『啓吾×深敦』
カウンター毒樹園4000番v
リクエストテーマは、最後、読み終わった後で 照らし合わせてください(笑)
設定⇒深敦2年生です







 それから5日ほど、なにごともなく過ぎていく。
 まぁ、啓吾とメールしないのはいつものことだし。
 夜会わないのも5日くらい、なんてことない。
 というか、全然、普通。
 夕飯だって、俺、一人じゃないし、珠葵とか一緒だしな。

 美術部に顔出して、水泳部にも顔出して、珠葵と夕飯を済ませた後。
 
 部屋に戻って、ごろごろしてると、携帯の着メロが鳴り響く。
 画面を見ると晃からだ。
「もしもーし。晃?」
「あ、深敦くん…? 今、平気?」
 珍しいな、晃。
「んー、ごろごろしてただけだから、余裕で平気」
「ちょっと…聞いてほしいことがあるんだけど、行ってもいいかな」
 俺は、もちろんOKをして、あいかわらずごろごろしながら、晃を待った。


「深敦くん…?」
 しばらくして、晃が部屋へと入ってくる。
 俺は、ごろごろしてた体を止めて起き上がった。
「ごろごろしてるって…ホントに転がってたんだ?」
「え。よくみんな、ごろごろしてるって言うじゃん。あんとき、転がってねぇの?」
「…どうなんだろう。転がってるのかな。少なくとも僕は、転がらないけど…」
「晃はもともと、ごろごろするタイプじゃないからな」
「じゃあ、深敦くんは、ごろごろするタイプなんだ? …変わってるね」
「…まぁそういうことになるかな。だって、だるいけど、なんか体動かしたいときって、ごろごろすん
じゃん。そんな感じだよ。それより、どうしたんだよ。珍しいな。まだ8時だし。いつもなら春耶と宿
題やってんじゃん」
 そう俺が言うと、少しうつむいてしまう。
 春耶となにかあったんだろうな。

「どうした?」
 俺はもう一度、聞いた。
「あのね…。今、啓ちゃんバレーしてんやん? 水城くんも誘われたんだって…」
 啓吾がバレーしてるのは、以前、話題に出たから晃も知っていた。
 春耶も、バレー上手いしな。
「晃は、春耶がバレーやりだして会う時間が少なくなるのが、寂しいとか…?」
 そりゃ、あれだけ毎日一緒にいたんだし。
 部活やり始めたら、今みたいに会えなくなって、つらいかもしれないよな。
 俺らより、ベタベタなだけに。

 そう思ったんだけど、晃は首を横に振る。
「水城くんね…。バレー、たぶん好きなんだよ。啓ちゃんとも仲いいし、一緒にやりたいんじゃないかって思うんよ。なのに、断ったん。バレーしてると僕と会う時間が減っちゃうからって…」
 春耶なら、確かに晃のこと大好きだし、会う時間が減るのはつらいだろうし。
 断りそうだよな…。
「でね、バレーしてても、がんばれば会えるんじゃないかなって思うんよ。だから、いいと思うのに。
でも、水城くん、バレーしてくんなくて…。僕だっていつ、やりたい部活とか出来て時間がなくなるか
わかんないのにって、言ったんよ。そしたら、アキはアキのやりたいことをやればいいって。僕だけが
そんなのやれないやん?」

 確かに、そういうのはあると思う。
 晃にとって、春耶がそう想ってくれるのが、少し重荷なんだろうな。
「…なぁ。春耶は晃が好きで、バレーよりも好きだから、断ったんだよ。だから、晃は好きなことして
いいし、もしかしたら、晃のやりたい部活とか、一緒にやりたいと思ってくれるかもしんねぇじゃん?」
「…それは…そうだけど…」
「春耶ってさぁ。お互いが別々にやりたいことをやってるよりも、一緒になにかしたいってタイプだろ
うから。晃がやりたいことが見つかったんなら、一緒にやろうって誘ってみればいいし。たぶん、晃の
やりたいことなら、春耶は一人でバレーをするよりも、楽しいって思えるだろうし。バレーさせてやれ
なくって、心苦しいだとか後ろめたさ感じるんだったら、なにか一緒に晃が好きと思える部活でも入っ
て、バレーよりも楽しくさせてやりなって」
 …あぁ…。
 俺っていったい、なにいい人ぶって語ってるんだろう。

