「憂月―。あのさ。エロいゲームってなんでやるんだと思う?」
 急な俺の質問に対して、あいかわらずボーっと気だるい様子で見上げてくれる。
「なに。エロ本なんで読むのって言ってるようなもんでしょ」
「つまりさ。抜くため?」
「じゃないの?」
 抜くため。

 昨日、靜の部屋にあるダンボールの中を見たら18禁のゲームやらが結構大量に見つかった。
 そうか。
 あれは抜くためなのか。
「じゃ、必要ないから捨てていいってことか」
「いや、駄目でしょ」
「ねぇ、なんでっ。なんで相手いるのに抜くためのゲーム買うかなぁ」
「神楽って、彼氏いると一人Hしないんだ?」
 いや、それはするけれど。
「わかるけどさ。20本くらいあるとさすがになんなのそれってなるじゃん」
「……そう」
「そう、じゃなくて。抜くためにチラっとエロ本見るならともかく、いちいちゲーム? どんなんなの」
「やってみれば」
 ゲームを?
 俺が?
 エロいゲームを?
「……なんか負け組って感じ」
「偏見でしょ。というか、エロゲなの? 抜きゲーなの?」
「抜きゲー?」
「ただ18禁ってだけのゲームなら、ホラーゲームとかアクションゲームとか。そういうジャンルの一つだと思えば」
「あいっかわらず妙に理解あるよね。憂月って実はオタク?」
「……違うけど漫画やゲームはそれなりに好きだよ」
「ふーん。ま、オタクとそうでない人の境界線とかわかんないしね」
 にしても、ゲーム。
 やってみるかなぁ。



「あのさ、靜。俺もちょっとそのゲームやってみたいんだけど」
 学校から帰り、さっそく靜の部屋でダンボールを指差し告げる。
「うん? いいよ。どういうのがいい?」
「……わからないから、靜のオススメでいいよ」
「そうだな。ホラー系とかグロ系平気なら、これかなぁ」
 パッケージを見せてくれ、その後、靜が小さなノートパソコンを渡してくれる。
「ここに入ってるから。あ、自分のパソコンでやる?」
「ううん。とりあえず、靜のでやってみる」
 靜に渡されたPCを枕に置き、ヘッドホンをしながら俺は寝転がってプレイを始めた。
 
 これといって、エロいシーンはなかなか出てこない。
 抜くに抜けないな。
 後の方でエロいのかもしれないけれど。
 なんか思ってたのと違うかも。

 と、不意に頭を撫でられ体が跳ね上がる。
 ヘッドホンを外して、確認すると、まあ思った通り、靜がいた。
「神楽、すごい真剣だね」
「……そう? 結構集中しちゃってたかも」
「かわいいね。真剣にパソコン見てる神楽」
 真剣にエロいゲームに取り組んでるって、どうなんだろ。
 とりあえず、靜がいいならいいけど。
「神楽が、俺のものに興味持ってくれるのって、すごく嬉しいな」
 ああ、そういうこと。
「気になるよ、そりゃ。……ね。靜は俺がAVとか持ってたらどう思う?」
「ん? ……うーん。どうってこともなけど。そういうの好きなのかなーって」
 やっぱちょっと感覚違う?
「俺は、靜がこういうエロいゲーム持ってるのって、一人Hのときに使うのかなとか考えるよ。……俺じゃ、足りないからとか」
 靜は撫でていた手で、そのまま俺を仰向けに押し倒す。
「そんなんじゃないよ。これは抜きゲーじゃなくて、エロゲだから」
 だから、それよくわからないって。
「抜きゲーってのは、なに。抜くためのゲーム?」
「そう。俺がよく持ってるエロゲは、エロいシーンもあるけどそれが目的じゃないっていうか。18禁にすることで表現の幅が広がってるって感じかな」
 うーん。
 まあわからなくはないんだけどね。
「でも、エッチなゲームやってる神楽って考えたら、すごくたまんないね」
 たまんないって……。
「これは、エロくねぇじゃんっ」
「うん、もうちょっとしたら、Hシーンあるよ」
 そう言うと、また俺をうつ伏せにして、靜が隣に寝転がる。
 二人で、パソコン画面を覗き込む形に。
 一応、セーブをした後、メニュー画面から回想モードってのを開いてくれた。
 ヘッドホンのコードを引き抜いて、靜がイラストをクリックする。
 すごいかわいらしい男の子が恥らうようにして服を脱ぐ。
「え、あ、これってホモなの?」
「これはノーマルだけど、男の子がやられちゃうルートもあるんだ」
 オートにセリフが進んでいくと、わりといい男が男の子を押し倒し、二人の体が重なり合う。
『あっ……ふぁあんっ……そんなとこっ』
 ピチャピチャと大きな効果音を出しながら胸元を舐め上げる描写。
 なんていうか、さすが声優さん。
 めちゃくちゃかわらしい声。
 ドキドキする。
 こんなの、なにが表現の幅が広がってるだよ。
 エロいだろ。
 まあ、これはストーリー上必要なエロシーンなのかもしれないけど。
 靜はよくこういうの見てるんだろ。
 チラっと靜の方へと視線を向けると、ばっちり目が合ってしまう。
「なっ……」
「やっぱり、Hなゲームやってる神楽はたまんないな」
 やってるって、俺は別に見てただけなんだけど。
 それでも、靜にとってはなにかしらのツボなのか。
 そっと背中を撫でられるだけで、なんかゾクっとした。
 そんな俺なんておかまいなしでゲームは進行する。
 本来よりも、過剰な効果音でいろいろと煽られるし。
『んっ! ぁあっ……もぉ、脱がしてぇ』
『我慢できないの? ……ココ、きつそうだね』
 張り詰めたズボンと下着を脱がされると、かわいらしい性器が露わに。
 反対に男の人も脱がされると、今度は大きめの性器が現れて、それを男の子がくわえ込んだ。
『んむっ……んっちゅっ…んぅっ』
 そんな、かわいく喘ぎながらフェラとか無理だろ。
 なんてこと思いつつも、妙にドキドキしてしまう。
 エロい。
 やばい。
 背中を撫でていた靜の手が不意に尻を撫でた。
「あっ!」
「ん……ごめん。びっくりした?」
 優しくそう聞く靜に対して、なんにも答えられなくなる。
 熱い。
 止めないで、もっと撫でてくれていいのに。
 尻辺りに置かれたままの靜の手を欲しがるように、軽く腰が揺れた。
「っ……んっ」
「神楽?」
 バカ、俺。
 ただのエロゲで欲情するとか。
 しかも靜が言うにはこれは抜きゲーじゃないらしいし。
 でもエロいだろこれ。
 こんなの、やっちゃ駄目だってば。
 
