あなたのことを考えると、体がうずいてしまって……だとか、欲しいですだとか。
 なんて大胆なことを言ってしまったんだろう。
 後から恥ずかしくなってくる。
 完全に体目当てな言動だし。

 でも片山先生も、わかってる……よね。
 俺が、なんていうか肉体的に欲しがっちゃってるってこと。

片山先生が言ってくれた『あなたを悦ばせる自信なんてものももちろんありません』ってのは確実に、体の話だし。


でも、想いが通じてじゃあさっそく今日……でもいいんだろうか。
 
 

「片山先生……あの」
 したいです。
 あなたとHなこと。
 そう思うだけで顔が熱くなり言葉に詰まった。

「……城崎先生、夜、お時間ありますか?」
 俺に気を使ってなのか、先にそう切り出してくれる。
「は……い」
「誘っておきながら、本当に役不足になってしまいそうですが」  

 誘われるような言動を取ったのは俺の方だ。
 役不足って。やるってことだよな。
「……したい……です」
 そう言う俺の頬をまたそっと撫でる。
「やりかけの仕事があるので、それだけ片付けてきます。少しだけ待っててくださいね」
「はい」
 片山先生は学年主任だから、俺なんかよりも仕事量が多いのかもしれない。
待っててって。
 本当に浮かれてしまいそう。
 
「あの、俺……ずっと柊先生に相談してたんです。言っても構いませんか?」
「はい」
 俺は保健室へ。
 片山先生は職員室へと向かった。

 

「柊先生。1人ですよね?」
 保健室に入り込み一応確認。
「1人ですよ」
「あの……なんていうか、一応想いが通じたんでご報告しようかと」
「……付き合うってこと?」
 そういえば、付き合うだとかそういう話にはなっていないな。
「まだそういうわけじゃないんですけど。夜に……もう一度会う約束をしてて」
「大丈夫そうなんだ? それはよかった。ホント、城崎先生、ずっと好きな人の事ばっか考えてたもんね」
 そう。
 おかげで欲求不満ですよ。

「俺がリードするのは慣れてるっぽくて印象悪いですよね」
「というか、城崎先生がリードする流れなの? あっちの方が年上なんだし任せても」
「じゃあ、俺は身をゆだねれば……」
「いいんじゃない? 片山先生って、どんなセックスするんだろ。楽しみ」
 まるで自分のことのようだな。
 俺も、気になってはいるけれど。

「……とりあえず職員室行ってきます」
「はい。がんばって」
 いや、がんばるとか。

 
   

 なにも仕事のない俺が残業をするわけにもいかないけれど、とりあえず職員室にカバンを取りに行く。
 と、俺を見てか片山先生が片付けを始めた。
 ちょうど終わったのかな。

 なんとなくアイコンタクトをしながら一緒に職員室をあとにした。

「仕事、終わりました?」
「はい。待たせてしまいましたね」
 まじめな人だな。
「全然、待ってないですから。気にしないで下さい」
「……城崎先生。少し気になってたんですが、その……いきなりいいんですか?」
「え……」
 片山先生の方も気にしてくれているんだろう。
 想いが通じてすぐにHって。
 
 俺だって、なんだか体のことしか考えてないみたいで、よくないかなとは思うけど。  

「……いきなりってこともないです。俺は、ずっと片山先生と出来たらって思っててっ」
「それは、こっちのセリフです」
「……連れてってもらえますか? その……どこか」
「ホテル……とか。大丈夫です?」
「はい……」

