「170……だね」
あ。
170って。
ホントに?
靴……はちゃんと脱いでるし、靴下もそんなぶ厚くないし。
「もう一回!! 四捨五入とかしてない?」
「してないよ。変わらないと思うけど」

少し緊張しながらも、身長を測るための棒へと背を付ける。
頭の上に下りてきた板状のものでしっかりと髪の毛を潰されて。
「やっぱ170。気になるならそのまま見てごらん」

保健の柊先生にそう声をかけられ、俺は頭上の板を押さえたまんま、体をずらし目盛りを見た。

170だ。
しかもどちらかといえば170弱じゃなく強。
……よし。
これだけあれば、男としてまあまあ大丈夫なレベルだろ。

「珠葵、俺伸びたよ」
「え、ホント? いいないいなー。次は俺ね。柊先生よろしく」
「はいはい」

高校入学時。
確か俺の身長は168センチ。
2年になったいま、何気なく珠葵と晃と俺の3人で保健室まで計りにきたんだけど。  
1年で2センチか。

「俺、5年後には180になるんじゃ……っ」
「それはないよ」
相変わらず珠葵はそういうとこ、あっさりしてんだよな。
「でも可能性としてはあるだろ」
「深敦くん、啓ちゃん越しちゃうかもしんないね」
 ……いや、それはない気がするけど。
晃はあいかわらず優しいな。

「珠葵ちゃんは、163」
「あーあ、俺伸びてない」
 珠葵が残念そうにそう言って台を下りる。
 代わりに次は晃が。
「晃くんは160だね」
「あ……僕も去年と一緒だ……」
ということは伸びたのは俺だけか。

少しの優越感と、罪悪感。
この中じゃ俺が一番背が高いしな。

「……俺、このままの身長で止まるのかな」
珠葵がそう柊先生に聞いていた。
「高校の後半で急成長する人もいるよ」
「そうなの? うーん。でもまあいっかな。御神先輩もそんな高くないし」

御神先輩?
「御神先輩……」
関係あんの? って聞き方がなんとなく冷たく感じて言い留まる。

「ん? 御神先輩にかわいいって思われる身長がいいでしょ、やっぱ」
俺が疑問に思ったことに気づいてか、珠葵の方からそう教えてくれた。

かわいいって思われる身長か。
それってやっぱり小さい方がかわいいってこと?
いや、まあそうだからこそ、俺は男としてある程度の身長欲しいんだけどな。

「あ、俺そろそろ御神先輩と約束の時間だから」
そういえば、デートだとか言ってたっけ。
「うん、バイバイ」
俺と晃は珠葵に別れを告げ、その後、柊先生にも挨拶をして保健室を出た。

「春耶の部屋にでも行こうか」
とくに予定もなかったからそう提案してみるけれど。
俺と晃とで行ったら俺、お邪魔虫?
いや、大丈夫だよな。
一緒に遊んでくれるはず。
そう思ったんだけど、
「啓ちゃんも、そこにいそうだもんね」
って。
俺別に敬吾目当てってわけじゃ。
まあ、いてくれたらお邪魔虫にはならないで済むし、それもいい。

 春耶の部屋を訪ねると、やっぱり啓吾が。
あと、今年から春耶のルールメイトになった凍也先輩。
「あっれ。深敦久しぶりじゃね? あー彼氏に会いに?」
「……いや、別にそういうわけじゃ」
うん、啓吾に用事で来たわけでは。
春耶の部屋だし。

「ふーん。ま、いいや。俺出かけよっかな」
あ、気ぃ使ってくれてるよな?
「別になんとなく来てみただけなんでわざわざ……っ」
「でもカップル二組でスワップとかされちゃ俺、居心地悪いし」
「しませんよ」
「ま。春耶と晃二人だけよりは、いいけどな」
やっぱり。
晃と春耶ってあからさまにバカップルみたいだから、なんかそこにいるとお邪魔虫って気分になるんだよな。