 それでも晃は頷いてくれる。
「深敦くん、ありがとう」
「え? 俺、別に大したこと言ってねぇし」
「うぅん。すっごい考え方とか変わったよ。水城くんに伝えてくるね。ちょっと、言い合っちゃったか
ら…」
 そっか。
 気まずいだろうからな。
「春耶も、バレー断って後悔してねぇと思うし、大丈夫だからな」
 俺はもう一度、晃にそう言って、見送った。

 
 ドアが閉まって。
 一人になると、なんかもう、いろいろ考えちまう。
 晃がいるときは我慢してたし、晃と春耶のこと考えてたからよかったんだけど、いざ、自分のこと考
えるともう無理だな。
 俺って、本当に平気なんかなぁ。
 
 なんつーか、泣きそうかも…。

 まだ、1週間しかたってねぇのに。
 でも、そんな時間の問題じゃなくって気持ちの問題だから。
 これからずっとこれが続くのかなーとか考えちまう。
 
 俺は別に、啓吾がバレーしたいと思うんなら、やらせたい。
 というか、俺自身が啓吾の重荷になりたくないから、俺とのことで、啓吾がバレーを出来ないなんて、
嫌だし。
 啓吾だって、はじめに、先に言ってくれたじゃん?
 しばらく会えなくなるって。
 俺はそれでもいいって。
 そう思ったし。
 いまさら。

 啓吾の重荷になりたくないから、会えなくっても、平気なフリしたい。
 そうしないと、啓吾がバレーに集中出来ないじゃん。

 あぁ。
 もしかして、会いに体育館とか行くと、それも重荷かな。
 応援とかしてるだけだとしても、もしかしたら、会いたいとか思ってるって勘違いするかも。
 まぁ、確かに会うっつー目的でもあるけど。
 でも、寂しいから見に行ってるんだって。
 もしそう思われたら?
 啓吾って、結構、変なとこマイナス思考だし。
 バレー始めたせいで、俺が寂しがってる。
 なんて、思われたくない。

 
 俺と啓吾がどうとかだけじゃなくって、バレーしてる先輩たちから見ても、よくないかもしれない。
 なんつーか、彼女が見に来てるって。
 ちゃらちゃらした感じがして、真面目にスポーツしてたら、ちょっと不愉快かもしんねぇし。
 会いに行く…っつーか、体育館。見に行くのやめよっかな…。


 平気だから。

 
 次の日、放課後。
「深敦くーん。こないだ、啓吾くんかっこよかったよねぇ」
 珠葵が、そう俺に声をかける。
「まぁ…それなりにな…」
 恥ずかしいからあいまいに答えちまうけど。
「いきなりどうして、そんなこと言うんだよ」
 こないだまでノータッチだったのに。
「んー。今日、雨降ってるし、また体育館行くかなぁって思って」
 そういう理由か。
 別にこないだ雨降ったのとか偶然なんだけど。
「俺、結局、信耶先輩に本、返してねぇからさ。文芸部行って、その後美術部かな」
「そっかぁ。じゃ、俺も美術部にしよっと」
 珠葵はそう答えて、また、宿題を取り出していた。


 春耶と晃はあいかわらず、仲良しでよかった。
 啓吾が、俺の前を通りかかって、つい目が合っちまう。
「深敦、今日、雨降ってっけど」
 なに。
 体育館、来るかって?
「今日は行かないから。こないだは、ちょっと、後輩に誘われて覗いてみただけだし」
 なにかを言われる前に、ついそう言ってしまう。
 別に、寂しいから会いに行ったわけじゃないって。
 そう伝えたいんだろうな、俺。
 言い訳くさいし、馬鹿だなって思うけど。
 それに啓吾もまだ、雨降ってるとしか言ってないのに。
 でも、聞きたいことってそれだろ。