 なんだか、こう改めてやる感じ、いままでになかったかも。
 なんとなく流れでその場で……みたいなのが多かったから。
 初々しいカップルみたいだなんて思ってしまう。  

 
 片山先生の車に乗せてもらいホテル街へ。
 車中も気が気じゃなかった。
 2人きりの空間。

 駐車場に車を停め、降りる前につい片山先生の方を見ると、目が合った。
 片山先生も俺の方、見てくれている。  

 キス……とか。
 こんなところでって、思うかな。
 けれど我慢の限界がきている。
 周りは薄暗い。  

 少し顔を寄せると片山先生の方も近づけてくれる。  

 お互い、引かれあうようにして口が重なった。

 少し顔を傾け、口を軽く開く。
 どちらともなく舌が触れ合って、欲しがっているのは俺だけじゃないんだと意識した。

 片山先生の舌。
 ぬるってして、熱くて。
 軽く吸い上げてくれて。

「ん…っ」
 気持ちいい。
 少し口を離しても、舌先で俺の舌を撫でてくれて、絡ませた互いの舌から水音が響いた。  

 すごい。
 なんか、エロい。
 片山先生って、こんなキスするんだ……?
 体が熱い。  

 そっと離れていくのが名残惜しかった。
 頭がボーっとする。  

 そんな俺を見てか、頬を撫でられた。

「部屋……行けそうですか?」
「……はい」
 車から降りて、ホテルの一室へ。  

 入ってすぐ、後ろから抱きしめられていた。
「……ずっと、城崎先生のこと見てました」
 耳元で声をかけられ体が軽くビクついてしまう。
「なにか、嫌なことがあれば遠慮せず言ってください」
「はい……」

 後ろからスーツの上着を脱がされていくが、俺はまるで初めてみたいに体が固まっていた。
 シャツ越しに胸元を撫でられて、一気にその気にさせられる。
 いや、もともと学校にいた時点から、やる気はあったんだけれども。

 何度も行き来する指先が、乳首を掠めるたびゾクっとして体が少し震えた。
「……シャツの上からでも、すごい勃ってるのわかっちゃいますね」
 ホントだ。
 すごい乳首勃ってて、恥ずかしい。
「……俺っ」
「見ても、いいですか?」
 あまり普段、弄られない所に目をつけられ、羞恥心に駆られながらも頷いた。
 
 正面に回った片山先生が、もう一度シャツ越しに勃ってる乳首を確認するよう指で撫でる。

「ぁっ……」
 直接触られたらどうなっちゃうんだろう。
 ネクタイをそっと抜き取られ、シャツのボタンをすべて外されていく。
 片山先生に目を向けられ、俺はそっとシャツを開き、胸元を露わにさせた。

「綺麗ですね」
「っ……そんなっ」
 そんな風に言ってくれる人、初めてかもしれない。
 
「ベッド、行きましょう?」
「……はい」
 
 俺は頷いて、促されるがままベッドに寝転がった。



上から見下ろされ、右と左と、交互に乳首を転がされていく。
「はぁっ……っ…んっ」
「城崎先生……左の方が好きなんですね」
 え……そんなのよくわからない。
 けれど、左の乳首に軽く爪を立てられると体がゾクっとして跳ね上がった。
「っンぅっ!」
「痛くないですか?」
「は……いっ」
 
 散々、胸を弄られ体中が熱くなったところで、片山先生の視線が俺の下半身に注がれる。
 ズボンの中で、勃起したそれをじっくりと見られている気がして、恥ずかしい。

 ベルトもズボンも下着も。
 全部、引き抜かれていく。

 片山先生の手が、俺のに触れるだけで、体がビクついた。
「んんっ!!」
 まだまともに擦られてもいないのに。
 自分からもよく見えていた。
 先走りの液で先端が濡れている。
「ぁっ…あっ」
 いつもはこんなんじゃないのに。
 これじゃ俺、いやらしい体だって思われそうで。
 いや、実際そうなんだけれど。

 片山先生の指先が、その液を確認するみたく拭いながら亀頭を撫でていく。
「ぁあっ…んっ! せんっせっ……」
 乳首撫でられて、亀頭を少し撫でられただけなのに。
 もうイってしまいそうなくらいに気持ちがいい。  

 でもこんな早くにイクとか、片山先生、萎えるに決まってる。
 我慢しなきゃ。
 
 そう思うのに、先端をすべる指先が気持ちよくて、恥ずかしいくらいにタラタラと液が溢れだしていた。
「っっ…やっ…俺っ…」
 なにこれ。
「嫌ですか? ここ」
 液が溢れれば溢れるほど、ぬるぬるとした感触が増していく。
「ぁっんっ! っ…こんなっ…」
「すごい、溢れてきてますね。……我慢してます?」
 違うだなんて言っても無意味だろう。
体があからさまに反応を示す。
 我慢して出る先走りの量が半端じゃなくなってきた。

「違っぁっ……俺っ…っ」
「違う?」
 こんなにも先走りって出ちゃうもんなのか。
 
「ぁっ…いつもは、あっ、こんなじゃっっ」
 って、なに言い訳してんだよ。
だって、違うよ。
こんなに、溢れてくるなんて。
おかしすぎる。

いく。
 どうしよう。
 いくから止めてくださいって言えばいい?
 
