もうすぐ3年生が修学旅行らしい。
3年生といえば、宮本先生が受け持ちだから、やっぱり行くんだろう。
「宮本先生のバスだったら、乗り込めそうじゃない?」
 そう4年生の数学担当、桐生に話を持ちかける。
「…で。行くの?」
「行きたい」
「…いってらっしゃい」
 あまり乗り気じゃねぇな、こいつ。
 まぁいいや。
 なんとか着いてきてもらうように、あとでしむけるとして。

 尋臣には伝えておくか。
 急に行くと、やっぱり心配するだろうからな、あいつは。

「尋臣。もうすぐ3年生が修学旅行だって知ってる?」
 夜。
電話でそう話を持ちかける。
『知ってるけど』
「うん。で、俺も行くから」
『え…?』
「まぁ、一応、伝えとこうと思って、それだけなんだけど」
『…なんで…智巳は1年担当だろう?』
 結構、行って欲しくないって感じだったりするんだろうか。
 少し会わないなんてこと、しょっちゅうあっただろうに、いざ実際距離が離れるとさびしいってやつ?
 ちょっと、かわいいかも。
「俺、去年まで今の3年担当だっただろ? だから仲いいし、一緒に行ってみようと思って」
『じゃあ…仕事じゃなくって、ついて行くだけってこと?』
「…そう」  
一瞬、尋臣が黙り込んで、少しだけ沈黙になる。  
俺は、尋臣の出方をちょっと待ってみたり。

『……わかった…』
  理解した。
  けれど、納得はしてない感じだな。

「じゃあ、いい子にしてろよ」
『なにそれ…じゃあ…』
 元気なさそうだったな。
 それでも、すねてる感じがかわいいだなんて、思ってたらちょっとかわいそうだろうか。
 なぁんか、後ろめたいっつーか気分悪い。
 このままじゃ、楽しく修学旅行に行けません。
 まぁ、3年と仲良しってあえて強調した俺も俺だけど。

 尋臣にはまぁまた会いに行くとして。
 その前に、ちょっと情報収集してくっかなぁ。

 翌日、朝一。
 尋臣の友達がいそうな場所へと向かった。

「和奏―…」
 尋臣が以前、俺らの関係を話していいのかどうか聞いてきたことがあったとき。
和奏に言うと言っていたから、こいつが一番仲いいんだろうな。
そう思い和奏がいそうな渡り廊下まで探しにきたわけだけど。
「あれ、智巳先生」
「お前のこと、探しに来たんだよ」
「ホント? 俺がここにいるってよくわかりましたね♪誰かに聞いた?」
「…お前、自覚ないかもしんないけど、いつも迷うとこの2階北側渡り廊下にいるだろ…」
「あ、そうかも。一番、見晴らしいいっていうか、全部見えるから。行きたい場所探せるし」
 なんで、こいつはこんなに方向音痴なんだろうな…。  
   
で。本題。
「…和奏ってさ…。俺の彼女、誰だか知ってる?」
 一応。
 知らなかったらあれだしな。
「知ってますけど」
 だよな。
「…あいつさ。なんか相談してた?」
「…相談?」
「してないならいいけど」
 そう言う俺に、にっこりと笑顔を見せる。
「見かけによらず、あいつ、弱いですよね。しょっちゅう凹んでますよ。智巳先生のことになると」
 凹んでる…?
「…ふーん…」
「智巳先生、あいつのこと、すごい好きなんですね」
「なんで?」
「……俺なんかに、相談してるから」
 だよな。
「凹ませるようなことしたんですか」
 凹んでるかな。
「…まぁ。もうすぐ修学旅行に行くからさ。遊びで」
「遊びでですか。うーん、それは微妙ですね」
「あいつは、お前の目から見るとどう? 俺のこと好きそう?」
「尋臣って、たぶんバレないようにしてるんだろうけど、やっぱり智巳先生だけ違うんですよね。真面目だから、智巳先生の前で敬語でそっけないフリとかしてるでしょう? でも、他の先生だと、もっと愛想いいですから」
「あいつは嘘がヘタだから」
「すごく好きだと思いますよ。…ってか、どうしたんですか、智巳先生」
 あぁ。どうしたんだろう。
 こんな不安感、久しぶりだ。  
たぶん、あいつが俺に呆れることはないと思うけど。  
100パーセントだとは思えないから。
「どうしたんだろうな、俺は。まぁいいや。じゃあな。またすぐ会うと思うけど」

