『啓吾×深敦』
カウンター毒樹園4000番v
リクエストテーマは、最後、読み終わった後で 照らし合わせてください(笑)
設定⇒深敦2年生です







「アキ♪新しい紅茶が手に入ったからおいで?」
 放課後。
 春耶がそう晃に声をかけるのが聞こえてくる。
 なんかよくわかんねぇけど、こいつら2人、紅茶に凝ってるらしい。
 俺は、なんか紅茶の味とかわかる人間じゃないからな。
 まぁ、アキだって、別に特別紅茶が好きとかではないと思う。
 ただ、春耶が自分の部屋に誘う口実みたいなもんだろ。
 そりゃ、紅茶は飲むかもしんないけどさ。
 紅茶がなくっても誘うんだろうし。
 
「なぁんか、不機嫌そうですなぁ?」
 俺の耳元でそう声をかけるのは、珠葵だ。
「俺? 別に不機嫌ってわけじゃ…」
「そぉ? あんまりにも春耶くんと晃くんが仲良しだから、不機嫌なのかなぁって」
 少し楽しそうにそう言うけれど。
「別に、ねたんでるとかじゃねぇよ?」
 先にそう告げておく。
「うん? じゃあ、晃くんの彼氏とは大違いの自分の彼氏にいらだってるとか?」
 あぁ。
 あんまりにも、図星すぎて恥ずかしいっての。
 たぶんそれなんだろう。
「…そうじゃねぇけどさぁ」
 とりあえず、そう答えてはおくけれど。
 ここで、変に、『違うって』なんて逆切れ気味に言ったら、余計に怪しいだろうしな。
 それに本当のことだから、下手に怒れない。
 相手が、仲良しな珠葵ってこともあるけどな。

「それよりー。最近、大輔、啓吾くんとメールしてるらしいよ」
 大輔ってのは、俺と珠葵の所属している文芸部の後輩。
 好奇心旺盛で、いろんな部に出回っては先輩と仲良くなってるらしい。
 俺も、1年のころ、そんな感じだったしな。
 今だって、部活、いろんなとこかけもちしてるし。

「啓吾とメールってさぁ…。へぇ…」
 なんとなく、なにも言い返せなくなっていた。
 なんでだよ、なんてこと、俺が言えるわけじゃないし、言ったところで、珠葵が答えれるわけでもないし。
 第一、別に大輔が啓吾と友達感覚で仲いいのを俺がどうこう言えるわけでもない。
 そこまで、啓吾のこと束縛してるわけじゃないし、俺だって大輔とメールするし。

 ただ、俺があんまり啓吾とメールしないから。
 なんだかなぁって思っちゃうわけだよ。

「あ。深敦くん、テンション下がっちゃった?」
「…そうでもねぇけど。いろいろと考えてしまうわけだよ」
「口調変わったね」
「そういうこともあるわけだよ」
 わざと、さっきと同じ口調でそう答え、ため息をついた。

 珠葵は、俺が啓吾とあんまりメールとかしないって知らないからなぁ。
 こんなことくらいで、誰かに相談するのも女々しいし、それどころか、気にしすぎって言われるかもしれないし。
 
 大丈夫。
 気にするほどのことじゃねぇよな。
 
 俺は自分にそう言い聞かせた。

「珠葵はどうなんだよ。最近。御神先輩とさ」
 珠葵から告白して、いちおう今、交際中らしいけど?
「あれー、聞いちゃう? 深敦くんのストレスの原因、増えちゃうよ?」
 冗談交じりに楽しそうに言う姿を見ると、どうやらうまくいってるみたいだな…。

「…まぁ…仲良きことは美しいね」
 ため息をつく俺を真似るように、珠葵もまたため息をついて。
「…でもさぁ。そう毎日会ってたりするわけじゃないし? やっぱ、春耶くんとか深敦くんとか、うらやまし
いって思うんだよ? 同じクラスでいつも会ってんじゃん?」
 うーん。
 そういうもんかな。
「でもさ。メールとかよくするわけ?」
「そりゃ、するよ。ラブラブですから♪」
 ラブラブですか。
 うらやましいことで。
 
「メールとかって、なに入れるわけ? 別に、用事なくても入れるんだ?」
 俺がそう聞くと、少しむっとしてみせる。
「もー。おはようとか、おやすみーとか、今日はこんなことあったよーとかあるじゃん」
「……珠葵は会わないからいいかもしれないけど、俺とか晃には必要ないメール内容だよな」
 教室で会うわけだし。
「うーん…。じゃあ、晃くんか春耶くんに聞くのがいいかもねぇ」
 