春耶は軽く笑って流してたが、晃は少し申し訳なさそうにしていた。
それを見てか凍也先輩が晃の頭をポンポンと撫でる。
「冗談だって。だって、お前ら別に俺がいてもお構いなしにくっついてんじゃん?」
……フォローなのかイヤミなのか。

「凍也先輩、アキのこと撫ですぎです」
あいかわらず頭を撫で続ける凍也先輩を見て、春耶が笑顔でそう言った。
「ちょっと撫でるくらいいいだろ。ちょうどイイ高さだし。それに晃ってすごい髪サラサラなんだよな」
正面から凍也先輩の手が、晃の髪を取ると同時くらいに、晃の体がカクンと後ろへ。
「わっ……」
春耶に腕を取られたみたい。
そのまま、晃は春耶に背後から抱きしめられていた。
……なんだそれ。
「アキ、今日はなにして遊んできたの?」
「え……あ、保健室で身長計ってきて……」
「そう。何センチだった?」
「160で……去年と同じだったよ」
「そっか。アキがちょうど、俺の腕に納まりやすいサイズだね」
大丈夫か、こいつら。
というか、春耶。
啓吾はなんでもないみたく寝転がったまま本を読んでいて。
凍也先輩は、まあいっか、というように今度は俺を引き寄せた。
「深敦は、身長伸びたのか?」
「あ、はい、2センチだけ」
「お前成長期っぽいし、俺抜かしそうだよな」
凍也先輩は俺より少し上か?
髪の毛を軽く触られるが、晃のときとはなんか違う……と思う。
撫でてもらってる感じではないんだよな。
身長差の問題?

「髪も伸びてんじゃん」
黒部分、出てきたか。
「そろそろ染め直さないとですねー」
「お前、いつも自分でやってんの?」
「自分のときもあるけど、友達にやってもらったり」
「金のくせに、そんな傷んでねぇよな」
「そろそろ、色変えようかとも思ってんすけど」
「うーん……やっぱ、俺出かけるわ」
「はい?」
あいかわらず唐突ですね。
「別に、俺ら平気……」
と言ってみたものの、春耶と晃は2人の世界だし。
啓吾は、本に熱中してなに考えてんのかわかんねぇ。
「いやいや、気ぃ使ってるとかじゃなくて。突発的に俺も彼女に会いたくなったの」
春耶と晃がラブラブだから?

「じゃあな」
「あ、はい。また」
凍也先輩を見送って。
さてどうしたもんか。
いや、もともとはなんとなくだけど凍也先輩いないと思ってたし。
別にいいんだが。  
晃と春耶は2人の世界だろ。
啓吾は本読んで……と思って目を向けると、本から視線を外しこちらを見ていた。
ばっちり目合ってんだけど。

かといえ、どうすれば。
とりあえず、啓吾の寝転がっているベッドへと座ってみるが。
春耶と晃のいる場で、くっついたことなんてねぇし。

「ゲームでもする?」
そう言って空気を換えたのは春耶だ。
急だな。そう思ったんだけど……。
もしかして、これ、普通?
なんつーか、俺だけが勝手に妙に気まずくなってた?
春耶と晃がくっついてんのは当たり前で。
啓吾とか、まったく気にしてなかったし。
俺だって、普段、全然気にしてねぇし。

なんで、今日は気になったんだろ。
啓吾と目が合ったから?
わかんね。  
 4人でゲームして。
それは普通に楽しいんだけど。
少し考える。
晃が、春耶の腕に納まりやすい身長だって。
俺は。
別に、かわいがられたいわけじゃないしいいんだけど。

そうだ。
春耶がそんなこと言うから、身長のこと余計に気になりだしたんだ。
俺は伸びて。
啓吾に納まりにくい。
いや、もともと納まってねぇかもなんだけど。  
 凍也先輩が晃を撫でるのと俺を撫でるのじゃなんか違う感じだったし。
客観的に見れたわけじゃないから、ちゃんとはわかんないけどな。


