夕飯を済ませて。
 
 なんか、一応、啓吾に電話をしてみる。

『もしもし?』
「あ…啓吾? いまから会える?」
『…いいけど』
「じゃあ、いまから行くから」
 
 うーん。
 数学のノート返すって理由でOKかな。
 まぁ明日の朝返せば問題ないんだけどさ。
 前、朝に返しそびれて、そのまま啓吾、ノートなしで授業受けさせたこともあったし。
 今日、数学なかったから、持ってき忘れてたし。
そういう理由つけときゃいいな。  
 
俺はとりあえずの言い訳を考えて啓吾の部屋へと向かうと、近くで拓耶先輩と出会う。

「おー、みつるくん。もしかしなくてもいまから俺の部屋に来るんでしょ♪」
 楽しそうだな。
「…啓吾の部屋だけど」
「俺の部屋じゃん♪」
 あぁ。
 そういえば啓吾のルームメイトって今、拓耶先輩だっけ。  
二人セットで見たことないから忘れてたよ。

「実はねぇ。今、啓吾くんに『ちょっと深敦呼びたいんですけど』って言われて。俺はなくなく啓吾くんに部屋を受け渡したわけです」
 あぁ。なんか、二人きりで会いたいって思ってくれたみたいで嬉しいし。

「俺が、行くって言い出したんだけど」
なんか、啓吾が我侭で拓耶先輩追い出したみたいだしな。
「ダーリンノート、持ってるねぇ」
数学のノート。
やっぱり、啓吾のだって知ってたのか。
「返そうかと」
「ふぅん。じゃ、俺はみつるくんの部屋行こうかな♪」

 俺は拓耶先輩と入れ違いみたいに、啓吾の部屋へと向かった。


インターホンを押して、啓吾の部屋に入らせてもらう。
「どうした?」
 あぁ。
 そういえば、俺、用件言ってなかったな。
「えぇっと。そうだ。数学のノート返そうと思って」
「もう写したわけ?」
「うん。昨日の夕方に」
 ノートを俺の手から啓吾が奪っていく。
 あぁ。
 なんか『ありがとう』って言いそびれちまったし。

「えぇえっとさぁ…」
 俺、なに動揺してんだ。  

「なに?」
 どう言えばいいかな。
 なんも考えずに来ちゃったし。

「啓吾、いつもさ、数学のノート貸してくれるとき、なんか言ってくるじゃん?」
「なんかって?」
「…いや、昼ごはんおごれとか……っ上に乗れとか…いろいろ…」
「で?」
 で? って…。
「いや、だからさぁっ…。なんか…なにすれば…」
「へぇ。なにかしてくれる気なんだ?」
 聞かない方がよかったかもしれないけど、どうにもなにもしないでいるのも借りがあるみたいでやだし。
 なに、俺。
 意外といい子だな。
 なんて自己分析してる場合じゃねぇ。


「じゃあ、深敦から、キスしてみろよ」
 笑いながら冗談っぽくそう言われる。
「な…あ…」
 大した要求じゃないけど、無償に恥ずかしいな、それは。
 まぁいい。
 ベッドで啓吾の右側に座った俺は、身を乗り出して、啓吾へと口を重ねた。

「……これで、いいのかよ…」
「んなぬるいキスしてんじゃねぇよ」
 ぬるいとは失礼な。
 まぁ、俺も逆の立場だったら物足りないって感じてるだろうけどさ。

「…ったくもーっ」
 俺はもう一度、啓吾へと口を重ねて。
 今度はそっと舌を挿し込んでみる。
 啓吾の舌が俺の舌に絡まって。
 もうそろそろ、終わってもいいかなって。
 口を離そうとするのに、啓吾が俺の頭を手で押さえて、逃れられなくなっていた。

「んっ…」
 頭ボーっとしてきた。
 啓吾が、俺の頭を支えたままでベッドに寝転がるもんだから、俺は啓吾に覆いかぶさるように倒れていた。  
 
 
啓吾の手が、後ろからシャツの中に入り込んで俺の背中を撫でていく。  
「んっ…ぅんっ…」  
なんか、無償に恥ずかしいし。  
 
やっと口が解放されて、今度は逆に押し倒されて。  
体を全部、ベッドへと乗せて、俺は啓吾に服を脱がされる。  

「啓吾…」
「なに」
「…消しゴムとか…からあげとか、ヨーグルトとか…」
 やっぱり、ありがとうって言いづらくて、言いとどまってしまう。
「…ヨーグルト?」
「あ、プリンだった」
「あぁ。その分も、なにかしてくれるんだ?」
 違います。
 けど、いまさら違うとも言えない。

