机に顔を伏せている俺の髪の毛を、誰かが絡めとる感触に頭を上げる。
「…啓吾…」
友達で、俺の前の席の啓吾だった。
「水城、保健室行ってこやぁて」
そんなに俺、ぐったりしてる?
「…うーん…」
「そんな態度で受けられたら逆に平常点、下げられるって」
「…俺、お前みたいに頭よくねぇから休んだらわかんなくなるかも」
「普段から別にまじめに聞いてるわけじゃねぇだろ」
そうなんだけど。
妙に焦りとかあるんだよ。
休んだらついてけなくなるんじゃないかなぁって。
「俺が、お前休んだとこ教えてやるって」
少したくらむように、からかうように啓吾はそう言ってくれる。
「ん…じゃぁ、行ってくる…」
俺は、啓吾にそう伝えて、まだ休み時間のうちに教室から出た。

もう帰ってしまおうかとも思うんだけど、ちょっと休んだらよくなりそうだしな。
保健室で少し休ませてもらうのがいい。
自分の中でそう決めてから、保健室へと向かう途中、
「やっほい♪」
クラスメートの珠葵が俺の前に現れる。
「春耶くん、元気ないねぇ。どうしたの?」
「ちょっと、気分わりぃからさ。保健室に」
「そっかぁ。じゃぁ晃くんに伝えておくよぉ」
アキに…?
晃…通称アキは、俺がものっすごく大好きな子で。
付き合ってるってわけじゃないんだけど、それとなくいい雰囲気の関係にある。
「別に伝えなくてもいいよ」
「とか言ってぇ。心配させたくないって? 春耶くんの場合、心配して欲しいでしょ」
楽しそうに、俺のこと、見破ってくれる。
心配させたくないだなんて、いい人ぶれないし。
そりゃ、心配してくれたらなぁって思うけど。
「わざわざ、伝えなくってもいいよ」
「ちぇ。気が向いたり、それとなく言えそうだったら、伝えるよ」
「さんきゅ」
これ以上、珠葵の好意を断るのもなんだから、素直にそう答えておいた。



「失礼します」
そう断って、保健室に入り込む。
「どうぞどうぞ♪」
病人が来なくてそうとう暇だったのか、ノリ気で保健の柊先生は俺を迎え入れてくれた。
「気分、悪いんすよ…」
「熱? …ないみたいだねぇ…」
俺のオデコに手をあてて、計ってくれる。
俺自身も、別に熱っぽいとは思ってなかった。
「なんつーか、頭、ガンガンする感じ」
「あー…。二日酔い?」
「飲んでませんよ…」
とりあえず、俺は渡されたノートに、名前などを書いて、ベッドで休ませてもらうことになった。

「ストレスとか、悩みからくるもんかもよ…? 春ちゃん、なんでも一人で抱え込みそうだし」
ストレス…か…。
わかんないな…そうかもしれない。
これといって、溜めてるってわけじゃないけれど、いろいろと頭が混乱してるようなすっきりしないような感じはするから。
「一人で抱え込んでるわけじゃないけど…。人に話してるってわけでもないかな…」
「彼女とうまくいってる?」
寝転がる俺の髪をかき上げならそう聞かれてしまっていた。
「…俺、彼女いないんですけど」
「ホント?」
ホント。
ため息が漏れた。
俺の悩みの原因ってこれかなぁとも思う。
「晃ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」
「別に…。そういうわけじゃ」
「それで悩んでるんだ?」
やっぱり、先生もそう思う…?
「そうかも」
「まぁまぁ、少しゆっくり寝なって。それから、考えよ」
なんか、逆に煽るだけ煽られた気がするんだけど…。
でも、原因がわかっただけでもいいかな。

カーテンを閉められ、俺は一人残される。
柊先生は、机がある方へと行ったのだろう。
俺はというと、別に寝不足だったわけじゃないし。
ただ、寝転がってるだけだった。
教室に比べて静かだし、寝転がってるだけでも保健室ってのは、休まる場所だった。


「あの…っ…」
ドアの開く音とともに、かわいらしい声。
すぐわかった。
アキだ。
「あぁ、どうした?」
柊先生がなんでもないみたいに対応するのが聞こえる。
「あ…気分、悪くて…」
アキも…?
「じゃぁ、熱、計ろうか」
俺んとき、そんなこと、言わなかったくせに。
「ぁ…熱は、ないと…」
「そう…?」
「ぁっ…あ…っ…せんせ…」
…なにしてるんですか、先生…。
だからって、いきなりカーテンあけるわけにもいかないし。
だってもし、なんかやばいことしちゃってたら、見るわけにいかないだろ。
アキだって恥ずかしがるだろうし。
って、やばいことしてたら、やばいって。

