「っ…だめ…だってっ」  
教室ではちょっと。
誰かに見られるかもしれないし。
 
「なんで? どうせヤらせてくれるんでしょ? 先生」  
まぁそうなんだけど…っ。
 生徒とこんなことしてるの、見られたらどうなるんかな。  
 
俺が、無理やり生徒のこと襲ってたら結構問題だろうけど、逆なら大丈夫…?
   
教卓に手を付く俺の後ろから。
ズボンと下着をおろされて、差しこまれた指先が中を解していく。
「ぁっっ…んっ…んぅン!!」
「声、抑えてよ…。誰か来たらどうすんの?」
 だったら、場所変えようよって思うけど、もう頭働かないかも。
「はぁ…っんっ…ぅんんっ」  
指を引き抜かれた代わりに、熱いモノが押し当てられる。
「入れるよ」
「っ…あっ…んっ…あぁあっ!!!」
 やばい。
 すごい声出しちゃったし。  
でも気持ちよくて。
 中を出入りされると、止まらなかった。
 自分で自分のを擦り上げていく。

「はぁっあっ…だっめぇ…もぉっ…あっ…んぅんんんっ!!」
 
中に流れ込む液体を感じる。  
中出しとか、厳しいな。  

 体の力が抜け、その場に座り込んだときだった。

「なにしてんだ!!」
 後ろからかかる声。
 …やばい。

「こんなこと…っ。していいと思ってるのか!?」  
…すごい怒ってるし。
 振り返るのが恐い。
「うるさいなー、片山先生は」
 生徒がそう答えているのが耳に入る。
 …そうだ、片山先生の声だ。
 堅くて厳しそうなイメージで。
 学年も担当も違うから、ほとんど関わらないと思っていた。
 実際、挨拶程度しか交わしたことは無かったし。

「おまえ…、どういうことかわかってるのか? こんな無理やり人を…っ」
 無理やり……?
 あ…俺、無理やりやられたって思われてるのか?
 だとしたら、こいつ、絶対退学だよな…?
「…あのっ」
 否定しなきゃ…。
 でもどうやって…。
 振り返った先にいた片山先生の目に俺はあまり映っていないのか、生徒と向き合ったまま。
「片山先生、俺、無理やりじゃないよ。合意の上だから」
 …どうにも言い返せないよな、これは。
 絶対的に拒んでないんだもの。
「アフターケアーの邪魔してくれちゃって、デリカシーないなぁ」
 片山先生の目がやっと俺を見下ろした。
「…城崎先生。彼のことは知ってるんですよね」
「…は…い」
「じゃあ、事情は城崎先生から聞いておくから。君はもう帰りなさい」
 
 生徒は帰らされ、片山先生と2人。
 残されてしまう。
 …最悪だ。
 とりあえず、なんだかんだで生徒の退学は免れそうだけれど。

 片山先生がしゃがみこんで俺と視線を合わせた。  
やばい、ホント、怒られる。
 そう思ったんだけど。
「…すみません。差し出がましいことをしてしまったようで」
 逆に謝られた。
「……え…」
「城崎先生が襲われているように見えたもので。合意だとは知らず…。ここは見て見ぬフリをするべきでした」
「いや…その…」
「引っ込みがつかずに、生徒にもあんなことを…。
 …しかし、あなたは教師です。教室でこのようなことをするのは控えてくださいね。もっとも、さきほどの様子からすると、拒んでいたようには思えましたが」
 少し困ったように、俺に注意をした。
 
 俺が襲われてると思って…?
 それで、あんなにも怒ってくれたのか?

 どうしよう。
 すごい嬉しい。
「あの…ありがとうございます…。気遣ってくださって…」
「一応、確認させていただきますけど、付き合っているんですか? …すみません、立ち入ったことを…。少し気になったもので」
 気になった?
「…付き合ってません」
「……それでも、あなたは今回の行為が合意だと認めるんですか。彼を庇っているんでしょうか」
 そうか。  
本当は無理やりだったのに、生徒を庇って合意だと言い張ることも出来る。
付き合っていない相手ならばなおさら。
合意だとは思われにくいだろう。

