『啓吾×深敦』
カウンター他校8888番v
リクエストテーマは、優しい啓吾です♪
設定⇒深敦2年生です






「深敦、ノート」
 放課後。
 まだ席についたままの俺の机の上に、軽くそっけなくノートを置いていく。
「…なに…」
 俺、別に頼んでねーんだけど?
 なんのノートか聞く前に、啓吾は『じゃあな』って。
 部活へと向かっちまうし。
「なんなんだかねぇ」
 誰にも聞こえないくらいの声でつぶやきながら、そのノートを確認すると、数学のノート。
 そりゃ、さっきの授業中、俺はノートとってなかったよ。
 でも頼んでねぇし、テスト前しか、いっつも頼まねぇし。

「珠葵―。数学のノートって提出とかあった?」
 一応、確認。
「あ。そういえば今週末だっけ。金曜日数学ないから、木曜日だね」
 木曜日だね。って言われましても。
「…提出あんの?」
「あるよー。聞いてなかった?」
「聞いてねぇよ」
 ったく、啓吾に頼まなきゃなんねぇじゃん……。
 って、もう頼まなくっても、貸してくれたんだっけ。
 珍しいこともあるもんだ。
 あとでなに請求されるかわかったもんじゃねぇけど。
 まぁそれはいいや。
「じゃ、俺今日、美術部で数学のノート移す」
「じゃあ、俺も美術室遊びに行こっと。俺もそこで宿題やろっかな」
 俺と珠葵は、2人で美術室へ行くことにした。
 あそこって結構快適なんだよなぁ。
 やっぱり寮に戻るとぐったりしちゃうし、だらだらしちゃうし?
 そうなると、宿題とかやる気失せるんだっての。

「おっはよー♪みつるくん」
「今日は美術室でお絵かき?」
「誰を思い描くんだろぉねぇ?」
「愛しい彼氏様?」
「実は、愛人とか」
「浮気はバレないようにしなきゃねぇ」
「それとも本気?」

「……なんで悠貴先輩いるんすか」
 現美術部部長の拓耶先輩と、その友達で元俺のルームメイトの悠貴先輩が、入り口で迎え入れてくれる。
「いや、俺は拓耶の愛人で、君の元同居人だから」
「…なんとなくいやらしい雰囲気かもしださないでくださいよ」
 この2人。
 1人ずつだとそんなでもないのに、2人そろうと変なテンションになるんだよなぁ。
 まぁいいけど。

「おっと、その腕の中に輝いて見えるのはもしかしなくても、ダーリンノートっ」
「…拓耶先輩、あいかわらずテンション高いっすねー」
 そりゃ、まぎれもなく、こりゃ啓吾のノートだけど。
「なんで知ってるわけ?」
「秘密だよ〜♪」
 はいはい、そうですか。
 どうせ、勘があたっただけとかだろうけど、まぁいいや。
 適当に空いた席に座ると、その隣に珠葵が座った。

 珠葵と一緒にとりあえず、宿題をやって。
 今日は少ないからすぐに終わった。
 で。
 俺は数学のノートを写すわけだ。
 珠葵は、なんか絵、描くみたいだけど。

「なぁ。珠葵って数学のノート、ちゃんととってるわけ?」
 まじめに取ってないのって、実は俺くらいだったりして。
「一応とってるよー。だってさ、深敦くんみたいに貸してくれる相手がいるわけじゃないしさぁ?」
 少し冗談っぽくからかうようにしてそう言った。
「珠葵も啓吾に借りればいいじゃん」
「…っていうか、俺、別に普通にノート取ってるからね。その方がラクだし」
 くそう…。
 意外と真面目っ子だな、こいつ。


 その次の日だ。
 
「やっべぇ、消しゴム忘れたし。シャーペンの上使うのやだし」
 そうぼやいていると、すかさず啓吾が、俺の机に消しゴムをおく。
「…へ…」
「やるよ、それ」
「お前、消しゴム二つ持ってんの?」
「……使わねぇし」
「間違えないから?」
「ボールペン派なんだよ、俺は」

 まぁいいや。  
深くは突っ込まず、ありがたくそれを貰っておく。

 気持ち悪い。
 優しすぎる。
 なんかある。

 俺はその日、晃と珠葵に気持ち悪い話を相談した。

「……絶対おかしいんだって。いくら毎回、ノート写してるからって、言うまで貸してくれるような奴じゃかったし。俺が貸してって言ったら、なんか昼ごはんおごれとか言ってきたりさ。消しゴムとか絶対、くれるようなやつじゃないんだよ。くれたとしても、代わりになんか要求してきたりさ。……後ろめたいなにか隠してんのかな…」

 晃の部屋で。
 宿題を一応、持ってきているものの、手は進んでいない。
 珠葵はもう学校でやり終えていたようで。
 晃も、俺の話を聞いていてくれてるからか、あまり進んでいるようには思えなかった。

「…えー…浮気とか?」
「浮気…っ?」
「啓ちゃんは、そんなことしないと思うけど…」
「ちゃんと『やるだけ』と『彼女』と別けてそうだよね」
それも微妙だが、まぁ100歩譲って良しとしよう。