「…いいよ。じゃ、気分悪いってことにしといてあげる。ノートに名前、書いていいよ」
「あ……はい…」
軽く笑いながら言う先生の声に、おとなしく答えるアキの声。
先生、あえて俺のことあおるために、アキになんかしたんじゃないかって思えてくる。

っというか。
アキは、別に気分悪くないのか…?
先生の言い方がなんだかそれっぽくて。
先生は、それがわかってて、アキを少しからかってるようにも思えた。
「俺は、ちょっと出かけるから」
アキにそう言う先生の声。
俺に聞こえてるってわかってんだろうか。
ドアの閉められる音が、響いた。


カーテンをそっと開けて、アキが顔を覗かせる。
少しだけ隠れるようにして覗くのがものすごくかわいい。
「あ…起きて…。っ聞いてっ」
俺を見てか、慌てたようにそう言うと、頬を赤らめる。
あぁ、さっきの声?
ばっちり聞いたけど。
「今、ちょうど起きたかな」
聞いてなかったことにする。
「あ…ごめん…起こしちゃって」
そうきましたか。
「うぅん。俺が、勝手に起きたんだ」
「あ…ぅん…」
かわいくてたまらない。

「アキは? 気分悪いんだ…?」
「え…あ…。そうじゃないんだけど…。ちょっと、用事」
用事ってのは嘘なんだろう。
気分、悪いってのも…。
「水城くん…。体調悪いって聞いたんだけど…」
少し照れた様にそう聞いてくれる。
もしかして、俺に会いに来てくれた…とか。
それとも、本当に保健室に用事だった?
いや、そうだったら柊先生に言ってるよな。
近くに用事があって、そのついで…?
「アキ…用事って…?」
駄目だ、俺。
はっきりアキの口から言ってもらわないとわからなくって。
「…だから…っ…。珠葵くんが、水城くん、体調悪くて保健室で寝込んでるって…聞いて…」
「…会いに来てくれた…?」
言いとどまるアキに催促すると、視線をそらしたまま、小さく頷いた。

愛しくてたまらなくて。
俺はアキの手に自分の指を絡める。
「体調…。悪かったけど、よくなってきたかも」
「嘘…」
ホント。
アキとの関係で、少し悩んでたから。
俺の体調悪いのって、いわゆるストレスや悩みからなんだろうし。
こんな風にアキが会いに来てくれたら、体調だってよくなるってもんだ。

「アキ…。キスして欲しいな」
俺は、病人なんだよって、オーラ。出しちゃってもいいよな…?
「そんなの…」
「良くなるから」
「ならないよ」
「じゃぁ、して欲しいから」
珠葵のやつ、どういう風にアキに伝えたんだろう。
ただ、気分が悪いってだけで、人に見舞ってもらうほど重症じゃない。
アキだって、あとで『大丈夫だった?』って聞いたとしても、こうやって来たりはしないはずで。
ものすごく悪いって伝わってんのかも。
そうだとしたら、俺を見て、アキは拍子抜けだったりするのかな。
それとも、思ってたよりよさそうで安心…とかしてくれるんだろうか。
「…目…瞑って」
アキが小さな声でそう言うのが聞こえる。
「え…」
「目、瞑って欲しいん…」
まさか、本当にしてくれちゃうわけ…?
「…う…ん…」
俺は、緊張しながらも、アキの言葉に従って目を瞑る。
「途中で開けないでね」
そう言い残して。
軽くベッドが軋む音が耳につく。
そっと、唇が触れるのがわかった。
目を開けたいけれど、そこは我慢。
アキの唇がまた離れるまで、待った。

「…………」
アキは、どうすればいいのかわからないみたいで、なにも言えずに、俺から視線を逸らしていた。
「…良く…なったん…?」
俺の方も見ずにそう言って。
一瞬、なんのことかわからず、ポカンとしてしまっていた。
「あ…。微妙」
「え…」
俺、なに微妙とか言ってんだろ。
「アキ…。もっとして欲しいな…。俺、欲求不満で体調悪いんだよ」
ふざけてるんじゃなくって、真面目な口調で言ってみる。
「っ…ごめ…」
すると、あろうことかアキが謝り出すわけで。
「え…」
あぁ。もしかして、俺が欲求不満なのは、アキがやらせてくれないから…とか思ってる?
真面目で健気で。
からかいがいがないというか。
からかえない相手だ。
「…どうすれば…」
どうすれば…って聞いてくれても…。
「いや、いいよ、気にしなくって」
「…でも…。じゃあ…僕…する…から」
恥ずかしそうというよりは、申し訳ないってな、不安そうな顔。
ホント、気にしてくれなくて構わないのに。

