「凪ちゃーん。はい、プレゼント」 「わーい。新しいピアス? ありがと」 あれからもう、2年がたつ。 もう賭けのこととか気にしてない。 信じられないってわけでもない。 この人のこと、信じてる。 だけど、不安はあるんだ。 これはまた、別の不安。 騙されてるだなんて思わない。 だけれど、いつか、俺の元から去ってってしまうんじゃないかとか、そう思う。 そんな不安。 俺の部屋は優斗先輩がくれた物でいっぱい。 そうやって、俺に物与えて、繋がってようとしてるだけなんじゃないかなってたまに思っちゃう。 というか。 会えないかわり? 好意でくれてるのに。俺ってひどい子だね。 「しようよ…」 「ん?」 「セックス。時間ない?」 俺に、かまってられない? 物だけ与えて、それで、つながってるだけ? だったら、無理して付き合ってくれなくてもいいよ。 そりゃ、俺は別れたくないけれど。 「ごめ…。今日は、ちょっと…」 謝って、申し訳ない顔を見せてから、俺を引き寄せてくれる。 やっぱり、あったかくて居心地がいいんだ。 「凪…。この痕、なんやん。俺、つけとらんよ?」 首筋を指で撫でながら、少し怒った口調でそう聞いてくる。 ちょっと怖い口調。 でも、嬉しいんだ。 もっと縛って欲しい。 俺が、浮気したらもっと怒って欲しい。 本気じゃないんなら、浮気してもいいよって、お互い、言い合った。 それでもやっぱり、本当に浮気すると、優斗先輩は少し怒ってくれる。 浮気って言っても、もちろん遊び。 感情なんて入ってない。 あぁ、これじゃあ浮気になんないのかな。感情なしだってんなら。 「…つけられちゃった…」 怒ってくれるのは、やっぱり嬉しい。 いつも不安だもん。 俺が浮気して。 優斗先輩が、怒ってくれて。 …俺、そんなことでしか、優斗先輩の愛情みたいなもの感じられない。 あまりにも会う時間が少なくて。 俺のこと、かまってくれないもん。 その穴埋めみたいに、くれる物が、形として俺の部屋にいろいろあるんだ。 穴埋めなんだよ。 このピアスとか。 きっと、今日、相手出来ないから、申し訳なくって、こうやって穴埋めに物くれるんだ。 残った痕を消すように、首筋に強くキスをしてから、俺を解放する。 「…優斗先輩、用事なんでしょ?」 「あ…うん」 「じゃ、また、今度、来てね?」 俺は、なんでもない態度をとる。 そうしないと、優斗先輩が気にしちゃうから。 ホントは気にして欲しいけど。 でも、あまり迷惑もかけたくない。 「次んときは、浮気しんといてな?」 そう言って、部屋から出て行ってしまう。 浮気。 するよ。 もっと、俺のこと、独占して、束縛して。 浮気なんかするなって怒って、叱って。 そうされなきゃ、俺、不安で、どうしようもないんだよ。 今、もらったばっかりのピアスに付け替えて。 今日のルームメイトの予定を思い出す。 うん、確か、友達の所に泊まるって言ってたから、来ないよ。 頭の中で整理がつくと、俺はズボンのチャックを下げて、自分のをそっと擦りあげた。 「…っん…」 一人でやることなんて、別になんでもない行為だった。 恥ずかしくだってない。 だって、みんな、したことあるでしょ…。 だけれど、なんだか惨めな気分になる。 相手がいなかったら、惨めは惨めでも、しょうがないって思うんだ。 でも、俺は…? 恋人がいるんだよ。 なのに、こうやって一人でやって。 泣けてくる。 もっともっと。 かまって欲しいのに。 「っはぁっ…」 前だけじゃ全然、足りなくって。 ズボンも下着も脱ぎ去ると、俺は自分の指にローションをつけ、そっと後ろに差し込んでいった。 「っぁっ…ぅんん…っ」 これが、優斗先輩の指だったらいいのに。 奥まで差し込んでやさしく掻き回して。 俺を蕩けさせてくれるんだよ。 