俺は補充を切り上げて、4年1組の教室を覗いた。
やっぱり、尋臣がいる。
机に顔を伏せて。
わかりやすいいじけ方すんのな、こいつ。
「尋臣…」
横から声をかけてやって。
俺に気づいた尋臣は、顔をあげて少し俺をにらむ。
けど、申し訳ない態度とか罪悪感とか感じたら負けだから、そんな態度は見せないで。
「…なにか、言いたいこととか、あるわけ?」
少し冷めた口調で聞いてやる。
すると、俺が雪之丞とやってたことに関して、尋臣に罪悪感を感じてないからか、あまりにも冷めた口調だったからか、急に表情が強張る。
「別に…」
そういう声が不安そうで。
もしかして、俺が、ホントに尋臣から雪之丞に乗り換えるんじゃないかとか、考えてるんだろうか。
「なにもないわけ? じゃ、俺はもう行くけど」
「っ…待っっ…」
俺を引き止めて、なにを言うつもりか。
尋臣の考えてることはなんとなくわかるけど。
「なに?」
あえて聞いてみる。
「…数学のテスト…。俺、どうでしたか…?」
あぁ。
悪いって、わかってるだろうけど。
あえて俺に言わせる気だろう。
補充するくらい悪いって。
でも、お前の補充はしていない。
それを、俺に自覚させる気なんだろう。
「駄目すぎ。今日、1組と3組でやったけど、お前、一番、悪い」
「っ…だったらっ」
なに?
なんで、俺がお前の補充しずに、雪之丞の補充してたか、聞きたいんだろう。
それでも、そんなこと聞けずに、言いとどまる。

「だったら?」
「…雪之丞とは補充してたんですよね」
「そう見えた? 補充じゃないから、一番悪い尋臣でなく雪之丞といたんだけど」
俺があっさり言うせいか何も言えないで。
ただ、少し戸惑いを見せる。

「…俺が……嫌いなわけ…?」
敬語からタメ口に変わってるな。
俺の顔も見れずに、顔を背けたまま、小さな声で言う。
「好きに決まってんだろ」
「だったら…。なんで、俺…」
「昨日、お前が拒んだんだろうが」
「拒んでなんか…」
「勝手に一人でどっか行っちゃうし?」
「あれは、桐生先生がいたから…っ」
「だからって、避けるようにしてどっか行くか?」
もちろん、尋臣の気持ちはわかるから、かまわないのだけれど。
「……ご…めん…」
あぁ。もう自分が悪いんだと思ってくれちゃいましたか。
そりゃ、確かに、何事もなかったみたいに、どっかへ行ってしまったのは少しさびしかったりもしたけれど?
悪いのは、尋臣というより、わかっていながら現れた桐生だ。
もちろん、尋臣は、桐生がわかってて現れたんだとは思ってないだろうけど。

まぁ、あんなところで手を出した俺の罪はさておき。
それを問われだして俺が謝ってなんになるって話だ。
あぁ、そのまま収まりつくか。
でも、そんなことより、桐生に関して気にしているだろうし?
「別に桐生は気づいちゃいねぇよ。気づかれたところで、人をかからかうようなやつじゃないし」
口からでまかせ。
だけれどまぁ、尋臣になにか言うことはないだろう。
昨日散々、口止めしておいたから。
「ん…」
「尋臣が心配することはなんもねぇよ」
桐生の見舞いついでにもう一度、口止めと明日の数学についてでもなんか話そうと、背を向けると、そっと腕を取られる。
「なに…」
「智巳は、自覚ないのか…? ものすごくモテてる…」
「それは関係ないだろ。自覚したらなんだってんだ」
「それは…そうかもしれないが…。俺も、遊びのうちの1人なのか…とか…」
…かわいいこと聞いてくれんじゃん…。
俺は尋臣に向き直って、ジっと目を見る。
「いっつもさぁ、俺は、彼女がいますってちゃんと言ってるし。その彼女はお前だし? 遊ぶつもりならそんな肩書き、やんねぇよ」
尋臣は、なにも言えずにただ黙っておとなしく聞いていた。
「…部屋…行く?」
また、昨日と同じように聞いてみる。
今度は迷うことなく素直に、尋臣は頷いた。





