「好きなんだけど」
放課後。
教室内に入り込んできた隣のクラスのやつが、俺に話があると、みんながいなくなるのを待って。
それは本当に唐突な告白だった。
そりゃ、やっぱりなんだかんだで人から好かれるのは嬉しいし。
嫌じゃない。


もちろん、断るけれど。
「ごめん、そういうの興味なくて…」
「なんかさ、お前、だんだん色っぽくなってきてるよな」
「っ……」
もしかして、智巳に抱かれてるうちになにか…そう思うと急に恥ずかしくなり動揺した。
「馬鹿なこと言うなよ」
「照れてる…?」

なるべくなんでもないフリをして流してしまおうと思った。
ため息をつき顔をあげると、思った以上に近づいていたそいつの顔が俺に覆いかぶさって、あろうことかキスをした。

「んっ…!!」
押し退けると、口は離れるが代わりみたいに俺の股間に手が触れる。
「っ! …なっ…」
「興味ないって…どうすれば興味持ってくれる?」
……断り方間違えたか。
けれど、誰とも付き合う気がないだとか言ったとしても、その気にさせようとするだろうし。
彼女いるとか言ってみるか?
だとしても、この状況じゃ。
彼女いてもいいから彼氏にとか。
なりかねるか…?

智巳の顔が浮かぶ。
…でも言えないだろ。
「っ俺っ……あ……っ」
逃げるように後ずさると、背中を壁でぶつけた。
ズボンの上から何度も擦られて、体が熱くなる。
駄目だ、俺。
こんな熱くしてる場合じゃないのに。


最近、智巳としてないから。

「あっ……」
「尋臣って…意外とすっげぇ敏感なんだ…?」
耳元で荒い息遣いのまま、そう言われ羞恥心が高まる。
断らないと。
押し退けて、逃げて。
そう思うのに、体が動かない。

こんな風に智巳以外の人に襲われるのが初めてでわけがわからない。
そういえば、初めて智巳に襲われたときも、ほとんど抵抗できなかったっけ。

あのときはとにかく理解できなくて。
今は、混乱もしているけれど、それよりも気持ちよく感じてしまう。
「っ…んっ……ぅんっ…」
「ねぇ、なんでそんなかわいー反応すんの? せっかく告ったのに、興味ないってさ。切ねーから、少しだけ手出しちゃおうって思っただけなのに、マジでこのまま抱きたいんだけど」
ズボンのチャックが下ろされてく。
さすがにやばい。
「っ…駄目…っだからっ」
「どうして」
「悪いけど、その…っ人と付き合うとか…っ」
好きじゃないとか嫌いとか。
やっぱり言い辛い。
俺を好きって言ってくれてるわけで。
そこまで交流はなかったけれど、体育などで顔を合わせては、しゃべったりしてた相手で。
仲が悪いわけでもない。

直接、俺のを取り出して掴みこむと、緩やかに擦りあげていく。
「っ!! っ…んっ…んっ」
「溜まってんの…? 俺と付き合えないならさ、今だけ、駄目?」
どういう意味だよ。
「尋臣が気持ちいいように抜いてやるだけだから。それで諦めるし」
ホントかよ。
でもだからって、いいわけがない。
そう思うのに。
「あっ…んっ……ぅんっ…」
気持ちよくて、涙が溢れてきた。
久しぶりに人の手で扱かれて。
……むしろ智巳のせいだ。
最近、俺をほっときすぎるから。
俺と違って働いているし、しょうがないけれど。
もし、智巳も学生だったらなんて、思ってしまう。

