「工藤」
俺の呼びかけに答えて、工藤雪之丞が、テストを受け取りにくる。
少しだけ、かったるそうに。
結果なんてどうでもいいみたいに。

24点。
このクラス……いや、学年で最低点だ。
平均点は今回60点。
100点を取るやつもいて、そいつらが平均点を上げている。
平均点を下げる側のやつらもせいぜい40点前後だった。

この点数は、ちょっとやばいだろ…。
そう思ってる俺とは裏腹に、工藤の方はどうでもいいといった風。
テスト用紙を受け取って、チラっと点数を確認した後、すぐ折りたたんでしまっていた。

教え方が悪いわけではないはずだ。
実際、他の生徒はある程度、点数を取れている。
どうにも気になってしょうがない。

とりあえず、問題の解説を進めながらも、工藤の方を盗み見る。
やっぱりというかなんというか。
答え合わせなんてこれっぽっちもする気がないようで、ボーっと窓の外に目をやっている。

他のやつらは必死で、俺の解説や黒板に書いた式を書き写したり。
どうにか点数を上げようと、俺のつけ間違えを探すよう確認したり、丸の数を数えて点数計算したり。

工藤はそりゃ、合ってた問題も少ないわけだから、つけ間違いや、丸の数を数えるのはすぐ済むかもしれない。
だが、正しい答えを書き込もうだとかそんな気もまったくないようで。
俺のつけ間違いも点数計算もまったくする気がないようだった。
俺からテストを受け取ったあのときから、工藤がテスト用紙を開くことはなかった。

別に、そういうやつが、工藤しかいないってわけじゃない。
100点のやつってのは、もちろん、俺のつけ間違いなんて探したくないだろうから、すぐさましまってしまったり。
ある程度、点数の悪いやつでも、面倒で数えない奴だっている。

でも、工藤は、面倒だとかそんなんじゃなくって。
テストそのものに興味がないように思えた。
そりゃ、テストが好きってやつはめずらしいかもしれないが。

いや、テストじゃなくって。
数学自体に興味がないのだろうか。
興味がないというよりは、数学が嫌いと言った方がいいだろう。
まぁ、割と好き嫌いで分かれる教科だからそれはかまわない。
けれど、ここまで差がつくと、少々、俺も不安になるというか。
工藤自身が、点数が悪いことに対して、なにも思わないことに、不安に似た感情を抱いていた。
1年ころから、気になってはいたが。
そろそろ、本格的にほかのやつらから離されてくんじゃないかと思うと、人事ながら少しだけ心配になってしまう。

「30点以下のやつは、補充するから。今日の放課後、必ず残るように」
そう、クラス全体に伝えておいた。
もっとも。
30点以下を取ったのは、今回、工藤だけだったが。




放課後。
どうせ、サボって帰るのだろうと予想していた俺は、少し先に2年3組…工藤の教室の前で待った。
案の定、工藤が教室を出て行こうとするのが目に入る。
「工藤」
俺の呼びかけに、きょとんとした様子で振り返った。
「…なに」
「補充だって。言ったろ?」
工藤は顔をしかめて、俺を見上げる。
「30点以下の奴は補充」
「そう…なんだ」
もう一度、言って聞かせると、今、はじめて聞いたかのように答えて、ため息をひとつつく。
「……聞いてなかった?」
「すみません。授業中、ちょっとボーっとしてて……」
確かに。
ボーっとしてたけど。
それは、テストの結果をもらうのが憂鬱だとか、そんなんとはまた違うんだ?
「なにか悩みとかあるわけ?」
「そういうわけじゃ……」
そう言いかけたが、少しだけためらうような感じ。
「悩みがあって、授業に集中できないとか?」
「すいません……」
「いや、別に、怒ってるとかそういうわけじゃないし。謝らなくてもいいんだけど。ただ、悩みがあるんなら相談……」
相談なんて、先生相手に出来るわけないか。
「まぁ、とりあえず、今日は補充、少し付き合ってもらうから…」
空いてる教室。
ココ、2年3組の中に入り込む。
別に居残る奴もいなく、少したつと、俺と工藤以外の生徒はいなくなった。


「……俺だけ、引きとめたんだ?」
「というか……」
30点以下が工藤だけって、言っていいのか?
「ん……。まぁいいから。今日のテスト、ある?」
一応、ちゃんとしまってあったのか、カバンの中からテスト用紙を取り出す。
俺は、横の席のイスを工藤に近づけて座った。

