好きな人が同室にいるというのは、どうにも居心地が悪い。
なんていうか、変に意識する。
そりゃ、想いが伝わっていれば、ものすごくいい空間なのかもしれないけれど。
今の状態はあまりよろしくない。
紀野先輩。
眼鏡もちょっとダサいし。
長めの髪はなんだか、雑な感じ。
短髪も意外と似合う気するんだけどな。
…する気ないんだろう。
「そういえば、紀野先輩って、靜とはいつ知り合ったんですか? 同じ部活?」
「…えっと。……雑誌に顔載っちゃってて…。靜くんがその雑誌の愛読者だったみたいで」
雑誌?
「え、雑誌って?」
「あ、すごいやつじゃないよっ。オタク系の…コスプレのなんだけど。普段と全然違うから、バレないだろうって思ってたんだけどね。それにそういう雑誌見るのは、同じ仲間だけだろうから、大丈夫だって思ってたんだけど…」
実際、靜なら大丈夫…だろう。
「気付かれたんですか?」
「うん…直接、俺の顔見てとかじゃないんだけど。どうも靜くん、写真部に遊びに行ってたみたいで。そこで見た俺の…そういう写真見て気付いたみたいで、写真部の人に名前聞きだしたとか言ってたかな」
そういう写真…。
コスプレ?
そんなのはさすがに写真部にはなさそうし。
女装とか…かな。
で、名前聞き出した靜が、たずねてきたってことか。
「あ、あのっ…あんまり人には言わないでね」
……この人、これで隠れオタクのつもりなんだろうか。
「…はい、まぁ…言わないですけど」
いや、隠れるつもりはないだろうな。
でも、そんな雑誌うんぬんで騒がれるのは嫌なのかもしれない。
雑誌。
今度、靜に見せてもらおうか。
教室で、ちょっと気にして靜を見ていたらオタクっぽい人たちとつるんでいる様子が伺えた。
でも、靜が一人でいるとそうとは思えないんだよな。
「憂月って、恋愛経験とか豊富そうだよね」
帰り際、珍しく靜に声をかけられる。
「そうかな」
「綺麗だし」
「…んなことないよ。俺、自分の時間も欲しいから、付き合った後、結構すぐ振られちゃうかも」
「やっぱり、豊富なんだ?」
…どうなんだろう。
来るもの拒まず去るもの追わず…って感じだったかなぁ。
「普通じゃないかな」
「俺の友達、そういうことには無頓着な人間が多いから、話せなくて」
…恋愛相談?
「自分から行ったことはないから、よくわからないよ」
「うん。ちょっと意見聞いてみたいだけだから。いまさ、どうしても好きな人がいて」
やたら緊張する。
紀野先輩…じゃないよね…?
「…俺の、知ってる人?」
「知ってるよ。告白って、唐突にしてもいいのかな」
知ってる人。
誰だろう。
そればかりが気になって、その後の靜の質問に答えそびれる。
「憂月…?」
「え…あぁ、唐突って? いままでは? 付き合ったこととかないの?」
「いままでは、オタク仲間で、友達の延長…みたいな流れだったから」
いままでは、オタク仲間。
じゃあ、今回は?
オタクじゃない…紀野先輩じゃないってこと?