 なんで、俺、このタイミングで言っちまったんだろう。

「…いや、それは…」
「ありがたいって思ってんだろ」
「思ってるけど…っ」
 企むような笑み。
 春耶ともどもハメられたんじゃないかって疑いたくもなる。

 啓吾が、指を俺の目の前で舐めあげて。
 その指をゆっくり、俺の中へ押し込んでいく。
「んっ…ぁんんっ…」
「じゃあ、今日は声、殺さないこと」
 こと…って、なに決め事作ってんだよ。
「そんなん…っ」
「して欲しいことは自分から言えな…?」
 啓吾の指が、そっと動いて中を擦っていく。
「ぁあっっ…んっ…んーっ」

こんなの、よく意味わかんねぇ。
いつもとかわんねぇし。

そう思ったけど、やっぱりちょっと違った。

なにも言わずに、ゆっくりと俺の中を指でかき回してく。
ものすっげぇ心地いい。

なにこれ。
なんで、なんも言わねぇの?
俺から言うの待ってる?

でも、焦らしてるって感じじゃない。

なんか、ホントに啓吾が優しくなっちまったみたいな。

「ぁあっ…んっ…ぅんっ…啓…」
だいたい、声殺すなとか、されたい事は言えとか。
こんなん、借りとかなくっても普通にいっつも要求してくるし。

「深敦…」
耳元で、俺の名前を優しく呼ぶのとか。
めちゃくちゃドキドキするし。
ホント、啓吾だよな?
兄貴とそっくりすぎて俺、間違えてないよなぁ??

変だってば。

「入れていい…?」
指を引き抜いて、そう聞いてくるし。
「なっ…」
お前、いつもそんなこと聞かねぇじゃん。
だいたい、俺に言わせるんじゃねぇのかよ。
もちろん、言いたいってわけでもないんだけど。

困るってば。
いいよ…って言うのとか、マジで恥ずかしいし。

「…深敦?」
あぁもう、催促ですかって。

「…いい…」
俺は、顔を逸らしたまま、小さい声でそう答えた。
啓吾は、それを確認してか、ゆっくりと、俺の中へと入り込んでいく。
「んっ…んーっ…」

馬鹿丁寧に、ゆっくりと奥まで入り込んで、やっと少し一息つくと、啓吾が口を開いた。

「深敦…気づいてたんだ…?」
「…なに…」
「俺としては、なんでもないつもりだったんだけど。消しゴムとか、借り作ったとかそういう気でいてくれるわけだろ…?」
…なんでもないんですか。
俺の思い違い?
そうだよ、別に裏とかなくって。
ただ、気分的に人に優しくしたい気分だったのかもしんねぇ。
春耶め。
変なこと匂わせやがって。

…でも、やっぱりちょっと違うよな。
そりゃ、カラアゲとかプリンとか。
100歩譲って、消しゴムまではいいけれど。
ノートだって、ただなんとなく毎回催促されるのがウザくって、自分から持ってきてくれただけかもしんないし。

この今の状況はおかしいでしょう。

思いっきり喧嘩でもしちゃったあとの、仲直りの行為みたいじゃん。
そんくらい蕩けそうだ。

にしても、気づいてたんだ…って言い方はよくわからない。
「なぁ…気づいてたって…」
「俺が、した行動の一つ一つ、注意して気づいてくれたんだろ…?」

そうですけど。
それが嬉しくて、こんな優しいわけですか。

「ねぇ、動いてもいい…?」
なんかおかしいけど。
優しいから、なんか従ってしまう。
「う…ん…」
奥まで入った肉棒が。
少し出入りを繰り返すと、体中が熱くなっていった。
「んっぁあっ…あっ…啓吾…っぁんっ…んぅっ」
「気持ちいい…?」
いつもみたいな意地悪な笑みがなく、そう聞かれると、素直に応えてしまう。
「ぁっ…いいっ…んぅっあっ…あぁあっ…もっとっ…」
「ホント…深敦って…」
啓吾が耳元に口を寄せて。
俺は、快楽に酔いながらも耳を傾ける。

