「樋口先生には、弓道部の顧問になってもらいますので」

弓道? 俺が?
「…弓道、したことないんですけど」
「うちの学校に弓道経験のある教師はいませんよ。あそこは、ガラの悪いやつらもいないし、大丈夫ですよ」
ガラの悪いやつらは別に苦手じゃないのですが。
まぁ、上には従うか。
「わかりました」
というわけで。

ココに転勤してきてすぐ、弓道部の顧問になったわけだけど。
ホント、知識ねぇっての。


だが、いざ弓道部を覗いて見れば、楽しんでやっている生徒ばかり。
いや、そりゃもちろんなんだけど、なんていうか、真面目に技術磨くとかそういう雰囲気でなく。
これなら大丈夫そうだな。

俺は、2年3年4年生のやつらと一緒に遊び半分な感じで弓道をして。

少し技術がついたところで、やっと本でも読もうかと、図書室に向かった。

もうすぐ1年が入部して来るわけで。
一応、それに合わせてある程度の知識は付けとこうかとね。
ま、いまいる先輩達があんなんだから、1年もその雰囲気に乗っかってくれりゃいいんだけど。


5月半ば。
体験入部の時期だ。
あいかわらず、楽しく遊びながら部活を進める俺と、それに今回は1年も混ざっていく。

このノリに、ついてこれるならぜひ入部してくださいよと。

その中で、一人、目立つやつ。
はじけてるわけじゃないけれど、おとなしすぎるからだ。

こういうノリ、嫌いなんだろうなー。
気を使った3年のやつがそいつに話しかけててくれたけど。

まぁ、その子のことは、そいつに任せて。
俺は他の1年たちと、一緒に弓道を遊びながら楽しんだ。

日が経つにつれ、よく来てくれる1年の顔はだいぶ覚えていた。
おとなしいあいつも、たまに来てくれる。
だけれどあいかわらずだった。



6月に入ると、1年の担任が生徒の代理で、俺のところに入部希望の用紙を持ってきてくれた。
知らない間に、机の上に置かれていたものもあるが。

そいつらを部活動で確認して。

何人かの1年が、部員になって。

ただ、おとなしかったあいつは来なくなった。
入部届けもないし?
…入らないのか。

深追いすることもないんだけどなぁ。
やっぱり気になってしまう。
あれ、絶対に弓道は好きだけど、このノリが嫌…って感じだし。
そのノリを作ったのは、俺でもあるし。

俺は、そいつと対応していた3年に、名前を聞いて。
なんとか1年生の中から探し出すことに成功。

…時間かかったな…。

1組で放課後にそいつを待ち伏せしてっと。

「尋臣…? ちょっと話があるんだけど」
そう言うと、少しだけ焦った表情。
あぁ、真面目なやつなんだろうな、こいつ。
俺の聞きたいこと、予測できてるのかもしれない。


「なんですか?」
廊下で2人。
「あのさ…。弓道部の体験入部、来てくれただろ? …他の部、入ったんだ?」
「…入ってないですけど…」
やっぱり。
他になにか入りたい部があったとかでもないんだろう。
「弓道部、入らない?」
そう聞くと、尋臣は一瞬顔をしかめてみせる。
「…いえ…今はちょっと、考えられなくて…」
「…そう。じゃ、いつでも体験入部してくれてかまわないから。暇あるときにでもまた覗きに来いよ」
そうとだけ伝えて、手を振ると、尋臣は軽くお辞儀をして、その場を後にした。
さすがに、今日は来てくれねぇか。

なんか、かわいいな、あいつ。
尋臣の後姿を眺めていると、1組から、出てきた教師が俺の視界に入る。
桐生だ。
大学時代のクラスメートで、1年前にここに来たらしい。

「…桐生って、1年担当なわけ?」
「まぁね。担任」
しかも担任か。
「あの、尋臣って、どういう子?」
そう聞く俺に、軽く笑う。
「真面目で、汚れてなくて。責任感が強いから。いいんじゃないの?」
「いいって…」
「智巳ちゃんが、気にしそうなタイプ」
っつーか、実際、気にしてますし。