 そう言い残し、俺は職員室へと向かった。

 尋臣は、絶対授業サボらないしな。
 あいつを授業中に連れだすのはまず無理だ。
 とはいえ、今回は、夜にこっそり連れ出すよりももっと、人前でどうにかしたいわけ。

 そろそろ。
 尋臣だって、隠れて付き合うのに多少は不満を感じてそうだし。

 昼休みになってすぐ、俺は尋臣のいる4年1組へと向かった。

「あれ、智巳先生?」
「めずらしー」
「どうしたんですか?」
 4年生の昼休みってこんなに騒がしかったっけ。
 廊下で何人もが振り返り声をかけてくれる。
 俺がここ通るのって、やっぱめずらしいもんなー。  

「…智巳ちゃん、なにしに来てんの」
 冷たくそう言うのは4年担当の桐生だ。
 まだ授業を終えてすぐだろう。
 教科書を持ったまま。
「彼女に会いに」
「…なにかあったんだ?」
「言ったじゃん。修学旅行行くって。その前にいろいろと。お前も彼女に言っとけよ」
「俺は行かないし」
「行く」
「………わかったから。じゃあな」

 にしても。
 こんなに自分が目立つとは思ってなかった。
 人多いし。
 
 でも、この場で尋臣を呼んでやろう。

 俺は、4年1組の教室へと入り込み、あえてなのか、目を合わせないようにしていた尋臣の前にたつ。
「尋臣? ちょっと用事があるんだけど」
 あからさまに不機嫌そう。
 尋臣の周りには、和奏もいて。
 あと2人。
 それ以外にも、いきなりずかずか教室へと入り込んだ俺を見る人は多かった。
 視線がいろいろ突き刺さる。

「なんの用ですか」
「いろいろと。来て欲しいんだけど」
「いまですか?」
「そう。だからいま、声かけてんだろ」
 俺もあれだな。
他の生徒相手だったら、こんな冷たく接しないじゃん。
まぁ特別なんだよ。
 
少し迷うような尋臣の手を取って、引っ張り立たせる。
「なっ…離してください」
「あんまり、声出すと目立つぞ」
「っ……なに考えてるんですか…」
「いいから。早く来いって」  
 
これ以上、拒んでいると余計に目立つんだとわかったのか、しょうがなく尋臣は俺について来るようだった。  
ただ、勢い良く俺の手を振り払う。
 
「お前は他の先生の手もこうやって振り払うんだ?」
「他の先生は、こんな風に掴んできません」
「はいはい」  
 
尋臣は、目立つのを避けてかおとなしくついて来る。

「…どこに行く気ですか」
「図書館」  
 
図書館に連れてって。  
さて。  
本棚の奥へと向かった。

 尋臣は、俺にわかるくらいにわざとらしくため息をつく。
「こんなとこまで連れてきて。なんのつもりなんですか」
「やりたいんだけど」
 尋臣は、一瞬、体を固まらせる。
「…は…?」
 聞き返す尋臣を無視するように、俺は尋臣を抱き寄せて強く口を重ねる。
「んっ…っ…」
 どかそうとする手が、舌を絡めていくと次第に緩まっていった。
 舌が絡まる音が頭に響く。  
尋臣の足の間に、自分の足を入れてやって。
 背中を支えて腰を撫でてやると、体をビクつかせた。
「んっ…んぅっ」
「…尋臣…。いい?」
「っ…いいわけないでしょうっ?」
「大きな声だすなよ」
「今は昼休みですよ…?」
 尋臣の言葉は無視しておいて。