 春耶って、絶対、変なメール送ってそうだよな…。
 それを晃から聞くと、なんとなく春耶に申し訳ないから、ここは春耶に直接、聞いたほうが…。
 あ、なんか楽しいかも。

「春耶―っ。ちょっとだけ質問」
 俺がそう呼ぶと、晃に少しなにかを伝えてからこちらへ来る。
 晃は、帰りの準備をしていた。
 一緒に来なかったのは、好都合だな。
「なに? 深敦」
「…あぁ。あのさ。春耶って、晃にどーゆうメール送ってんの?」
 珠葵も近くにいたから聞けたセリフだよな。
 なんとなく、二人きりだったらあきらかに、俺が啓吾のこと気にしてるっつーか、そういうの感づかれそうだし。

「……どういうって…普通だけど」
 普通って言われましても。
「あのね。ほら、春耶くんって、晃くんとクラスで一緒じゃんかぁ。部屋とかにもしょっちゅう行きあってる
し。だから、メールでこれ以上、なに話すかって気になったわけ」
 珠葵が代弁するように、そう告げる。
 春耶が『なるほど』ってな感じで、少し考えこんで。

「まぁ、遊び終わった後とか、今日の感想入れるじゃん? 寝る前とか、起きた直後とか挨拶メール入れるし…」
 …入れすぎじゃねぇの?
 晃は、いい子だから、絶対、返事するんだろうな。
 だから、春耶もまた送っちゃうんだよ。
「ねーねー、今日の感想ってなに?」
 珠葵が楽しそうに聞く。
 俺も気になるけど。
「…だから、ま、いろいろあんだけど。たとえば、今日、体育の授業でバレーがんばってるアキはかわいかったとかさ。遊んだあととかだったら、積極的でかわいかったとか、こんどはアキから誘って欲しいなとかそーいういうことも」

 メールって、口で言えないこととか言えるからいいと思う。
 だけど、その後、会ったときとか、微妙の恥ずかしくなんじゃんかよ。
 ってか、春耶ってやっぱ、そういうの送ってんだなー。
 春耶は、メール大好き人間なんだよ、きっと。
 俺も、結構、春耶からくるしな。
 メール内容とか、これといって覚えてねぇけど。
 本の貸し借りとかの内容だったような。
 
 そりゃ、俺だって、啓吾と少しはメールするけどさぁ。
 これといって、なんつーか、恋人らしいメールはしないわけだよ。
 テスト範囲どこだったっけとか。

「あいかわらずだな。春耶って。まぁいいや。俺、部活行く」
「今日は何部行くのさ?」
「んー…。初めにちょっと文芸部顔出して、そのあと、水泳部」
「深敦くん、文芸部顔出すの?」
「信耶先輩に借りてた本、返そうと思って」
「じゃ、あとで合流しよ。先、水泳部行ってるから」
 そう言う珠葵をおいて、俺は教室をあとにした。


 っと。
 ドアの外に、啓吾。
「啓吾。おまえ、今日、部活だっけ?」
「いや、委員会だけど」
「誰か待ってんのか?」
 そんなところで、立って。
 …っつっても、俺らの教室の前だし、クラスメートを待つなら教室の中でいいよな?

「深敦、お前、一人で出てくると思ったから」
 俺が一人で出てくると思ったって…?
 意味がわからん。
 まぁ、春耶と晃はよく、教室内で残ってしゃべってるし。
 珠葵は、寮まで宿題を持ち込みたくないとかで、教室でやることが多い。
 そういうときは、俺が一人で先に部活に行っちゃったりするけど…。

たまに、俺も珠葵に付き合ってから、一緒に部活に行くこともあるけどな。
 珠葵の気分次第では、宿題を教室でやらないこともあるし。

 まぁ、部活のある日は、おおよそ、俺が一人で出てくる。
 それを予測したってわけか。
 あいかわらず、理解するのに少し時間がかかるな、こいつは。

 で。
 つまり、俺が一人で出てくると思ったってことは、俺に用事?
 俺だけに?
「なに?」
「あぁ。別に、お前、どうでもいいって言うかもしんねぇんだけど、一応な?」
 先に釘を打たれる。なんなんだ?
「なんだよ」
「…バレー部に助っ人頼まれてさ。今日はまぁ委員会なんだけど、もうすぐ試合だし、土日とか、部活あっから…」
 あぁ。そういえば先週も、1人でいつのまにかいなくなってたのって、バレー部に顔出してたのか。全然、気にしてなかったけど。
 つまりなにか?
 土日は遊べませんよと、わざわざ教えてくれるわけか。
 なんか、彼女の特権って感じがして、微妙にうれしいよな感じがする。
 遊べないのはあれだけどまぁ、それをわざわざ教えてくれたのがだ。