「…気分屋…? っつーか、俺の攻め方一つで、いろいろ変わって…おもしれぇ…」

サドっぽい口調で。

さっきよりも低いトーンの声でそう言われてしまう。
「なっ…えっ?」
「俺が、優しく攻めれば素直になるし、俺が虐めれば反発するし? いいね…そーいうの」

見上げると啓吾は、企むような笑みを俺に見せる。

ハメられた…?
素直に『いい』とか言っちまったし。
すっげぇ恥ずかしいし。

「やっめっ…ぁあっ」
「…もっとして欲しいんやんなぁ?」
あぁ。
思えば、さっき、こいつ訛ってなかったし。
なに俺、あっさりだまされてんだ?

「どうして欲しいか、言ってごらん? もっと優しくしてやろうか?」
してやろうかって、何様だよ、おい。
啓吾さまだけどっ。


ゆーっくりと、焦らすように出入りしていく。
っつーか焦らしてんだろ、このやろうっ。
「はぁっ…あっ…んっばかっ…ぁあっ」
「腰、動いてるけど?」
のろいんだよ、ったく、もぉっ。
「やっぁああっ…」
「優しくして欲しいんやん…? それとも不満? どうして欲しいわけ?」

わかってるくせに。
笑みを見せてそう言うと、一旦、動きを止めてしまう。

激しくして欲しいだなんていえるわけないだろぉっ?
だけど、こいつはあいかわらずゆーっくり動いて焦らしてくる。
お前の方こそ、苦しくねぇの?
我慢くらべかよ、おいっ。
でも、余裕そうに見下ろしてきやがるし。

「もぉっ……」
「なにかなぁ?」
うぁあ、むかつくしっ。
「ぃいかげんに…っ」
「なに…」
悔しい。
泣きそうになってきたし。
馬鹿だ、俺。
「……っはやく…っ」
「早く?」
「速く…っ動けよぉっ…」
少し満足げに微笑んで。
「へぇ…。で?」
で?
…って言われてもっ。
「優しくしなくていいんだ…?」
なに優しいにこだわってんだよ、こいつっ。
そりゃ、初め無駄に優しいとか感じたけど。
やっぱ、ホントは、気にしてんのか?
俺が、晃と珠葵の彼氏を優しいって言ったこととか。
きぃいっ。

「ぃい…からっ…」
「つまり?」
つまり?
つまりって言われてもっ。
言わせようとしてるのはわかるけどっ。

馬鹿やろっ。
「……はげ……」
駄目だって。
激しくなんて言えないってば。

「お前、ハゲってなに?」
頭が混乱してきた。
馬鹿。
こいつのこと、啓吾様とか言うのはまだ言わされてる感があるからいいけれどっ。
激しくしてだなんて、恥ずかしいってば。

啓吾の顔見て言える言葉じゃないんだよ。

「…啓吾…っ」
「ん…?」
俺が手を伸ばすと、それで理解してくれたのか、体を寄せてくれる。
「なに…?」
俺の顔が見られないくらいに密着してもらって、耳を傾けられて。

見られない分、マシだけど…っ。
恥ずかしいってば。


「…啓吾っ…。はやくっ…」
「…腰、自分で動いてるし…」
「もぉっ…啓吾っ」
「んー? なに?」
少しだけ、また焦らすように動いてやんわりとした刺激を送り込まれる。
「あっ…やっぁあっ…やっ」
こんなにも啓吾の耳近くにあったら、声、モロ聞かれるじゃんよぉ。
そうしたのは俺だけどっ。
しかも、嫌な焦らされ具合。
「ぁんっ…啓吾っ…やぁっ…もっとっ」
「もっとどうして欲しいわけ?」
「んぅっっ…激しくっ…しろよぉっ…」
あぁあ、むかつく。
恥ずかしくってむかついて。
頭爆発しそうだし。

「…了解」
なにか、また馬鹿なこと言い返されると思ったのに、あっさり了解して。
また、少し体を離して起き上がった啓吾は俺の左足を深く折りたたんで、少し体をひねらされる。
「なっ…」

奥まで入ってたはずなのに。
さっきよりも中に入り込んでくる。
「ぅあっ…やあっ」
すごい奥だ、どうしよう?

