「工藤−」
呆れたようにも怒ったようにも聞き取れる声で呼ばれて目を覚ます。
「……なに」
「なにじゃないだろ。はい、寝てないで、問題解きに来な」
数学の授業中。
そう数学教師の桐生に言われた俺は、しょうがなく黒板の方へと向かった。
「次の日に影響出すなって」
俺の耳元で冷めたようにそう言うと、チョークを手渡す。
「てめーの授業なんて聞く気になんねぇからだろーが」
「そういう口は、問題が解けてからな」
桐生は教卓にもたれて腕組みをしながら、俺が問題を解くのをジっと見た。

俺が黒板に目を向けると、さっぱりと言っていいほどわけのわからない問題。
「……習ってねぇだろ」
「お前が受けてないだけだろ。さっき説明したばっかんとこ」
振り向いた俺を楽しそうに見てから、教卓に隠れるようにして俺の股間に触れる。
「……っ」
不覚にも体がビクついて、黒板に付けたままのチョークが意味のない線を引いた。
「解けないらしいねぇ。はい、今日は居残り補充な」
俺からチョークを取り上げると、席につくよう体を押す。
イラつく気持ちを抑え、俺は教室を出て行こうとドアに向かった。
「保健室?」
そう聞く桐生を無視して、教室をあとにした。



「失礼します……」
一応そう断ってから保健室に入ると、ベッドの仕切りのカーテンはすべて縛ったまま。
めずらしく柊先生しかそこにはいなかった。
「雪之丞、顔色悪いよー。ちゃんと寝てんの?」
俺を見るなりそう言うもんだから、そこら辺はさすが保健の先生だと思う。
「あんまり……ちょっと寝させて下さい」
「はいよ。……体壊すなよ。心配」
「俺だって……」
「あまり言いたくもないけど、やっぱ職業がら、気になっちゃうしね。桐生ちゃんもまぁ大人だから、害のあることはしないと思うけど」
俺の顔色がそこまで悪いのか、桐生との長い付き合いで性格をわかっているのか、柊先生は俺をよく心配してくれた。
「まぁ、今日はゆっくり寝な」
そう言うと、カーテンを縛った布をひとつ解く。
ベッドに寝転がると柊先生はカーテンを閉めてくれた。



それからどれくらいたったんだろう。
オデコのあたりに手を当てられる感触で目を覚ます。
「柊……せんせ……?」
熱でも見てくれているのだろうか。
俺はまだ眠かったせいもあり、目を瞑ったままでいた。
すると、一気に俺の体が反転させられうつ伏せになる。
「っんっ!!」
上から重圧がかかって、誰かが圧し掛かっているんだとわかった。
右手首にカシャンと、手錠がかけられる感覚。
その先を左手首へと無理やりかけられる。
圧し掛かられているのと、見えないのとで、抵抗しようにも出来ず、こうもやすやすと手錠をかけられてしまったことに、屈辱を感じた。
だいたいいきなりのことすぎて、わけがわからない。
「誰が柊先生だって……?」
俺の耳元でそう言うと、髪をそっと指で絡めとられる感触。
「っ……」
「わかるだろ? 誰か」
声でわかる。
いや、それよりも、俺にこんなことするのは一人しかいない。
桐生だ。
髪から手を離すと、桐生は俺の体を仰向けにし、跨ぎながらこちらを見下ろす。
俺はすぐさま、膝を桐生の背中に打ちつける。
だけど、乗られているのと無理な体勢のせいもあり、あまり力が入らず、なんの効果も得られなかった。
むしろ、桐生を怒らす原因が増えただけ。
「何やってんの、お前」
からかうような口調でそう言うと、シャツのボタンを上から順に外される。
「なにして……っ」
「昨日もやっただろ? 忘れた?」
忘れるわけがない。
だからって、当たり前のようにやられるつもりはない。