「でも、別に夕飯とか、食堂で会えんだろ?」
 先週も会ってたし。
「会えないこともないけど、今週から、本格的に部活参加するから、なかなか時間、合わないだろうし、お前ら、先食べてていいよ。それは、水城にも言った」
 なんだよ、春耶にも言ったのか、ちぇ。
 でも、それは夕飯のことだけで、土日の件は言ってないのかもしれないな。
 
「ふーん。じゃあ平日は? 部活あんのかよ」
「本当は、毎日来て欲しいって言われてんだけどな…。月曜は委員会だから休むつもり」
 バレーって…。疲れるよなぁ。
 俺が、のろのろ水泳してたり、美術部で遊んだり、文芸部顔出したりしてるのとは、だいぶ違うんだろう。
 試合とか言ってるし。
 助っ人で呼ばれるくらいだし。
「そっか。ま、がんばれよ」
 俺がそう言うと、啓吾の手が俺をなでる。
「っなんだよっ」
「いや。お前、わかってんのかなと思って?」
「なにがだよ」
 そう手を払いのける俺の手をとると、少し強引に俺を壁へと押し付けて。
 口を重ねられる。
 …っってか、ここ普通に廊下なんですけどっ。
「んっ…んぅっ」
 嫌がって押しのけようとするけれど、そんなん無理っつーか。
 啓吾が舌を絡めて、俺の腰を撫でて。
 ホント、ゾクゾクしてくる。
 
 しばらくして口が開放されても、なんかもう、反論とかするより、いきなりなんなんだって。
 あまりにも、その疑問が大きすぎて、逆に聞けねぇっての。

「…学校以外でしばらく会えねぇから。じゃあな」
 そう言って、啓吾は、手を振りながら、その場を後にした。
 
 学校以外でしばらく会えないって…。
 寮に行けばいるんだろ?
 それに、普通の家から通ってる高校生からしたら当たり前のことだし。
 まあ、土日とかはおいといて。

 珠葵とかだって、御神先輩とそんなに会えないっつってたし、そういうのと比べたら、普通くらいなんじゃねぇの。

 俺は、大して気にせず、文芸部へと向かった。



「あっ♪深敦先輩、こんにちわー」
 元気にそう声をかけてくれるのは大輔だ。
「こんにちは。信耶先輩は?」
「うーん。今日はまだ見てないですよ?」
 もう少ししたら来るかな。少し、待ってみるか…。



「そういえば、深敦先輩って、2年4組でしたよね」
「…そうだけど?」
「珠葵先輩にも聞いたんですけど、啓吾先輩と一緒なんですよねー」
 わくわくしたような表情で俺に言うけれど。
「……なぁ。なんで啓吾のこと知ってるわけ?」
 メールしたりさ。
 別に、俺だって、いろんな先輩と接点もほとんどないのに仲良くなってたりしてたから、別にかまわないんだけど。
 やっぱ気になるじゃん…。


「啓吾先輩、有名ですよー。知らないわけないじゃないですか。あ、しかも、こないだメルアドゲットしてしまったんですよー」
 なんかもう啓吾のファンみたいだな。
「…有名なんだ?」
 もともと、去年は、優斗の弟ってことで、わりと目だったかもしんないけど。
 大輔は1年だから、優斗のこと知らないし。


「あの正確で強烈なアタックがもう見ててたまんないんすよ」
 正確で強烈なアタック?
「…あぁ。バレー?」
「あ、深敦先輩も見たんですかっ? すごくないですかー」
「…いや、体育の授業で少し見たくらいだけど」
「あ、じゃあ啓吾先輩がほかの運動してるとことかも見ちゃってるわけですねっ? うらやましいですよーっ」
 …ついでに夜の運動も見てますが、なにか?
 っと、それはさておき。

「…そんなにすごいわけ?」
 ついそう気になってしまう。 「もー、ほんと、かっこいいですよ。あ、見に行きませんかっ? バレー部」
 少しは見たいな、やっぱり。
「…あぁ。体育館でやってんだよな」
 でもたしか、今日は委員会だな…。
 そう思ったときだった。
「啓吾先輩は今日、委員会だって言ってたんで、今日はいないですねー…。明日とか、一緒に見ますか?」
 大輔にそう言われる。
「……委員会って…聞いたんだ?」
「メールでですけど」
 別にいいだろーが、俺。
 大輔が啓吾とそういったメールしてることくらいなんでもないだろって。

「…じゃ、明日行くか」
 とりあえず、そう大輔と約束をした。

「…啓吾って、人気あるんだ?」
「ありますよー。かっこよくって人あたりよくて、たまになんか抜けてて、1年の中で人気NO1の先輩ですね」
 なんじゃそりゃ。
 まあたしかに、かっこいいけどさ。