だけれど、俺は、アキがしてくれるっつってんのに、断るなんてもったいないこと出来なくて。
なんて人間なんだろうって思う。
だけど、アキにこんな風に言われて、断れるわけないっての。
「なにをしてくれるわけ…?」
「えっと…。口で…してもいい…?」
してもいいだなんて、許可とらなくってもいいに決まってる。
「うん…」
だからって、ノリノリで答える状況じゃない。
それよりも、そう言ってくれるのが嬉しくて、陶酔状態。
アキは、少し申し訳なさそうに、ベッドに乗りあがって、俺の足元にちょこんと座り込む。
「…っ…下手だけど…」
「いいよ、そんなん」
「うん…」
軽く足を広げる俺の間に入り込んで、そっとズボンのチャックに手をかける。
緊張してるのか、少しおぼつかない手つきで、俺のを取り出すと、そっと指先で掴んで、マジマジと見つめていた。
あんま見られんのも恥ずかしいけど。
だからってせかすわけにもいかないし。
別にアキは見ようと思って見てるわけじゃなくって、次への行動が遅いだけなんだろう。

そっと差し出した舌先が、亀頭のてっぺんに触れて。 いったん、触れてしまったのを、また離して、距離を測るようにしてから、もう一度、舌をつけた。

ここからだと、アキが俺のをしてくれる様子がよく見えた。
アキは、ベッドに四つんばいになって、上半身だけを、低くかがめていた。

なんとなく慣れてきたのか、裏すじの辺りを、かわいらしく何度も小さな舌でペロペロと舐めあげてくれる。
「アキ…。いいよ…」
すっげぇ気持ちいいのもあるけど、それ以上にアキがかわいくてたまらなくて。
手を伸ばして、軽く髪の毛を指で絡めとる。
「ン…」
少し、頬を赤らめて、一生懸命、俺のを愛撫してくれていた。
小さい口で、俺のを含もうとするけれど、無理なのかためらってるのか。
歯を立てないように、亀頭を唇で甘噛みする。
一度、口を離して、大きさを確認してから、無理だという結論にたどり着いたのか、含むのはやめようと思ったのかはわからないけれど、もう一度、そっと唇で、俺の亀頭の先を挟み込む。
舌を這わせながら、何度も吸い上げるように、キスをしてくれて。
肉体的だけじゃなく、精神的にもやばかった。
濡れたような、吸い上げる音が頭に響く。
結構、限界に近いけど、少しでも長く、俺のをしてくれるアキが見てたくて、つい我慢してしまう。
欲望に流されないように、アキの行動をずっと見守っていた。
「っん…水城く…」
アキは、不安そうな顔で、恥ずかしそうに俺を見上げる。
「ん…? 気持ちいいよ…」
俺が気持ちよく思ってないとか思ってんのかなぁって。
俺は、ちゃんと気持ちいいんだと伝えながら、アキの髪の毛を弄ぶ。
「…うん…。…ぁ…」
もう一度、俺のを舌で舐め上げてくれるけど、目が潤んでるように見えた。
「っイイ…?」
「うん…。すげぇ、いいって」
「はぁっ…水城く…ぁっ」
寝転がったままの状態の俺からはアキの様子がよく見えた。
アキ自身は、こんなに見られてると思ってないのかもしれないが。
潤んでるように見えた目は、確実なものだった。

別に俺は嘘ついてないし、本当に気持ちよかった。
上手いかどうかは別だけど、アキが好きだから、俺は誰にやられるよりも今、すっげぇ感じてると思う。
だけれど、実際、イってないと、アキから見れば、感じてないとか思われるのだろうか。

「っ水城くん…っ…目、瞑ってて…っ」
顔を上げたアキは、目を潤ませながらそう言うもんだから、俺は、素直に、腕で目を隠した。
だけれど、やっぱり気になるから、こっそり覗いてしまう。
アキは、俺が見ていないのを確認するように、こっちを見ていた。
アキみたいに少し上の角度からだと、俺の腕で目がちゃんとふさがれてるように見えるだろう。
俺は、申し訳ないと思いつつも、そのまま、アキを見守った。