シャツのボタンを外され、肌が露わになる。
桐生は俺の胸元にそっと手を這わしながら軽く笑った。
「……見るなっ」
「工藤は色が白いから、赤が映えるね」
そう言うと、胸元の昨日付けたれたキスマークの上に口付ける。
「……んっ」
「こんだけ痕残ってりゃ、脱ぐに脱げないよな? 水泳の授業、サボってんだろ?」
「……っ」
隠せば余計、桐生との関係を肯定するみたいで嫌だった。
だけど、こんなのは見せられたもんじゃない。
「……やっぱり、ね」
納得した様子で、桐生は俺の横に寝転がると、右手で俺の肌を撫でたまま、耳元に舌を這わす。
「っン、ぅ……」
「……見せられないよな……こんなの」
桐生の右手が、腹あたりを撫でたかと思うと、器用に片手でズボンのベルトを外していく。
「嫌ならもっと徹底的に嫌がったらどうなんだ?」
後で組み敷かれるのはいつものこと。
だからってやすやすやられるのは俺のプライドが許さない。
敵わないとは思いながらも、体を捻らせ、足で桐生の体を蹴りつけた。
「少しは工藤の体、心配してんだけど……それだけ元気なら、大丈夫そうだな」
足を高々と取られ靴下を脱がされると、そっと足の甲を舐め上げられる。
「っんぅっ」
「こんな蹴りが通じるとか思ってるんじゃないだろ? そんな体勢から蹴ったんじゃ、無駄に腹筋使って体力消耗するだけだし」
「うるさっ」
ズボンを脱がしにかかる桐生に必死で抵抗を試みるが、何度も足をバタつかせた後に、結局、すべて剥ぎ取られてしまった。
「どうしてこうも抵抗するんだろうね」
「嫌だからに決まって……」
さっき嫌なら嫌がれと言ったのは、桐生の方だ。
「相手が柊だったら素直にやられた? さっき俺と柊、間違えただろ」
「……柊先生は、こんなこと……」
「彼のことは先生って呼ぶんだ……。俺のことも呼んでよ。桐生先生って」
「誰が……っ。お前なんて先生と思っちゃいねぇんだよ」
「じゃぁ、どう思ってくれてる? 恋人?」
笑いながら俺を見下ろすその態度に、むかついて、蹴り上げようとした足はまたしても軽々と取り上げられてしまっていた。
「普通、何度もやる? 何度やっても通じないのにさ」
膝を曲げられ、大きく足を開かされる。
股間に視線が突き刺さってきて、俺は屈辱感に耐えながら顔を逸らした。
「諦めた?」
そうとだけ言ってから、そっと舌先で、俺のモノを舐め上げる。
「ひぁあ……っ」
声を殺す間もなく、つい思いっきり恥ずかしい声をあげてしまう。
「あいかわらず、いい声で鳴くね……。ガラの悪い連中どもをまとめあげてる応援団長様が、少しやられただけで、こんな声をあげるなんて。俺以外、知らないんだろ」
わざとらしく言われるけれど、なにも反論出来ない。
体が震えて、全身の力が抜け落ちる。
「このギャップが堪らないんだよね……」
「くっ……」
「いくら強がっても工藤はいやらしいから、体を弄られると、すぐ何も考えられなくなるだろ」
桐生は、俺のを口の中に含んでしまい、乾いた指先で後ろの秘部の周りを緩々と擦りあげた。
「っふぁっ……ンっ、んぅっ、んっ」
桐生の舌が絡みつく。
尖らせた舌先が強く裏筋を舐めあげる。
そのまま余っている手で、桐生は根元の袋を揉みあげた。
「っんぅっ……ンっ、ぁっ、あっ、ぅンんっ」
気持ちよくて、なにも考えられなくて、抵抗する気が失せていく。
「んっ……ンっ」
少し腰が浮いてしまう俺に気付いてか、桐生は一旦口を離すと、俺の腰を引き寄せる。
「なっ……」
「後ろ、欲しいんだろ」
丁寧に後ろの秘部に舌を這わされて、体がビクンとしなる。
「っンぅ……」
ピチャピチャと音を立ててたっぷりと周りを濡らすと、舌先がゆっくりと中に入り込んできた。
「ぁっんぅ……っん」
舌先を出入りさせながらも、手は俺のモノに絡まって、何度も何度も擦り上げられる。
「はぁっ……ぁ、っんっ……ンっ」
亀頭の先まで、指先を滑らせるようにぬるぬると撫でられてしまう。
さっき舐められた唾液だけじゃなく、先走りの液があふれてしまっているのがわかった。
「ひっぅっ……んっ、ぁっンっ」
舌を抜いた桐生は、体を起こしてまた俺を見下ろす。 <
少し得意げな表情で。
「……すごくそそられるね。無理やり男娼にされた新人って感じで」
からかうようにそう言われ屈辱で体が熱くなっていくのを感じた。
「……ふざけんなっ」
「工藤なら、売れっ子になれるよ」
あいかわらず笑いながらふざけたようにそう言うと、見せつけるように指先を舌で濡らす。
根元まで舐めあげると、桐生はその指を俺の足の間へと割り込ませる。
「あ……桐生……」
「いつまでたっても不安そうな顔するね……。堪らなくイイ……」
「誰が……っ」
不安なんかじゃない……そう言えないのは、やはり不安だからで。
いつまでたっても、慣れることが出来ないでいた。
不安な表情になってしまっている俺を見てなのか、桐生はゆっくりと、指を俺の中へと押し込んでいった。
「っくぅンっ…や…くっ」
桐生の視線から逃げるように顔をそらす。
そんな俺の行動に対抗するかのように、桐生は中に入れた指を軽く動かしていく。
「っぅんんんっ」
「感じる……?」
こうもいいようにされるのが悔しくて、俺は桐生の問いかけにはなにも答えなかった。
「ふぁっ……ンっやっ」
それでも、徐々に余裕がなくなってくる。
体がゾクゾクしておかしくて、なにも考えられなくなってしまう。
それがわかっているのか、桐生は俺の耳もとに口付けて、
「力、抜いて…」
囁くように俺に告げる。
余計に感じてしまい、俺はついソコを締め付けてしまっていた。
「困った子だね」
耳元で軽く笑われても、自業自得というか。
それよりも桐生の声に感じてしまっていた自分が嫌になる。
「そんなに、気持ちいいんだ?」
「ん……」
耳にかかる吐息と甘ったるい声が、全身を駆け巡る。
俺に語りかける桐生の声さえも感じさせる材料で、体がゾクゾクと震えてしまっていた。

