崩れたって……」
「男としてのプライド…? 智巳ちゃんに手、出されちゃうくらいだから、もう大丈夫かな。あの人、無理やりはやらない人だから…? 強姦でもなくて、男にされちゃうくらいには、変なプライドはなくなってるわけだろ?」
 智巳ちゃんって。
 樋口先生?
「樋口先生に……聞いたんだ?」
「聞いてないけど。あいつしか考えれないからな。俺の前でも、プライド捨てて、素直になれよ」  
もう一度、俺に軽くキスをして。  
正面から、見つめられる。  

 どう応えていいのかわからなくて、ただなにも言えずにいた。
 少し体を離すと、桐生は自分の上着を脱ぎ捨てる。
「おいで……?」
 少し、頼みごとでもするような感じに言われ、ものすごく胸の鼓動が高鳴る。
 俺は、この人が大好きだから。
 それでも自分を曝け出すのは恥ずかしい。
 素直になりきれない自分がいままでいて。
 
 ひとつ、皮をかぶった対応をしてきていたと思う。
 今を逃したら、ずっとこのまま、一線を越えないままの関係でい続けるだろう。
 

「雪之……」
 桐生は、強引に俺に手を出すことはしないで、ただ、少し催促するように、求めるように名前を呼んで。
 伸ばした桐生の手が、俺の頬をそっと撫でた。
「っ……俺……」
「俺も全部、お前に曝け出してるから。な、脱いで……」
「っ……」
 俺は、桐生の視線から逃れるように下を向いた。
 だけれど、桐生はあいかわらず俺の頬を撫でて。
 見えない視線が突き刺さる。  

 ゆっくりと、自分のシャツのボタンを上からはずしていく。
 緊張で、上手く指が動かなかった。
 その間も、ずっと、桐生は俺の頬を撫でていた。

 シャツのボタンが全部外れると、桐生の手が、頬から下へと移動して、ゆっくりと胸元を撫でる。
「っん……」
「雪之……」
 俺は、下を向いたまま、自分のシャツを脱ぎ去った。
   
全部脱いでしまうことなんて、滅多にないことで。
 しかも自分から。
 
おいで……。
 その言葉が、頭を回る。
 桐生は、待つように、俺に近づかないで、遠くからまた、俺の頬に触れるだけ。

 
俺は、腰を上げて、ベッドの上に立ち膝状態になった。
「雪之……」
 そう呼ばれて、下から見上げられて、頬を撫でられて。
 誘われるように、俺は桐生の方へと体を寄せた。

 桐生は、俺の背中に手を回して、胸元にキスをした。
「んっ…ンっ」
 背中を撫でていない方の手の指が、そっと後ろから、俺の中に入り込む。
「っ…んぅっ…あっ」  
いつもとは、違う感覚だった。
 初めて、桐生にされたときの感じに少し似ている。

