「ねぇー…淳はどうなの? 片桐くんとはうまくいってんの?」
俺らは、またいつものように、4人で教室でしゃべっていた。
そのうちの一人、淳は、委員会で一緒の片桐ってやつと付き合っている。
「うー…うまくってなんだよ、厘」
「だからさ…。やったりしてんのかって話だろ」
あいかわらず淳は、鈍感だから、厘のかわりに俺が直球に言ってやる。
「なんもしてないよー」
「じゃぁ、なにしてんの、お前ら。普通に遊んでるとか言うわけ? 付き合い始めたんじゃねぇの?」
「なんもしなくてもいいのっ。遊んでて楽しいもん」
そんなもん?
「じゃぁ、ただの友達じゃん?」
「むーっ…好きだって言ってくれるからいいのっ」
「友達としてじゃねぇの?」
淳をからかってやると、ちょっとムキになって俺にとっかかる。
そこでムキになるあたり…淳もやっぱ、片桐が好きなんだろうなって思う。
「じゃ、要は? どうなわけ、最近」
「え…」
厘が、話題をいきなり振ると、要はびっくりして顔を赤くする。
あぁ、要もうまくいってるんだ?
「やっちゃってる? 健康?」
俺が、そう問うと、
「そ…んな……に、してないけど…」
って、それじゃぁ、少しはしてるってのバレバレ…。
まぁ、いいんだけど。
「要、俺も聞きたいかも」
要の彼氏というのは、厘のルームメイトだった。
だから、結構、気になったり…すんのか…。
それとも、ただたんに、この手の話に興味があるのかわかんねぇけど。
「やだ…厘…。そんな…なんにもおもしろいことないよ」
「うーん…。でもさぁ。やっぱ、かわいいとか、好きとか言うわけ? あの人」
要は、顔を紅潮させて俯きながら、
「…それくらいは…言われるけど…」
って…。
「淳も、言われる?」
「…かわいいとか…? 俺、そーゆうタイプじゃないよ? でもたまに言われるかも。好きってのはたくさん言われるけど…」
「だから、あいつの好きは、友達だって」
「尚悟、うるさいっ」
好きとかかわいいとか…
やっぱ、要も淳も言われるんだ…。

「なーんか、淳も要も幸せそう…」
わざと、こっちをチラっと見ながら言う。
俺へのあてつけですかって。
いつから、そんな乙女くさったんだか。

確かに、俺は、厘に『かわいい』とも『好きだ』とも言ってないけど…?
いまさら、そーゆうの言う関係じゃないだろっての…。

さんざん、やりまくってるのにさ…?

結局、授業が始まって、話はいったんそこで終了。
要と俺は、席が前後ろだから、そのままで、厘と淳が、自分の席へと戻っていった。

「…要…。真面目な話、好きとか、かわいいとか言われるとうれしかったりする?」
「えぇっ? そりゃぁ…まぁ…」
だよなぁ。当たり前だっつーの。
かわいいってのは、わかんねぇけど。
好きって言われて、うれいくない奴なんてそうそういないだろ。
「あの…ね…。厘、最近よく、俺に湊瀬先輩との話聞いてくるんだ」
湊瀬先輩ってのが、要の彼氏だ。
その話を聞くって…?
「う…ん…?」
「で…『いいね』って…なんども言うから…なんか、悩んでるのかも…」
やっぱり…?
「…あー…なんとなく、原因はわかってるから、要は心配すんなって」
すべては俺のせいですかって。
どうせ、俺は、お前になんにもいい想いさせてやれてないし?
どうみても、他人から、うらやましがられるカップルにはなりえないし?