呆れるほどに、間違えてやがる。
というか、ホントに分かってないんだなぁって感じだ。
ケアレスミスとかそんなんでの点落としじゃなくって、解き方がわからないんだろうなってのがよくわかる。

「じゃあ、これな。公式」
覚えてたら解けるよなぁ。
とりあえず俺はテスト用紙に赤で、問題に合った公式を書き込んでやる。
「この問題はなんもひねってないから、とりあえずコレに当てはめれば出来るだろ? 公式覚えるだけだから…。あ、でもたまにわかりにくい公式もあるよな。確率のときのPとCの使いわけとか、正規分布とか……」
っと、一人で話をすすめていることに気づく。
「……当てはめてみて?」
工藤の方を見てみると、力なく手にしたシャーペンで、問題を解いていく。
公式があれば、そりゃ簡単だろう。
のろいペースではあったが問題を解き終えたその横から、俺は丸をうつ。
「ん。正解。出来るだろ?」
「……ん」
駄目だな……。
ボーっとしてやがる。
それに気づかないフリをして、3,4問、一緒に解いてはみるが、どうにもやる気がなさそうで…。
「……やめよっか」
つい、そう口走った。
別にいやみのつもりとかはないんだけど。
「な……んで」
なんでじゃないだろって。
「別に……。今、やる気ないんだろ? あ、なんか言い方悪いね、これ。えっと……ほら、他に考えちゃうこととかあるんなら、勉強とかしても無理だってのはわかるし。怒ってるわけじゃないんだよ。また、気がのったとき……って、勉強に気が乗るときなんてないか」
どうしたものか。
「悩みとかさ。マジで誰かに相談しな。一人で考え込んでても辛いだろって」
しょうがない風に、俺は席を立つ。
それに合わせて、工藤も席を立った。
「あぁ、気にしなくっていいから。また、今度、教えてやる。授業はちゃんと聞けよ」
そう言って、少し俺より背の低いその身長の高さとか、ちょうどいい感じだったこともあり、軽く頭をポンと撫でた。

すると、一瞬俯いたあと、不意に顔を上げ、俺をジッと見る。
「工藤……?」
「今日はどうも……」
「いや、別にかまわないよ」
「俺……桐生先生、好き、で……」
……はい?
工藤は、困ったように、また下を向く。
恥ずかしがってるというのとはまた違った感じで……。

好きって、言った……?
確かに、かわいいけど。
ぶっちゃけ、かわいくなかったら補充なんてしねぇよ。
ほったらかしだ、そんなんは。
でも、俺がかわいいと思うのは、やっぱ生徒として……教え子としてで。
そういう対象で見たことなかったからな。

でも。
そういう対象で見ても、かわいいよな。
いきなり、何を言い出すのかと思ったけど。

いただいちゃって、いいですか……?
とか、誰に許可を得るでもなく心の中で呟いてみたりして。
「工藤……」
そう呼びかけて、頬に手を当てる。
知らないよ。
もう片方の手を後頭部に当て、引き寄せて。
「ぁ……」
口を重ねる直前の、驚くような不安そうな顔とかたまらなくそそられる。

深く口を重ね舌を差し込んでやると、少し、体がビクつくのがわかった。
もしかしなくても初めてですか。
工藤の舌に自分の舌を絡めてやると、触れている工藤の頬が熱くなっていく。
「ぁっん……ゃあっ」
少し口が離れるたびに、かわいらしい声を漏らして。
何度も口を重ね直して舌を吸い上げてやると、少し震えた手で俺のシャツを掴む。
「ンっ……ゃっんぅっ……ンっ」
初心者様には、限界ですか。
力が抜けたようにカクンと膝が折れて、工藤はその場に座り込みそうになる。
それを支えながら、腕の中で工藤の体を半回転させ、後ろから抱いた。
片手で支えたまま、もう片方の手で、ズボンの上から工藤の股間のモノをさすり上げてやる。
「っあっ」
工藤はピクンと体を震わせて少しだけ俺を振り返る。
「工藤……」
耳に口付けながら、ズボンのチャックを下ろしてやって。
直に工藤のモノに触れると、工藤の体が必要以上に強張っていく。
「っや……っ」
「力、抜いて」
「ン……」
耳元で話されるだけで感じるのか、工藤は返事とは違う小さな声を漏らした。