首筋を舐めあげて、本棚へと尋臣を押し付ける。
「っんっ……なにして…」
「なにしてるかって、わかんない?」
「そういう意味じゃ…っ」
 ズボンのチャックを下ろしていく。
「っんっ…樋口せんせ…っいい加減にしてくださいっ」
「…お前、なに敬語しゃべってんの? それじゃあ俺が、セクハラしてる先生みたいだし。まぁ、たまに敬語使わせることもあるけど」
 尋臣のモノを取り出して、そっと擦り上げてやると、体を敏感に震わせる。
「ぁっ…んっ…くっ…大声、出しますよ…っ」
「で? 俺に無理やりやられたって言うわけ? ココ硬くしておいて? 呼びたきゃ助け呼べば?」
「んっ…やっ…あっ…」
 何度も擦りあげてやると、尋臣は俺の肩に手をおいて、引き剥がそうと試みる。
 まぁ全然、引き剥がせるような力は入ってないけれど。
「はぁっあっ…んぅっ…」
 だいぶ、とろけてきたな、こいつ。
「こんな場所で。感じてる…?」
「っ!!…んっ…違…っ…」
「なぁんか、俺の手、濡れてきたんだけど」
 尋臣の先走りで。
「はぁっ…あっ…んっもうっ…やめ…っ」
「別の場所に移動したい…?」
「そうじゃ…っ…やめ…」
「4年の数学準備室行こうか…。いまなら誰もいないし、入ってこないだろうし。二人きりになれるだろ」
 そう言うと、少しためらってから、頷く。

「つまり、尋臣くんは、Hすることには同意なんだ…?」
 自分の手を一旦離して、指先を舐め上げる。
「…せんせ…?」
「ココでやる」
「っ…なに考えて…っ見られたらっ」
「感じるだろ?」
 そうとだけ教えてやって、また下着の中へと手を突っ込むと指先を尋臣の中へと押し込んでいく。

「っなっ…ぁっ…んーっ…」
「心配すんなって…」
 指で中を探っていくと、尋臣は体をビクつかせて涙目になる。
「っ…んっ…誰かっ…」
「……人によっちゃあ俺、警察沙汰だから、助け呼ぶとかそういう冗談、やめろな」
 そんな冗談にもならないことしてんのは、俺だけど。
「だからさ…。合意じゃないと、俺、職失うから。素直にやられて…」
 なんだかんだ言って、尋臣は気持ちがイイと思考回路がおかしくなるのか。
 抵抗するのをやめて、今度は、潤んだ目で俺を見つめる。
「なに…?」
「んっ……違…っ」
 自分が欲しがっているってのがバレたくなかったのか、今度は顔を逸らして。  
 
俺は、あいかわらず、わざと一番感じるところを外してじれったい愛撫を続けた。
「はぁっ…ぁっあっ…んっ…やめっ…んっっ…智巳っ…」
 そろそろ、尋臣がやる気になってきたようで。
 もう拒むことはないだろう。
 それがわかる瞬間って妙に楽しかったりする。
 尋臣の場合、俺を名前で呼ぶけれど。


「あっ…んっ…違っ……」
「違う?」
「んっ…そこ、違ぁっ」
「ふぅん。どこ触って欲しいの…?」
 俺はゆっくりと、指で中をまわしていく。
「ぁあっ…ンっそこっ…」
「へぇ。ここ?」
 尋臣が欲しがる場所を指で何度も擦ってやると、体をビクつかせて俺へとしがみつく。
「はぁっあっ…んっぅんっ…やっやぁっだめっ」
「どっち? いいの? 悪いの?」
「っイイっ…ぁああっ…やっやあっ…いくっもぉ、やあっ」
「ホント、お前かわいいわ…。イっていいよ…」
「やっんっ…智巳っぁっあっんっあぁあああっっ」


 お前は、そんな声出してどうすんだよ、ったく。
 まぁ、ホントは、図書館貸切状態だけど?
 尋臣はそれを知らないだろうし。
 少し、虐めるかな。

 ぐったりとその場に座り込む尋臣にあわせて俺もしゃがみこむ。
「尋臣…声出しすぎ。他の人に聞こえちゃうだろ…?」
 尋臣は、どうすればいいのかわからないのか、紅潮した頬のまま焦ってみせる。

「はずかしい? 俺は、尋臣とやってるとこ見られても平気だけど?」
「なに…言って…」
「彼女とやっててなにがおかしいわけ? …もっと、堂々としよ…」
 尋臣と自然に口が重なり合う。
 口が離れると、少し気まずそうに見上げる姿がかわいかった。

「いまさらだけどさぁ。もっと、俺ら自然にならない? 普段。隠してるじゃん。結構、そういうの辛いし、自分らのイメージとか別にかまわないし、俺はお前と堂々と付き合いたいんだけど。お前は…? 隠したい?」
 