好きだとか、そーゆうこと、言わないのはお互いさまだろっての…。

「…厘…?」
厘の部屋に行っても厘はいなくって、かわり…でもないけど、ルームメイトの先輩だけがいた。
つまりは、要の彼氏…。
「あー…湊瀬先輩、厘、知りません…?」
何度か、この部屋には来るから、湊瀬先輩ともわりと、話すようになっていた。
「…今日は、金曜日だからって…。要んとこ、泊まりに行くとか言ってたかな」
「あぁあ? 普通、俺んとこ、来るだろ?」
こっちは、ちょっと気ぃ、使ってわざわざ来たのに。
どなるようにする俺を、湊瀬先輩は、あきれたように見てきていた。
「……自分の部屋にいると、尚悟が来るかもしれないからって、要の部屋行くんだってさ」
あぁ。いままでの俺だったら、厘の部屋に来て、厘がいなかったら、諦めて帰ってたよ。
けど…。今日は、もう要んとこまでのりこんでったろうか。
「っ…くっそ……。…なんか、他に言ってませんでした…?」
「…やたら、要と俺のこと聞いて、うらやましがってたけど…」
また、それかよ。
どうしろってんだ。
湊瀬先輩に、要とどうか聞いてるのに、今日、あえて俺がいる前で要にも聞いたわけ?
「尚悟と厘がさ…仲直りしてくんないと、要が俺んとこ来てくんないんだけど」
厘が、要んとこ行くからだっての。
「あー…もう…。今から要ん部屋行きません? 要だけ残してくんのもアレなんで、湊瀬先輩が、要、引き取って…」
ほら、厘は要と会ってるわけだから…。
厘だけ連れてって、要を一人残しても…なぁ?
湊瀬先輩がいれば、ちょうどいい。
「…ま…いいけど…」

俺らは2人で、要の部屋へと向かった。
「もーっ、すっごい、やだ、尚悟、馬鹿だよ」
少し、ドアを開けると、そう言う、厘の声が響きわたる。
おいおい…。
馬鹿にされてっぞ、俺。
俺が、ここの部屋にはこないもんだと思い込んでんだろうな。
いっつも、厘が部屋にいなかったとしても、どこか探しに行くなんてことなかったから…。
あえて、そのまま、聞き耳を立ててドアの前に立っていた。
「そんな…なんで馬鹿なのさっ」
「だって……もう…やることやってるのに、全然、愛がないって言うか…っ。淳と片桐のこと、『ただの友達』とか言うけど、俺らの方がよっぽど、ただの友達だし。好きとか言ってくれないしっ」


別に、やってるだけで、恋人同士だなんて誰も言ってないし?
愛がないとか、ふざけんなっての。
「…知るかって……。湊瀬先輩…。俺、戻るわ」
「ちょ…っ…待ちなって」
「俺のいないとこで、あんな風に愚痴ってる奴なんて、ほっといてよくないっすか?」
「尚悟の前で、言えないからこそ、いないとこで言うんやんっ?」
だから、その言えないってのがむかつくっての。
言いたいことがあるならはっきり直接言えっての。
そーゆう関係じゃねぇんだよ。
なんでも、言い合える関係だったっての。

あぁ、それなら好きだとか言えない俺は駄目なわけ?
「なんで、湊瀬先輩は、好きとかあっさり言えるわけ…?」
「あ…? …えっと…友達の期間が短かったからかな…」
じゃぁ、なおさら俺はどうすればいいんだよ。
「…言えなくても…さ…。通じることもあると思うけど…」
湊瀬先輩は、そう言ってくれたけど…
通じてねぇから、あんなに怒ってるんじゃねぇの…? 厘は…。
「あー……なんつーか…ぶっちゃけ、要じゃないけど、俺もそーゆうのあったで…さ…」
「…湊瀬先輩も…?」
「そ…。厘と尚悟は小学校から友達だろ…? 俺も…そういう長い付き合いの奴いて、そいつに言えなくて…。俺の場合は、直接『好きって言って』とか言われたこともあるけど、結局、あんま言わなかったし…」
一緒…だな。
友達の期間が長いと、いいにくいんだよ。たぶん。
性格の問題もあるけど。
「で…。結局、それどーなったわけ?」
要と今、付き合ってるってことは、恋人ではないんだろって。
「どう思われてんだろ…。今でも…大切な友達だよ…」
「友達じゃ駄目じゃん」
「…んー…まぁ、俺らは、それぞれ彼女作ったから…。尚悟は、厘だけなんだろ…」
はずかしいこと聞くなって。
「厘…さ…。怒って愚痴ってるようにも聞こえるけど……。泣いてるようにも…聞こえるだろ…」
そんなにも…
俺が、好きとか言わないのが、辛いわけ…?
「…つまりはさ…通じてても……ちゃんと言葉にしてやんないと、不安なんだよ…」
「…俺だって…そうっすよ…」
「だろう…ね…」
自分だけ、被害者ぶんなっての…。