「オタクじゃない人…なの?」
「うん。同じクラスの相模神楽」
なんだ、そうか。
一気に安堵感。
なに、俺、ほっとしすぎ。
そんなに紀野先輩が取られたくなかったのかって。
「神楽かぁ。押しに弱そうだし、唐突でもいいんじゃないかな。友達の延長ってのもありだけど…。神楽ってオタクじゃないよな。だから、オタク同士みたくは盛り上がれないかもしれないし」
これって、俺にもあてはまるよな。
紀野先輩と、オタク同士みたくは盛り上がれそうにない。
友達の延長は、難しいよね。
「ありがとう。ちょっと、今日、唐突に行ってみる」
「え、今日?」
「前からずっと考えてたんだ」
「そっか。がんばって」
靜の恋愛相談をして。
俺自身、考えさせられた。
紀野先輩とは変な壁、出来ちゃってるしな。
警戒されてそう。
友達……にはならなくてもいい。
俺も、唐突に…。
寮に戻ると、先輩の姿はまだなかった。
机の上に、こないだ靜と見ていたと思われるアルバムが目に入る。
…見ていいかな。
靜には見せてたし。
緊張しながらもアルバムを開くと、予想通り、コスプレ写真。
どこだ、紀野先輩は。
こないだの2人の会話を思い出す。
『普段から、髪、染めたらどうですか?』
『え、銀に?』
『さすがに銀はあれですけど。茶色とか』
…銀髪のキャラなのだろうか。
写真で、銀髪を捜して見ると、どことなーく紀野先輩と思えばそうかもしれない人。
でも、違いすぎる。
雰囲気とか。
雰囲気は、そのキャラに合わせているんだろうか。
そりゃ、人って髪色や髪型で、だいぶ印象変わるだろうけど。
この違いは酷いな。
眼鏡からカラコンだし。
これは、靜が堂々と『かっこいい』って言うだけのことあるっていうか。
少し胸元の開いた衣装で、ちょっと色っぽい。
その肌に直接触れてみたくなる。
やばい。
変な気分になってきた。
そのときだ。
ガチャっとドアの開く音。
紀野先輩だ。
「あ、蒼柳くん…」
俺が、紀野先輩の机の前にいるからか、少しあせった様子を見せる。
見られたくない物を見られてしまったというような表情。
むしろ、こっちがあせる立場な気もしますけど。
「…すいません。こないだ靜と見てたのが気になって…見ちゃいました」
「あ、いいよ、いいんだけど…っ。引いてないかなって…っ」
あいかわらずだな、この人。
「これ、紀野先輩ですか?」
「……う…ん…」
やっぱり、銀髪のかっこいい人。
もったいない。
俺は、アルバムを置いて、紀野先輩の前に立つ。
「…蒼柳くん?」
「眼鏡、外していいですか?」
戸惑う紀野先輩を無視するようにして、眼鏡を取らせてもらう。
「なに…っ」
「そのまま…見せてください」
「え、見せるって、なにを…っ」
眼鏡を机に置く。
紀野先輩は、俺の行動に疑問を抱きながらも、抵抗する気はなさそうだ。
自分の机からジェルを取り、手につける。
「ちょっと、髪の毛触っていいですか?」
「…いいけど…っ」
両手にジェルを絡め、その指で紀野先輩の髪の毛を持ち上げる。
長めの髪を後ろに流すと、整った顔がいとおしく見えた。
別に、顔で選ぶつもりはないんだけれど。
かっこよくて。
そのまま頭を掴んで、口を重ねた。
びっくりした様子で、少し後ずさる紀野先輩を無視する形で、舌を差し込んでいく。
舌先が触れ合って、熱くてたまらなくなった。
さらに紀野先輩が後ずさるもんだから、後ろにあったベッドへとなだれ込んだ。
都合よく、紀野先輩を押し倒す形。
「蒼柳く…っ。なにし…」
「嫌ですか? 紀野先輩」
「嫌とかじゃ…ないんだけどっ」
「じゃあ、舌、もっと俺に絡めてください」
もう一度。
上から覆いかぶさるようにして、口を重ね、舌を絡めていく。
慣れてないのか、戸惑う舌先を追って、俺の方から積極的に。
駄目だ、もうとまんない。
口を離し、紀野先輩の体を、ベッドに完全に乗せ、俺はその体に馬乗りになる。
「…紀野先輩…。俺のこと綺麗って言ってくれましたよね。それって本心ですか?」
「…そりゃ…綺麗だとは思ってるけど…っ」
「じゃあ…体も、見てください」
俺は自分のシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
紀野先輩が、恥ずかしそうにしながらも、俺の体に視線を向けていた。
それだけで、ゾクゾクする。
紀野先輩の股間が、硬くなって俺のお尻に当たってるのがわかった。
俺の体見て、興奮してくれてる…ってことだよね…。
「先輩…。俺のこと、好きにしていいですよ」
そう誘ってみる。
けれど、紀野先輩は、首を横に振った。
「そんなこと…っ」
「どうして? おっきくなってるし」
「っ…ご…ごめんっ」
「いいですよ」
「…条件反射で…っ。でもこういうことは、いくら欲求不満でも、好きな人とじゃないと駄目だよ…っ」
そう強めに言われ、体が固まった。
直後、振られた気がして、涙が溢れた。
「っごめ…っ。泣かせるつもりじゃ…っ」
いままで、自分から誘ったことなんて一度もなかった。
誘って断られるなんて、考えてもいなかった。
プライドが傷ついたとか、そんなんじゃないけれど。
好きな人とじゃないと駄目って?