桐生は2本に増やした指で、じっくりと中をかき回していく。
言葉とは裏腹に嫌なくらいやさしい指つきで…。
もう駄目だ……。
酔ったみたいに、頭がボーっとする。
焦らすでもなく、かといって、ものすごい刺激を送られるわけでもない。
心地よい刺激を送られて、抵抗意識なんてものはすでにないに等しい。
「はぁっ……あっんぅっ」
長いこと続けられると、羞恥心も薄れていく。
「……イイ?」
目を伏せている俺の上から、声を被せられ、俺はそのまま、そっと頷いてしまっていた。
「ふぁっ……ンっ、桐生……ぁあっ……あっっ」
「……俺のこと、好きだろ?」
指の動きを止めての唐突な質問に、少し酔いが冷めるような感覚。
「な……っあっ」
「今でもまだ、好きだからこそ、こうやってやらせてくれるんだって、俺は思ってるんだけど」
好き……?
確かに、以前は好きで。
でも今は……?
「っはぁっ、ん、無理やり……やってるだけだろーがっ」
「んー……。嫌がってるように見えないから」
俺が感じてるから?
だって、こんな風にされたら感じるだろ?
「嫌に決まって……っ」
そう反論する俺の口を、桐生がそっと指先で制した。
「嫌じゃないね。嫌なふりしてる、だろ」
「ふり……って」
嫌なふりしてる?
俺が?
「ね。そろそろ素直になってくれないと……」
「っ……うるさいっ。お前なんて好きなわけないだろ」
「認めたくないだけだろ……」
自信ありげに桐生はそう言うと、指を引き抜いて俺の体を抱き起こす。
「こんな風にさ。やられる自分ってのを、認めたくないんだろ?」
俺を抱き寄せたまま、耳元でそう言った。


悔しい。
桐生には、なんでも読み取られてしまう。
だって、俺はみんなから団長として慕われていて。
かっこいいってな存在でいたいのに。
こんな女々しい自分は嫌で。
屈辱的で。
やすやすとやられるのは、プライドが許さない。
しかも、一度告白して、振られた相手に。

応援団の後輩にも申し訳ない気にさえなってくる。
みんなを引き連れる立場でいられなくなるような気がする。

嫌がらないわけには、いかないだろ……?