一息、つかせてから、そっとドアを閉め、わざと音が鳴り響くよう、勢いよくドアをあけた。
「…っあ…尚悟…」
なんでもないフリしやがって…。
「要…ちょっと、来て欲しいんだ」
そう言ったのは、湊瀬先輩。
首を傾げながらも、厘に別れを告げて、要は湊瀬先輩と一緒に部屋を出て行ってくれていた。

「今日はさー…要んとこ、泊まるんだ」
「なんで…?」
「なんでって……中学校からの友達だもん…。いっつも尚悟んとこ泊まってるから、久しぶりに要んとこで…って…」
俺は、厘の口に少し乱暴気味に口を重ねた。
「ん……っ…ん…」
厘は、嫌がることもなく、それを受け入れる。
差し込んだ舌先にも積極的に、絡めてきてくれていた。

いまさら好きとか言えるかよ。
言いたくても、言えない俺の気持ちとか…わかれっての。
お前の方こそ、言わねぇじゃん…?
俺らって…
ただの友達…?

「ココ、要のベットじゃん。ココですんの…?」
やることなんて、もう当たり前みたいな行為で…。
あまりにも平然と言うもんだから、逆にやる気も起きなくなる。
「…やらねーよ…。別に…。今、やる気、しねぇし」
タバコを取りだした俺の手から、スっと、厘がタバコを盗んでいく。
「なんで…? やる気、しない?」
「…しねぇよ…。そんな気分じゃない」
要のベットを借りて寝転がる俺を、厘は、上から見下ろした。
「…なんか、尚悟らしくないね…」
お前が、あんな風に要に言ってるの聞いたら、俺だっていろいろ考えるさ。
好きって…言えるか…?

「…厘……」
「…なに…?」
「……好きな人とかさ……いんの……?」
「な…に言って……」
「…付き合わねぇ…?」
俺らって、こうもやってきてるけど…
一応、付き合うとかまだ言い出してないしで…。
ココからが、出発点…?
「…今さら…なに言ってんの…?」
思ったとおりの答え。
「嫌ならいいけど」
「なんか、むかつく…」
俺のことを、まっすぐ見下ろしているような視線から、逃れるように、顔を俺は背けていた。
「…俺、もう……付き合ってる気でいた…」
「…やりまくってっけど……付き合うとか、一言も言ってねぇじゃん…?」
「だよね。尚悟は、付き合ってない人とでも、出来ちゃうんだ…?」
なんで、そう解釈するかなぁ?
「ちげぇって…」
「俺らってさぁ…。なに…? セックスフレンド…?」
今の状態じゃ、そーゆう感じに見えちまうかもしれねぇな…。
「違うだろ…」
「どこが…?」
どこが違う…?
やり合ってる友達で…。
お互い、好きあってて…
やるってのが、好きって感情よりも先に来てたら、セックスフレンドみたいになっちまうんだろうか…。
「…付き合えばいいだろ…?」
「いいだろって……ちょ…。どうして…付き合おうって言うわけ…? …付き合いたいんだ…?」
そういった言われ方をされると、『付き合いたい』とか、答えにくくなる。
「厘が嫌ならいいけど」
「……別に…嫌じゃないけど…」