「啓吾。俺とアキ、ちょっと出かけてくる」
不意に春耶がそう言った。
「え……」
立ち上がる春耶に目を向けると、啓吾の方を見ていて。
アキはそんな春耶に手を取られる形で立ち上がっていた。

「りょーかい」
了解って。
「ここ春耶の部屋じゃん」
俺と啓吾が出てくならわかるけどっ。
「うーん、2時間くらいでいっかな」
俺、無視かよ。
「いいよ」
なんで啓吾がいいよとか言ってんだよ。
わけわかんねぇってば。
晃は?
目を向けるが、わかんないながらも春耶に従うといった感じか?

「じゃあな」
いや、じゃあなって。
そりゃ、俺だって春耶と晃が2人で出て行きたいって言うのを止めるほどヤボじゃねぇけど。
「……春耶、我慢出来なくなったとか」
「……違ぇだろ。あいつは人前でもいちゃつくけど、俺たちを邪魔モノ扱いすることはねぇよ」
だよな。
なんで。

目を向けると、軽くため息をつかれる。
とはいえ、いやな感じではなくて。
ただ息を吐いただけって感じだけど。
「深敦、どうした?」
どうした?
どうしたって。
「なにが」
「……なんでもねぇならいいけど」
なんでも……なくはない。
そうか。
俺、なんか変なの感づかれてたんだ……?

春耶と晃は俺たちの前でくっつけれるみたいだけど、俺は晃の前でなんて、啓吾にくっつけられないし。
たぶん、気を使って出てってくれたんだって、やっとわかった。
申し訳ない気分になる。

「啓吾……なんか、俺のこと見てきたし」
目が合ったんだよ、あのとき。
「……確かに俺も、少し気になって見てはいたよ。けど、深敦も気になることあんだろ」
俺は、身長のこと……だと思う。
 啓吾は?
「啓吾、気になってたって……」
「気になったっつーか。水城みたく凍也先輩に触るなって言いそびれたし」
「……言われても困るし」
「わかってるよ。だから言わなかった」
いちいち、人が触るたびに啓吾にそんなこと言われたら……。
たぶん困る。
恥ずかしいし。
けど、そう思ってくれてたのはちょっと嬉しいような。
若干、困るけど。

「深敦、身長伸びたんだろ」
啓吾が立ち上がるのにあわせて俺も立ち上がる。
啓吾よりは低い。
けれど、そこまで差があるようには思えない。

「2センチだけ」
「……嬉しくねぇの?」
「わかんねぇよ。自分だけ計ったときは嬉しかったんだけど。珠葵も晃も伸びてなくて。俺だけ喜ぶわけにもいかなかったし。珠葵は御神先輩にかわいがられたいからまあいっかって言ってた。晃は……春耶に、腕に納まりやすいって言われてたけど」
「珠葵もアキも、それぞれいいと思ってんなら、2人に気なんて使わず素直にお前も喜べばいいんじゃねぇの?」
そうなんだ。
そうなんだけど。

「啓吾が……っ」
「……俺?」
すごい恥ずかしい理由がわかる。
ちっちゃいのってやっぱかわいいんだ。
だから、珠葵は御神先輩にかわいがられて。
晃も、春耶の腕に納まって。  
俺は違う。
別に啓吾にかわいがられたいとかじゃないけど。
啓吾は、ちっちゃい方がいいって思ってたりするんだろうか。

