「由沙。これ、預かったから」
 放課後、学校で。
湊瀬は由沙にチョコレートらしき包みを渡してくれる。  
今日はバレンタイン。
「ありがとー」  
湊瀬は、由沙の写真をみんなに売ってくれてて。
そのおかげで、由沙にはファンみたいな子たちが結構いたりする。  
その子たちからだろう。  
直接、由沙に渡しづらくてこうやって、湊瀬経由でくれるんだよ。

 もちろん、直接も貰ったし。
 …結構な数になったかも。  

「湊瀬―。湊瀬は、彼女から貰った?」
「ん? ああ。貰ったよ。由沙は? 今年はあげるんだろ?」
 あげる?
「……あげるって、由沙が?」
「あげないの?」
 ……なんとなく、いままで貰う側だったから、貰う気でいた。
 富士のやつ、朝はくれないのかなーなんて思ってたんだけど。
「ねぇ湊瀬、由沙の方からあげるべき?」
「普段、由沙の方が女役なんじゃないの?」
 確かにそうだ。
 じゃあ、由沙が用意するべきなのか。
「用意してなかったなぁー」
「まぁ、どっちがどっちにって決まってるわけじゃないし。いんじゃないかな」
 由沙が用意してなかったところで、怒るったりするタイプでもないと思う。
 まぁいっかなぁ。  

「ただいまぁ」
 いつもなら、みんなでしゃべったりしたあとに寮へ戻るんだけど、今日はチョコもあるしね。
早いとこ帰ることにした。
時間が早いからか、いつもなら先にいる富士の姿が見当たらない。
なんか変な感じ。
出迎えられて、『たくさんあるね』って言ってくれる気がしてたのに。

どこか出かけてもいいんだけど。
バレンタインだし。
富士と過ごそうかなぁ。

そう思うのに。
富士ってば、なかなか帰って来ない。

…ちょっとむかつく。

もう1時間近く経つんですけど。
いまさら帰ってきても、優しくなんて出迎えてやんないんだから。

どっか行っちゃおうか。
……でも、なんかみんな恋人と一緒にいそうで、行く場所なんてない。
あぁあ。
なんで由沙、一人なの?
そりゃ、約束とかは別にしてなかったけど。

富士のベッドに何気なく寝転がる。
……富士の布団だ。
別に由沙のと一緒なんだけど。
それでもなんか違う気がしちゃう。

そういえば最近してなくて、溜まってるかも。
……って、ばっかじゃないの!
富士の布団で欲情するとか、ありえない。

やだもう。
手にしていた布団をぐしゃぐしゃにして、床に投げつけて。
これでよし。

もういい。
行く。
あとから来たって遅いんだから。

けれどね。
いざ部屋を出ようとすると、どこに行けばいいのかわかんない。

どこにいるんだろ。
むかつくから会いたくないけど。

とりあえず部屋を出て、どこに向かうでもなく足を進める。
あ…一人でいるとこ見られたらなんか寂しい子って思われちゃうかも。
それはちょっと嫌かな。

早く帰らなきゃよかった。
もっと学校にいればよかった。
でも、いてもきっと一人ぼっちだよ。
いつもつるんでる人たち、みんな彼女んとこ行っちゃうもん。
由沙は?
富士のとこ……。
だって、富士は寮にいると思ったんだもん。
なんでいないの?
バカ。