「啓吾のこと、どこまで知ってるわけ?」
 つい聞いてしまう。
「…なんか、いやにやたら聞きますね、先輩」
 あやしいか、俺。
「やっぱ、なんつーか、クラスメートだし。そんな人気あるとか思ってなかったし」
 というか、付き合ってるし。

「…えぇっと。出回ってる話によると、兄が2人と妹さんがいるそうで」
 そんなん出回ってるのか。
「…ってか、兄は去年までいたしな」
「えーっ! 啓吾先輩のお兄さんって、ここの卒業生なんですか」
 俺は、優斗もすごい人だと思うけどな。
「…すごく友好的で、いいやつだよ」
「深敦先輩、啓吾先輩のお兄さんと友達なんですか」
 まぁ、あいつ、いまだに学校に顔出すしな…。
「一応、友達かなぁ。外見は啓吾にそっくりだよ。中身はだいぶ違うけど。でもやっぱり運動も勉強もできるやつだったけどな」
「深敦先輩って、すっごいたくさん知り合いいていいですねー…。人気のある先輩とかって、みんな深敦先輩の友達なんじゃないですか」
 それはどうだろう。
「誰が人気か知らないから、どうとも言えないけど」

「啓吾先輩って、人当たりいいんですけど、誰にでもいいんですよねぇ」
 大輔がため息をつく。
「…どういう意味?」
「どんな子にも平等に、笑顔見せるっていうか。俺らみたいなファンみんなに優しいから、特別、仲良くなれたとか、そういうのがない感じ。一線、引かれてるみたいな」
 なるほどねえ。
「…でも大輔はメールしてるんだろ」
 なんか、これじゃあ、大輔の恋を応援でもしてるみたいな聞き方だけど。
「うんー。でも、たぶん、俺以外にもしてるファンの子、たくさんいると思うし。啓吾先輩ってちゃんと返事くれますしね」

 ……そうだったのか。
「……ってかさ。啓吾…付き合ってる人がいるってのは知ってるわけ?」
 すっげぇ、どきどきするけど聞いてみる。

「それは一応、聞いてますよ。直接じゃないですけど、俺の友達が聞いたとかで…。でも、それは、誘いを断るための口実で、本当はいないんじゃないかって、疑惑も出てるんですよ」
「ふーん…」
「でも、深敦先輩の言い方からすると、やっぱりいるんですねぇ。深敦先輩は知ってるんですか? どんな人なんです?」
 …こうも期待されるような目で見られると、どうにも言い出せない。
 というか、本当に自分が彼女でよかったよなぁとか、変に不安になるし。

「…たとえばな。その啓吾の彼女がバレーとか見てたり、啓吾と仲良かったら、ファンの子たちはやっぱり、その彼女がうっとうしかったりするんかな」
 大輔は少し考え込んで。
「彼女次第ですかねぇ。すっごいかわいかったら納得するだろうし…。まあ、啓吾先輩が選んだんだから、大丈夫って思う人もいると思いますよ」
 中には、うっとおしく思うやつもいるんだろう。

「大輔はどう思う?」
 大輔はしばらく考え込んで。
「俺もやっぱり彼女次第ですかね。同じ1年のファンの子の一人だったらなんとなく悔しいような気がしますし。あ、別に俺が啓吾先輩を恋愛感情で好きだとかそんなんじゃないんですけどね」
 そっかぁ。
「……珠葵にでも教えてもらいな」
 俺はそう言って、椅子から立ち上がる。
「行っちゃうんですか」
「うん。信耶先輩、なかなかこねぇみたいだし。また明日な」
「はい。またメールしますねー」
 いい子だよなぁ。ホント、大輔、かわいいよ。
「あ…。一応、啓吾の彼女が誰かわかったとしても、秘密にしとけな」
 そう言っておいて、俺は部室を後にした。


 …なんだ。
 啓吾って、実は結構、メールとかするやつなんだ?
 そりゃ、送ればかならず返事くれるけど。
 それって、ファンの子と変わんねぇわけ…?

 俺、あんまり送ってねぇから、もしかしたらファンの子の方が、たくさんメールしてたりするわけ…?


 ファンの子は、あれだ。
 啓吾が好きだからメールするだろ?
 で、啓吾も自分に好意的なのはやっぱりありがたいからって、返事をするわけで。

 啓吾からメールをすることってのは、あまりないんじゃないのか…?

 俺も、啓吾からメール、あんまりもらわねぇけど。
 しばらく学校以外で会えないし。
 ちょっと、メール来るまで送らずに、待ってみようか…。