「ゆっくり、腰、おろして……」
 指をそっと引き抜きながら、桐生はそう言って。
「っ……そんなんっ」
 桐生は、俺の太ももを撫でながら、下から俺を見た。

「出来な……」
「大丈夫…」
 桐生の舌が、俺の胸の突起に絡まる。
「あっ…ゃめっ…」
「…な…。しよう…?」  
 
変な感覚だ。  
見上げられて、そのまま、ゆっくりと2人の顔が近づく。
 もう一度、キスをして。
 口を重ねたまま、ゆっくり腰をおろしていく。

 桐生の股間のモノが、俺の足の間、秘部へと当たる。
「っんっ…」
 体がビクついて、口が離れる俺の頭を押さえて、
「そのまま…」
 そうとだけ言って、また深く口を重ねられる。
「んぅっ…」
 ゆっくりと腰を降ろしていく。
 桐生が、俺の入り口辺りを少し指で広げるように押さえて。  
それを助けに、先の方が入り込む。
「んーっ…」
 自分から、こんなことするのはもちろん初めてで。
 恥ずかしさと不安で、頭が混乱して、体がこわばる。
 桐生は俺の頭を撫でて、口を離す。
「…ゆっくりでいい…。深く…」
 俺を見つめてそう言うと、また俺の頭を押さえるようにして、口を重ねた。
「んっ…」
 口を重ね直すようにして、何度も舌が絡まり合う。  
不安な気持ちが少し薄れていた。
 背中をそっと撫でられて、俺はまた、ゆっくりと腰を降ろしていく。
「ンっ…んぅっ…」
 頭の中に、舌先が絡まり合う濡れた音が響いて、羞恥心が高まっていた。 
 涙が溢れて、桐生の背中に回した手に力が入る。
「んっ…んぅっ…ぁっんっ」
 奥の方まで桐生のモノが入りこんでしまって。
深く口を重ねたまま、桐生は俺をきつく抱いてくれていた。
「んぅっンっ…」  

 やっと、口が離れて。  
顔を見られてしまうと、ものすごく恥ずかしい気持ちになる。  
だけれど、それを感じているのもつかの間。
 背中を支えていた手が、双丘を撫でて、少しだけ抜かれたかと思うと、軽く突き上げられる。
「ひぁっ…やっ」  
いつもと違う。
 変だった。
 いらつきだとか、プライドとか、余計なことを考えていないせいか、いつも以上に感じられるような。
 そんな感じだ。
 精神と肉体の繋がりなどというものを感じてしまう。  

 体中が、痺れるようにビクついてしまって、桐生の背中に爪を立ててしまう。
「…雪之…」
 耳元で名前を呼びながら、俺を抱きかかえるようにして、下から。  
入り込んでしまっているモノで中を掻き回す。
「ぁああっ…やぁっやっ…」
「…かわいいな…」
 女扱いされるようで、イラついた台詞も、今はただ恥ずかしく思えるだけだった。
「っ…んっ…あぁあっ…あっあんっ」

 深く奥まで貫かれ、優しく頭を撫でられると、我慢なんてものは考えられなくなる。
「やぅっ…桐生っんぅっ…あっあっ…」
「いいよ…イこ…」
 やさしい対応に、体中が熱くなった。
「あぁあっ…桐生っんっあぁあああっ」

 放心状態で、少しの間、なにも考えれなかった。


 俺はなにも言えないで、ベッドに横たわる。
 優しく頭を撫でられて、心地がよかった。

 お互い、しばらくなにも会話もなく。
 それでも、気まずさがあるわけではない。
 変に、落ち着いていた。

「…じゃあ…またな」
 俺の頭を、ポンと叩いて。
 桐生はベッドから立ち上がる。
「…ん…」
 少し名残惜しいような感覚だった。
 だけれど、それを示すことはやはり出来なくて。
 それでも、早く帰れだとか、そんな反発したことを言う気もなかった。

 少し…。
 だいぶ?
 桐生のこと、信用出来る気持ちの余裕が出来ていた。
 俺も、素直になろうとか思うし。
 今日は、いつもと違う自分が出せた。

 プライドとか、どうでも良くなってきていて。
 変なプライドのせいで、この人との距離を遠ざけたくない。
 そんな風に、思えるようになっていた。



 
「今日、智巳先生見た?」 
 盗み聞きするわけではないけれど、教室で話しているやつらの声が耳に入る。
「樋口先生? 見てないけど」
「すげぇ、殴られたっぽい跡あんだって」
「え、見えるトコに?」
「顔、顔っ」
「マジかよ、あの顔、殴る奴、いるんだ?」
「傷ついた智巳先生も、それはそれで美人だけどな」

 まさか。
 そうは思うけれど、気になってしかたない。
 まだ、朝早く、朝会までには時間がある。
 だけれど、職員室まで、見に行くなどということも、出来そうにない。  