バレンタインなのに。
あまり人に見られたくないから、由沙は屋上へ向かった。
よかった。
誰もいない。
由沙一人。

寂しくて、携帯を開く。
湊瀬が、撮ってくれた富士の画像。

ばか。
毎日、会ってるのに、なんでたったこれだけの時間、会えないだけで寂しいとか感じるんだろ。
ちょっと行き違っただけ。

 まぁ、バレンタインに泊まってくるーなんて馬鹿なことはしないよね??
 しょうがないから、戻るか。

 って、部屋に戻ってみるものの、まだいない。
 そりゃ、さっきからそんなに時間経ったわけじゃないけれど。

 なんなんだよ、もう。
早く戻って損したし。

少しして、インターホン。
インターホンってことは、富士じゃないのか…。

ドアを開けるとかわいらしい子。
「あ…由沙先輩…っ!? ここ、富士くんの部屋じゃ…」
「うん、富士の部屋で、合ってるよ? でもまだ帰ってないんだ」
「…そう…ですか」
……その手に持ってるのって、チョコだよねぇ、どう考えても。
「…バレンタインチョコ、富士にあげるつもりだったの?」
そう聞くと図星か、顔を赤らめて由沙を見る。
「富士くん、モテるから、ただ渡すだけって考えてたんですけど…」
モテ…?
「え、富士、モテるの?」
「…結構、今日もチョコ貰ってたみたいだし」
なにそれ、むかつくなぁ。
「富士にただ渡すだけって、考えてたんだよね。ってことは付き合うとかは、意識してなく?」
「そんな…俺なんかが」
「富士…付き合ってる子、いるみたいだけど」
あぁ、由沙って嫌味らしいなぁ。
「やっぱり…いますよね。あんなかっこいいですし」
少し罪悪感が生まれた。
でも、本当のことだし、しょうがないよね。

「通してもらっていい?」
そうその子の後ろから、なんでもないように帰ってきた富士。
「あ、富士くん…っ」
「……あれ、隣のクラスの…」
「これっ…。貰ってくれるだけでいいんでっ」
そう押し付けるように、富士にチョコを渡して走り去る。
……富士が断る隙もないじゃん。
あーあ。

まぁいいや。

「由沙先輩、早いね」
そう部屋に入り込む。
「べっつにー。富士こそ遅いじゃん」
「そんなには遅くないと思うけど…」
 それより机の上にある由沙宛てのチョコ見てなんか反応しないのかなー……って思ったんだけど。
富士が、今貰った1つのチョコと。
他にもカバンからチョコをいくつか取り出して机の上に置く。

「…なにそれ、富士…。貰ったの?」
「あぁ…。義理ばっかだけど」
「そんなんわかんないじゃんっ。なにそれ。なんで貰うのっ? 普通断るでしょ?」
むかつく。
「由沙先輩も貰ってるじゃん。俺はホントに、友達とかが義理でくれただけだから」
でもさっきの子は富士がモテるって言ってた。
だから、富士の言葉は由沙を騙そうとしてるだけだ。
そりゃ、嘘も方便って言うけどっ。

「…モテるくせに…っ」
「どうしたんすか。別にモテないし。由沙先輩の方が…」
「由沙は、モテるとかじゃないもん。ただのファンだからっ」
富士が俺の腕を引っ張って、抱き寄せられるけど、むかつくからそれから逃れようと思った。
けど、力じゃ敵わない。
頭が掴まれて、強引に口を重ねられる。
「んっ…んーっ!!」
やだ、どかせない。
舌が、絡まってボーっとしちゃそうになるし。
富士のキス、エロすぎる。
もう、力はいらなくなる。
唾液が送り込まれて、どうしようも出来なくてそれを呑み込む。
あぁ、わけわかんない。
足おかしい。

立ってられなくて、その場に座り込む由沙を富士が見下ろしてた。
「っ…むかつくっ!! なにそれっ。由沙のことそうやって、黙らせてっ」
ずるい。

「そういうわけじゃないけど」
「もういいからっ」
立てないっての!
睨むと意味がわかったのか、しゃがんで由沙の体を抱き上げて、ベッドへとそっとおろした。
ホント、むかつく。
「もういいよ、向こう行って」
そう言っても、なかなかどいてくれなくて、むしろ上から圧し掛かられる。
「由沙先輩、なにそんなにイラついてんの」
「っ…なんでもないよ、もういいって言ってるしっ。早くどいてってばっ」
そんな由沙の言葉も無視で、寝転がる由沙のズボンの上から股間に触れる。
「なっ……触っていいなんて言ってないっ」
「許可、いちいち取るの?」
「っ…どいてって…っ」
富士の手が、布越しに何度も股間を擦り上げるから、体が熱くなってしまう。
「っぅんっ…離…っ…」
熱い。
欲求不満…だし。
でもむかつくしっ。

それでも富士は、由沙のズボンと下着を抜き取っていく。
「なっ…なにしてっ…。勝手なことしないでよっ」
「ホントに嫌なら、もっと抵抗したら?」
「…っ」
むかつく。
富士のことたぶん好きだから、本気で抵抗できるわけないでしょ。
なにもう、やだ。

