「なぁ、啓吾。去年、夏祭行った?」
「…んー。なんかゴロゴロしてるうちに時期過ぎててさ。行ってねぇんだよ。水城、お前祭り好きなの?」
「好き。啓吾は? 人ごみとか駄目?」
「いや、それなりに好き。行こうか? あ、アキと二人きりがいい?」
「ばぁか。みんなで行こうぜ?」

ココらへんでは7月の終わりがけに七夕祭りと花火大会があるらしい。
深敦とアキと珠葵は、補充で夏休みの間、少し学校に出なければいけないみたいだし?


そんなわけで、水城が深敦たち3人を誘ってくれて、俺ら5人は学校の近くで開催される七夕祭りへと向かった。
花火も同時開催らしく、堤防沿い。
というか、花火大会なのか。

前の方を珠葵と深敦とアキがウロついて、はしゃいでて。
俺と水城は3人を目で追いながら少しだけ後をついて歩く。
「…なぁ、啓吾…。祭りではしゃぐアキがものすごくかわいいんだけど」
「はいはい…」
ため息をつくものの、俺が深敦に対して同じことを感じているのが、こいつにはわかっているんだろう。

3人が、カキ氷売り場の方へ向かい、俺と水城は少しはなれた所で、休憩。

「水城、何時から花火だ?」
「うーん。あと10分くらいじゃないの?」

そんな結構どうでもいい話をしていると、3人が俺らの元に。
「アキは、何味にしたの?」
「いちごに…無難かなと思って…。あの、一緒に…」
「うん。食べようか」

こいつら、見ててうざいくらいに甘々だな…。

俺はそんな質問、深敦にしてやれないよなぁ…
「って、お前、それ、なに味だよっ?」
聞かないつもりだったのに、妙な色合いの深敦のカキ氷に対して、つい聞いてしまう。

「……別に」
「別にって意味わかんねぇし。コーラ?」
「違う。持って」
あいかわらず、意味のわからない返答をしつつ、差し出されるがままにそのカキ氷を持つけれど。
「珠葵、前行こ」
「うん。じゃあ、まったねー」
そう言い、深敦と珠葵は2人で前へ。
アキは俺と水城の所に留まったまま。

「…アキ、この深敦のってなんだ、これ」
「あ、なんかね。深敦くん…啓ちゃんがどの味好きかわかんないからって、ホントは綺麗に5等分したかったみたいなんだけど…。苺とレモンとブルーハワイとメロンとぶどう…だったと思う」
「で…なんか、茶色くなってんのか」
「へぇ、深敦かわいいことすんじゃん」
そう水城が俺をからかうように言う。
「あ、もちろん、アキの方がかわいいけどね。一緒に食べような」
ウザ…。
「アキ、これさ、俺が食べていいのかよ」
「え…。啓ちゃんの好きな味なんだろうって言ってたくらいだから、いいと思うけど…」

やっぱり、かわいいな。
カキ氷にいろんな種類のシロップをかけまくる馬鹿さ加減がたまらなくいい。
しかも、理由が俺の好きな味がわからなかったからだってさぁ。

たまんないだろ。
素直じゃねぇけど。

食べながらも、俺ら3人で珠葵と深敦の後を追った。
ちょっと、確認するように、深敦が少しだけ振り返って見てくれたり。

水城とアキはあいかわらずラブラブだし?
もちろん、俺を邪魔だと思ってるわけではなさそうなんだけど、なんとなく居づらい雰囲気だ。

まぁいつものことですが。
敏感に気付いてくれるのはいつも珠葵。

もちろん、俺から離れたがった深敦のことも気遣ってだろう。
少し経ってから、自然と俺らの距離は縮まり、5人揃った。

それと同じくらいのタイミング。
ドン…と大きな音が響き、打ち上げ花火。
堤防から俺らは、その様子に見入る。
「川降りようよー」

珠葵は俺らの同意を確認してから、急ぎ足で階段を降りていく。
水城とアキもそれについてって。

深敦が階段の前で立ち止まるもんだから、俺もそれに合わせて、足を止める。
「深敦?」
「あのさ…。ちょっと…気分悪いから、寮、戻ろうかと思うんだけど…」
俺だけに、こっそりそう言った。
「…なにお前。人ごみで酔った?」
「さぁ…」
「涼しいとこで休むか? 川辺で、座ってるとかさ…」
どちらかといえば少し不機嫌そうに、顔を逸らすもんだから、寮に戻りたいんだろう。

