「30点以下は、補充するから今日の放課後、残るように。じゃ、順番に取りに来て」
渡部先生、あいかわらずサラっとした態度で、そんなこと言っちゃって。
「……30点以下って、今回高くね?」
隣の席の珠葵に聞いてみる。
「前んときは20点以下だったよね。今回、平均点高いのかなぁ。俺、出来た方だと思ってたんだけど、問題自体、簡単だったってこと?」
そう言いながらも出席番号の早い珠葵はさっそく渡部先生のところへ。
っつっても、俺の目の前だけど。
「お、大丈夫だった! ……まあよくはないけど」
「聞いていいの?」
「52点。……こんなもんだよね」
泰時がテストを取りに来るもんだから、つい目を向ける。
ほら、目の前だし。
泰時も結構いつもは補充組だし。
「大丈夫だった?」
「ぎりぎりセーフ」
「ぎりぎり?」
「32点」
ぎりぎりだな。
すぐさま席の方へと向かい、今度は啓吾が先生の下へ。
こいつは聞くまでもなく大丈夫だろう。
……一応、聞いてみる?
「なあ、啓吾」
「なに」
「大丈夫だった?」
「……なにが?」
「だから、点数」
「ああ、何点かってこと?」
……そうか、コイツ、大丈夫であることはもう大前提だもんな。
「一応100」
馬鹿じゃねぇの。
つい反射的にそう答えてしまいそうなところをなんとか我慢した。
「……ふーん」
すげぇとも言いたくないし。
こいつ、当たり前って感じの雰囲気出してるし。
「高岡。テスト」
「ああ、すいません」
一応、立ち上がり渡部先生から自分もテストを受け取るが。
啓吾、俺の点数気になってる?
自分だけ聞いておいて隠すつもりはねぇけど。
こっそり、とりあえず自分だけで点数を確認。
「……あ」
「深敦くん、点数あった?」
珠葵が本当に心配そうに隣から聞いてくれる。
「うん、一応あった」
啓吾にも目を向けられる。
「一応あった」
「あったって? 30以上ってこと?」
「……いや、0点じゃないってこと」
30以下って言ってるようなもんだな、俺。
「ふーん」
ふーんって言われてもなんだけど。
28点。
いつもなら、補充を免れられる点数。
平均点が高かったせいか?
確実に、啓吾が平均点あげてるよな。
惜しい。
珠葵と啓吾と俺の3人で話しているうちに、春耶が来てテストを受け取る。
目を向けると、意図が通じたのか、
「86」
そう教えてくれた。
高いけれどむかつくレベルではないな。とりあえず。
「俺、52。結構、差、ついちゃったな」
「現国、珠葵の方が10点くらいよかっただろ。差し引いたらまだ油断出来ないね」
「なに、珠葵と春耶、総合点競ってんの?」
「そうそう。勝ったほうが学食、奢るってね」
珠葵はちょっと悔しそう。
英語が、34点差で。
現国が10点くらい差……。
いまんとこ、春耶が24点くらい勝ってるってことか。
「ちょっとおもしろそうだな」
「深敦くんもやる? まだ結果全部出てないし、いまからでも……」
珠葵はそう誘ってくれるけれど。
春耶と英語だけですでに58点差。
「……やめとく」
「ちなみに、啓吾は勝負になんねぇから駄目」
春耶がそう言って啓吾の答案を取り上げる。
俺も、逆の意味で勝負になんねぇんだけどな。
啓吾は、英語だけじゃなくって他の教科も出来ちゃうし。
「晃は?」
そう聞くと、珠葵が俺の肩を叩く。
「春耶くんが、晃にお金払わせると思う?」
「……確かにな。いや、晃が負けるって決まってるわけじゃねぇけど」
払う可能性があるのなら、その時点で止めさせそうだ。
「深敦、点数どうだったんだ?」
春耶がそう俺に聞くけれど。
「……とりあえず補充」
それ以上は、聞かないでいてくれた。
晃も答案を貰い、俺たちはなんとなく視線を向ける。
「……48点」
「よかった。補充じゃないね。アキ」
「う……うん」
ったくもー。
やっぱり俺だけ補充かよ。
クラス全員のテストが配り終わったみたいで、俺たちはそれぞれ席についた。
「平均点は、61点です」
「あ、俺、平均点以下かぁ」
隣の席で珠葵が嘆いてた。
平均点高ぇよ。
もし、晃と珠葵と俺と泰時だけだったら。
えっと。
48、52、32、28だから。
160÷4で、平均点は40点だろ。
春耶がいたとしても、86だから。
160+86……。246÷5で、49点あまり1。
あ、春耶が入るだけで一気にあがるな。
啓吾が加わると。
246+100。346÷6で、57点あまり4。
くっそ。
あいつ上げすぎだ。
補充って、平均点の半分以下だろ、どうせ。
啓吾がいなかったら、補充じゃなかったんじゃ。
俺は28点だから、平均点が56点未満だったらよかったわけで。
待てよ。
春耶を足さずに、啓吾を足した場合……平均は52点か。
つまり、春耶がいないだけでも……。
「……高岡。やりたいことはなんとなくわかるけど。とりあえず写しとけ」
答案用紙の隅で計算しているのを渡部先生に見られてしまう。
「……はい」
俺は、黒板に渡部先生が書いてくれた答えを、ひたすら書き写した。
放課後。
春耶と啓吾は2人で話しているようだったけど、どうせすぐ帰るんだろう。
渡部先生ももうすぐ来るだろうし。
っつーか、渡部先生、一度職員室に戻ったのか?
珠葵はあいかわらず、宿題を始めていた。
晃が帰る準備を始めると、すかさず春耶と啓吾がやってくる。
「アキ、一緒に帰ろう」
「うん。深敦くん、がんばってね」
「まあまたプリント貰うだけだろうけど」
「あ、そっか、今日、ここで補充するんだったねぇ。渡部先生来る前に終わるかなぁ」
宿題のノートから目を離さないまま、珠葵は呟く。
「じゃあ、深敦。がんばれよ」
……啓吾もそう声をかけてくれるけど。
なんでだろう。
晃に言われても素直に受け入れられたのに。
啓吾に言われると、なんだか。
嫌味なんじゃないかとか。
あーあ。自分、最低だ。
啓吾が頭いいのはしょうがねぇことじゃん。
別に、俺のこと馬鹿にしてるわけでもねぇし。
普通にがんばれよって言ってくれてるだけなのに。
「お前は……がんばってっから、点数取れんの?」
こんなこと聞いて、どう答えられれば俺は満足すんだよ。
がんばってますって?
そんなこと啓吾が言うわけねぇじゃん。
別に、がんばってるってわけじゃねぇけどって。
言うかどうかはさておき、啓吾はそうなんだ。
そんなにがんばらなくても、それなりの点数取れるんだよ。
そんなん言われたら、絶対むかつくし。
……むかつくのわかってて、なんで俺聞いてんだろ。
いい点取った啓吾に気を使わせるような態度取っちまってる自分が嫌になる。
「ごめん。なんでもない。がんばる」
啓吾がなにか言う前に、すかさずそう付け加えた。
そっと頭を撫でられる。
こんなん人前であんまして欲しくねぇけど、拒むこともできねぇし。
ジンジンとしびれるような感じがした。
なんか、やっぱり嬉しいんだろうか。頭撫でられるのって。
啓吾が怒ってないっていう、証みたいに思えた。
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