「それって…俺のこと、好きじゃないってことですよね」
一応、確認する。
「っそういうわけじゃ…っ」
「なんで? 好きな人とじゃないと駄目って…っ」
「だから…蒼柳くんが…っ。…別に、俺が好きでこうしてるんじゃないんでしょ…? 欲求不満とか…。そりゃ、手伝うくらい…出来たらいいけど、経験ないし。
俺なんかとより、好きだって思える人とした方がいいよ」
俺、ただの欲求不満って思われてる?
そりゃ、いきなり押し倒して盛った…みたいな感じになっちゃったけど。
「俺だって…っ。いくら欲求不満でも、好きじゃない人相手に誘ったり、こんな恥ずかしい真似しません…っ」
「なに言って…っ! 俺、ただのオタクだしっ。蒼柳くんみたいな子が、俺なんか…っ」
この人、そんなに自分に自信ないのかな。
だからこそ、普段、髪でちょっと隠してるとか。
「オタクの子の方がいいですか…?」
「俺にはもったいないよ…っ」
「でも、俺は紀野先輩がいいんです。…触って……っ」
紀野先輩の手を取り、指先を俺の乳首に触れさせる。
「ん…っ…」
何度も、紀野先輩の指先を使って、乳首を擦ると次第に硬くなるのが自分でもわかった。
「ぁ…先輩…っ。ん…」
紀野先輩がしてくれないせいで、焦らされているようで。
恥ずかしいのに、すごく欲しがってしまう。
そっと手離し、今度は自分のズボンのベルトを引き抜く。
チャックを下ろし、自分のを取り出した。
すでに、硬くなっているそれを、自分の手で掴む。
「あ…これ…っ。俺の…触るの嫌ですか…?」
声が震える。
「嫌じゃ…」
「じゃあ……触って…くださ…」
「でも…っ」
「ぁっ…はやくっ…」
しょうがなくなのか、戸惑いながらも紀野先輩の指先が俺のに触れる。
「…っ掴んで…っ」
紀野先輩が、俺のを掴むと、その上から自分も手を重ねた。
紀野先輩の手を借りて、擦り上げていく。
「ぁっんっ! んぅっ」
すごい、こんなことするなんて。
人の手借りて、一人Hみたいで。
俺だけが欲しがってるみたいで、恥ずかしい。
「先輩…っ。先輩の手っ…ぁっ熱ぃ…っ」
少し腰を動かすとズボン越しに擦れるのか、先輩も顔の表情を歪めていた。
欲しい。
硬い先輩のが、俺の入り口に感じるせいで、ひくついてしまう。
そっと手を離し、先輩の体から降りると、俺はズボンと下着を脱いだ。
「蒼柳くん…っ?」
「…欲しいんです…っ。駄目ですか…?」
「駄目とか、そういう問題じゃ…っ」
「じゃあ、どういう問題ですか」
「蒼柳くんが…っ。蒼柳くんの方こそっ…」
「俺は欲しいんです。駄目?」
「駄目…じゃ…」
紀野先輩の表情を確認しながら、ベルトを外し、ズボンのチャックを下ろす。
紀野先輩の。
俺は、体を屈めて、それを口に含んだ。
「んっ! 蒼柳くっ!」
「んぅっ…」
たっぷりと唾液を絡めて。
入れやすいように。
さっき、髪につかったジェル。
ベッドに投げ出されてた。ちょうどいい。
手を伸ばし、それをまた右手に付け、俺は先輩のを口に含んだまま、指先を自分の中へと押し込んだ。
「んーっ! ぅんっ」
大丈夫そう。
2本の指で中をほぐしていく。
この中に先輩のが。
早く欲しくて、妙に焦る。
口を離し、もう一度、紀野先輩の体をまたぐ。
「紀野先輩…。俺ん中…これ、入れていいですか…?」
「っ無理だよっ」
「なんで…? そんなに嫌ですか?」
「そうじゃなくて…っ。蒼柳くん…傷ついちゃうよ…」