「いずれ、啓吾のこと抜かすかも」
「……別にそれはそれでいんじゃね?」
「いいのかよ」
「イヤなのかよ」
 俺が嫌とかじゃなくて。
「……だって……いいのかよ」
「だから、なんで」
 かわいくなくて腕に納まらないから。
「啓吾抜くほど成長するとは思ってねぇけど。いまでもさ、充分それなりじゃん。ほら、晃と珠葵に比べたらさ」
「……お前は小さくなりてぇの?」
「違ぇよ。俺は伸びて嬉しいけど。啓吾が良く思ってねぇならあんま嬉しくねぇし」
やたらじっと見つめられ、つい視線を逸らした。
「……深敦さ。アキ見てどう思ってんの? ちっちゃくてかわいいとか?」
「……思うよ」
「珠葵もだろ。ちっちゃくてかわいいって」
そうなんだ。
晃も珠葵もちっちゃくてかわいいんだ。

「なんか、ちっちゃいだけでかわいいし」
晃と珠葵のかわいいとこはそこだけじゃないって思ってるけど。
チラっと目を向けると、啓吾の表情がなんかサドに見えた。
え、なに企んでるんだ、こいつ。
「俺にかわいがられたいの?」
言うと思った。
「違ぇよ。ただ、ちっちゃい方がかわいいってだけでっ」
「で、大きくなること気にしてんやん?」
「だから、お前が小さい方が好みかなーってちょっと思ったけど。ちょっと思っただけでなんでもねぇしっ」
フンっと顔を背けたと同時くらいに腕を引かれた。
よろめいて、うっかり抱きしめられて、顔を上げると口を重ねられる。
なんか、してやられた感じ。
舌が絡まって、頭がぼーっとする。
気持ちいい。
「ぅん……」
そのまま、体を押されて、ベッドへと座らされていた。
押し倒されて、上から見下ろされる。
「……どうせ、こうしたら身長関係ねぇし」
「少しは関係あるだろ」
「お前、珠葵と何センチ差あると思ってんの?」
珠葵と?
何センチ差って。
163だっつってたっけ。
「……7センチ」
「アキとは?」
「10センチだけど」
「で。たかが10センチ差で、ちっちゃくてかわいく見えるわけだ?」
見える。
軽く頷くと、啓吾は俺に圧し掛かって、耳辺りに舌を這わす。
「んっ……」
「俺とは? 何センチ差?」
啓吾と?
考えてるうちにも、啓吾の手が俺のズボンの上から股間を撫で上げる。
「ぁ…っ…んっ…ぅんっ!」
「183引く170やん?」
183引く170は。
「13……っ」
「正解。だから、俺から見たらお前も充分、ちっちぇよ」
ちっちゃい。
嬉……?
いや、バカにされてんのか?

わかんねぇけど。
俺が、珠葵たちを見てちっちゃくてかわいく思うように。
啓吾は俺のこと、小さくてかわいく……見えないこともないってことか。
そりゃ、春耶と晃ほどの身長差はないかもしれないけど、啓吾でかいし。
「はぁっ…でも、俺…成長期だし……っ」
「俺だって、伸びるかも」
「お前、もう成長期終わってるってっ」
「わかんねぇだろ」
わかんないけど。
啓吾に服を脱がされて、見下ろされて。
自分自身のズボンのチャックに手をかける啓吾を見てるとすっげぇどきどきする。
「……春耶、帰ってくるかも」
「2時間こねぇよ」
「2時間後に来て、事後とか恥ずかしいだろっ」
「じゃあ、勃てんなよ」
「……お前が触ってくるからだろ」
「俺に触られて勃ったんだ?」
そうだけどっ。
そうとは言いたくない。
ってか、わかってんだろって。
「……もういいから。するなら早く……」
俺も、ムードのないこと言ってしまう。
別にムード作りしようとか思ってたわけでもないけどさ。
それでも啓吾はもちろん、文句や愚痴を言うことはない。
「っつーか、お前、触る前から勃ってたし」
だって、啓吾にキスされて押し倒されたらさぁ……っ。
とりあえず黙秘していると、舌で濡らした指先が、ゆるゆると入り口を這う。
「んっ……」
なんでこれ、慣れないんだろ。何度もしてんのに。
「入れるよ」
「……ん……」
ゆっくりと入り込む。
指が奥まで。
「くっ…ぅっ」
「力抜けって」
「っ…ん…っ」
慣らすよう中を押し広げていく。
「俺だって、深敦のこと腕に納まりやすいって思ってるし。っつーか、それ身長関係ねぇから」
……おっきくても納まりやすい?