「庇っているわけではありません。本当に…。もちろん、こんな場所でとは思いましたが流されてしまいました。反省してます。ただ…合意じゃないとも言い切れないもので…」

 片山先生は、そっと頷いて。
「わかりました」
 そう答えてくれていた。

「もう行きますね。無事でなによりです。本当に襲われないよう、気をつけてくださいね」
 最後は冗談っぽくそう笑って、片山先生は教室を後にした。  

 片山先生とまともに会話をしたのはこの日が初めてだ。  
 

ただ厳しい感じの先生かな…なんて思ってたんだけど。  
優しい一面に触れ、それからというもの片山先生のことが気になって仕方ない。
好きになってしまったのだろう。


 とはいえ。
 こんな姿見られたんじゃ、どうにもならないというか。
 最悪だ。
 何事もなく、日々が過ぎていく。
 なんだかんだで半年過ぎちゃったかな。

 かないそうにないし。
 無理だよなぁ。
そう考え出すとどうしても体が寂しくて。
流されるがまま、寄って来る生徒と、してしまう。

 今日は数学準備室で、2人の生徒と。
…ダメだな。
すぐに流されるし。
2人が出て行った後、少し遅れるようにして、俺も部屋から出た。

…と、片山先生。
「……いい加減にしたらどうですか」
ため息がてらにそう言われる。
運悪く結構、はちあわせるんだよなぁ…。
「……」
「生徒2人と、また遊んだんでしょう?」
「なんで…」
「先に出てった生徒の会話、聞いてればわかりますよ…」

たぶん、この人は俺のことが嫌いなんだろう。
あまりにも、軽くいろんな人とやってしまう俺を、下品なものでも見るかのよう。

「…っ…片山先生はどうなんですか?」
「どうって…?」
「その…こういう行為に対して…」
どういう考えを持っているのか、ずっと前から気になっていた。
片山先生は、またため息をついて。
「少なくとも遊びでするものではないと思ってますが」
少し冷たくそう言われてしまう。
あぁ、やっぱり俺って、すっごい汚らわしい奴だと思われていそうだ。

「そういうのは、……こういう場所では控えていただかないと、さすがに秩序の問題とか。少し、気をつけてくださいね」
今度は、困ったように苦笑して、俺を見てくれる。
なんか、それが優しく思えて。
少し泣きそうになってしまっていた。
「…はい…」
「あなたは、一人身なんでしょう? 生徒たちはそれを逆手にとって、都合よく……」 と、少し言いとどまって。
「…私が口出すことじゃないですね…。すいません」
「いえっ…俺が…ちゃんと考えられてなくて…秩序とか、乱れちゃいますよね、こんなんじゃ。すいません」
「…秩序だけの問題じゃないですよ。あなた自身の問題として。少し考えたえだけです。いいように使われてやしないかと…」

都合よく使われちゃってる俺のこと…心配してくれてるんだろうか?
呆れたわけでなく?

いつも冷たいけれど、どこか優しい片山先生。
願わくば、初めて見られてしまったあのときよりも前に戻りたい。
……見られなければ、片山先生の優しさにも気付けなかっただろうけど。



「柊先生―…」
相談相手。
俺にはこの人しか、今はいない。
保健室に行くと、ラッキーなことにこの人だけだ。
「あれぇ。城崎先生。どうしました? 久しぶりに俺とやろうって?」
そう体を寄せられる。
「…今日は、もう数回やったんで勘弁を」
「…あいっかわらず、相手に困ってないんだねぇ、城崎先生は」
笑いながら、俺にコーヒーを入れてくれる。
「相談なんですよ」
「お? どうしました?」
「楽しそうですね。人が悩み事打ち明けようとしてるってのに。
今、俺ってフリーじゃないですか。
で、体だけとか、やるだけの相手…というか生徒が数名いるんですけど。 そういうのって、汚れてますかね」
「いや、彼氏がいないんなら、いいんじゃない? でも相手次第かなぁ。城崎先生の場合、生徒にいいように使われてるようにも見えるし」
あぁ。やっぱり。
生徒からしたら、俺なんて使い勝手がいい性処理道具みたいなもんだろうしな。
痛い…。


「好きな人が、こういう行為に興味ないみたいなんすよ」
「そりゃ困った」
「でも、俺のこういうの知っちゃってて。汚らわしいって思われてそうで…」
「そりゃ、思われてるだろうね」
あっさりと、そう言われてしまう。
「あぁあ。寂しいなぁ。好きな人に思いが伝わらないって」
「伝わらないっていうか、伝えてないんじゃないの?」
そりゃ、確かに伝えた覚えもないですが。
「たとえば、いま告白とかしてみても、俺は汚らわしいと思われてるわけで。誘ってみても、無節操だと思われそうだしで」
「確かに」
「どうしましょう」
柊先生は、とりあえずため息を一つついて。
「まぁ、がんばってしばらく禁欲してください」
笑顔で言い放つ。
「…禁欲ですか…」
「態度で示すしかないでしょう」
「……そうなんですけど。元々は、好きな人とちゃんと接することが出来ないから寂しくて、欲求不満になるわけで…」