富士が、由沙の腰を持ち上げて抱え込んでしまうと、後ろの入り口に舌を這わされる。
「ひっぅっ…やっ…やぁっ…」
体がゾクゾクしてたまんない。
おかしくなる。
舌が入り込んで、それが視界に入って、恥ずかしすぎるよ。
「やっ…富士ぃ…っ…それっ…やあっ…」
「すっごい、液溢れてんの、わかる…? お腹に垂れてるね」
腰を深く折り曲げてるせいで、自分のお腹を先走りの液が伝う。
由沙が恥ずかしがってるの、わかってるよねっ!
「…富士、恥ずかしいからっ」
「ね…由沙先輩。わざと恥ずかしいことしてるんすよ」
そう言って、腰を下ろすと、俺の顔を覗きこむ。
「な…んで…っ」
指先が、さっきまで舌を這わしていた入り口を撫でて。
ゆっくりと指先が入り込んでいく。
「ひぁっ…! あっぁあっ…」
やだ。
富士が由沙の顔見てるもん。
顔、横に向けようとしたら富士の左手が由沙の頭を掴んでくるし。
「やっ…やぁっっ…見っ」
「由沙先輩の、感じてる顔、見たいんだけど」
「っそんなのっ…人に見せるもんじゃ…っ」
「俺、いっつもすっごい嫉妬してるんすよ? 由沙先輩とやっと付き合えて。でも、由沙先輩は俺以外の人に笑顔も見せるし、体も見せるし。
俺だけに見せる表情とか、もっとたくさん欲しい」
怒ってんの?

由沙が、チョコ貰った富士に怒ったから?
そりゃ…由沙も貰ってるし、勢いで怒っちゃったのは悪かったかもしれないけどっ。
それに、由沙だって、富士にいろいろ見てもらいたい…けど…。
「でも…恥ずかしい…しっ」
「じゃあ、由沙先輩が恥ずかしがるとこ、たくさん見せて?」
そう言って、奥まで入り込んだ指先を、そっと動かして内壁を擦っていく。
「ぁあんっ!! んっ」
やだ、すっごい変な声出た。
両手で口押さえたら、両手ごと富士が掴んで、由沙の頭の上の方で押さえつける。
顔は横に背けれるけど、声、聞かれるし。
「ぁんっあっ…やっんっ…ゃんんっ…」
すごい感じるとこ何度も突いて、声我慢する余裕ない。
「由沙先輩、前よりいやらしい声出すようになったよね」
そんな言われ方したら恥ずかしくてたまらない。

「や…だ、んぅっ…ぁあっんっ」
「すごい、かわいい」
熱っぽくそう言われ、ものすごく感じちゃう。
「富士ぃっ…ぃくっ…ぁんっ!! いっちゃぅっ…あっやだぁっ」
「イっていいよ」
「ぁんんっ…やっあっぁあっ…あぁあああっっ」

後ろで、指だけでイかされちゃったし。
恥ずかしいよ、馬鹿。

「…入れていい?」
そう言われ、つい顔を横に振る。
「どうして。怒ってる?」
怒ってるとかじゃなくて。
「そんなの入んないもん…」
「前、入ったでしょ…」
「…っ久しぶり…だから…っ。……どうなるかわかんないしっ」
「どうなるかわかんないって?」
「…変に…なりそうで恐いし…っ」
ホントのことを言うと、少し富士は笑って、
「優しくするから」
そう言ってくれる。
「っ…ホントに?」
「由沙先輩が、素直だったら」
「別に、いつも素直だしっ」
「そう? …ローション、使うよ」

一旦ベッドから降りて引き出しからローションを取り出すと、富士はそれを手に取って、指先に絡めて。
2本の指をまたゆっくりと由沙の中へ納めていく。
「ひっうっ…ぁっあっっ! やっだぁ、ぬるってっ!!」
「ん…ぬるぬるする…? 嫌い?」
「わか…んなっ…」
「おっきくなってるから、大丈夫かな」
おっきく…?
由沙、また…?
恥ずかしいのに。
ぬるぬるすんの、気持ちいいかもしんない。
なにこれ。
中まで塗りたくられる。
「変…っ富士ぃっ…これっ」
「たっぷり濡れたから、ね…。大丈夫」
そう言って、指を抜くと、今度は由沙の体をうつ伏せにする。
後ろから…?