 少し迷って、教室のドアに目をやると、ちょうどいいタイミングで智巳先生が俺らの教室に入り込む。
 
 噂の人だけあって、少し教室内がざわついた。
 とはいえ、まだ朝早く、それほど多くの人が来ているわけではないが。

「工藤」
 俺の名を呼ばれ、緊張が走る。
「はい…」
 俺に。
 用事なのか。
 一昨日のこともあるし、怪我のことも。
 変な気まずさが走る。

「気になる?」
 腫れた頬へと視線が向いてしまう俺を見てか、その頬を少し撫でながらそう聞く。
 気にならないと言えば嘘で。
 なにも言えないでいると、
「殴られた」
 俺がなにか答えるより先にそう答えてくれる。
「え…」
「桐生にね。よかったじゃん? 嫉妬、してくれたみたいで」
 嫉妬…?
 やっぱり、嬉しいだとか思ってしまう。
「…すいません…っ」
「いや、俺が勝手に手出して、殴られたのも自業自得だし、全然、工藤が謝ることないから」
「…でも…なんか、嫉妬とかしてもらえて…。樋口先生、殴られてるのに…」
 うれしいとか思ってしまってる。
「あいつな…俺に、工藤には手、出すなって散々言ってて。俺が約束破っちゃったわけだから、殴られるのは当たり前だし。好きなやつが嫉妬してくれたら、うれしいって思うのも当たり前だろ」
 俺は、少し申し訳ないような気がしながらも、そっと頷いた。
「……ちなみにな。俺も。あのとき、工藤と一緒にいて、尋臣が嫉妬してくれて。嬉しいと思ってるから。お前の気持ちはよくわかる」
小さな声で。
 少したくらむような笑みで、そう俺に教えてくれる。
「尋臣って…」
「…俺の彼女」
 一瞬、体が固まる。
 尋臣が樋口先生の彼女?
「秘密な?」
 樋口先生は、びっくりした目で見てしまう俺を見てか、そう付け足した。
 
あんなにも、難そうで真面目な尋臣が…。
 この人相手に、嫉妬だとかするのか。  
 
別にそれは、恥ずかしいことでもなんでもないのだろう。  
人として、自然な感情で。  
そんなところで、プライドを働かせる必要などなくて。  
素直になればいいのだろう。

「…樋口先生…。ありがとうございます」
「いえいえ。……桐生、いまなら数学準備室にいるから」
 そう教えてくれて。
 なんでもないみたいに教室をあとにした。

 もう一度。  
はっきりさせておきたいから。
 わけのわからないまま、ずるずるしたくはない。

 俺は数学準備室へと向かった。
 ノックをして、準備室へと体を進める。
「…失礼します」
 そう声をかける俺に、桐生はゆっくりと、振り返ってくれた。

「桐生先生…。話が…」
「ん? どうした?」
 いつものようにたくらむような笑みを見せるでもなく。
 ただ、俺をジっと見る。
 俺が、樋口先生のことで、気になっているのだと、わかっているのではないかと思えた。
「樋口先生のこと、殴ったって……」
 桐生は、椅子に座り込んだまま、少し考え込むようにして。
「……まぁ、そうだな」
ため息交じりにそう言った。

 俺には手を出すなって、智巳先生に言っていたのとか。
 俺の知らないところで、実は俺のこと、考えてくれてたんじゃないかとか思うと、ものすごくうれしく感じてしまう。

 少しの沈黙。
 桐生は、ただ、俺の言葉を待つようだった。

「俺と………付き合っていただけますか」  

 はっきりさせたくてそう言うと、桐生はゆっくりと椅子から立ち上がる。
「……俺から言うつもりだったんだけど」
 俺の腕を取り、一気に引き寄せて抱きしめられて。
「なっ……」
 深く口が重なって、ゆっくりと舌が絡めとられた。
「んぅっ……ンっ」
 長いキスを終えて。
 そっと頭を撫でられて。  
体中が酔ったみたいだった。

「当たり前だろう」
 耳元で、そう囁かれる。
 
 当たり前って?
 俺と、付き合うってこと?
「あの……桐生……っ」
「付き合おう」
 頭の中に響き渡るような声で、躊躇することなくそう応えてくれる。  

 もう一度、俺らはまた唇を重ねた。