自分の指じゃ、全然違う。 ベッドの隅に転がるローターを手に取り、指を差し込んでいた部分に押し込んでいく。 優斗先輩がくれた物。 そう思うだけで気が遠くなりそうで。 変に緊張が走る。 自分の中で、いろいろと考えちゃうんだ。 スイッチ、入れるよって、優斗先輩はちゃんと予告してくれてから、ゆっくりスイッチを入れてくれる。 「っあっ…ぅン…っ…」 少し緩やかな振動が、奥の方で感じられた。 気持ちいい…? って聞いてくれて。 「っはぁっ…ぃい…っ」 そう答えると、もっと、強い振動に切り替えてくれる。 「っぁンっ…あっ…はぁっ…」 足りないよ、こんなんじゃ。 俺は、ローターを引き抜いて、代わりにバイブを差し込んだ。 「っぅんんっ」 電源を入れると、ものすごい振動と動きで俺の中を掻き回してくれる。 「ぁんっあっ…あっ…優斗…っ」 バイブを左手で押さえ込んだまま、右手で振動したローターと自分のモノを一緒に掴む。 そのまま、右手で擦りあげると、ローターの振動がいい具合に裏筋を撫で上げてくれた。 「はぁっぁんっ…ぃいよぉっ…優斗っ…あっあっイク…っ」 優斗先輩。 大好きなんです。 「ぁっあぁあああっっ」 こんなんで満たされるわけないじゃんか。 涙が溢れてくる。 ホントはすごく我侭言いたいよ。 だけど言えないじゃない? もっともっと、俺のこと、かわいがって欲しいんだよ? 信じてるけど、つらいんだよ。 だけど、別れたいわけじゃない。 苦しいよ。 なんでこんなに苦しいんだよ。 大好きなんだよ…。 「優斗先輩…?」 俺は、やっぱり苦しくって、つい電話してしまっていた。 「凪? どうしたん?」 用事があるんだよね。 わかってる。 わかってるけど、電話しちゃったんだ。 「っ…あのね…。一緒にいて欲しい…」 なに、言ってんだろう、俺。 限界みたい。 笑顔作れない。 元気な声も出せない。 「じゃ、今から行くから」 すぐ来て欲しいんだよ? 「うん…」 なんでもないフリしないと、優斗先輩に迷惑かかっちゃう。 だけど、そんなのもう無理だし。 あぁあ。 悪い子だ。 迷惑かけたくないけど、俺のこと、やっぱ気にして欲しいんだ。 優斗先輩に甘えたいよ。 でも嫌われたくないもん。 うまく甘えられないんだ。 少しして、優斗先輩がドアを開けて入ってきてくれる。 俺はまだ、ズボンを脱いだまま。 「凪ちゃん、どうしたん?」 すぐベッドに来てくれて、子供でもあやすように俺を抱き上げる。 「…っ…先輩…。ごめんね、我侭で…」 俺がそう言うと、そっと押し倒して、ものすごく申し訳ないような顔で、見下ろして。 「…ごめんね…」 そう言ってくれる。 「…なんで…? なんで先輩が謝るの…?」 「凪、平気なフリしててくれたん…? いっつも、俺、かまえんで」 わかる? してたよ…? 「だって…我侭で、迷惑かけたくなくて…っ」 「…もっと、甘えてくれていいんだよ…」 優しい目。 俺の前髪を、そっとかきあげてくれる。 優しすぎて、涙が出てくるよ。 優斗先輩は、そっと俺に甘ったるいキスをしてくれる。 「俺、凪に甘えすぎてて。いっつも平気な顔してくれるから、あんま気にしてもらえてないんかと思ってたん」 「…どういう意味…?」 「…自分がいいって言ったんだけど、凪、浮気ようするし。…不安だったんかな…」 なにそれ…? 優斗先輩が不安…? 「わかんない…」 「だからね…。ホントに忙しい時もあるんよ。だけど、凪が、俺のこと、ホントに好きでいてくれてるかわからんくて。少し、突き放してた部分、あると思う…。寂しがってくれるかなって、試しちゃってたんかも。凪は…俺にただ、付き合ってくれてるだけかもしれなくて」 なにそれ。 じゃあ、俺が、浮気して、怒ってもらったり。 