「城崎先生、いつもより感じてくれてるってことですか?」
 少し熱っぽい片山先生の声。
 それだけでまた体がゾクっとした。

 そうか。
 俺、いつもより感じてて。
 こんなに早くにイっちゃいそうで。
 すっごい我慢してるんだ。

「我慢……してるんでしたら、遠慮しないでください」
 イってもいいってこと?

「ぁあっ…んっ…すみませっっっ…こんな……もうっ」
「いいですよ」
 優しくそう言ってくれて、亀頭を撫でながら、空いた手で竿を擦りあげてくれる。
「ひぁあっ! …あっ…いくっ」
 片山先生の手は本当に気持ちがよくて、俺自身、いやらしく腰が動いた。
「はぁっあっ…っやぁああっっ」

 本当にすぐにイかされてしまい、恥ずかしいやら申し訳ないやら。



「俺……っホントに」
 いつもはこんなに早くないんですよ。
 そう言い訳したい自分がいて、それでも言いとどまった。
 
 いつもはって。
 さっき実際に『いつもはこんなんじゃ』って言っちゃったけれど、それって結局、他の人と比べてるってことになるんだろうか。

 今、早かったのって俺の体調の問題じゃなく、相手の都合ってな気もするし。
 そう。片山先生だったから。  

 他の人と比べて感じたからだ。
 けれどそれって、あんまりイイ気はしないよな。
 他の人より感じるって。
 その評価はどうであれ、比べてしまっているわけだし。

「……城崎先生。嫌でした?」
 片山先生の声にハっと顔をあげると、不安そうな面持ち。
「そんなっ……」
「なにか、考え込んでいるような。そんな表情してますよ」

 ああ。俺って最低だ。
「違うんです。すごく……悦かったです。けれどこんなに早くイってしってなんだか申し訳ないですし。それだけじゃなく、俺、いつもは違うだとか言い訳までしようとしてしまって……」
 片山先生は、俺を見下ろしてそっと頭を撫でた。
「いつもより、感じてくれたのなら嬉しいです」
 違う。
 そもそも『いつもより』ってことが問題なんだ。
「すみません……っ。いつもとか、俺っ」
 どう言えばいいのかわからない。
「気にしないでください」
 片山先生は俺がなにか言うのを制するようにそう答えてくれた。  

「片山先生……」
「はい。元々、自分では役不足じゃないかと伝えましたよね。それは他の人と比べてという意味合いもありますし。……あなたが、私と誰かを比べてみることに罪悪感を感じる必要ないですよ」
 ……比べられて当然……といったところだろうか。
「……比べるつもりは……」
 無いって。
 言い切れるのかな、俺。
「比べて、いままでよりよかったと思われるのならば本望です」
「それは……」
「自信なんてありませんけどね」
 片山先生は少し苦笑いして、軽く頭を下げてくれていた。

「片山先生……。いいに決まってます。いままでとは、全然違いますから……っ」
 そう。
 ただ欲求不満の解消と。
 本当に好きだと思える人と。
 全然違うから。
 本来、比べるものでもないと思う。

 けれどそれは精神論で体は一つ。
 言ってしまえば相性みたいなもんもある。
 
 肉体的に、自然と比べてしまう部分があるのかもしれない。
 俺ってやな人間だな。
 でも片山先生なら、そういうこと全部、わかってくれてるんじゃないかって考えてしまう。
 それでいて、俺のこと受け入れてくれてるんじゃないかって……。    

 これだけは言える。
「片山先生のことを想って疼く自分の体を今まで他の人で、ごまかしてきました。だから、本物であるあなたが、偽者に劣るわけありません」

 そう。
 たとえ、別の誰かがものすごいテクニシャンだったとしても。
 それは偽者だから。
 下手でも安くても、本物の方が何倍も価値がある。

 ……片山先生は別に下手ってわけでもないんだけれど。
 むしろ、すごくイイ。
 あまりにも謙遜するもんだから……っ。

 見上げると、片山先生が俺にそっと口付けた。

「……ありがとうございます」
 ほら。
 たかがこんな軽いキスですら、片山先生がするとものすごく熱い物に感じられる。

「城崎先生。あなたにとっての『いつも』が、私になるよう、がんばりますので」  

 いつも。
 俺の『いつも』が片山先生に。
「……してください」
 
 片山先生はそういう俺に、もう一度優しく、口を重ねてくれた。