「……や、なんだよ、桐生……っ」
「俺が嫌なの……? それとも自分が嫌?」
こんな、俺は嫌……。
「かっこわりぃ……」
「つまり……かっこ悪いから嫌がってるだけで。俺自身が嫌ってわけでもないんだ?」
大して考えもせずについ口走った言葉で、桐生に本心を見抜かれる。
「違っ」
「なにが?」
慌てて否定してみるけれど、本当は違っていなくて。
桐生の言うことはいつも正しくて。
なにも言い返せないでいた。



桐生はまた俺をベッドに押し倒すと、ひざ裏に手を回し、露わになった秘部に高ぶったモノを押し付ける。
それから逃れるみたいに、俺の体はビクついてしまっていた。
「や……っ」
「今更、かっこわるいとかある? もう散々、やられてんのに」
もう堕ちるとこまで堕ちているだとか言いたいのだろうか。
「それに、俺のことは嫌いじゃないんだろ?」
「きっ……嫌いに決まってんだろーがっ。いつも授業中、俺ばっか注意しやがってうざいしっ」
「それから?」
「……こうやって、玩具みたいな扱いするし。お前のせいで……」
どんどん、堕ちていく。
いつか嫌がれなくなるんじゃないかと思うと、怖くて。
かっこ悪くって、申し訳なくて。
俺という人物が、堕ちていく。

桐生にそれを伝えたら『俺をまた好きになってくれるから?』とか言いかねない。
嫌がれないというのは、結局、そういうことだから。

また好きになってしまったら、きっと嫌がれない。
嫌がらないわけにはいかない。

堕ちたくない。


だけど、もうギリギリだった。
応援団長であるというプライドだけが、桐生を好きだと認めれない理由で。
認めてないだけで。
こんな風に体が熱くなるのは、決して桐生にテクニックがあるだとかそれだけじゃないってわかってる。
今でもまだ好きなんだ……。

「わかんないかなぁ? 君が好きだからやってるってこと」
桐生は楽しそうに言い切ると、体を進めてゆっくりと俺の中へと押し入ってくる。
「っくっ……ぅンっ、んーっ」
俺に対する態度だけが、ほかの生徒と違っているのはわかっていた。
たとえそれが俺にとって不愉快なことであっても、俺を特別に見てくれてるんじゃないかと思った。
思ってはいたけれど、それが好きだということとは繋がらなくて。
――君が好きだからやってる――
そう直接言われると、奥深くにしまい込んでいた感情が湧き上がってくる。
もう一度、期待しそうになる。
俺のこと、好き……?
でも。
違うだろ?
俺がお前のこと、まだどこかでホントは好きだって。
それがわかってるから、からかってるだけに決まってる。


「かっこわるくなんてないだろ……?」
俺の中、奥へと体を進めながら、耳元でまたそっと囁くような声。
「ぁっ、はぁっ……」
「雪之……」
さっきまで、からかうみたいな口調だったのに……。
そんな熱っぽく俺の名を呼ぶなんて、ずるい。
一層、体が熱くなる。
「……ン」
「もっと……ちゃんと、受け入れてよ」
「ゃ……くっ」
そっと前後に小刻みに体を動かされ、内壁を擦りあげられる。
「ぁっ……ふっ、んぅうっ……やっ」
「雪之……」
俺の名を呼びながら、前髪をそっとかき上げてくれる仕草は、いつもの桐生なんかとは全然違う。
「やぅっ……桐生っ……やっあっ」
「大丈夫……?」
無理やりやっといて。
こんな状態にした張本人なのに。
普段俺のことなんて、気遣わないくせに。