なぁんて考えてる間もなく、一気に入り口ギリギリまで引き抜かれる。
全部なにかかも出て行ってしまいそうな感じ。
「あぁあっ…」
もう理解が追いつかなかった。
抜かれたと思えば奥までまた入り込んで。
一番感じる所をグリグリ突かれて擦られて、奥まで入り込まれて。

啓吾が俺の腰を掴んで体を揺さぶった。
何度も、腰を打ち付けられる。
「やっあっ…ぁあっ…こんなっ…ぁああっ」
体がガクガクする。
っつーか、ガクガク揺さぶられてんのかよくわかんねぇし。

涙が溢れる。
「やっ…もぉいくっ…やっっあっあぁあああっっ」


激しすぎ。
絶頂迎えてくたくた状態だ。
啓吾もなのか、俺の中に欲望を放って、俺の上に圧し掛かっていた。

もう力尽きたよ。

横に並んでごろごろする。


「全然、優しくねぇし…」
独り言のように、ついぼやいてしまっていた。

「なにがやん」
「…いや、別に…。最近、なんか妙に優しいような気がしてたから」
思い違いだとわかったら、あっさり聞けるもんだ。
っつーか、てことは、俺が気づいてないだけで、前からホントは優しかったりしたのか…?

だけど
「お前、なんか愚痴ってただろ」
って。
「愚痴ってねぇよ」
「晃も珠葵もいいよなー。優しい彼氏がいて。って」

あぁ、やっぱり春耶が言うように気にしてんのか。

「別に、愚痴じゃねぇよ」
「じゃあ、なに?」
なにって言われてもなぁ。

「…別に。ちょっと口から出ただけだし。だいたい俺は……」
別に、本気で羨ましがってたわけじゃねぇし。

少しだけ、言いとどまる。
俺らは相変わらず上を向いたまま。
目を合わせて言えるような話題じゃねぇんだよ。

「…啓吾さぁ、さっき、聞いてたじゃん…」
「なに」
「優しくしなくていいんだ? って。…俺、いいって言ったし」
まぁ、あれは流れでだけど。

ホントは、今回、コレを言いにきたわけだし、ちょうどいい。
啓吾も、わざと聞いてきたんじゃないのか?
もちろん、普段とやってる最中はわけが違うけど。

むしろ、怒ってるようにも感じた。
っつーか、嫉妬みたいな。
優しい方がいいんだろ? って。
俺の愚痴聞いて反発してきた感じもする。


「虐めていいんだ?」
「んなこと言ってねぇよ。…なあ。俺がさ、愚痴ってたの聞いて、どう思ったわけ?」

直球過ぎるか?

「…いや。まぁ、一応、俺はあんまり優しくしてねぇなーとは思ったよ」

そういう風に、思ってくれちゃうんだ?
っつーか、そう思うこと自体が優しいんですけど。
なんか。
俺が、晃とか珠葵の彼氏のことでそう言ったのに対して、そう思ってくれるってことはさ。

やっぱりこいつ、俺の彼氏なんだよなぁって思うわけだ。
啓吾も、そういう意識があるわけだろ。

変に、嬉しい気がする。
恥ずかしくなってくるし。

それに、別に啓吾が優しくないってわけじゃない。
最近の不思議な行動だって。
意識せずにした優しい行動も、まざってるかもしれない。


「…啓吾のことさ。別に、最初から優しいって思ってるよ、俺は…」
俺の愚痴り方だと、啓吾は優しくないんだって言ってるようなもんだけど。
「ふぅん…」
「…ふぅんってなにそれ」
ちょっと恥ずかしいけど、がんばって言ったのに。
まぁ、ありがとうとか言われてももっと恥ずかしいんだけど。