少し離れたところに、俺の数学準備室がある。
そこまで、なんでもないみたいに無言で2人で向かって。
尋臣を連れ込むと、俺はすぐさまカギを閉めた。
尋臣は、少し顔を赤らめたまま、ボーっと立ちすくむ。
「まぁ、座りなって」
「な…んで」
「やりたいから、こうやってノコノコついて来たんだろ。いまさら、別にやりたくないみたいな態度とんなよ」
俺は尋臣が持ってた資料とかを取り上げて机に置くと、尋臣の体を抱き寄せた。
「っ…」
「なぁ…委員長様の首筋にキスマークとか残したら面白そうだよな」
「何、言って…っ」
「残さねぇから安心しろ」
口をそっと重ねてやると、尋臣が、俺の腕に軽く爪を立てる。
「っんぅっ…」
あいかわらず、かわいくてたまらなくて。
そっと口を離してから、頬を撫でてやった。
「…智巳…」
「ほら、まともに立ってらんねぇんだろっての。座りな」
イスを尋臣の背後に準備すると、ゆっくりと尋臣はそこに座り込んだ。
「一人でやって見せて?」
なんでもないみたいにそっけなく、俺はそう訴える。
「な…」
驚きの表情で俺へと目を向けて。
「尋臣さぁ。昨日から機嫌悪ぃし? いきなり立ち去ってったのもだけど。俺があんなとこで手、出したのが悪いって思ってるだろ?」
実際はそうだろうけど。笑顔を作って聞いてやる。
「部屋行くか初めに聞いたときに、嫌がったし? のくせに、欲しがって」
欲しがってしまうのは、しょうがないことだと思うけど。
こういう言い方をして、正しいのはこっちなんだと思わせる。
それでいて、ちゃんと筋が通ってるように説明して。
「だから…ごめんって…」
へぇ。
これまで、ちゃんと謝ってくれちゃいますか。
いい子すぎるっての。
苛めたくなる。
「俺のことも疑っただろ? 好きだっつってんのに。なんつーか、そうやって俺に対して不信感とか抱かれてっと、やる気、しないわけ。抱いてんだろ?」
俺が、少しキツい口調で言うと、怒らせてしまったのが自分のせいだと感じたらしく、罪悪感でも感じてるのか、
悔しそうな、申し訳ないような、なんとも言えない表情で。
俺からそっと顔をそらす。
「……とはいえ、俺も男だし? 彼女に誘われたら、やりてぇよ。彼女以外で不信感抱かれたら、誘われてもやる気分じゃないけど」
お前は彼女だから、特別だと、教えてやる。
「だから、誘いな」
そう言う俺を、チラっと見て、少しまた迷ってる感じ。
「…雪之丞は、誘ったのか…?」
「あいつはべつに俺に不信感なんて抱いてないだろう? お前とは違うよ。ほら、お前、今もう俺のこと疑っただろう…。疑ってないって言うんなら、態度で示しなって」
自分が雪之丞のことを俺に聞いて疑ってしまったのが悪いと思ったのか、申し訳なさそうな表情を俯かせた。
「誘って…俺にいやらしい体、曝せよ…」
今度は、こっちが誘うように耳元で優しく言ってやる。
「見たいんだよ…。尋臣のいやらしい姿がさぁ。見せてくれないなら、まぁ他の誘ってくれるやつんとこ、行くから無理にとは言わないけど」
そう言って、俺は少し離れた椅子に座り、机に肘をつく。
「どうする? やってくれんの?」
不安がたまっているせいだろう。
尋臣は、しょうがなくなのか、自分のズボンに手をかけていた。