そんな風に優しく言われたら、むかついてたこと、すべて忘れてしまいそうになる。
「はぁっ……あっ……やっ、んぅっ……んぅんんっ」
「キツい……よね。力、抜ける?」
そっと首を横に振ると、髪に触れていた手で、頬を撫でてくれる。 
「無理、しなくていいから」
「っ…ぁン…っぁっ…」
無理しなくていいって、どういうことなのか、わからない。
こっちはすべて受身でやられてるわけだから、そんなこと言われてもどうにも対応出来ない。
口先だけじゃないか。
そう思うのに、なんだかものすごく桐生がいい人みたいに思えてきてしまう。
「桐生……っんっ、ぁあぁっ」
中を掻き回されて擦られて。
体中が熱くて、わけがわからなくなっていった。
「俺のこと、好き……?」
また……。
あまったるい声で、そう囁く。
体中に響くような声。
ゾクゾクする。
ほぼ無意識に近い状態で、俺は頷いてしまっていた。
本当に、なにも考えず、反射的に。
でもそれは本当の気持ちで……。
俺はこの人が大好きなんだ……。

「……だろ? すぐ認めればいいものを」
甘いヒトトキは、一瞬で。
いつもの桐生が耳元で囁く。
悪魔の囁きって言葉が似合う気がする。
含みのある自信ありげな、口調。
軽く鼻で笑うような声色。
「……ぅ……ぁっン……っ」
それでも、どうにも抵抗出来なくて。
そんな声でも囁かれたら全身がおかしくなりそうで。

俺に好きだと言わすための演技なのだろうけれど、甘いやさしい桐生が頭から離れない。
「感じた?」
くすくす笑う桐生に笑われ、逆側へと顔を背ける。
「誰が……んっ」
桐生はまた指先で俺の前髪を弄ぶ。
「俺のこと……感じて欲しいな」
甘い声。
俺が、そういうのに弱いってわかっててやってるに決まってる。
わけもわからず、顔が熱くなる。
「かわいいな、雪之は……」
からかうでもなく、桐生は独り言の用呟いた。

直後、意外にも桐生はゆっくりと俺の中から自分のモノを引き抜く。
「んっ……」
何事なのかと、薄めがちに桐生を見ても、にっこり笑うだけ。
「感じないんだろ……?」
「……っ」
「不感症の雪之に興味がないとかそんなんじゃないよ。安心して。感じさせてあげるから」
俺が感じていることくらいわかっているだろうに、桐生はあえてそう言うと、小さなローターを見せびらかしてきた。
何も言えずに見守る中、桐生はローターにローションを垂らし濡らしていく。
「ん……」
つい後ずさろうとするけれど、体に力が入らなくて、動けなくて。
ベッドを踏みしめた足が、無駄にシーツの上を滑った。
「かわいいね。逃げたい?」
そのローションのついたローターを、中へとなんなく押し込むと、もう一つ、ローターを取り出す。
「やっ……」
なにかされたわけでもないのに、つい、漏らしてしまったプライドもなにもない言葉。
羞恥にかられ顔を背けるけれど、桐生が笑いながらこっちを見ているのが想像できる。
「大丈夫……2つも入れないから。後ろと一緒に前もしてあげるだけだからね」
子供に言い聞かすみたいにそう言うと、俺のモノにローターを密着させた状態で、コードで縛り付けた。
「っ……桐生っ」
「どっちを先に入れようか」
俺の答えなどはなから期待していないのか、桐生はすぐさま後ろのローターのスイッチをONにする。
「っぁあっ……んぅっ、ンっ」
静かな保健室に小さく機械音が響く。
「熱い? 中……」
少し含み笑いしながらそう言うもんだから、妙な焦りを感じてしまう。
「っな……ぁっ、んっ」
ローションのせいなのかわからないが、中が焼けるように熱く感じた。
目を開けているのでさえ辛くなる。
「……なかなか意思が強いというかなんというか。プライド高いせい? もっとさ。欲望に素直になって欲しいんだけどねぇ」
欲しがってしまいそうになったときに限ってそういうことを言う。 欲しがるに欲しがれない。
「っンぅっ……やっ、ぁあっ」
「前も、入れてやるからな」
コードの絡みついた俺のモノを指先でなで上げてから、ローターのスイッチをONにする。
「ひぁっ……ンっ、やぁあっ」
全身に電流が走ったみたいに、大きく体が跳ね上がった。
「俺より機械で感じるわけ?」
笑いながら言ってはいるけれど、その口調は少し厳しくもある。
それでも、俺はもうそんなこと考えてる余裕はない。
「俺のことも、一緒に感じて?」
楽しそうにそう言うと、ローターの入ったままの状態のソコに桐生のモノが触れる。
「っんぅっ……やっぁっ」
感じたくない。
「欲しいくせに……」
欲しい。
けれど俺のことちゃんと好きでもない相手で感じたくない。
「ぁっ……桐生……っ、あっ……くンっ」
ゆっくりと、ローターを押し進めながら中へと桐生自身が入り込んでくる。
桐生はまた俺の髪に指を絡めながら、耳元に舌を這わした。
「はぁあっ……やっぁっ、ンっ……んぅうっ」
体がビクンと震え上がる。
何度もイッてしまいそうになるのに、根元に巻きついたコードがそれを許さない。
「雪之……。もう2年もたつね」
含みを聞かせた口調。
耳元で囁きながら、桐生は奥の方へと、どんどん体を進めた。
「やああっ…あっんぅっ……ぁンっ」
生理的かも精神的かもわからない涙を指で拭ってくれながら、桐生がすべて押し込んでしまう。
「素直だったよなぁ。あの頃は」
「やっくっ……ンっ……あぁあっ」