片山先生は俺がこういうこと平気でしちゃうやつだってわかってるんでしょう?
だったら。
自分もしてみようって気にはならないのかな。
俺じゃ欲情しない?
というか、やっぱ汚れたモンみたく思ってるかな。

来てくれないから、寂しくて、また俺は他の人を相手にして。
余計に退かれて。

悪循環。


「じゃあとりあえず、生徒とするのやめます」
まずは片山先生の言うように、都合よく使われるってことを止めにしないと。

「いいね、で、禁欲はしないの?」
「……なるべくしますよ。どうしてものときは…協力を」
 柊先生は、軽く笑って、了解してくれていた。

 
 とは言ってみたものの。
数日が経ち。
もちろん、自分の中では我慢をするし、変わって来てはいると思う。

 ただ、それを片山先生に知ってもらう術が無い。
 目立つところでしなくなったなって思われているだけかもしれないし。
 それでも、ちょっとは前進してるかな。

 それより、いままで接点がさほどなかったということを改めて思い知った。
 そうなんだよ。
 仕事して、すぐ家に帰る…なんて生活をしていたら、ちょっと挨拶を交わす程度しか関わりがない。
 いきなりなにを話せばいいのかわからないし。

 告白とか?
 いやいや、無理だろう…。
 男同士には抵抗がないようだけれど。  
 
そろそろ限界かも。  
生徒に捕まらないようにして、最近は、一人でヌいているわけだけれど、やっぱり物足りなさはある。  
もちろん、誰か他の人にされたところで物足りないかもしれないが。

 片山先生が、同じ学年を担当するほかの先生と少し仲良く話しているのを見るだけで、胸にちくちくとトゲみたいなもんがささってくるんだ。
 どうすればいい?  
 
話しかけられたいし、話したい。  
けれどなにを。


「……柊先生。ちょっといいですか」
 …別にやろうってわけじゃない。
 ちょっと愚痴を聞いてもらうだけ。
 保健室には柊先生しかおらず、今回は運が悪いなと感じた。  
二人きりとか。  
まぁ話を聞いてもらう分には都合がいいけれど。

「城崎先生―、あからさまに欲求不満な顔してるよ?」
「冗談を。ちゃんと抜いてます」
「そう? まぁいいけど。どうした? 協力して欲しいとか?」
 協力…ね。

「あれから、ずっとしてないんですよ。でも、それを俺の好きな人が知るわけでもないし、なんの意味があるんだろうって」
「ホント、城崎先生は好きな人のことばっか考えてるんだねぇ。
 その人に言われたから…でなく、自分自身どうなの? 汚れてるって思ったからやめたんじゃないの?」
 そうだ。
 自分自身、生徒にいいように使われるのはやめようと思って…。
「そうなんですけどね。でも、どうせなら成長した自分のこと、わかってもらいたいじゃないですか。
 かといって、『いまは生徒としてませんよ』なんて言うわけにもいかない。
 体は欲求不満になるし。距離は縮まらないし」

ため息をつく俺の頬を柊先生がそっと撫でてくれる。
「少しずつ、気付いてくれるんじゃないかなぁ? 城崎先生の変化に」
 あぁ。
 このままキスしてやっちゃいたい衝動にかられてきた。
 だからね。
 こんな都合よく二人きりっての、避けたかったんだ。  

相手が柊先生ならば、都合よく使われているわけじゃない。  
むしろ使っているのは俺の方?  
寂しいから。  
しょうがない。  
 
どうにも距離が縮まらず、遠い存在のままであるのが寂しくて。  
…少なくとも遊びでするものではない。  
そう言った片山先生の言葉を思い出す。  
遊び?  
違う。  
欲求不満や寂しさを紛らわすためのいわば治療みたいなもんだろ。

 なぁんて。
 変に言い訳考えてる自分がいたりして。
 少し考え込んでいる間も、柊先生は一応待ってくれてはいるようだ。
 今、以前のように積極的に誘われてたら、すぐにでも乗ってしまっていただろう。

 いいのかなぁ。
 そうこうしていたとき。

 ガラっと保健室のドアが開く。
……やり進めなくてよかったよ。
いや、進んでたら、柊先生が鍵をしめていたんだろうけれど。

「片山先生……っ?」
 妙に緊張する。
「どうしました? 片山先生。めずらしいですね」
 さらっと、柊先生が訪ねてくれる。

「……いえ、なんでもないです。失礼しました」  
いや、失礼しましたって。  
そういえば、前、生徒としていたときにも、『ここは見て見ぬフリをするべきでした』って言ってたし。  
今回も、誤解している?  
…誤解とも言い切れないけれど。