だいたい、思い返せば、やっぱり前から優しかったんだよ。
ただ、それの代償をいつも支払ってただけで。

つまり、ノート貸してもらったから、ジュースおごるとか。
からあげくれたから代わりにミートボール持ってかれるとか。

啓吾が、代償になるものをいちいち言ってきてたから、支払ってたけど、啓吾としては別にジュースもミートボールも目当てじゃなかったっつーか。

どうせだから貰っとくか、くらいで大して特してないわけで。

だから、初めは優しさでしてる行動なんだ。

つまりなんていうか、ものっすごい前向きな考え方しちゃうと…

もしかして、啓吾は俺にも優しくして欲しいから、代わりになんかしてって…言ってくるのかもしれなくて…。

むしろ、俺が啓吾に優しくねぇじゃん。
それなのに、晃と珠葵のこといいよなぁなんて言っちゃって。
あぁあ。
最悪だ。
気づいてなかったし。
俺は何様だ。

別に優しくして貰って悪いわけじゃないから、いちいち『優しくしなくてもいいよ』なんて言うもんじゃないかもって思えてきたし。
そりゃ、無理やり俺に合わせてくれてるってんなら、無理すんなよって思うけど。
厚意でしてることを断るのも悪いよな。

「別に俺、晃や珠葵のこと、羨ましいとか思ってるわけじゃねぇから」
「ふーん。お前、優しいより激しい方がいいって言ってたしな」
「っそれは、違ぇよ。やるときのは別だしっ」

まぁ、ちょっと不自然な面もあったし、無理に付き合ってくれるのは申し訳ないって思うけど。
俺の言葉一つに、ちゃぁんと耳傾けて、優しくしようと思ったり、嫉妬してくれたり。

そういう心遣い自体が優しいんじゃないかなぁって思える。

「晃と珠葵の彼氏を立ててあげたんだよ。お世辞みたいなもん。優しくていい彼氏をお持ちですねって」
「…おかしくねぇ? 立て方」
「…いいじゃん」
「お前は? 俺が春耶とかに『優しい彼女がいていいね』って言ってたら、なんか反応する?」

あぁ。
結構、それむかつくかも。
俺はどうせやさしくないですよーって言いたくなる。
俺、こんな嫌なこと口走ってたんだ?


「…むかつく」
「深敦らしいな」

…そっか。
普通はむかつくのに、啓吾はまずさきに自分を変えようって思ってくれたわけか。

すごいな…。
ありがたいことで。

「お前はむかついたりしてくれてりゃいいから」
そう付け足すように啓吾は言った。
「なにそれ…?」
「俺の言葉にそんだけリアクションとってくれたら、それでまぁ、充分だから」

…そういえば、こいつってかなりのプラス思考だったっけ?

俺もプラスに考えちゃうよ?
わざわざ、優しくしてくれなくても、充分だよってことだよな。

啓吾が別の人の彼女に対して、羨ましがるような言動をして。
それを怒るって、結局まぁ嫉妬みたいで恥ずかしいけど。
そう怒る俺で満足するわけだ?

前向き万歳だな。

「やっぱり、俺、自分一番だと思ってるから、そんなの全然、聞かないことにする」
嫉妬もしないし怒らない。
「なにそれ」
「啓吾も。聞かないことにしとけよ」

つまりさ。
遠まわしに、お前は一番ですって言ってるんだけど。
わかるかなぁ。

…こいつならわかるよな。

「…比べるもんじゃねぇもんな。まぁ、俺、一番だけど?」
ほら、伝わった。


いろんな意味で一番だ。
初めは、勉強出来るくせに馬鹿なんだと思ってたけど、なんだかんだで、俺の考えが通じるようになってきたな。


ちらっと横を見ると、啓吾もおんなじタイミングでこっちを見る。
あいかわらず、そこに笑顔なんて表情はないけれど、なんとなく。

そっとお互いに口を重ねた。


あぁ、珠葵になんて言おうかな。
初めから優しかったみたい。
確かに、あの不思議な行動は、意図的なものかもしれないけれど。
いろんな意味で、初めから、優しかったんだって。

…そう伝えておこう。
 


『啓吾×深敦』
カウンター他校8888番v
リクエストテーマは、優しい啓吾だったんですが、優しさ出てますかね(汗)申請いただいてからものすごく時間がかかってしまい申し訳ありません。あいさんへ捧ぐ…vv