アキは舌で俺のを愛撫しながら、左腕で体を支え、空いている右手で、自分のズボンのチャックを下ろしていた。
俺は、もちろんなにも言えずに、ただ見守るばかり。
「っん…」
自分のを取り出して、もう一度、俺が見てないかを確認してから、右手でつかんだソレを擦りあげて、自分で愛撫する。
「っンっ…ぁっ…ぁうっん…っ」
涙を浮かべながら。
俺に悟られないようにか、俺のにも必死で舌を這わしていた。
「っはぁっ…ぁっ…ひぁっ…ぁっ」
少し大きめの声を出してしまうたびに、こちらを伺う。
俺は、徹底的に無視した状態で、気づかないフリをした。
「ぁっ…やぅっ…っあっ…」
アキは、自分のでいっぱいいっぱい…ってわけでもないけれど、俺のに舌を這わしたまま、中途半端に舐め上げる。

アキは、四つんばいのまま、ズボンをひざあたりまでそっと下ろした。
俺に見られるかもしれないってわかってるだろうけど、とまらないのだろう。
下着に手を突っ込んで、見えないけれど、後ろに指でも入れようとしてるんだと思う。
「っはぁっ…あぁっ…」
アキの体がビクついて。
それでも俺は、腕で目を伏せたまま。
だけれど、アキを気遣うように、もう片方の手で、手探りのようにしてアキの頭を撫でた。
「っぁっあっ…ひぁあ…っ…」
アキの唾液で、俺のがたっぷり濡れてしまう。
自分への愛撫を続けたまま、それでもがんばって俺のに口付けてくれていた。
とはいえ、中途半端なってしまうのはしょうがない。
だけれども、そんなことより、アキの行動を見守りたかった。
「っはぁっ…ぁっあっんぅっ…っンっあっ…ゃだっやっ…」
「アキ…?」
やだ…なんて聞こえてきたら、そう聞き返さざるえない。
アキは、涙目で俺の方を見る。
俺は、まだ伏せたままで、なにが起こってるのかわからないフリをした。
「っあっ…水城くっ…あっ…見な…でっ…ゃだっ…や…イっちゃ…っ」
言わなければわからないのに…って実際見てるから、駄目なんだけど。
もう気が動転してるのか、アキは、そう口走っていた。
「アキ…」
「っ…はぁっ…出ちゃうっ…あっ…見ないでっ…やぁうっ…見な…でぇっ」
「うん…見てないよ…」
今度は本当に、目をつぶった。
だけれど、いままで散々、見てきたせいもあって、情景が浮かぶ。
「っひっくっ…やぁっ…もっ…出っ…やっ…ゃだぁっ…やぁああっっ」
アキが大きく声を漏らして。
イってしまったんだろうと、想像がつく。
だけれど、俺はアキに言われるまで、そのまま、目を伏せていた。
「っ…っひっ…くっ…」
そう…。目を伏せていようと思ったんだけど、アキが泣くような声が聞こえ、俺は腕をどかしていた。
「アキ…?」
「ゃだ…見ないで…よぉ…っ」
俺の足元に、座り込んで、袖で顔を隠しながら、涙を拭っている。
「ごめ…」
俺は、慌てて顔を横に向けた。
「違っ…。ごめ…。水城くん、ごめん…っ」
「どうしてアキがあやまるわけ…?」
「だってっ…僕…。するって言ったくせに、水城くんのこと、気持ちよく出来なくて…っ…。それだけじゃなくって、自分だけ、イっちゃって…。いやらしいよ…」
そうやって、心の中で葛藤しながら、さっきも泣きながら、やってたんだ…?

「めちゃくちゃ気持ちよかった」
「でもっ…」
「すっげぇイきそうだったけど、もっとアキが見てたくて、つい我慢しちゃってただけだから。アキは上手だよ」
それに。
はじめに、俺の名前を呼んで、不安そうに見上げたとき。
恥ずかしそうなあの表情で、俺は気づいてやるべきだったんだよ。
アキも、して欲しいんだなって。
「アキ…。して欲しかったら、恥ずかしがらずに言ってくれて構わなかったよ」
意地悪で、言わなきゃしてあげない…とか言ってるわけじゃない。
俺自身、気づけるもんなら気づいてやりたかった。
だけれど、気づけなかったんだ。
「…だって…。水城くん体調悪いって…」
あぁ。
俺の体、気遣ってくれてるんだ…?
「そんなの、かまわないのに…」
アキの体を引き寄せて、ギュっと抱きしめると、壊れてしまいそうだった。
こんな子が、俺のためにがんばっていろいろ気遣ったりしてくれたり、したんだよな。
「アキ…。俺と、正式に、付き合ってくれる…?」
もう俺のこと、怖くない…?
返事が怖くて。だけど、こんな中途半端に付き合ってないけど、それっぽい…なんて関係も嫌で。
それで、ずっと悩まされてたんだ。

「…うん…」
アキは、そう言って、俺の背中に手を回してくれた。