啓吾はずるい。
こうやって手を出しながらとか、俺が反論しにくい状態のときばっかに、こういうこと言ってくんだよ。

……恥ずかしいんだろうか。
俺も、こんなときだから、素直に聞き入れれる気がするけど。
ずるいよな。
けど、普段言われても困るし。
やっぱり、ちょうどいいかもしれない。

「あっ…ん……関係…ねぇのっ?」
「ねぇよ。俺よりお前がでかくても、俺ん中、納まりやすいって思ってる」
それはきっと思い違いだ。
そう思うけど、そう言ってくれるのが嬉しく思う。
頷くと、指を引き抜かれ、啓吾自身が押し当てられた。
熱い。
「あ……っ」
俺の中。
啓吾がゆっくりと入り込んでくる。
「ひぁっあっ…んぅんっ!」
熱いんだってば。
啓吾が俺ん中に全部納まって。
奥まで入りこんだと思ったときだった。
入ったまま、腕を取られ体を起こされる。
「ぅああっ…んっ…動かっ……っ」
動かすなって言い切る前に、啓吾に抱きかかえられ、抱っこされるみたいな形。
啓吾の腕ん中、納まってる?
「あ…っぁっ…俺っ」
「深敦が上乗ると、ちょうどよくね?」
「なに……っ」
「身長差」
啓吾が俺ん中入ったまま。
俺は啓吾の腕の中だ。
そっと口を重ねた。
「んっ……ぅん…っ」
啓吾のお腹らへんに自分のが当たって、つい腰が動く。
少し体を動かすと中に入り込んでる啓吾のが俺の内壁を擦って、気持ちいいとこを押してくれる。
「んぅっ…んっぁっあっ…啓…っ」
頭を撫でてくれて、なんだかそれがかわいがられているような気がした。
いつもと違って、妙に恥ずかしい。
たぶん、俺が気にしてるからだ。
珠葵や晃のこと。
だからこれ、かわいがってくれてるのかもしれない。
 
俺の体を片手で抱きながら、髪を優しく梳かしてくれる。
すっげぇ恥ずかしいんだけど、すごい嬉しくて、熱くてたまらない。
俺も、啓吾の背中に手を回し、抱きついていた。
「はぁっあっんっ…ぁあっ…啓吾…っんっ」
啓吾に揺さぶられて、俺も動いて。
たぶんコレ、求め合ってるってことだと思う。
そう考えるとすっげぇ恥ずかしいんだけど、それはお互い様だから。  
とはいえ、つい逃げるよう顔を俯かせてしまうが、髪を軽く掴まれ上を向かされる。
「やっ……」
「かわいいよ」
啓吾が俺の目見て、耳を疑うようなことを。
今、かわいいって。
「っな…ぁっ…」
なに言って。
冗談で、かわいーとか軽く言われたことはあったけど、なんか今回、マジっぽい。
からかってるわけでもなさそうで。
「違…っ」
また俺は、視線を逸らしたくて顔を俯かせると、今度はただ引き寄せるみたく頭を撫でられた。

「はぁっあっんっ」
さっきかわいいって、言ったよな。
言い直してくれるわけでもないし。
本当だったのか気になってくる。
けれど何度も、体を揺さぶられ腰を突き上げられると限界だった。
「啓吾……っんっ…ぃくっあっ」
「ん…」
「ひぁっあっ……あぁあああっっ!!!」