2年生だった俺は、応援団の全体の中では、まだまだ初心者の域だったけど、2年のリーダーで、2年後の応援団長が決まっていた。
誇らしいことで。
プライドを持たなければならないことで。
俺をリーダーにしてくれた同級生の奴らのためにも、かっこいい存在でなければならなかった。

それなのに。
桐生を好きになってしまった。
年下である俺が女役なのだと、そのときなんとなく思った。
そんな女々しいこと考えたくもないのに、桐生に抱いてほしいとさえ考えるようになっていて。
好きで好きでたまらなかった。

桐生なら、いいと思った。
というか。
同級生にかっこ悪いと言われようが、俺の気持ちがおさまることはないだろうから。

そう思って、桐生に気持ちを伝えた。
それが間違いだったんだ。



「覚えてるんだろ? ちゃんと、2年前のこと」
俺の中を出入りしながらそんなこと言われても、まともに答えられるはずなんてない。
「やぅっ……ンっ……あっあっ、ンっ」
「俺もね……雪之が好き」
「……っ……やっ」
好きだからって、信じられるわけじゃない。
弄ばれてもいいと言えるほど堕ちてはいない。
プライドがあるから。

「信じてくれないんだねぇ」
桐生はそう言ってから、俺のモノに絡まったローターのコードを外してくれる。
んっ……ぁっ、やあっ」
「いいよ、イって。ずいぶん、我慢してくれたんだろ? 俺も……イクから」
そうやって。
ときどき優しくしてくれるから。
ずっと、キツいままでいてくれたらいいのに。
不意に優しい一面を見せられるもんだから、嫌いになれない。
「桐生っ……ぁっ、やぁ……んっ」
「雪之……」
少し荒めの息遣いで呼ばれ、狂いそうなほどに感じてしまう。
「くっ……んっ…ああっ……やっ、ぁっ」
もしも手錠がかかってなかったら。
きっと俺は桐生の腕に自分の手を絡めてたに違いない。
背中に手を這わしていたかもしれない。
そんな恥ずかしいことをしなくて済んでよかったと思った。
<「あっ…はぁ、んっ……んんっ!」
「雪之……ホント、だから……好き……」
「や……あ……っ、あぁンッ……やっ、桐生っ」
「ん……雪之……」
「ぁっ、あっ……やぁっ…やっぁ……やぁああっ」