 っつーか、エクスタシー状態の尋臣に言って理解してんのかはわかんないけど。
「尋臣…?」
「そのために……こんなこと…?」
 あぁ。
 自分でも理解に苦しむことしたよなって思ってはいるけれど。
「智巳の行動はたまに意味がわからないよ…」
「…解説すると、修学旅行に行く俺に尋臣が不安を感じてそうだったから、その前に…俺はお前が好きなんだって。いろんな人に知らせとこうと思っただけ」

「っこんな恥ずかしいことをしておいて、自分は修学旅行に行って。俺一人でどう対処すればいいんだよ」
「…駄目?」
 尋臣は少し言い留まって、顔を背ける。
「お前の考えてることって、結構わかるんだよ…。だからって、俺が遊びで修学旅行に行くことに変わりはないから。不安に思ってくれてたりするんだろ?」
 迷うようにして、頷く姿は普段の尋臣からは想像もつかないな。

「…大丈夫だから。宮本先生が心配だから、ついてくだけだし」
 そう言うと、思ってもいなかったのか、きょとんとした顔。
「宮本先生…って、柊先生と…」
 そうそう。
 宮本先生は、柊とちょっとラブい状態なんだけど。
「お前、結構、知ってるんだな。というより、宮本先生と入れ替えで俺が今の3年から1年に担当になっただろ…? だから、3年の中には宮本先生を毛嫌いする子もいるんだよ」
「…不真面目な…」
「俺は、意外と今の3年生に人気があんだよ。だからっつって、俺のせいで宮本先生に迷惑はかけたくないし」
「行くと逆効果じゃないのか?」
「…わかんないけど。このままじゃ、修学旅行で虐められそうだからな。ほっとけないんだけど。………行っていい?」
 尋臣がまた、いつもみたいにため息をつく。
「別にわざわざ許可取らなくてもいいですよ…」
 とか言って。
 俺が、ただたんに遊びじゃないことがわかってか、ちょっと機嫌よくなってるくせに。

「じゃあ、尋臣、続き」
「もう、昼休み終わると困るので」
 なんで。
 こいつは、こんなに真面目なんだよ。
「まだ、20分あるし?」
「戻って、昼ごはん食べるので」
「1食くらい抜けば?」
「無理です」
 あっさり言いやがった。
「じゃあ、俺は他の子とやってくるから」
 そう言っても、今回はあんまり焦ってくれない。
 もしかして、俺がこんな突拍子もない行動に出たことにホントに怒ってたりするんか、こいつは。

「…わかった。隠したいなら隠せばいいし。ほら。修学旅行中の弓道部の部活内容。部員別に全員分あるから。1枚目にその説明、全部書いた。それ、すばやく読んで。お前は今、それの説明聞いてたことにしろ」
 夜のうちに用意しておいた、一応の言い訳を手渡す。
 まぁ、一応、部活顧問だし。
 俺がこんなことしなくても、尋臣がちゃんと部員見てくれるのはわかってるけど、言い訳用だ、これは。
 
 尋臣は、ちょっと困ったような顔をする。
 俺が、一応、尋臣のことを考えていた手前、怒った態度をとってしまったことに今度は後ろめたさでも感じているんだろう。
 追い討ち、かけますか。
「ちなみに。ここの図書館、貸しきってるから。誰も見てないし聞いてないから、安心しろ」
 顔を赤くして、俺を見上げて。
 それは反則だろう? ってな表情を俺に見せる。

「…部活後、俺の数学準備室に来いよ…。待ってるから」
 そう言う俺に、そっと頷く。
「じゃあ、早く戻って。昼ごはん済ませて。ちゃんと授業受けなさい」
「はい」
 尋臣は立ち上がるものの、少しよろめいて。
 まだ、ボーっとしてるな。
 こりゃ、最後までやってたら、バレバレだろう。

 俺も立ち上がって。
 振り返る尋臣にそっと、キスをして。
 図書館を出て行く尋臣を見送った。

 ……っつーか。
 かっこつけてないで、今、やっときゃよかったか…。
 でも、俺のせいであいつが5時間目、遅れるのも、痛いし?
真面目だから。

 しょうがない。
 今日の夜。
 焦らされた分、たっぷりと虐めようと心に決め、俺は数学準備室へと戻った。