そういうのと、似た考え方…? 「俺だって…。浮気して、優斗先輩が怒ってくれるのが、うれしくて…っ。怒ってくれて、やっと、少し安心出来て…。…不安だけどっ、迷惑なんて、かけれないから…。でも…やっぱ、限界だったみたいで…」 「もっと我侭言って、甘えたり…。してくれていいんよ…。して…。もっと俺のこと、求めてよ」 逆じゃんか。 優斗先輩こそ。 もっと俺のこと、求めてよ。 「優斗先輩は…? 俺のこと…好きなの?」 「好きにきまってるやんか」 「っ…なのに、ほったらかしなの?」 「ごめん。あまりに凪が、平気そうだで、さびしがってくれんか、やってみてまったん」 ホントに、不安そうな顔。 「…いいよ…」 お互い。 駆け引きしてたんだ…? 二人ともがやってちゃ、キリつかないけど。 「俺、優斗先輩のこと、すごく、求めてるよ…」 「うん…。ありがとな」 優斗先輩は、俺の体を抱き上げると、そっと背中を撫でて。 ゆっくりと、指先を足の付け根に這わす。 「…優斗…」 俺は、そっと優斗先輩の背中に手を回した。 さっき、舐めて濡らしたのかな。 そんな感じの指先が、そっと入り込んでくる。 「っぁっ…あっ」 「どう…なん…? 俺の指、気持ちいい…?」 そっと抜き差ししたり、かき回してくれたり。 気持ちいいに決まってる。 「っはぁっ…イイよぉっ…全然、違うよぉっ」 「違う…?」 「っぁんっ…っバイブとっ…違ぁ…」 「どっちがいい…?」 そんなの、決まってるじゃんか。 「っ優斗ぉっ…ぃいっ…」 「ホント…?」 「…っん…もっとっ…」 「…やらしぃなぁ、凪は…」 「ぅん…っ…欲しい…っ」 やらしいよ…。 不安だから。 もっともっと。欲しいんだよ。 「入れて…っ…優斗ぉっ」 「ん…。入れるよ…」 指を引き抜いてすぐさま、俺の中へと優斗先輩のが入り込んでくる。 「あっ…あぁあんんっ」 ゾクゾクするよぉ。 久しぶりだもん。 こうやって優斗先輩とするの。 「ねぇ…っ、ホントに、好きなの?」 「うん。凪を寂しがらせるわけにはいかんのだけど。寂しがってくれんかったらどうしようとか思って。ほら…。俺ら、付き合いだしたのだって、結局、凪は俺に付き合ってくれてるだけかもしれなくって。俺なんていなくても、普通になるだけかなぁって思うわけでさ。平気な顔するし…。平気な顔されんのも、それなりにつらかったで…? 俺、いなくてもいいみたいで」 馬鹿…。 俺が、どんだけがんばって平気なフリしてたか。 「ほっとかれて…つらいに決まってるっ。寂しいに決まってるよ」 「でも、態度で示してくれんかったやん?」 「だって、迷惑かかるじゃんか」 「迷惑だなんて、思うわけないやんか。甘えられんのも我侭言われんのも、全部、嬉しいし。もっと、求めて欲しいんよ?」 いいの…? 俺、すっごい我侭だと思う。 「急に呼び出しちゃうかもよ?」 「いいよ」 「っ…セックスしようって言うよ? 無理って言われても、して欲しいって、ねだっちゃうかもしれないよ?」 「ねだってや。今日だって。断ったら、寂しがってくれるかと思ったのに、全然、平気な顔するで、こっちが寂しいわ」 そんなの…。 「ずるいよっ。ねぇ。優斗は、俺のこと、求めてくれるの…?」 俺は、求めちゃうよ? どんだけ我侭でも、もういろいろねだっちゃうよ…? 「でら求めとるやんか。こんなに好きやのに、伝わらん?」 ギュっと抱きしめてくれる。 やっぱり、優斗先輩にこうやって抱きしめられると、すごくあったかくって。 俺、好きでいてもらえてるんだなって思っちゃうよ。 「もっとっ…俺のこと、ずっとかまって欲しいんだよ…?」 「そう言われると、嬉しいな」 「ホント? 俺…。素直になっていいの…?」 迷惑じゃない…? 「うん…。