これは、マジでかわいくて。
俺の理性とか吹っ飛びそう……というか、吹っ飛んだ。

体を支えていた手でシャツを捲り上げて、胸の辺りをそっと撫で上げていく。
「っはぁっ……ん、せんせ……」
「力、抜けてきた……?」
「ん……っ、ぁ……」
少し硬くなった胸の突起を軽く爪で何度か引っ掻いてやると、工藤は、俺の手をどかしたいのか、腕に手を絡めた。
「やぁっ……おかし……ぁっっ」
「どうした?」
なぁんて、聞いてみたり。
どうしたもなにも、感じたに決まってるっての。
そろそろ直接いきますか。
工藤のモノをそっと包み込んで、擦り上げてやる。
「ひぁあっっ」
思ったとおり。
めちゃくちゃ感度いい。
ビクンと大きく体が跳ね上がった。
たまんなく、イイかも。
まともに立ってられなそうな工藤の体を支えながら、胸の突起を刺激してやって。
もう片方の手で、工藤自身を何度も擦り上げていく。
「っやぅっ……ンっ、やっ、せんせっ……」
恥ずかしいというよりは、初めて自分以外の人にやられる感覚に、不安でも覚えているみたいだ。
俺にすがりつくようにして、腕に爪をたてる。
「やぁっ……やっ、はぁっ……せん、せぇっ」
「イきそう……?」
素直にコクリと頷くしぐさがなんともかわいい。
だけど、あえて気づかないフリとかしてみたり……。
「工藤……聞いてくれてる?」
「っぁっ……んぅっ……聞いて……やぁっ」
「じゃぁ、答えて欲しいな」
言ってみなって。
「っ……や、あっ……イき、そぅっっ……」
泣き出しそうな声。
これはやばい。
素直に言ってくれちゃうとことか。
それでも、恥ずかしそうに苦しげに押し出した声とか。
すごくイイ。
「せんせっ……あっ、やぁっ……イ……きそぉって」
あぁ、俺が何も答えないから?
もう一度、言ってくれちゃうなんて。
たまんないね。
「ん……もうちょっと……我慢して」
「ンっ……やぅっ」
我慢させる意味?
そんなのただ、焦らしてるだけ。
かわいい工藤を長く見たいから。
というか、もっといろいろ言って欲しいし。
「っあっ……せんせっ……駄……目っ」
「イく…?」
「っンっ……やぁっ、イ……くっ……やぅっ」
これはもしかしなくても、考えがまとまらなくって復唱してくれたりする……?
「出ちゃう……?」
あえて、耳元で囁くように言ってみる。
「っやぁっ……ンっ、出……ちゃうっ……せんせっ、もぉっ」
セックスで開花するタイプ?
ああ、やばい。
ハマった。
もとから工藤はかわいくて、さりげに目とかつけてた部分あるけど。
「教室汚れると厄介だからね……。もうちょっと待って」
工藤自身から手を離して。
俺の腕にしがみつくままの工藤をそっと引き剥がす。
「大丈夫……ちゃんとイかせてあげるから」
工藤を机に座らせて正面に回り込むと、そっと舌で工藤のモノを舐め上げた。
「ぁあっっ、ゃくっ、ンっ……だ、めっ」
「どうして……?」
「もぉっ……出っ……」
「ん……もう、我慢しなくていいよ」
「ぁあっ、んっ、でもっ…やぁあっ」
いろいろ気にしてくれてるんだろうなぁ。
いい子。
「かまわないから……ね?」
そう言い聞かせてから、口の中に含んだ。
「やぁうっ……ぁっ、あっ……やっ、くぅンっ」
工藤は俺の髪の毛に指先を絡めて、限界なのを示しているようだった。
「やぁっ…離し……っンぅっ、やっ……やっ、ぁあっ……やぁあっ、やぁああっ」
髪の毛を掴む手に力が入り、工藤の欲望が俺の口の中で弾け出される。
「せ……んせっ……っん……や……」
トクトクと流れ込む精液を飲み込んで、すべて絞りとるように吸い上げて。
顔をあげると、工藤は俺の方も見てくれず、俯いた状態で目を潤ませていた。

……なんか。
その表情。
マジ泣きだったり……しませんよね?

ものっすごい罪悪感に見舞われる。


や……ってのは。
つい出ちゃった声?
それとも、マジで嫌だったりする?