「気持ちいい…? おっきくなってきた…」
「っ…もう、やめ…っ」
空いている手が、俺のベルトを外して、ズボンがその重みで落ちる。
俺のを擦り上げたまま、下着を下げられて、空いている手の指が奥の入り口をそっと撫でる。
「っ!! っ…ぁっ…んっ…!」
「まだ、少し撫でただけなんだけど…」
そう言って、確認するように俺のを擦り上げていた手を止めて、今度は後ろだけ。
入り口の入りそうで入らない強さで、指の先がソコを撫でる。
「っっ…! んぅんっっ…」
俺は慌てて口を両手で押さえた。
視線から逃れるよう俯くと、涙が零れた。
「…もしかして、慣れてんの…?」
欲しい。
でも、駄目だ。
だって相手は智巳じゃなくて。
「んっ…」
 顔を横に振って『慣れていない』と示す。
「ヒクついてんのって、欲しいとか…じゃなくて?」
優しい口調。
指くらい……いや、駄目だって。
何度も指が行き来されて、頭で考えてられなくなる。
腰が、動く。
「すっごい…尋臣…。先走り、俺の手にまで流れてんだけど。このまま指、入れれそう」
「っ…無理…」
口から手を離して、そう伝える。
「無理じゃないよ」
「っ…ごめん、ホント…っだっめ…っ」
「どうして…?」
もう隠せないだろ。
「っ……彼氏…いるから」

思ってなかったのか、手を止めて俺をジっと見る。
「え…マジで? いや、さっき興味ねぇって。それってフリーって言ってるようなもんじゃ…」
「…ごめん…。隠し…たくて」
「だからこんな慣れてんだ?」
本当はそれも否定しがたい。

「…悪かった。知らなくて」
「いや、いいんだけど…。ごめん…。一応、誰にも言わないでおいてくれる?」
了解してくれて、彼氏が誰なのか聞かれたが、それは答えないでおいた。




今日は、部活に顔を出さなかった。
引退したから、行く必要はないのだけれど、俺はちょくちょく顔を出していた。
けれど、今はそんな気分じゃない。
とりあえず寮に戻るものの。
体の熱は収まらない。

ルームメイトは部活へ行っているんだろう。
俺一人。

智巳に俺から求めることってそういえばなかった…というのを思い出した。
だって、忙しいだろうから。
俺からいくことはない。
けれど、つい携帯で電話をかけていた。

『もしもーし』
「…樋口先生?」
『どうした?』
…気付いてるかもしれない。
俺が珍しく電話してるから。
「今、平気ですか?」
『あぁ。少しなら』
俺は、ベッドの上に座って、壁にもたれながらも自分のを取り出してしまう。
「今日は、残業ですか」
『今日? そうだな。ちょっと仕事終わりそうにないんだけど』
冬休み前。
忙しい時期だというのはわかっていたはずだ。
俺のわがままだというのも。
「…ですよね…。5分だけ、貰っていいですか」
『5分か。わかった。どうした?』
「…一人になってくれませんか?」
『…ちょっと待ちなよ』
職員室から、出てってくれているのだろう。
ドアを開ける音が聞こえる。