俺も、素直になるわな」 やさしく耳元でそう言うと、背中を抱いていた手をそっと下げ、腰を掴むようにして俺の体をそっと揺さぶった。 「っあっぁんっ…優斗っ…ひゃあんっ」 「感じる…?」 「やんんっ…ぅんっ…あっ…感じるよぉっ」 俺は優斗先輩の背中にまわした腕を、そっと肩に移動させ、自分からも軽く腰を動かした。 「はぁっあっ…そこっ…ぁあんっ」 「なぁ…もう、浮気、やめよう…」 「ぁっ…ぅンっ…やめるっ」 お互いの気持ちを試すだけの物だったから。 もうわかったから。 「優斗もぉっ…」 「うん。やめるよ」 そう言って、気持ちよく、俺の中をかき回してくれる。 「ぁっあっ…ゃはぁっ…イくっ…あっ、イきそぉっ」 「中…いい?」 「あっ…ぅンっ…出してぇっ…イっちゃぁっ…あっぁあっあっ、ゃぁあああっっ」 体が大きくビクつく。 優斗先輩の背中に爪を立ててしまいながら、欲望を弾け出した。 「凪…」 優斗先輩のが流れ込んでくるや。 ゾクゾクする。 「ん…」 そっと、キスをして。 甘ったるくて、たまらない…。 そんなキスだった。 「凪ちゃーん。はい。プレゼント」 次の日。 俺の部屋にまた、プレゼントを持って来てくれる。 「まだ、くれるんだ?」 穴埋めとか、もうなくてもいいと思ったのに。 「どういう意味? あげたいで、あげるんよ」 「うーん。別に、深い意味とか、ないんだ?」 俺の相手が出来ないとか…。 「ちょっと今日は用事があるから、相手出来んのやけど」 やっぱり。 そうやって、相手出来ないから、くれるんだ…? 「ふぅん」 「…いいんだ…?」 「なにが?」 「俺が、用事あって、相手出来なくっても、凪はいいんだ?」 なに、言ってるんだろう、この人はもう。 「用事ならしょうがないじゃない…。こうやって物くれるのも、かまえない時間の代わりでしょ」 「…うー…ん…」 妙なとこ、子供っぽかったりするんだよね、この人…。 「もちろん、かまって欲しいって思ってるよ…? だけど、しょうがないときもあるじゃない」 「かまって欲しい?」 「そりゃあね」 「じゃあ、かまうよ…」 そう言うと、プレゼントを取り上げて、机に置き、俺の体をベッドに押し倒す。 「用事は?」 「嘘」 「っもうっ…。なんでそういうっ」 「用事があっても、かまってーってくらい、求めて欲しいんよ?」 「そんなの、我侭なガキじゃないのっ」 「いーの。凪は、我侭になって?」 めちゃくちゃだなぁ。 でも、嬉しいかも。 「わかったから…。ねぇ、もう嘘、言わないでね…?」 「………うん…」 なんで、一瞬、迷うんだろう、この人は…。 「覚えてる…? 優斗先輩、1000円で賭けてたの」 「っ…覚えてるけどっ…。あれは、賭けはただのきっかけでっ」 「うん。わかってる。あの1000円ね。まだ使ってないんだよ。今度一緒に、なにか買おう…?」 優斗先輩は、ホント、うれしそうな笑顔で、頷いてくれた。 実際、あのとき、賭けの話が出てなかったらどうなってたんだろう。 ホントに、いつか、優斗先輩は、俺に声かけてくれた? なんにしろ、あのとき、出会えてよかったと思う。 賭けに、後押しされて。 学年も違うのに、あんなに早く知り合いになれたんだもんね。 「…1000円で…食べ物とかなくなっちゃう物じゃなくって。形として残るものがいいな」 例えばペアリングとか? なぁんて。そんなん女々しいか。 なにがいいんだろ。 「じゃ、おそろいの指輪とか?」 「え…?」 なにそれ。 優斗先輩も、結構、おんなじこと、考えてるんだ? 「あはは♪うん。それがいいね」 明日の日曜日。 一緒に買い物に行こう…? どんな用事があってもキャンセルしてね。 安い指輪かもしんないけど。 でも、俺たちにとっては、すっごい価値がある物になると思うから。 |