好きって、こういう意味じゃなかったとか。
やばい。
めちゃくちゃ不安になってきた。

ほら、別に『俺、先生好きですよ〜』とか、気軽に言うもんじゃん、生徒って。
俺、なに真に受けてんだろ。
でも工藤はそういうタイプにも見えなかったし。

嫌がってる生徒に手なんか出して、ちくられでもしてみろって。
俺、職なくすよ?
ちくらせないように、口止めで最後までやっちゃう?
いや、今の状態なら、まだ大丈夫……か?

「ま……まぁなんつーか、冗談はさておき。もうちょっと、がんばれな、数学」
体を離して、軽く肩を叩く。

って、何言ってんだろ、俺。
工藤は、まだ顔を俯かせたまま。
ちょっと、熱烈にしすぎちゃいましたかね。
「……あーっと、工藤?」
いまさら冗談とか言えないとこまでやっちゃった、かな。
というか、冗談のつもりなかったんだけど。
冗談って言うしかないだろ?
工藤がそのつもりじゃないのに俺がやっちゃったわけだから。
工藤の方も真に受けないようにしないと、後々気まずいだろうし。
って、すでにもう気まずいかもしれないけど。

「……次から、ちゃんとやるんで」
……って、数学の話、だよな。
「あ……あ。それならいいんだけど」
で。
今、俺がしちゃった行為についてはどう考えてるんだか。
いきなり変なことされたとか、思ってるんだろうか。


「今日補充で俺だけ呼んだのは、俺だけがバカだから?」
予想外のセリフ。
バカ……っていうか。
まぁ、そうなんだけど。
どう言えばいいかな。
「お前だけ呼んだっていうかさ。30点以下は全員呼んだんだけど、お前しか来なかったっていうか……」
あ、俺が工藤、引きとめたんじゃんか。
どうしよう。
「別にどうでもいいけど」
どうでもいいって、どういうことだか。
「工藤……」
「テストの点さえよければ、先生はいいんでしょう?」
あまりに大当たりなこと言われると返しようがなくなっちまうな。
「工藤……なんか理由あんだろ? ほら、授業に集中出来ないさぁ」
って俺、無理やり話変えてる気がしないでもないけど。

テストの点がよくても、悩みがあったら駄目ってことで。
でもテストの点がよかったら、俺もこいつが悩んでるだとか気づかなかったかもしれないな。

「……もう、ほっとけよ」
「ほっとけないんだけどなぁ」
「…嫌いだから」
数学が、ですか。
はっきり言いますね、これは。
「もうちょっと、がんばってみてよ」
「わけわかんねぇ」
「だから、教えてあげるから」
「いらないっ」
いらない……って。
それは結構ショック。

「嫌いだから……だけ? 集中出来ない理由。もっとほかにある感じなんだけど。数学の点数どうこうは置いといて。悩んでるのとか、ほっとけないし」
そう言うと、工藤は怒っていた顔を悔しそうな表情に変える。
あ、なんか少し泣きそうにも見えてきた。

それが自分でもわかったのか、工藤は、机から降りるとパッと俺に背を向ける。
「もうどっか行けってば」

もしかして……。
さっきマジで告ってくれました……?
授業に集中できない理由って。
俺が気になるから……?

「えっと……工藤……」
工藤は確かにかわいいよ。
さっき、マジで最後までやっちゃおうとか思ってたし。
でも17歳だろ。
一時の気の迷いだろ。

別に俺は真面目な恋愛しかしません…ってわけでもないし。
工藤が俺に飽きるまでとことん付き合ってやってもかまわないんだけど…。

傷付くのは、工藤の方だよなぁ?
俺はまぁ先生で、工藤は生徒で。
そうそうそこらへんの熱いカップルみたいなことが普段から出来るわけでもないし。
寂しい想いするよって。

「……工藤。俺のことさ、好き?」
「……っ」
さっきは、すんなり俺に告ったくせに。
今度は、悔しそうに口ごもる。

だよな……。
俺の態度。
明らかに工藤には興味がないけど、好かれる分にはかまわないから手を出した……みたいだったし。
つまりからかって遊んでるみたいで。
工藤には悪い印象だろうな。

「10歳もさぁ、年上の奴なんて相手にしても、つまんないだろ?」
って、なに俺、断ろうとしてるんだか。

10歳上でもかまいませんとか……言ってくれちゃったりしないかな……。
しないよな。
一度、俺が冗談……とか言っちゃったし。
完全に心閉ざされちゃっただろうな。

「俺もさぁ。工藤のこと、好きだよ?」
「っ……あんまり馬鹿にすんなよ……。そういう好きじゃっ」
あぁ、俺の好きも、伝わんないし。
そりゃあ先生が生徒に好きとか言ったら、普通に考えて『出来がよくて好きですよ〜』なんてノリみたいだし。
どうしたものか。