「あいつ、弓道部に入れたいんだよ」
「ふぅん」
「俺のせいで、入らない気がすんだよ」
「…尋臣は、智巳ちゃんのテンション、嫌いそうだからな」
わかってる。

「軽―く、聞いといてやろうか? 尋臣に。部活のこと」
「…いいよ。大丈夫だから。たぶん、俺、あいつのこと、手にいれたいんだよね」
「部員にしたいだけじゃなく?」
「…あいつが初めて部活に来たときから、すっげぇ気になってんだよ。目だってたんだよ、目だたねぇキャラのくせに」
「…そう。お似合いだよ。まぁ、あいつ真面目だから犯罪起さないようにな」
「まぁ、起しても口止めするから」
「おい」



少し遅れて、弓道場に顔を出すが、尋臣はいなかった。
それから、遅れてくることもなく、部活終了時間。

みんなが帰り、部室の鍵が閉まる。
弓道場は、出入り自由だったから、俺はそのまま弓道場に座り込んだ。
なに俺。
結構、寂しいような感覚。

下校中の生徒が、通り過ぎていくが、ココに俺が残っているだなんて思ってもいないだろう。
誰も、こちらを見ることなく。
通り過ぎていく生徒の中に、尋臣を見た。

「っ尋…っ」
反射的に呼び止めようとして、言いとどまる。
なに考えてんだ、俺は。
呼び止めてどうすんだか。

他の生徒と帰って行く。
っつーか、この時間だし。
やっぱ、どっかほかの部、行ったんか。

「っ…桐生?」
つい、電話をかけてしまう。
『ん。どうした?』
「…尋臣が何部入ったか、分かる?」
『まだどこの部も入ってねぇと思うけど。それに、今日、聞かなくていいって、言ってただろ』
「気が変わったんだよ」
『怒んなよ。じゃあ、明日…』
明日まで、待てるくらいなら、いま電話してねぇっての。
「いま分かんねぇの?」
『無理言うなって』
「あいつ、他の部、入ってねぇっつったくせに、どっか行ってたんだよ」
『他の部の体験入部かもしんないだろ。あぁ、あいつ委員会か。っつーか、実際、お前は、あいつが、他の部入ったらどうすんの?』
「入らせない」
『おい…。そんな権限ねぇよ』
「じゃあ、尋臣が入った部の顧問になるから」
『…尋臣は、智巳のテンションが嫌いなんだろって。だったら、お前が顧問になるわけにはいかねぇだろ』
そう。
尋臣は、別に弓道が嫌いなわけじゃない。
「…まぁいいや…。あのさ…尋臣の寮の部屋とかって、調べたらわかるわけ?」
『わかるけど、やめろよ…』
「やめろって、なにを?」
『…行って、強引に迫ったりすんじゃないの?』
「さぁ? するかも」
『落ち着きなって。とりあえず』
落ち着けない。
携帯を持ったまま、その場に寝転がる。
と、ドアが開く音。

誰か他の教師だとやばいと思い、慌てて起き上がり、振り返る。

そこにいたのは、尋臣で。
一瞬、言葉を失った。

「…桐生。人来たから、また…」
『ん? あぁ、じゃあ、また』
携帯を切って。
俺は、立ち上がれず、尋臣を見上げる。

もう部活時間終わってるぞーとか、言えばいいのか?

「…すいません。呼ばれた気がしたんですけど、電話かけだしちゃって…」
「う…ん」
「外からは声、かけにくかったんで、来たんですけど…」
聞こえてた?
「電話内容は?」
「いえ、それは聞いてません」
「そっか…」
「あの……なにか…」
そうそう。
反射的に呼んじゃったんだよなぁ。
「いや、どこの部も入ってないっつってたからさ。こんな時間まで、どっか行ってたのかなって…。他の部の体験入部?」
俺、一人の生徒にこんな執着して。
やな先生だよなぁ。
すっげぇウザイだろって。

「学級委員になったので、今日は委員会に顔を出してました」
あぁ。
そういえば、月曜日は委員会があるんだっけ。
…桐生も、こいつは委員会だっつってたしな。
他の部に行ってたんじゃないかとか考えてたから、うっかり、スルーしてた。
桐生が続けざまに質問してくるし。
だいたい、まだ6月なのに、もう委員会とかあるわけ?
いや、あるか。
俺は担任持ってないからな。そういう事情はよくわかんねぇし。