「…じゃあ、水城たちには伝えておくから、お前、先戻ってな。俺も、すぐ追いかけっから」
「お前はいいよ。みんなと花火見てろって」
「いいよ。なんか欲しいもんあるか? 帰りに買ってくけど」
「…大丈夫」
「このカキ氷は?」
「…それは、お前にやったんだからいい」
そう言って俯く深敦に、『わかった』と告げ、俺は深敦の後ろ姿を少しだけ目で追いかけて。
水城たちの元へと向かった。


「水城」
俺は、水城だけを珠葵とアキから少し離れた所へ呼ぶ。
「あぁ。深敦は?」
「気分悪いから戻るって。…俺も気になるから戻ろうかと思うんだけど」
「わかった。寮の屋上からも花火見えると思うよ」
そう言って、快く見送ってくれる。
珠葵は水城の部屋に去年はよく通ってたし、3人でいても平気だろう。

早歩きで寮へと向かうが、深敦には追いつけなかった。
…どんな速さだ。
抜かしたか?

「深敦?」
部屋を訪ねると、深敦は一人でゲームをやっていた。
「啓吾…」
「お前、体調は? 大丈夫かよ」
「……大丈夫だけど…」
「っつーか、ゲーム、音、うるさくねぇ?」
勝手に、リモコンで音量を下げると、深敦は俺を無視してベッドに入り、布団を頭から被る。
「深敦。お前ホントに大丈夫なん?」
布団を被ったまま、顔だけ覗かせて頷いてくれるけど。
「お前、おかしいって」
「…ちょっと、音上げて」
言われるがままに、音量をさっきと同じくらいまであげて。
すると、やっと深敦は布団から出て俺と一緒にベッドに座った。

「……七夕祭りだって、春耶言ってたのに」
「…あぁ。言ってたな」
「花火だった」
「……でもまぁ、出店、たくさんあったし、お前、楽しんでただろ」
しかし、思い返せば、花火が始まってからだな、こいつが気分悪いって言い出したの。
「…お前、花火嫌いなわけ?」
拗ねるように顔を逸らすもんだから。
「ちょっと、聞けって」
ゲーム音がうるさくて、ついリモコンでテレビの電源をオフにすると、俺から慌ててリモコンを取ろうとする。
反射的にそのリモコンを遠ざけると、無駄な争いは避けたいのか、今度は、ベッドに座ったまま布団を取り、頭から被っていた。

大きい花火の音が『ドン』と響くと、そのタイミングに合わせて深敦がビクつく。
この音が嫌いなわけか。

かといって、こんな布団被ったままで行くわけにも行かないし?
「…ちょっと待ってろ」
そう告げ、俺は自分の部屋から、MDウォークマンを持って、もう一度、深敦の部屋へと戻った。

渡したウォークマンを装着させ、深敦を連れて屋上へあがる。
堤防と比べて臨場感はないが、花火は見えた。
…っつーか、この音が迫力あっていいんじゃねぇのか?

まぁいいけど。
深敦は、ウォークマンで音楽を聴きながら、花火に見入っていた。
花火を見るのは好きなのだろう。

会話はまともに出来ねぇけど。
俺も花火に見入ってると、気遣ってなのか、深敦が俺の腕を引っ張る。

「なに…」
「あ…あり…がと」
めちゃくちゃ声、でかいんだけど。
ウォークマンで音楽聴いてるから、感覚おかしくなってんだろうな。

あぁ、もしかしてこのままヤったりしたら、こいつ、声抑えるの忘れそうだよなぁなんて馬鹿なこと考えつつも、2人でまた、花火に見入った。

ある程度見て、俺らは二人、深敦の部屋へと戻る。
無駄に大音量で2人でゲームをして。

花火終了時間に、ゲームも終わり。
やっと、まともに会話できるってもんだ。



「深敦…先に言ってくれればよかったのに」
「だって…花火だって知らなかったし。あそこで、花火が苦手だから帰るとか言いにくかったしっ」
「まぁいいけどさ。…カキ氷、ありがとな」
「あれはっ…別に。晃みたいに、すればよかったんだけど…」
「俺は5色混ぜる方がお前らしいし、嬉しいけど」
そう言うと、今度は恥ずかしいのか、自然と顔を逸らす。
「…あんなの…おいしくなかったくせに」
「別に、おいしかったけど」
「…じゃあいいけど」

さっきと違って、会話が少し途切れるだけで、ものすごい静か。
水城のこと、馬鹿にしてたけど、なんだ、俺らも結構、甘々かもしれないよな。
恥ずかしすぎる。

まぁ、たまにはいいだろう、こういうのも。
深敦に顔を近づけると、逃げずに目を瞑ってくれて。
俺らはそのままそっと、口を重ねた。