自分のを擦り上げて。
しばらく単調な動きを繰り替えしていたが、次第にそっと目をこっちに向けてうかがうようにされる。
「智巳…」
なにも言われずに、ただ自分でなにかをするのが苦手なのだろう。
「…シャツ、ボタン外して」
しょうがないから、俺から言ってやると、素直に全部外していった。
また、次の要求を待つように俺に視線を向けて。
「…じゃあ俺がローター濡らしてやっから、その間、胸とソコ、両方弄ってな」
「…ローター、使うのか…?」
「嫌ならやめるけど?」
やめるってのは、ローターを…のつもりだが。
この行為すべてをやめるように受け取られたかもしれない。
拒めなくなったのか、そっと首を振った。
俺が止めて他の人のところへ行くのではないかと、よっぽど気にしているようだ。

俺が引き出しから取り出したローターに舌を這わすと、やっと、また自分のモノをそっと擦り上げて、余っている手が胸の突起を摩るのが見える。
「っんっ…くンっ…」
俺は、席を立って尋臣の近くへ行くと、
「智巳…」
少しねだるような甘い声で俺を呼んで。
俺は、尋臣の前にしゃがみこんで、シャツを両側に開いた。
「あ…」
「かわいーよなぁ、お前。いやらしくて」
そっと胸の突起に舌を這わす。
「っぁっ…ン…ぅ…」
胸元にキスをして、吸い上げてやって、痕を残して。
「ズボン、脱ぎな。腰、浮かして…」
尋臣が立ちかけるようにして腰を浮かした隙に、ズボンと下着を引き抜いてやった。

俺は、尋臣の右足のひざ裏に左手を回し、折り曲げてやる。
「尋臣が自分で入れな」
ローターを手渡してやると、少し困ったような表情で俺を見下ろす。
「…少し、濡らしてやるから…」
そう言ってから、俺は足の付け根の奥へと舌をつけた。
「っンっ…ぁっ智巳っ…」
尋臣の手が俺の髪の毛を絡めとって、気持ちよさそうに、俺へと少し腰を寄せる。
「っん…。入れてみな…」
俺は口を離して、今度は尋臣の左足も持ち上げてやった。
M字開脚を余儀なくされ、顔を赤く染めた尋臣はそれでも、俺の言うことを聞いてくれる。
ローターを前から、ゆっくりと押し込んでいく。
「っんっ…ぁっ、くんっ…」
ゆっくりと入り込んでくさまをじっくり見てやって。
そんな俺の様子を、尋臣が見ていた。
「入った?」
奥まで入り込んだのを確認してから、そっと足を下ろしてやる。
尋臣は、もうすっかり酔ったような状態に見えた。