「…そっか」
変にイライラしてた自分が馬鹿らしい。

でも、強行突破はやばいだろうなぁ。
「弓道、お前、好きなんだろ?」
「はい…」
「俺も、真面目に部活すっから…。入ってくれないかな…」
座り込んだまま。
なんとなく尋臣の顔は見れなかった。

「…どうしてですか。1年で、他に弓道部に入りたがってる人はたくさんいます。部員に困ってるわけではないですよね…」
「困ってはいないよ。ただ、お前、せっかく弓道好きみたいだし…。っつーか。尋臣が好きだから」

俺って、欲しいもんはどうしても欲しいっつーか。
一度、人を好きになると、どうも押さえられないっつーか。
手に入れたいっつーか、伝えたいっつーか。

立ち上がり、尋臣を抱き寄せて、口を重ねた。
ビクつく尋臣の体を抑えて、舌を差し込むと、さすがに、尋臣は俺を引き剥がそうとする。
俺はそれに従って、尋臣の体から離れた。

「なに…して…。こういう風に…部員、集めてるんですか…?」
「いや…尋臣にしか、してない」
「……帰ります…」
「どうして?」
「…こういうことする人の部には、入れません…」
「じゃあ、もう部活はいいから」

教師だとか生徒だとか。
吹っ飛ぶ。
強引に壁へと押さえつけ、もう一度、口を重ねた。
「んっ…」
鼻から息を洩らす尋臣の声が、色っぽくて、ますます止められそうになかった。
抵抗しようとする尋臣を無視して、顔を傾け深く口を重ねて。
舌を絡めながら、尋臣の股間に手を触れる。
「ンっ…」
体をビクつかせる反応とか、たまらなくて。
ズボンの上から軽く掴み撫で上げると、尋臣は足に力が入らないのか、その場に座り込んでしまう。

俺も、それに合わせるようにしゃがみ込み、尋臣の頬をなで、自分へと向かせる。 「…恐い…?」
不安そうな顔で、恐れるように俺を見ていた。
「痛くしないから…」
耳元でそう伝え、ズボンのチャックを下ろす。
体を動かせないのか、無抵抗で。
直に取り出した尋臣のを、表情を伺いながら、手で擦り上げていく。
「っンっ…」
次第に硬さが増していくのが確認出来る。
「はぁっ…んっ…」
俺の視線から逃れるように、顔を背けながら。
恥ずかしいのか、頬が少し赤いのがわかった。
「ねぇ…コレ、舐めていい?」
耳元でそう聞くと、顔を上げ、泣きそうな顔を見せる。
「や…っ」
「そう…」
俺は、手で掴んだ尋臣のを、何度も擦りあげていく。

「ぁっ……んぅンっ…もぉっ…んっ」
泣きの混じった喘ぎ声が、心地よかった。
「イきそう…? イきなよ…」
「やっ…めっ…んぅっ…あっ…んーっっ」

口を押さえて、俺の手の中に、尋臣は欲望をはじけだす。
「あ……」
「いいから…」
精液を纏った指を、そのまま下着の奥へと突っ込み、後ろの窪みをそっと撫でる。
体をピクンとはねさせて、俺の手の中で震えるもんだから。
「…恐い…?」
尋臣は、呼吸を荒げたまま、なにも答えれずに、そっと俺を見た。

涙で目を潤ませる。

恐いですか、いやですか。
ホントはこんな表情見せられたら、押し倒して、ガンガン喘がせたいんですけど。

絶対、初物ですし?
未成年だし。
教師と生徒だし。

あぁもう。
そっと、手を抜いて。
軽くもう一度、キスだけした。

尋臣は、そそくさと、さりげなく自分の股間のモノをしまっていた。

「…好きなんだけど」
俺の方も見てくれず、俯いて、
「…なに……言って…」
小さな声でそう答える。

「男同士とか、駄目? あ、別に俺、お前がしたいなら女役でもいいし。どちらかといえば、顔も中性的だから、そこまで気持ち悪くないと思うし。慣れれば体も気にならないだろ。胸とかねぇけど、そこら辺の女より、気持ちよく出来るだろうし。あぁでも年上押し倒しにくい? 騎乗位でもかまわねぇよ?」

尋臣は黙ったまま。

つい、ため息が洩れる。
逃げそうになかったから、俺は尋臣の隣に座り、壁へと持たれた。