 ドアを出て、柊先生と二人残される。
 やばい。
 これ逃したら絶対に…っ。
「柊先生…っ! 俺、行ってきますっ」
「……城崎先生の好きな人って、片山先生なの?」
「あ…れ、言ってませんでしたっけっ」
「うん…。まぁ『好きな人』って言うくらいだから、生徒ではないんだろうなぁくらいには思ってたけれど。がんばって」
「…はい」

 保健室を出て、少し離れたところに片山先生が。
「…片山先生…っ」
 俺は呼びかけ、片山先生の所へ寄って行った。
「城崎先生…。よかったんですか? 柊先生と…」

「違います…。別にあの人とは、しようとしてたわけじゃなくて…っ」
「別に、構いませんけれど」
 ……そうだよな。
 俺が誰としてようが、関係ないんだろう。  
 
前に、片山先生が言ったように、生徒に都合よく扱われているってわけでもない。  
注意してくれるほどの問題じゃないんだ。

「片山先生…っ。俺…」
 どうしよう。
 どう言えばいいのか、よくわからないんだけれど。

「城崎先生。以前、生徒にいいように使われるのはどうかと…というような話をしたと思います。  
次は大人とって…。  
もちろん、それでもいいと思いますよ。  
考え方を否定しようとは思いません。体のみの付き合いだって割り切れてるんでしょう?」
「…あれから生徒とは関係を持っていません。それに柊先生とも…っ」
 とりあえず、未遂だ。
「…そうですか。
 なんにせよ、もうそろそろ、口を挟むのはやめにします。いつまでも私みたいの見張られてちゃ、疲れるでしょう? 目立つところで生徒としなくなってよかったです」  

 苦笑いを見せ、背を向ける。
 見放される?
 いや、違う。
 ほら、目立つところでしなくなったからよかったって。
 俺の成長を認めてくれたってことなのかもしれない。
 けれど、俺は片山先生のことが好きだから。
 このままじゃ、接点がなくなってしまう。  

「っ…待ってください…っ」
 つい、感情的になって、俺は片山先生の体を背中から抱きしめた。

「いつも、優しく声をかけてくれて、嬉しかったんです。
 けれど、あなたは、誰とでもやる俺を見て、きっと汚らわしいと思ってるんだろうって。
 嫌われてるんじゃないかって、感じてました。
 あなたのことを考えると、体がうずいてしまって、誰かにおさめてもらいたいのに、誰と何度しても満たされないんです…っ。
 足りなくて。
 またしてしまって。
 そんな俺を、あなたはまた嫌な目で見るけれど、どうすればいいのか…っ。
 俺のこと、ほっとかないでください…」  

 気持ち悪いとか、触るなとか、言われてしまうんだろうか。
 ついいきおいでしてしまった行動に後悔する。
 そっと、腕を緩め、片山先生の体を離した。

「柊先生のことは、いいんですか?」
 振り返ってくれる片山先生が、なんとなく見上げられなかった。
「っあの人とはそういう関係じゃありませんっ」
「ずっと、心配してました。
 生徒に、いいように使われてやしないかって。
 それがだんだんと、怒りにかわりました。
 子供なんかが、好き勝手にあなたを抱いているということに。
 嫌気がさしたのは、それを止められない自分のふがいなさです。
私は別に、経験豊富ではありません。あなたを悦ばせる自信なんてものももちろんありません。
 あなたが、体が寂しいと他の人を相手にしていても、代わりをかってでるなんてことも出来ず、いつも、中途半端に監視しては『やめたらどうだ』と注意するくらいでした。
 
 私なんかで、本当に満たされるんでしょうか」

 片山先生。
 満たされるに決まっている。
 いつもいつも、俺の事を想ってくれていたんだって、そういう風にとらえていいんですよね…?

「…片山先生…。…欲しいです。あなたじゃないとダメなんです…っ。それはもうずっと、感じてることです」
「大丈夫ですかね」
「いつも声をかけてくれて。その一言一言だけで、ものすごく心が突き動かされるんです。その声で、手で…って。俺の中、あなたでいっぱいなんです」

なんて恥ずかしいことを口走っているのだろう、俺は。
 それでも、片山先生はそっと俺の頬を撫でてくれた。
 それだけで、体中が熱くなるような感覚。
 
「城崎先生…。もう逆に『ほっとけ』と言われても、いまさらほっとけないですけど。いいんですか?」
 ほっとけないって。
 ずっと構ってくれるってことですか?
「はい……。お願いします」  

 これからも俺のこと、監視しててくださいね。