「ほら、自分で入れな」
ローターの本体につながれたスイッチを尋臣の手に握らせて。
俺自身は、正面にある低めのテーブル座る。

「…っ…智巳…」
「まぁ、好きなときに電源入れな」
俺はあえて突き放して、少し冷めた目で、尋臣を眺めた。

何も言わずにいると、尋臣は俺を少し見て。
もう一度、視線をローターのスイッチへ戻すと、覚悟を決めたのか、ゆっくり、ONの方向へと回すのが見えた。
「っくっ…ンっんっ…」
ビクンと体を震わせて、顔を俯かせて。
「そんな振動じゃ物足りないんだろ? 早くMAXにしろ?」
そう上から声を被せると、尋臣は俯かせた顔のまま、そっと頷いた。
「っんぅっ…ゃあっ…」
MAXまで回したスイッチが、尋臣の足元に手から落ちる。
いやらしく、コードが尋臣の中へと続いていた。
「はぁっ…んぅっ…んっ…くっ…」
尋臣は、左手で口元を抑えながら、我慢できないのか、右手で自分のモノを擦り上げる。
「っあっ…んぅっんっ…」
「尋臣―。糸、引かせて見せて?」
俺が頼むと、従って、いったん動きを止めた右手の人差し指を亀頭に擦り付け、ゆっくり引き離して、糸を引かせて見せた。
「んっ…ぁっ…あっ…智巳…ぃ…っ」
恥ずかしいのか、自分のモノも俺も見ずに、顔を背けて。
「んー、いいよ、ちゃぁんと糸、引いてる」
そう伝えると、さっき指先で亀頭を撫でたのが気持ちよかったのか、もう一度、指の腹で撫でていた。
「はぁっっ…んぅっ…ンっ」
「声殺すなって。誘う気あんの?」
そう言うと、一瞬、顔を上げて、俺を見て。
また顔を俯かせると、そっと目を瞑って、口を抑えていた左手を自分の胸元へ持っていった。
「っぁっ…ンっ、あんっあぁあっ」
いままで散々、殺してたのか、素直に出したいやらしい声が教室内に響いた。
「いい子じゃん…。かわいい」
ちゃぁんと褒めて、たまには飴を与えてやる。
「はぁっ…ぁっんっ、ぃくっ…智巳っ…」
俺が、優しく言ったせいか、すぐ次を求めやがって。
「駄目」
あっさりそう言う俺に、驚いてか顔をあげる。
「駄目つったの」
言い直して教えてやると、また顔を俯かせて。
「っぁっ…やっ…ぁ」
「や?」
「っゃ…だ、あっんぅっ」
俺の顔を見て言う自信はないのかよ。
「…いつからそんな聞き分けない子になったわけ?」
冷めた口調で言ってやっても『じゃあ、イきません』なんてすぐ言えるようなもんでもないだろう。
「ひっくっ…ぅンっ…出ちゃ…っ…」
本当に、普段の尋臣からは想像できないような声で、態度で、口調で。
涙ながらに訴える。
「…じゃあ出せば? 今日はそれで終わりな」
「あっ…智巳ぃ…っやっ、ぁあっ」
「どうして欲しいわけ? イきたいなら出していいっつってんだろ?」
「っ…もぉ…っ…欲し…」
俺の顔も見れずに、恥ずかしそうにそう声を押し出す。
「どうして欲しいか聞いてるんだけど。数学だけじゃなく、国語も苦手なわけ?」
「っぁっ…んぅっ…智巳のっ…」
「まあ、俺のなに? とまでは聞かないけど? ソレをどうしたいわけ?」
「っ入れ…っぁっ…んぅっ…れてっ…」
「駄目だねぇ、尋臣は。委員長様のくせに、目上の人には敬語って、習ってんでしょ? まぁいいけど。今度、また、教えてやるよ。来な。俺の上に、跨って」
ズボンのチャックを下ろすと、その上に尋臣が跨ってくる。
「はい、よく出来ました」
褒めてあげてから、自分のをローターが入ったままの尋臣の中へと押し込んでいった。
「っんーっあっ…ぁああっ」
「お前ん中で、俺の、ガチガチに勃たせろよ」
「っぁっんっ…んぅっ…」
マラソン後に、やっと貰えた水を、一気に喉をならしながら飲み干すように。
尋臣は俺のを欲しがって、奥まで入り込んだソレを、体を揺らして何度も飲み込み直す。
「はぁっあっ…んぅっ、智巳っ…あっ、智巳ぃ…」
「…食いしん坊万歳…。なんてな」
「っくっぁんんっ…」
「…………」
つい思いついたことを口走ってみるが、思いっきり尋臣に無視されてしまっていた。
まぁいいよ…。
そういうやつだよ、お前は。
ここで『またまたぁ』なんて笑われても、らしくないしな。


俺の頭をしっかり抱え込んで、何度も体を上下に揺らして。
俺は、とりあえず自分のシャツの前を開いておいた。
服に飛ばされるとさすがに厄介だからな。
「かわいいな、尋臣…。イきそうだろ? 構わねぇよ?」
今度は、嫌味でもなんでもなく、やさしさからそう言ってやるけれど、尋臣は、俺に抱きついて、
「っんっ…一緒に…っ」
小さな声でそう告げる。
まぁったく、意外に乙女らしいこと言ってくれちゃいますか、こいつは。