不満を残しながらも、俺らは、正式に付き合うという形をとった。

正直、厘を不快にさせてるってのも、わかってるし…。
だからって、どう言えばいいのかわからないでいた。

「…今日は、要んとこ、泊まるんだろ…? 俺、行くわ」
厘に取られたタバコを奪い返しながら、ベットから体をおろす。
「…う…ん…。…じゃ…」


部屋を、出ると偶然、生徒会長と鉢合わせる。
そういえば、要って、生徒会長と同室だったっけ…?
「あれ…尚悟くんでしょ…」
「……なんで…知ってんすか…」
「たまに、厘くんが話してるんだ。メッシュの入った目立つ子だって…」
厘は、要の部屋にもよく出入りしているから、生徒会長とも仲がいいのだろう。
「…他に…なんか、言ってたっすか…?」
「え…。なんだろ…。恋人らしいことがしたいとか言ってたかな」
軽く笑ってそう言った。
「今、部屋に厘くんいるんだ…?」
そう言いながら、部屋の方を顔で示す。
「…いるけど……。手、出したら、先輩でもしばくんで…」
「…出さないよ…」
俺は、先輩を一睨みして、自分の部屋へと向かった。

結局、俺は何がしたかったんだか。
好きじゃなきゃ…付き合わねぇよな?
お前も、俺のこと、好きなんだろって…。
イライラして考えがまとまらねぇ。


「…あぁ…尚悟…」
俺の部屋には、優斗先輩がいた。
この先輩は、湊瀬先輩の友達で、俺が厘の部屋…つまりは湊瀬先輩の部屋に行ったときに来ていたから知り合った人だ。
気が合うから、それ以後、よく部屋に行き来してたりもする。
「……火、貸してや…。気付いたら、切れてたわ」
「…へーい…」
俺は、自分のベットに座り込んでから、ルームメイトのベットに座り込んでいる優斗先輩へと、ライターを投げ渡した。
「この部屋だけだわ…。気兼ねなく吸えんの」
俺も、俺のルームメイトもタバコを吸うから、この部屋はわりと自由だった。

「優斗先輩…なんかあったんすか…」
少し、イラついてるようで、そんな優斗先輩を見ていたら、自分のイラつきが半減していた。
「あぁ…? 榛の部屋行ったら彼女がいてさ…。あの仲良しっぷりみたらイライラすんよ」
榛ってのが、湊瀬先輩の名前だった。
「湊瀬先輩と…要っすね…。あの人たち…仲いいから…」
「彼女ばっかで、最近、ほったらかされてんのよ、俺」
軽く笑って優斗先輩は、言った。

あぁ…。
もしかして、湊瀬先輩が言ってた大切な友達って優斗先輩?
「…優斗先輩…。湊瀬先輩のこと、どう思ってんの…?」
「んー…。好きだよ。友達なんだけど…。でもさ。榛は言ってくんないから、なーんか、セックスフレンドみたいに思われてそうなんよ」
セックスフレンドという言葉に、やたらと反応していた。
「…へぇ…。セックスフレンド…?」
でも、元が友達ならいいんじゃねぇの?
「好きって、言ってもらえないとね…。そんな感じがするわけ。ただ、セックスすんのの相手になってくれてるだけって感じで」
俺も、まさにソレ。
好きって、言われなくても、俺はよかったんだよ…。
でも、それは俺も言えてないからであって…。
もちろん言って欲しくなかったわけではない。
どちらかと言えば、言って欲しいに決まってる。
「言ってくんないから…でら不安になるんよね…。俺は、ただのセックスフレンドなんてつもりないでさ」
「ん…。やっぱ、言って欲しい…?」
「そりゃね…。ま、友達なんだけどな」
「俺、厘に好きって言ったことないんすよ」
「そりゃかんわ。言ったりゃぁて」
「やっぱ…? でも、言われたこともないんすよ…」
優斗先輩は、少し考え込んでから、俺のベットの方に座ってきた。
「こーゆうのは、一度言い逃すと、言い難いでな…。でも…お互い待ちあってたらいつまで立っても言えんままだでさ。どっちかが言うしかないんよ。ま、恥かしいってんなら酒の力でも借りて…」
「…俺、そうそう酔わないっすよ…。一人で酔ってちゃ馬鹿みたいだし」
「厘ちゃん、酔わしゃいいやんか…。寝ぼけたような状態の子に、少し囁くくらい出来っだろ」
そんくらいなら…できるかもしんねぇけど…。
「お互い言ってないんなら、まだいいやんか。俺らなんて、言ってんのに言われないんだで、そうとう苦しいわ」
その点だと…
言って欲しいと思われてる俺は、まだ、幸せなわけ…?