『一人になったけど。別にそう声、洩れてないし?』
俺の声が洩れないどうとかの関係じゃなく。
いまから、智巳に名前を呼んで欲しいから。

自分のを触っていた手に力が入る。
5分だけ。
「智巳…………」
『…どうした?』
「名前……呼んで…」
『尋臣…。名前だけでいいのか?』
「っ…ぃや………」
わかってるだろうに。
智巳の声を聞きながら、自分のを擦り上げていく。
『…お前、どうせ一人なんだろ?』
「は…いっ…」
『…一人で遊んでんのか?』
「っぁっっ…ぅんっ…」
『へー。愉しい?』
「っ……ぉねが…っ」
俺の意図が伝わったのか、智巳の声のトーンが少し変わった。
『指…後ろに入れてる?』
「っ…まだ…っ」
『じゃあ、たっぷり唾液絡めて』
誘うような声が響いてたまらなかった。
智巳が言うように、指を舐めあげる。
『尋臣…。唾液絡める音、ちゃんと出せよ』
「っそんなのっ…」
『わかんないだろ。やれって』
言われるがままに、指を口に含んで、わざと音を立てしゃぶった。
電話越しに聞こえるように。
『あぁ、聞こえるよ、尋臣。やらしい音。じゃあ、人差し指、ゆっくり入れな?』
「っ…んっ…」 ゆっくり、人差し指が入り込む。
「ぁっ…んぅっ…」
『奥まで入ったら少しずつ抜き挿ししろな…。でも、お前のことだからつい、腰が動いちゃうだろ…?』
奥まで指が入り込んで。
指を抜き挿ししてみると、智巳の言う通り腰が動いてしまう。
「んっ…っやっ…ぅんっ…くっ」
『…声、我慢すんなよ。いやらしい声、出しなって。切るぞ』
「はぁっいやっ……あんっ…ぁあっっ」
『そう…。…2本目…中指も、入るか?』
従って、ゆっくりと2本目の指を押し入れていく。
「ぁっあっ…入ってっ…っ」
『ん…さっきより届くだろ…?』
「んっ…ぁあっ…奥っ…ぅンっ…」
『いい子だ。奥まで入ったな…? じゃあ、第二関節くらいのとこまで抜いて…そこで曲げてみな』
奥まで入り込んでいた指を少しだけ抜いて、折り曲げてみる。
「ひぁっ! あぁあっ…」
『ちゃんと状況説明しろ?』
「あっぁあっ…ここっ…ぃいっ…あっっあんっ…ぃっちゃうっ…」
『強く突いて、後ろだけでイきな?』
何度も感じる部分を突いたり、出し入れさせたり、もう指の動きなんてぐちゃぐちゃで。
腰も揺れる。
智巳が教えてくれた俺の感じる所を、何度も突いた。
「ぁっあんっ…ぃくっ智巳っ…あっ」
『尋臣…かわいいな、お前。イク声、聞かせて…?』
「智巳ぃっ…もぉっあっぃくっ…あんっあっ…あぁあああっっ!」

大きな声をあげて、イってしまい、やっと俺は指を引き抜いて。
少しだけ現実に戻される。

「……すいません…。仕事中に」
『…いや、構わねーよ。なんかあったか?』
「……すいません。告白されて…少し煽られたもので」
智巳のため息が聞こえた。
『断ったんだろーな』
「っ…当たり前じゃないですか」
『煽られたって? なにかされたのか』
「…ちょっと触られたくらいですよ」
『まぁいいけど。っつーか、尋臣さぁ。遠慮してんなって』
遠慮。
その言葉に、自分の行動を思い返す。
「…なにか、しましたか?」
『…いや、もっとさ。会いたいとかやりたいとか普通に言ってくれてかまわねーし。
そしたら俺は時間作るから』
「でも、智巳は仕事してるじゃないですか」
『だから、別に遠慮すんなっつってんの。無理だったら無理って言うし』
確かに、智巳ははっきりと駄目なときは駄目だというタイプだ。
「…はい…」
『…お前、今日、一人になれるか…? ルームメイト追い出せよ』
「っ…むちゃくちゃ言いますね」
『出来るだろ。夜の10時、行くから』
智巳が、来てくれる。
俺が少し匂わせてしまったのだけれど。
こんな忙しい時期なのに。
申し訳ないって思うのに、嬉しくてたまらなかった。
「…待ってます」
『はい。じゃあ、仕事戻るから、またな。…あと、そんなエロい状態で他の男と会うなよ』
エロい状態ってなんですかと反発できそうにもないなと自分でも自覚している。
「…すいません…」
『一人でいい子で待ってろ?』
思いっきり子ども扱いだ。
けれど、こういうのも好きかもしれない。
「…はい」

電話を切って。

最近、ほっとかれてばかりだったけれど、やっぱり言えば智巳は来てくれるから。

それが嬉しいから。
もちろん、学生よりも会う機会は少ないだろう。
それでも、やっぱり、俺は構わないと思った。