「顔、赤いよ」
「なっ……」
 また、目が合う。
「エロゲやってる神楽っていうか、欲情しちゃってる神楽がたまんないのかな」
 欲情してるとか、見抜かれてるし。
 恥ずかしい。
 なんていうか、欲情したきっかけがゲームってのが。  

「もっと、撫でていい?」
 そう言って、靜はズボンの上から尻を撫でる。
「んっ! ……も、撫でてるし……っ」
「駄目だった?」
 駄目じゃねぇけど。
 ただ、撫でられてるだけなのにすごいゾクゾクしてきた。
 だって、いやらしい効果音響くし。
 喘ぎ声とか。
「はぁっ……あっ……」
 なんか、ゲームのやつが声出しまくってるから、俺も声出していんじゃないかって気になってくる。
「靜……っ」
「なに?」
「して……っ」
 仰向けになると、靜が俺を見下ろしてくれる。
 俺は靜に見つめられたまま、ベルトを外し、チャックを下ろす。
「靜……いい……っ?」
「いいって、なに?」
「俺と、Hしてよ……っ」
「うん。いいよ」
 ズボンと下着を剥ぎ取られていく。
「上は? 脱ぐ?」
「も、いい……っ」
「すごい、トロトロになってるね、ここ。使えそう」
 先走りが溢れまくってる俺の亀頭を撫で、ぬめりを取るとそのまま後ろの窪みを撫で上げる。
「はぁっ……んっ…んぅっ!」
「かわいいね、神楽。神楽って、H好きだよね」
 そう言いながら、靜はゆっくりと指先を押し込んでいく。
「ぁあっ……んっ…ぅンっ……すきっ」
「本当に、気持ちよさそうな顔してくれるし。ね。中、気持ちいいの?」
「あっ……ぁんんっ!! ぃいっ……あっ気持ちぃっ……」
 ぐにぐにと内壁を押さえつけられるたびに、腰が揺れてしまう。
 本当に、靜の指は気持ちよくてたまらなくて。
 靜がうまいのか、俺が靜を好きだからこんなにも感じるのか。
 わからないけれど、俺らは付き合う前にHをして、そこから始まった。
 だから、靜とのHが良くなかったら、もしかしたら付き合ってなかったかもしれない。
 気遣って、俺の好きな風にHしてくれる靜のこと引き止めたくて、付き合いはじめたんだと思う。
「あぁあっ! いくっ……靜っ…あっんーーーっ!!:

 イってもなんだか満足出来ないのって、やっぱり俺が靜のこと好きだからかな。
 靜のが早く欲しくなる。
「靜……っ」
 腕を少し引っ張ると理解してくれたのか、靜が自らのチャックを下ろす。
 俺は手を伸ばして、自分が出してしまった精液を靜のモノに塗りたくる。
「靜の、硬……。気持ちよさそ」
 足を開いて、靜を見上げると、軽く俺にキスをしてくれた。
 口が離れた直後、ゆっくりと靜自身が中へと入り込んでくる。
「はぁあっっ……んっ! んぅっ!」
「キツい? 神楽、小さいからいつも壊れそうな気がして」
「へいきっ……ぁんっ! あっそこっ」
「ここ?」
 当たる。
 すごいイイところを軽く何度も突き上げてくれる。
「ひぁっあっっ!! もっとっ……はぁっ」
「傷つけそ……」
「いいからぁっ……してっ、もっとっあっ……ぁんんっ!」
 何度も腰を打ち付けられて、内壁を靜ので擦られていく。
 先端が、何度も前立腺を突いては通り過ぎ、繰り返し痺れるような刺激が駆け巡った。
「はぁっ! あっ…ぁんっ! あっ……靜っあっ……ぃきそぉっ」
「また、イきそ? ……俺も、いきそう」
「あっあっ……もぉっいくっあっ……あぁあああっっ!」

 靜は、俺の中から一気に引き抜いて、外へと出してくれていた。



「神楽ってゲームのHシーン見て、エロくなっちゃうんだね」
 え。
 なるでしょ。
 ならないの?
「なんで? 靜は?」
「うーん。ストーリー重視で、Hシーンは軽く読み流しちゃってたからなあ。でもまあエロいとは思うけど」
 じゃあ、靜はこういうゲームでエロい気持ちにはあんまりならないってこと?
 実際、俺がなっちゃってるからなんか納得いかないけど。
「いやらしいよ。音とかさー。靜、ムラムラしない?」
「少しはまあ」
 エロゲとかたくさん持ってるのってどうかと思ってたけど、靜にとってエロい部分ってのはあんまり重要視されてないのかな。

「……ってか、このレベルのエロで少ししかムラムラしないってさ。そんなんなのに、俺で、ちゃんと欲情出来てる?」
「それとこれとは、別物だよ」
 ……意外と、二次元と三次元の区別みたいなもんはちゃんと付いてるのか。
 むしろ、俺の方がごちゃまぜに考えてる?
 だって、声優さんの声とかかわいいし。
 いやらしい音出すし。
 あんなん無理だし。
 まあ、俺自身はちゃんと靜に触れられるから、いろいろご奉仕できるけど。
「……じゃあいいや。靜がエロゲ持ってても」
「なに。持ってるの嫌だった?」
「……俺がいるのに、それで抜いてるのかと思ってたから。いや、別に一人Hくらいいいんだけど」
「神楽が嫌ってんなら、卒業してもいいよ。エロゲ」
 エロゲ卒業。
 いや、でもさっき少しやってみた時点ではそうエロくなかったし。
 本当に、ストーリーが大事なんであって、エロいシーンは一部なんだろう。
 俺だっていちいち、少しエロが混じってる漫画とか読むなって言われたらたぶん嫌だし。
「……ありがと。でもいいよ。そのゲームの影響で俺とHしないってなったらまあ問題だけど」
「それはないよ。どちらかといえば、ゲームやってると神楽に会いたくなる」
「え……」
「この手のゲームって主観的に見るもんなんだろうけど、結構、客観的に見ちゃうんだ。だから、仲良くしてる姿を見れば、俺だって神楽と仲良くしたくなる」
 そういうこと。
 頷くと、キスをしてくれた。
 そうだよな。
 そもそも、Hのためだけにいる相手ってわけじゃないし。
「でも、神楽がエロゲに興味持ってくれて嬉しいな」
「え?」
 いや、だからエロゲじゃなくてエロゲをやってる靜に興味があったって感じなんだけど。
「さっき、すごい見入ってたよね」
 確かにそうなんだけど。
「ね。神楽とゲームの話、出来たら嬉しいな」
 そう言われるとなぁ。
 なに。
 結局、また靜に合わせちゃうの? 俺。
 まあ、興味があるのは事実だし。
 いいんだけど。
 やってみたら、靜の気持ちもより理解できるかもしれないし。
「わかったけどっ……。もし、やっててムラムラしたらすぐ靜呼び出すからな」
「うん、いいよ」
 ああもう。
 どんどん一般人から離れてるよ俺。
 まあ、靜に近づけるなら少しくらい、それもいいか。