「桐生先生……。忘れてください、なにもかも。人生最大の汚点です」
たかが17年で、人生最大って言われてもねぇ。
でも、ほどよく傷ついた。
「なんで? 汚点? 俺のこと、好きでいてくれることが……? それとも、抜かれちゃったことが……?」
真剣に言うような内容でもないから、あえて軽く言ってみる。
言った後で、ふざけてる嫌味なやつみたいだと自分でも思った。

けどまあ、どっちもなんだろうな。
工藤はなにも答えず、屈辱に耐えるような表情で俺を睨んだ。

「……なんかすれ違いが生じたんだけど……。聞いてくれる余裕はない?」
少し、ため息交じりに窺ってみる。
俺まで感情的になったらそれこそわけわかんないからな。
「もう全部忘れろっつってんだろーが。俺は、あんな女みてぇな奴じゃないんだよ」
自分まで否定しはじめましたか。
忘れろっていうか。
自分が忘れたいんじゃないのかって。
「かわいかったよ」
「くっ……かわいくなんか……なりたくないっ」

あ。
そういえば。
工藤って応援団に入ってたっけ。
しかも2年のリーダーだったような。
あんなかわいいって言葉とは無縁の男どもの集まる中によく混じってるよな。
美人顔。
顔だけ見てれば、かわいい…って感じだけど。
応援団のときはやっぱ、かっこいいのかな。
レディースの長みたい。
プライド高そう。

ってか。
あんな中にいたら、嫌でもはじめは容姿のことでからかわれそうだよな。
かわいいとか、なんとか。
かわいそうに。
それでも、2年のリーダーになったってのは、別に面倒な役割を押し付けられたとかそんなんじゃなくって、いろいろ信頼とか得たんだろう。
うん。
なかなかかっこいい。

そう。
精神が男らしいだけに、絶対、容姿のことで、コンプレックス抱いてそうだ。
かわいいって言われるのを極度に嫌がったり。
女扱いされるのが嫌だったりするタイプ。

って、ちょっと待てよ。
それなのに俺に告ってきたってのは、結構、すごい決意とか…あった?

「工藤……」
どう言えばいいのかな。
まだ、悔しそうな顔してる。
冗談でやられたくなかったんだろうな。
わかるんだけど。

相手が俺だからこそ、あんだけさらけ出してくれたんだ?
でもいくらなんでも冗談……みたいなやつ相手には、あんな恥ずかしい姿、さらせないって?
だから、忘れて欲しい? 汚点?

「工藤」
もう一度名前を呼んで。
睨みながら顔を上げる工藤の視線をすり抜け、不意打ちで首筋に口付ける。
「なっっ……ぁ、ン」
ビクンと体を震え上がらせ、必死で俺をどかそうとシャツを掴む。
「ゃっ……イッ、あ」
キツく吸い上げてやってから、お望みどおり体を離した。

「プライド……?」
そう問いかけると、工藤は少し息を荒げたまま、また俺を睨みつける。

プライドがあるから。
冗談なんかでやられたくないんだろう。
男で。
応援団で。
容姿のこととか。
いろんなことに対するプライド。
「……わかんなくてもいいけど。ね……。俺のこと、まだ好きでいて?」
俺が下手に出たせいか。
少し、困ったように視線をさ迷わせる。
かわいいかも。

俺が心閉ざさせちゃったわけだし、なんとかしないと。
でも冗談のつもりはなかったって、いまさら言ってもたぶん駄目だよな。
プライドさえ、なくなってくれればねぇ?
「堕としてあげる」
耳元で伝えながら、頭を軽く撫でてやる。

いったん冗談めかしちゃったのは、もうどうにもならないだろ。
なら、これから。
本気なとこ見せるしかない。
「明日もまた補充な。残ってて」
これは、先生の特権。
工藤の数学の点数が悪いのも、あながち悪くないかも……なんて。
先生にあるまじきことを考えてしまったり。

「かわいがってあげるから……ね」
工藤は悔しそうに顔をゆがませながら、頬を赤く染める。

やっぱ、かわいがられたいくせに。
そのプライド。
堕としてみせましょうかね……。