「だとしても、こんな気持ち悪い行動に出るか?」
「でも、ノートと消しゴムだけでしょ」
 ノートと消しゴムだけ……だったっけ。
「…いや、そういえばこないだいきなり俺がやりたがってたゲーム貸してくれた」
「それは、タイミングよく啓吾くんがクリアしただけじゃないの…?」
「……啓吾の部屋行ったら、お土産にプリンくれたぜ?」
「賞味期限切れそうだったとか」
「…見ずに食べちまったからわかんねぇや…。あとは…あ、気にしてなかったけど、こないだ学食で啓吾の食べてるカラアゲがおいしそうでさぁ。横目で見てたら、くれたんだよ。ただ、啓吾がお腹いっぱいで食べきれなくなっただけだと思ってたけど、思えばあれも、あやしいよな…」

 意外に結構、怪しい行動してんじゃん、あいつ。
「…気づいてないだけで、前から優しかったんじゃないの?」
「…そうか?」
「啓吾くん本人に聞く? 最近、怪しいってさ」
「いや、珠葵、それは直球すぎだろ」
「どうしたんだろうね…」

 3人で考えながらも、答えが出ず、宿題をのろのろとやり進めていると、インターホンが鳴り響く。

「アキ? あ、珠葵と深敦もいたんだ?」
 晃の恋人、水城春耶だ。

 春耶は俺たちよりも啓吾と仲がいいから、なにか知っているかもしれないな。
「水城くん、宿題終わった?」
「終わったよ。アキは? もう少し? 新しい紅茶が手に入ったんだよ」
 そう言って、なんか箱を俺らに見せてくる。
「…ねぇねぇ、春耶くんって、新しい紅茶が手に入ったってよく言うけど、どこかで仕入れてるわけ?」
 確かに。
 手に入ったって、なんなんだ?
「近くの輸入専門店だけど。店長が新しいのが入ると教えてくれるんだよ。だから、見たことないやつだろ?」

 確かに見た事ないけど。
「紅茶がそんなに好きなんだ?」
「好きだね。コーヒーより紅茶派だよ、俺は」
「俺は、コーヒー派っ。ね、深敦くんもだよねっ?」
 珠葵はあいかわらずかわいいなぁ。
「うーん…そのときどきによるけどなぁ。晃は?」
 って、春耶の手前、コーヒー派とは言いにくいよな、晃は。
「どっちも好きだけど、紅茶っていろんな味とか匂いがあっておもしろいよね」
「コーヒーだって、あるよっ?」
「っそ…っかぁ…」  
 
まぁともかくだ。  
春耶が紅茶を入れてくれて。  
4人でゆっくり休憩中。

「深敦くん…春耶くんにも聞いたら?」
 やっぱり…?
「なに?」
 なんか、恥ずかしいんだけどなぁ。
「あのさぁ。啓吾、最近、おかしくねぇ?」
「おかしい…?」
「……後ろめたいことしてんのかわかんねぇけど、なんか妙にさぁ……優しいような…」

 すると春耶は、笑って俺の頭を撫でる。
「気づいた?」
 って。
「なにそれっ!?」
 俺よりも先にそう言ったのは珠葵だった。

「もとはといえば、深敦が言い出したことだろ?」
 そう春耶が言ってくるけれど、心当たりがない。
「なんのこと…だよ」
「なぁあ、わかんないってばぁっ」
 珠葵が春耶に詰め寄って、早く答えを教えろと言わんばかりだ。

「こないだ言ってたじゃん。『晃も珠葵もいいよなー。優しい彼氏がいて』って」
「……言ってたっけ」
「言ってた。昼休み、俺が注文した食事をアキの分まで机に運んだとき。ちょうど、御神先輩も通りかかって、珠葵にデザート置いてってくれたんだよな。覚えてない?」
あぁ。
言った気がする。
「……ただ、運んでもらってたのとか、デザート貰ってたのがいいなって思って、ちょっと口から出ただけなんだけど」
 それに、運んで貰ってたのは、アキが席取りしてたからだってのもわかってるし。

「だろうね。でも、結構、啓吾、気にしてたみたいだけど?」
 …そんなこと、気にしてたわけ?
「別に、だからって啓吾に優しくなれって言ってるわけじゃねぇし」
「それは、俺に言われても困るけど。でも、実際、最近なんか違うわけだろ? たぶん、理由はそれじゃないかな」
「啓吾くん、そういうの気にしてくれるって、優しいねぇ」
 珠葵が、にこにこで俺に言う。
「…女々しい気がするけど」
「もぉっ。素直じゃないなぁ。嬉しいくせにー」
 とは言われましても。

 そんな風に気を使ってもらう必要ないですよって。
 そう伝えたい。
 けれでも、直球で伝えようにも、伝えにくい内容だし。

 どうしようか。
 別に優しくしてくれなくてもいい…なんて言ったら、またあいつ、変に考え込むかもしれないし。

 …理由は知らないフリして『最近、なんか優しいね』って。
 聞いてみるか。
ってか、聞けるかよ。


それに近い聞き方をしてみて。
そうしたら、なんか答えてくれるかもしれないし。
その優しさには気づいてるって、教えたいような気がするから。

だって、啓吾は優しくしてくれてるつもりなんだろうし。
俺がなんにも気づいてないってのは、痛い子じゃん?

「まぁいいや。夜、ちょっと話し合いしますから」
 そう3人には伝えておいた。

「じゃ、結果報告、待ってるねぇ」
 そう珠葵に言われ、なんか、絶対に今日しなきゃいけないような気分になってきていた。