「大丈夫です。…欲しい…っ」
紀野先輩を伺うと、頷いてくれて、それを確認し、ゆっくりと紀野先輩を飲み込みながら腰を下ろしていった。
「ぁっぁああっ…んっ! んーーーっ!!」
「あっ…キツ…いよ、大丈夫?」
この人、俺の心配ばっかり。
…どうしよう。
ますます好きになる。
大丈夫だと頷いて、全部飲み込んで。
そっと、体を前後にゆすった。
「ひぁっんっ! 紀野先輩っ…ぁあっ…先輩っ」
腰を揺らしながら、また、紀野先輩の手を借りる。
片手は俺のを掴ませて、その上から俺がまた押さえつけるように掴む。
もう片方の手も取り上げ、乳首を触らせた。
腰を揺らすたび、中で紀野先輩のが擦れて。
紀野先輩の手が、俺の掴んでる股間を擦ってくれて。
乳首を押さえつけられる。
「ぁあっあっんっ! いいっ…あっっ…もっとぉっ」
「あっ…蒼柳くっ…そんな、動いたらっ…んっ! イっちゃう…っ」
紀野先輩の感じてる声。
自然となのか、俺の腰の動きに合わせるように、下から軽く突き上げられる。
「ぁんんっ!! あっ…来てっ…んぅ、俺ン中っ…。あっ…中で、出してぇっ」
「だっめ…っ! ぁっ…やめっ」
「もぉっ! あっ…ぁああっ…中でっ…お願ぁっ」
すべての動きが、速まって、限界を主張していた。
中で出して欲しいだなんて。
恥ずかしいのに、我慢できない。
「蒼柳くっ…もうっ…あっくっ…んーーっ!!」
「ひぁっあっ! あぁああっっ」
紀野先輩が、俺の中でイっちゃって。
流れ込んでくるのと同じくらいに、俺も。
紀野先輩の手にたくさんの液を出していた。
紀野先輩の表情を伺うと、申し訳なさそうな…泣きそうな顔で俺を見上げる。
「蒼柳く…俺、こんな…っ」
…嫌だった…?
こんなの逆レイプだもんな。
紀野先輩の方こそ、やっぱり好きな人としたかった…?
「…紀野先輩…はじめてでした…?」
経験ないって言ってたよな。
「っ……」
紀野先輩は少し顔を逸らしながらも、そっと頷く。
やばい。申し訳ないけど、ちょっと嬉しいとか思っちゃった。
「すいません…。俺、紀野先輩の初めての相手ですね」
「…蒼柳くんは、平気かもしれないけど…っ。こんなんされたら、俺、意識しちゃうし…っ」
意識しちゃうって…。
かわいい。
まだ、この人、俺が紀野先輩のこと好きだって、理解してくれてないのかな。
「俺だって、平気じゃないですよ。俺のこと…意識してください」
「…ちょっと、引いてたでしょ」
引いてたわけじゃないんだけど。
ちょっと、そっけなくなってしまっていた気はする。
でも、それは自分がわからない内容の話だったから。
紀野先輩もそのまま話し続けるわけじゃなかったし。
嫌だとは感じていない。
距離を保って欲しいとは思ったけれども、それはオタクのときだけで、恋愛はまた別だ。
「引いてないです。確かにわからない内容の話もあって、そういうときの俺の態度は、良くなかったと思いますけど…。紀野先輩は、ちゃんと俺に聞いてくれてからこうやって部屋の飾りつけとかしてくれてたし」
「…よく理解できないよ…」
いま、理解しろって言っても、難しい話かな。
「ゆっくり…理解してください。とりあえず、もう一回、キスしていいですか?」
戸惑いながらも、頷いてくれて。
そんな紀野先輩に、もう一度、口を重ねた。
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