「ったく…。もちっと、我慢しろよっ?」
俺は尋臣の背中に手を回し、双丘を掴むと、尋臣が自ら揺さぶる体をさらに激しく動かしてやる。
「ひぁっ…ぁあっ、ゃあっあっ」
「イイだろ…?」
「っんっ、イイっ…だっめっ…あっ、イきそぉっ」
別に先イっても構わねーのにな。
雪之丞に関して、嫉妬や不安がたくさんあるせいだろう。
いつもなら、こんな風に一緒にイきたがらないくせに。
「…尋臣…。いいよ、イきな…」
「っゃっあっ…」
「俺も、イくから…」
「っぅんっあっ…智巳っぁあっ、やっ…ぁあああっっ」
一際大きく体を震わせて、尋臣が俺の体に欲望をぶちまける。
俺は、激しく打ちつけた尋臣の中へと、自分のを放って、速攻で、ローターのスイッチを手繰り寄せ、OFFにした。




ぐったりした状態の尋臣をしばらくずっと抱いててやった。
「やっぱ、お前、いいよなー」
ついそうぼやくと、尋臣は、俺の背中に回した手を少し強める。
「なにが…」
「お前が」
「俺が、痴態、晒すから…?」
そう来ましたか。
「まぁ、確かにそこまでやってくれるのもイイけど」
「っ……」
尋臣は、何も言えずに、押しとどまる。
なにか、聞きたいくせに。
「…痴態なんてさらさなくっても、お前が1人でやったり誘ったりしなくても、十分、イイから」
しょうがなく、ため息がてら、そう伝えたやった。

「嘘…」
「こんな嘘、俺がお前についてなんの得がある? お前のご機嫌とって、お前に好かれて、それが得って? 尋臣は自分で自分のこと、そんなすばらしい価値ある人間だって思ってるんだ?」
「っそういうわけじゃ…っ」
「まぁ、それは冗談だけど。お前が、痴態さらさなくなるかもしれなくって、損しかねぇっての。嘘でわざわざ言わねぇよ。まぁ、お前の機嫌取りたいのも好かれたい気持ちもそりゃ、どこかしらあるけど? それは得だけど、嘘言ってまで求めないし? それ以前に、俺の得どうこうじゃなくって、お前が言われて嬉しく思うんじゃないかと思って、素直に言ってやったんだよ。素直に喜んどけ?」
そこまで言うと、やっと信じたのか、小さく『うん』って答えて、俺を抱きしめなおした。

「尋臣、痕とか、残したかったりする?」
俺は、尋臣に首筋を見せてそう聞くと、少し困った感じの表情。
「別に…。智巳は、俺以外の人の痕もたまに残ってるし」
「あれは、向こうが勝手につけるんだよ。そりゃ、つけさせてって言われたら、いいよって言うかもしんないけど…」
あぁ。
これじゃあ、尋臣が今、『つけさせて』って言い出しても一緒か?
「あぁあ、じゃあ、お前、つけろ。俺がせがんでつけて貰うのは、初めてだから」
そう言うと、やっと、少し恥ずかしげにしながらも、俺の首筋に口付ける。
「そー。キツーくやっとけよ」
俺は、尋臣の頭をそっと撫でてやった。

「…尋臣―。俺も残していい? 普段見えないとこにしてやっから。あぁ、さっき胸んとこにも付けたか」
痕が残っている胸元をそっと撫でてやると、尋臣が、口を離して、俺の手を取りあげる。
「ん…。首に…」
また俺も見ずにそっと顔をそらして。
でも首筋を見せているようでもあった。
「……じゃ、いただきます」
俺は、自分が尋臣につけられた場所と同じあたりに痕を残してやった。