「まだ、なんも言ってねぇだろーが。まぁいいけど。じゃあな」
 結局、俺の答えは合っていたようで。
 
 また。
 いつもみたいに声をかけて、啓吾は教室をあとにする。
 いつもと変わんないのに。
 なんか、妙に寂しいような気になってきていた。
 
 春耶と晃とは、俺は違うから、別に比べるもんじゃないのに。
 俺と啓吾は、また全然違う形だから、いいのに。
 
 苦しいな…。

 俺は、無理やり気持ちを切り替えようと、首を振ってから、文芸部へと向かった。

「信耶先輩。借りてた本…」
「あ、よかったでしょ。この本」
 しばらく本の話で盛り上がって。
 あまり部員が来ていないのに気づく。
「……今日、少ないっすね」
「うーん。そうだねぇ。でも、結構、文芸部って自主的な活動多いし。美術部と違って寮でも出来る作業だからね」
 確かに。
 期限の提出物とかあったとしても、わざわざ部室でやらなきゃいけないこともないから、籍だけあって、あまり顔は出さないってやつも多いんだろう。
「それに、今は、バレー部とバスケ部が、夏の大会に向けてがんばってるからね。やっぱり迫力あるし、体育館、見学に行ってる子、多いと思うよ。助っ人に借り出されてる人もいるだろうし」
 なるほど。
 
 静かだな…。
 雨の音だけ響いてる感じ。
 なんか、余計にさびしくなってくるじゃん…。
「はぁ…」
「元気ないね…」
 信耶先輩が心配そうに声をかけてくれる。
「…雨の日って、なんかネガティブになりません…?」
「そうだね…。なんとなく、思い浸っちゃうときとかあるよね」



 毎日が淡々と過ぎていく。
 俺はあいかわらず、いろんな部活に顔を出した。
 文芸部は少し、顔を出す程度でそれほど居座らないから、いつもどこかの部に行く前に寄っていく。
 一番、頻繁に行くのはやっぱり水泳部。

 別に、気を紛らわそうとしてるわけじゃないよ。
 だけど、いろんな部活に顔だして、先輩たちと話して。
 気が紛れているのは事実だった。



結局。
ずるずると、もう3週間もたっちまった。

そりゃ、昼ごはん一緒だし。授業一緒だし。
だけど、そんなんほかの友達と変わんねぇじゃん。
ファンの子なんて、お前のことすっげぇ見てんだろって。
メールだって、してるんだろうし。
俺が、普段、ほとんどメールしないのに、いきなりしたら、寂しがってるって思われちまう。
だからしないけど。

嫉妬とかねたみとか、かっこ悪いけど。
春耶と晃見てると、すっごいそういう感情が出てきてしまう。

全然、違う関係だから、いいのに。
だけれど、春耶も、バレーに誘われてて。
晃のために断ってた。

啓吾は?
そりゃ、啓吾がバレーしなかったところで、俺がいろんな部に行ってるから、会えたわけじゃないけど。
啓吾がバレーをはじめたせいで、会う時間が確実に少なくなったわけだし。


もっと、特別な扱いして欲しい。
あぁあ。結局、俺ってわがままだ。
啓吾に迷惑かけそう。
俺が、我慢すれば済むのに。
我慢できそうにない想いってやっぱりあるもんなんだ?

でも、俺は啓吾のために、こうやって我慢してるんだから、もう少し。
あと2週間で、とりあえず、試合が終わるから。



でも、少しくらい。
少しだけ。
そうだ。言い訳考えよう。
借りてたゲーム、返しに行くとか?