「好きとかさぁ…。言ってねぇのに、やりまくるとセックスフレンドみたいっすよね…」
「ま、そんな感じやな」
やってなくても、片桐と淳の方がよっぽど仲良しカップルなわけだ。

しばらく…厘には手、出さないとくか…。

それからというもの…
自分に自制をかけた俺は、淳と遊んだり、先輩たちと遊んだり…。
もちろん、教室では厘と話したけれど、帰ってから会う機会が少しだけ減った。

やるだけの関係ってのを崩したかった。

それでも、厘に会えば、やりたいって気持ちが先走る。
それを抑えるのにいっぱいいっぱいだった。

「尚悟、ほら、ゲーム。湊瀬先輩が貸してくれたんだ♪」
自分の部屋で、いつもみたく優斗先輩とグダグダ語り合ってるときだった。
厘がめずらしく俺の部屋に来る。
「…あぁ、厘ちゃん。榛、今、一人?」
「あ…うん。要は今日、淳と遊ぶって…」
「…じゃ、行ってくるわ、尚悟」
にっこり俺に笑うとこを見ると、自分が湊瀬先輩に会いたいとかそうゆうだけでなく、 俺と厘を二人きりにするために、出て行く口実をうまく作り出したみたいだった。

「一人用じゃん」
「いいじゃん。交互にやればさ」
厘は、そう言うと、ゲームをてきぱきとセットする。

はっきりいって…
前だったらよかったけど、今は駄目。
なんつーか、自制してたからめちゃくちゃ溜まってるわけ。
厘を、前にして、のんきにゲームなんかしてらんねぇんだけど。