体が大きく脈打って。
桐生がナカでイったのを理解する。
ローターも何もかも引き抜かれるころには、体中の力が抜けて放心状態だった。



「……ごめんって謝ればいいのかな」
手錠をはずした俺の手首に口付けながら、桐生が目線をこっちに向ける。
今、やってしまったことに対しての『ごめん』ではないのだろう。
何も答えずにいると、桐生は俺の髪に触れ頭を撫でた。
「2年前、まだ君をね。信じることが出来なかったんだ」
やさしい声。
演技なのかわからない。
怖い。
だまされるんじゃないかと思うと、不安でたまらない。
「たった一瞬の気の迷いかもしれないし。友達としてだとかそういう好きかもしれないし。……付き合っても別れる恋人同士がいるだろ? そういう人たちみたく、雪之はすぐ別の人を好きになるかもしれない」
あのころ、うまい具合にはぐらかされた。
「……もう、いちいち2年前の話とかすんな」
桐生に告白したことが、俺にとって恥ずかしくてたまらないことで。
変なフォローなんて入れないで欲しい。
「駄目。俺も雪之が好きだって。何度も言っただろ?」
信じられない。
あとから、そんなこと言われても。

好きで好きでどうしようもなくて。
プライドなんかどうでもよくて。
それなのにはぐらかされてしまった。

いくら好きでも、いったんはぐらかされた相手に、しつこく付きまとえない。
そんな相手に好きだと言われても『はいそうですか』ってにこにこ出来るわけがない。
弄ばれるだけならば、自分から引いた方がいい。
かっこ悪い。
結局、俺にはまだプライドが残っていたんだ。

「いきなり10歳も下の子に告白されて。素直に受け止めれると思う?」
俺は2年前。
まだ、17歳で。
当時27歳の桐生から見たらまだまだ子供で。
ちゃんとした『好き』の意味とかわかってないガキに思われてたんだろうか。
近所のお兄ちゃんに親しみを持つガキみたく。

あのころはあのころで、真面目に考えてたつもりだ。
だけど2年たって。
今2年生のやつらを見て、2つしか違わないのにまだ子供だと思ったり。
恋愛は一時期のお遊び…みたいな考え方をしていそうだと思ったりもする。
2年前の自分はそんな風に考えてなかったのにも関わらず、今の2年がそう見える。

たとえば小学校高学年ともなれば、セックスだとか知識はあった。
それなのに、今の小学校高学年の子に、それを尋ねられれば、言っていいものかと迷ってしまうのと近いと思う。

自分だってその経路をたどったのに、そのときの自分の立場に立てず、年下の子を、年齢以上に下に見てしまう。

10歳も離れていれば。
俺なんて、ものすごくガキで。
あのときの俺の告白なんて、単なる気まぐれでしたものだと思われても仕方がないのかもしれない。
「だからって振ったやつ相手にこんなことすんのかよ」
「振ったって……別に、振ってないだろ?」
桐生はそう言うけれど。
はぐらかしたってのは、結局、振ったってのと変わらない。
俺の気持ちに応えられなかったわけだから。

「……お前はなんで今、俺のこと、こんな風に酷くするわけ……?」
好きでいてくれるのならば。
ずっとやさしくしてくれてもいいのに。
「雪之があまりにもかっこ悪いとかプライドとか考えてるから。堕としたいんだよね。なにも考えられなくなるくらいに」
「な……んで」
「わかるよ。プライドだけが、俺のこと拒んでるなって。だから、そのプライドをズタズタにね」
わかれよ、とでも言いたげに苦笑いしながら、軽く俺の頭を小突いた。
桐生の言う通り、やさしくされるだけじゃ、いつまでたっても信じないで、疑い続けるかもしれない。
何度かやさしくされたからといって、一度振られたことが帳消しになるわけじゃないだろうから。

堕ちてもいい…。
また、そう思えるようになってきてしまっていた。
プライドもなにも考えられなくなるくらい。
この人になら堕とされてもかまわないと思った。