熱い。
富士のが押し当てられる感触。
「あっ…入んない…っ」
「ゆっくり入れるから…。痛かったら言って」
そう言って、言葉通りゆっくりと中に入り込んでいく。
「ぁあっ!! やっ…やあっ…もぉ、拡がっちゃぅ…っ」
「どんな感じ…?」
「はぁっ…熱ぃ…よぉ…っ…駄目ぇっ富士ぃっ…」
「…久しぶりだから…? すごい上手く感じれるようになったね…」
「…なっ…」
後輩のくせにっ。
子供扱い。
むかつくけど反論できない。
久しぶりの感覚で、ものすごく感じるし。

初めてしたときは頭で考える余裕なかった。
なんとなく気持ちよくて。
やっと卒業できたって気持ちが強くて。

今は…好きな人がこんな風に由沙のこと気遣って、一つになれて。
おかしくなる。

「ぁっあっ…まだぁ? もぉ、やっ」
ゾクゾクして、おかしくなる。
感じすぎちゃってるのかなぁ?
「まだ…もうちょっと奥までいけそうなんだけど」
「すごぃ奥…っなのにぃ…っ…もう入んなぃっ」
入らないって言ってんのに。
まだ入ってくる。
奥の奥まで。
「ぁああっ!! 奥やぁあっ…もぉ、おかしぃよぉ…っ」
「入ったよ…。全部…」
由沙の耳元で富士はそう言うと、今度はゆっくり引き抜いて。
それを理解しようとしたころにはまだ中へ。
「ぁあっあっ…んーっ…熱ぃっ…やぁっあっ…」
何度も何度も、抜かれて挿されて。
変な音するし、奥突かれるしっ。
「ぁんっ…あっぁあっ…んっ」

「由沙先輩…。かわいい」
耳元で、熱っぽく言われて。
やだ。
感じるし。
かわいいだなんて、いろんな人に言われ慣れてんのに!

こんな風に富士に言われるとおかしくなる。
「やぁあっ…もぉだめぇっ…ぃくっっ…富士ぃっ…あっあぁああっっ!!」


やだもう。
富士のが流れ込んでくる。
それを、嬉しいとか感じてる自分が、恥ずかしいし。

富士が、好き…なんだよね、由沙って。





「なんで、いきなり…っ!!」
「したかったから」
「そういうの、おかしいでしょっ。ちゃんと許可取るとかさ」
怒ってんのに、富士は由沙を見て軽く笑う。
…むかつく…っ!
「由沙先輩、すねててかわいかったし」
すね…?
「…別にすねてなんか…っ」
「俺がチョコ貰って怒ってたでしょ」
「それは…っ…! 貰う方が悪いんだもん」
「ホントに、友達とかからだし。……由沙先輩は、くれないの?」
由沙が?
由沙…期待されてた…のかな。
「そんな風にくれないのって聞かれたらあげたくなくなるしっ」
「そう。いいけど。俺、風呂は入ります。あ、由沙先輩、先に入る?」
「…あとでいい」
……チョコとか用意してないけど。
本当によかったのか、富士は由沙を置いて、風呂場の方へ。

むかつくなぁ、気になるなぁ。

「……富士……ホントは、欲しかった?」
つい風呂場のドア越しに声をかける。
「…用意してないんでしょ。別にいいよ」
由沙の性格、わかっちゃってんのかな。
…なんだかんだで、富士もずっとファンでいてくれてたみたいだし、いろいろチェック済みか。

だけど、罪悪感くらい感じるんだよ、由沙だって。
「…あとで…由沙のこと、好きにしていいよ…?」
「もうさっきしちゃいましたよ」
そう…だけど…。

「…由沙が…なにかしようか…?」
小さい声で、言ってみる。
すると、いきなりガチャっとドアが開かれて。
「…出来るの?」
って。
上から見下ろされる。
なんか、馬鹿にされてるような気がしてむかついた。
「っ別にできるしっ! 富士くらいイかせられるもんっ」
「じゃ、来て。期待してるんで」
お風呂?
一緒に入るの?
……別に男同士だし、平気だけど。

結局、なにをすればいいのかわからない由沙の体を引き寄せて、抱きしめてくれた。
生意気な後輩だな。
「俺が言うこと、してくれるの?」
「…っ今日だけだからねっ。バレンタインだし、しょうがなく…っ」

頷く富士はホントに嬉しそうに見えた。
馬鹿…。
由沙、初心者だから大したこと出来ないっての。
わかってるよね。

チョコも用意できなかったしさ。
それなのに、そんな風に喜んでくれる富士を見て。

由沙ってやっぱり好かれてるんだよね…?
それが嬉しくてたまんなかったり、何でも富士の言うことやってみようかなって思っちゃうあたり、由沙も富士のことすごく好きなんだろうなって実感した。