それでも自分の欲求をひたすら抑えながら、ゲームをやり始めた。
「じゃ、一面ずつね」
「はいよ」
厘が、すばやく一面クリアして、俺が二面に取り掛かったときだった。
「…尚悟…」
「…なに…」
「なんか…さ、っ暑いね、この部屋」
めちゃくちゃセリフみたいな不自然な言い方…。
「あー…じゃ、窓開ける?」
「え…あ…うぅん…いいけど…」
どう言って欲しかった?
じゃぁ、脱ぐ? とか、冗談交じりに言って欲しいわけ?
「…さっき…ちょっとお酒…飲んで……」
マジで…
自制きかなくなりそう。
「……熱く…なってきちゃった…」
そう言って、俺のシャツを少しだけ引っ張る。
わりと、限界。
「ほら、2面、終わった」
そう言って、コントローラーを、厘に渡そうと、そっちを見ると、俺が、厘の誘いを無視したことに関してか、潤んだ目を一瞬見せて、すぐさまそらす。
「……泣…くなって…」
「何言って…泣いてないよ」
俺が、厘に一度渡したコントローラーを奪い取ると、取り返そうと厘が、こっちを見る。
「厘…」
「っあ…」
「ほら、泣くなって」
「泣いてな…」
人に泣くなと言われれば言われるほど、人間ってのは、泣けてくるもんで…
厘の目が、はっきりと涙だと分かるくらいに濡れていく。
「…熱いんだろ…?」
「っもぉ…いいよっ」
「よくねぇよ…」
そっと、キスをしてやると、厘は少しだけ、落ち着いて、それから見られないようにするみたいに俯いた。
「俺…尚悟が全然、わかんない」
「あぁ…? 俺だって、厘が、わかんねぇんだけど。何がわかんねぇの?」
「だって……」
俺は、要の部屋で聞いた言葉を思い出す。
ただの友達だとか愛がないとか…。
「尚悟……、いままでさんざんやっといて……付き合ってるのかと思ってたら、この間いきなり付き合わない? とか言うしっ」
「…それは…正式に、付き合ってたわけじゃねぇから、確認だよ、確認」
「…じゃ…それはいいけど…っ…。じゃぁなんで、その後から、やらなくなったわけ…? 付き合うって形になったのに…っ…尚悟……俺の…体に飽きた…?」
「…何言ってんの? お前」
飽きるわけねぇっての。
「だって…誘っても…してくんな…ぃ…。何もされないと…俺…」
「…来いよ…」
座った状態で俺の方に来る厘を、後ろから抱きながらシャツを脱がしていく。
「っ……こないだ…やる気しないって言われて……」
「別に、あんときは…厘の体に飽きたとかそんなんじゃねぇし」
「俺が、やりたがるから、しょうがなく相手するとかっ…」
「俺がやりてぇんだって」
酒が入って酔ってんのか、キレてんのか、厘が少し混乱してるみたいだった。
ズボンも脱がせてやって、厘のモノを上下に擦り上げる。
「っあっ…ンっ…んぅ…」
久しぶりなせいで、少しばかり乱暴に扱いがちだった
「おまえが……淳とか要とか、うらやましがるからだろ…」
「ふぁっ…ぁっ…な…ぁ?」
一旦、厘から手を離し、向かい合うように俺の方へと向ける。
濡らした指を、ゆっくりと後から厘の中へと収めていった。
「っ…んぅっ…ぁっあっ…尚悟ぉ…」
「やってるだけじゃ…嫌だとか、セックスフレンドが嫌だとかそんな感じだから、こっちは、手出さずにいたんだっての」
「だってっ…ぅンっ…尚悟…っやらないと…っただの…友達になっちゃう…」
「…なんで…? やったらセックスフレンドで、やらなかったらただの友達なわけ…?」
中を押し広げていくと、厘は、俺の背中に軽く爪を立てながらしがみついた。
「ふっ…ぁあっンっ…だって……」
してやんないと、体に飽きたみたいで…
してやると、体だけが目当てみたい…?
結局…。
好きだとか、そういった気持ちがもっと欲しいワケだ…?
「…伝わんねぇかな…」
「っぅっ…ぁっあっ…ん」
「お前の体に飽きたわけじゃねぇし……やりてぇのは厘だからだし…」
「っうンっ…尚悟…っ…」
「…ただ…やってるわけじゃねぇんだよ…。愛がないとか言ってんじゃねぇ」
そこまで言って、厘の中から指を引き抜いた。
「……尚悟…聞いて…」
「聞いてた…。そんな風に思われんなら、セックスなんてしてもしなくても一緒じゃねぇ? むしろ、やってたら、ただの欲求不満男みてぇだから、やらない方がマシくさくねぇ?」
「ご…め…」
「……相手がお前だから、すんだよ…」
「…ん…。尚悟……っもぉ…入れて…」
俺にしがみつく厘の中に、自分のモノをゆっくりと、押し込んでいった。
「っぁあっ…尚悟…っ」
「…知ってるだろ……? …お前としか…してねぇって…」
「ぁっ…ぅン…っ…俺も…っ…」
いくら欲求不満でも、好きでもない奴と、何回もやんねぇっての。
下から突き上げながらも、厘の体を動かしてやると、気持ちよさそうに俺のを締め付ける。
「…ぁンっ…あっ…ぁっ…尚悟ぉっ…俺っ…」
「…誰にも…やられんなよ…」
「んっ…ぅンっあっ…ぁっ…いくっ…尚悟…っやぁっ、尚悟ぉっっ」





「…へい…じゃ、お前、3面…」
「…う…ん…」
ほら、めちゃくちゃ気まずいっての。
思い出すと、恥かしくなってくる。
大して、好きとか言ったわけじゃねぇけど…。
「……ホントは…尚悟が…してくれるの…うれしいし…、よかったんだけど、要とか淳とか見てると…やっぱ…さ…」
好きとか言って欲しいってのは、よくわかってんだよ。
結局、言えてねぇけど…通じてるだろ…?
「…あんな、知り合って1年もたたねぇカップルになに惑わされてんだっての。お互い、通じ合ってねぇから、言葉にしてんだろ」
……ちょっと、要たちには悪いけど…。
「…そ…っか…。そだね」
「俺らにゃ、必要ないっしょ」
「えー…たまにはいる」
「いらねぇ。わかんねぇ…? わかれって」
「……わかった」
厘は、にっこり笑って、ゲームを再開した。