啓吾のが引き抜かれて、俺を抱きしめる腕に力が入る。
俺の外で、イってんだよな。

つまり啓吾も気持ちよかったってことだろ。
なんか、やっぱ嬉しくて。
変に恥ずかしくなった。
こんなの何度もしてるのに。


「啓吾って、俺のどこが……」
好きなんだろう。
寝転がる俺の手を啓吾に取られ、言い留まった。

元々、ちゃんと『どこが好き?』って聞くつもりもなかったけど。
「どう言われれば納得すんの」
やっぱり。
言わなくてもなんとなく、俺の言いたいことは伝わっているんだろう。
どこが好きかって。

納得……か。
どう言われても納得しねぇかもしんねぇし。

「わかんねぇけど……」
「たぶん、お前、なに言っても納得しねぇ気がすんだよな」
よくわかってんな。
「だからってわけじゃねぇけど。理由とかねぇよ」
好きな理由は、無いって。
ずっと言われてることだ。

けどそれって、悪い意味じゃない。
わかってる。
理屈じゃないんだってさ。

「うん……」
「理由はねぇけど、好きなとこはたくさんあんだよ」

好きなとこ。
それは理由とは違うのか。

「……例えば?」
「言うのめんどくさい」
「マジかよ。なにそれ」
「時間かかんだよ」
「じゃあ、1つでいい」
「性格」
うわ。
即答かよ。
あっさり言いやがった。
しかもざっくりと。
「それって、理由とは違うのかよ」
「違ぇよ」
「なんで」
「それが変わっても、関係ねぇから」

それ。
性格が変わっても関係なく、俺のこと好きでいてくれるってこと?
だから、性格は好きだという直接的な理由じゃない……?

……あいかわらず遠まわしに言いやがって。
始めは、ただたんに自己完結してるんだと思ってたけど、最近、こいつわざとなんじゃって考えるようになってきた。
照れ隠しっていうかさ。

でも、理由なく俺のこと好きってんなら、嫌いにもならないのかな。
だって、好きな理由が減っていくって可能性が無いわけだろ。最初からゼロなんだから。
ゼロな上で、好きでいてくれるわけだし。
ってのは、さすがにポジティブ過ぎ?
まあいっか。


「深敦、めずらしく腰使って、疲れたんじゃねぇの? 寝ろよ」
寝ろよって。
まあ疲れたけど。
「うん……」
本当に疲れちまってたし、そのまま目をつぶる。

あ。
啓吾と手、繋いだままだし。
すっげぇ、恥ずかしいしこんな状態で寝れるのかよ、俺。

でも、眠いかも。


「水城? 悪ぃ。2時間延長で」
少しして、啓吾の声が聞こえてくる。
俺、寝てると思われてんのかな。

電話?
すっげぇ恥ずかしいこと言ってやがるし。
あと2時間くらいこうしてたいって思われてんのか?  

っつーか、春耶たちのことすっかり忘れてたし。 
そうだ。元々は身長のことでいろいろ考え込んでたんだ。
ちっちゃいイコールかわいいだって。
でも、俺もかわいいって言われたし。
……俺がかわいいだなんて、んなわけねぇけど。

たぶんさ。
声だって、晃や珠葵の方がかわいいんだ。
なにをかわいいと思うかは人それぞれポイント違うかもしんねぇけど。
ある程度あるだろ。一般的な感覚ってのが。

啓吾は一般的な感覚とは少しずれているのかもしれない。
俺は別に、啓吾だけがそう思ってくれりゃいいし。
啓吾がそう言うんならいっかって思うよ。
結局、気になってたのは、啓吾にどう見られるかだったんだと思う。

俺も、寝てる啓吾はかわいいと思うしな。
そういうのと一緒で。
もしかしたら、でっかくてもかわいく見える瞬間みたいなの、あるのかも。


このまま俺が寝て、啓吾も寝て。
先に起きたら、たぶん、目の前にいんだよ。
寝てる啓吾がさ。
そう思うとやっぱり、ちょっとわくわくしちまって、なかなか寝付けそうになかった。