そんな馬鹿な理由しか思いつかねぇけど、俺は啓吾の部屋に行ってしまっていた。

「あのさ。ゲーム返しに…」
 俺がまたいつもみたいに、言い訳しながら部屋に入って行くと、ベッドに横たわる啓吾の姿。
 今年度から啓吾のルームメイトになった拓耶先輩が、俺を見て、少し笑いながら、シーってジェスチャーをした。

 起こさないようにしないとな。
 やっぱ、疲れてんだろう。
「久しぶりだね、みつるくんが来るの」
ホント、久しぶりな気がする。
「…俺……あまり来ないようにしてたから」
 俺、弱くなってるな。
 誰かに聞いてもらいたいくてしょうがない。
「どうして?」
 拓耶先輩は優しく聞いてくれる。
「啓吾が、今、バレーやってて、がんばってっから。だけど、そのせいで俺に会えないって、そういうの気にしてそうで。それが重荷になって欲しくねぇから、俺は会えなくっても、全然かまわないフリしてたくて…」
「で、会いにこないんだ?」
 俺はそっとうなづいた。
「っつーか…普段も別に呼ばれなきゃあんまり来ないけど…。だからこそ、呼ばれてねぇのに会いに来たら、俺、寂しがってるみてぇじゃん? だから…来ないようにして…」
 そう言ってる途中で、涙が出てきてた。
 馬鹿じゃねぇの、俺。
 なんで泣くわけ?
 
 だって、寂しいのに寂しくないフリとか。
 ホントは、たぶん『寂しい思いさせて悪かった』って啓吾が思ってくれたらなって。
 そう酷いこと、心の奥では考えてるから。


「でも、今日は来たんだ?」
 俺を自分のベッドに誘導して、拓耶先輩はやさしく聞いた。

「だって…俺以外の1年とか、体育館で、啓吾見てて…。俺は見ないようにしてるのにっ…。俺は、付き合ってるのに、全然、啓吾のこと見れないから…」
「見たくなったんだ? だけどやっぱり、啓吾くんの重荷にならないように、言い訳しながら部屋に来たんだ?」
 拓耶先輩は、優しく俺を抱きしめてくれながら、そう耳元で言う。
 俺は頷きながらも、あいかわらず、涙があふれて止まらなかった。

「…会いに来てもいいと思うよ…? 寂しかったら寂しいって伝えていいし。みつるくんは啓吾くんにバレーをがんばって欲しいんでしょ? だったら、いいじゃん? みつるくんががんばって欲しいって思ってるのに、わざわざやめるような子じゃないだろうし。がんばって欲しい。けど寂しいなって。それくらい伝えていいよ。恋人同士なんだから。啓吾くんだって、寂しいだろうし。寂しがってくれたらうれしいと思うし。がんばって欲しいって思われたらがんばる気にもなるよ。でも今のままじゃ、みつるくん、寂しいから早くバレーの試合が終わればいいのにって、思っちゃうでしょ。そうじゃなくって。バレーで時間がない分、深敦くんが会う努力をすればいいんだよ。なんで、会わない努力、しちゃうかなぁ?」


「でも…。寂しがって、啓吾、自分がバレーしてるせいだとか思ったら…」
「会おうと思って、体育館で見学したり、こうやって来てみたり。会えない分、メールしたりしてれば、そんなにも寂しいって思わないかもよ。時間がないけど、お互い求めてるって。そうがんばってる感じするし」

「……俺、はじめは全然、平気だったんだよ。だけど、春耶が…っ。春耶もバレーに誘われて、それなのに晃のために断ったんだ。それ聞いたら、なんか……啓吾にはそんなことして欲しくねぇけど、俺だけ寂しい感じになっちまって…」
「いつもね。バレーの後は疲れちゃってるみたいで、すっごい爆睡しちゃうんだ。月曜日は委員会だから。大丈夫だと思うよ。明日、またおいで?」
 明日、月曜日。
委員会が終わるのは6時くらい。
終わってから部活に顔を出せないこともないんだろけど、30分くらいしかないし、中途半端だから、行かないだろう。

「…う…ん…」
「じゃ、またゲームはお持ち帰りね♪」
 また、俺に一応、言い訳してこいってか…。
「さっき、寂しがってもいいって言ってませんでした?」
「だけど、みつるくん、いつも言い訳して入ってくるじゃん? だから、なにもなしじゃ入りにくいかなって♪」
 よくわかってらっしゃる…。

 俺は、ゲームソフトを持って、また自分の部屋へと戻った。