うわっ、桐生にからかわれそう。忘れてたよ、あいつ。
まぁいいか。なんとか言いくるめよう。

「智巳…。ひとつ、聞きたいことがあるんだけど…。雪之丞の…」
あぁ。やっぱり気にしてくれますか。
「あぁ。あれは尋臣へのあてつけだから気にすんな。お前のことしか考えてねぇよ。って、これじゃ雪之丞がかわいそうって? 別にあいつは俺のこと好きなわけじゃないし、からかってやったわけじゃないし? まぁいいだろ。ついでに桐生への嫌がらせ」
「…桐生先生?」
やべ…。
雪之丞と桐生、付き合ってんのって、うわさとかで出回ってないっけ?
「あー…。まぁ、あいつら付き合ってるっつーか、両思いだから? 今後の桐生と雪之丞がどうなってくれちゃうかねー。まぁ一応、軽くフォローはしたけど? ま、桐生の口止めにもなるし?」
「…口止めって…やっぱ、見て…」
「んー。あいかわらず、人の話、ちゃんと聞いてくれちゃってるな。まぁ、口止めしたからいいだろ」
「っ雪之丞に、そんなに弱いのか? 桐生先生は」
「弱い弱い。ついでに、俺にも弱いから、安心しろ? お前は俺のことだけ考えてろって」
尋臣は少し恥ずかしそうにしながらも、そっと頷いた。

「…にしても。お前さぁ、俺の彼女なんだから、もうちょっと数学がんばってみる気、ねぇ?」
「っ…しかたないだろうっ? 考えるのも嫌なんだから」
「まぁ、桐生の彼女もあんま出来てないけど、あいつらは、そういう関係だしなー。それに、たぶん、雪之丞の方が、勉強したら出来るぞ? あいつは出来るくせに、やってないから?」
「っ…どうせ、俺は、出来ないよ」
「そうやって、どうせーとか言うのが駄目なんだろって。努力が必要よ? 努力のかけらも見せないわけ?」
少し押し黙って、尋臣はムっとする。
「…努力しなくても、できるやつだっているだろう…? そういうやつは、それだけで、人間としての評価があがるのか? 努力したように見られて…っ」
「そういうわけじゃねぇけど。だって、お前、俺の彼女だろ?」
「だからって数学は関係ないだろう?」
「だって、俺、数学教師だし? 数学出来る奴好きだし? みーんながんばってくれんのよ? 俺のために」
「…智巳のため?」
「そう。俺、授業んときとか、『数学出来る奴が好き』ってアピールしてるから? みんな数学がんばってくれるし、教師としての株もあがるし、万万歳ってわけ」
「…智巳の株のためかと思うと、やる気失せるな…」
ため息交じりに尋臣は、俺に言う。
「…ったくなぁ。俺に好かれようと数学がんばってくれるやつもいるのに、お前はがんばらないのかって聞いてるんだ、わかってんのか?」
「…がんばらないと、駄目なのか…?」
少し不安そうに、俺にそう聞く。
「まぁ、いいんだけど…。一応さぁ。おまえ自身どうなわけ。数学教師の彼女で、数学がんばってみようとか思わないわけ?」
思われないと、少しさびしかったりするんだが。
すると、尋臣は、また俺にキツく腕を絡めて、肩に顔を乗せて。
「…思わないわけないだろう…?」
静かにそう言い放つ。
かわいいこと、言ってくれんじゃん?
俺も、もう一度、頭に手を回して抱き寄せた。
「じゃあ、がんばってる?」
「っ…これでも、がんばってんだよ…」
おもしろいほどに数学苦手なやつって、ホントいるんだなー…。
「…尋臣…。まぁ、数学は俺が教えてやっから」
「ん……」

もし、尋臣が数学が出来てたら、こいつと勉強の話をする機会は逆になくなっちまうわけか。
まぁ、数学が嫌いだろうが好きだろうが、出来ようが出来なかろうが。
俺が、尋臣を好きなのが変わるわけじゃないし?
ただ、俺のこと、どう思ってくれてんのかを計るための材料のうちの1つになるかなってくらいで。
実際は、どうでもいいことだった。