「失礼しまーす。柊、1人?」
「んー、そうだけど。今日は無茶してケガする子もいるかもしんないし、あんまり空けられないよ?」
「わかってる。尋臣、休憩させて」
 尋臣を抱きかかえ、無理やりベッドに寝転がらせる。
「あの、わざわざ寝なくても……」
「いいから寝てろ。お前の代わりに俺が見回る」
「代わりもなにも……そもそも樋口先生は最初から見回る予定じゃないですか」
 どうやら俺のことをちゃんと樋口先生と呼ぶくらいには、冷静さを取り戻しているようだ。
「俺の休憩時間を減らす。それで文句ないだろ。とりあえず戻ってくるまで30分、ここから出んじゃねぇぞ。あと、腕章借りる」
 尋臣が腕につけていた腕章を外し、俺の腕につける。
「てなわけで柊には、尋臣の見張りを頼みたいのですが」
「それで、わざわざ保健室に来たわけか」
 数学準備室に置いておいたんじゃ、結局1人で委員会の仕事に戻りかねない。
 柊が見張ってくれるなら安心だろう。
「いいよ。それじゃあ智巳ちゃん、行ってらっしゃい」
 俺は、柊と尋臣に見送られるようにして、保健室を出た。



「……くそ」
 ついぼやきながら、近くの壁を拳で叩く。
 なんでこんなことになった?
 そりゃ、尋臣はかわいくて、いつでも手を出したくなるけれど。

 尋臣がお堅い委員長様だってイメージは、この学校にいるからこそついているもので、部外者がそう思うとは限らない。
 ましてや、ある程度、歳を食った大人なら、十代がかわいく見えるのも当然だし。
 はじめは冗談のつもりでも、少し手を出せば尋臣の魅力にはすぐ気付くだろう。
 もっとも、ガチで狙っているとかではなくて、ただイイ反応するヤツと遊べたらいい……なんて程度のもんだろうけど。
 それならいいってわけじゃない。

 俺は内心イライラしながら、出店がある中庭を見て回る。
「あれ、智巳先生、なんで腕章つけてるんですか?」
 そう声をかけてきたのは和奏だ。
 尋臣の一番の友達らしい。
 そして俺と尋臣の関係も知っている。
「助っ人。いま尋臣休憩中だから。そういえばあいつ、和奏とは一緒に行動してなかったんだな」
「見回りの仕事に俺を付き合わせるわけにはいかないって、断られちゃったんですよね」
「あいつらしいな」
「それくらい付き合ってもよかったんですけど……たぶん建前だって気づいちゃったんで」
「建前?」
「智巳先生と回らないのかって、あいつに聞いてみたんです。尋臣、先生のこと断ったんですよね?」
「見回り担当は分散すべきだって言われてな」
「そうやって智巳先生のこと断っておいて、俺と一緒に見て回るのは、ちょっと抵抗あったんじゃないですか?」
 それでだれとも一緒に行動せず、1人でいたって?
「そう……」
 それじゃあまるで――
 俺のせい。
 せめて和奏とでも一緒にいてくれてたら、ああはならなかったかもしれないってのに。



 しばらく見て回った後、保健室に戻る俺を柊が出迎える。
「智巳ちゃん、おかえり」
「尋臣は?」
「ちゃんといるよ」
 ベッドに寝転がっていた尋臣が、俺の声を聞いて体を起こす。
「……休憩したいならまだ休憩してていいけど。したくないなら、この後は、俺と一緒に見回れ」
 過保護すぎだってわかってる。
 ただの独占欲だってことも、我儘だってことも。
 でも、あんなことがあった直後だし。
「もう落ち着きました。1人で平気です」
「お前がそう言うなら本当に平気なんだろうけど。こっちは平気じゃねぇ。俺と一緒に動くか、休むか、どっちかだから」
 尋臣は、戸惑うように、俺から視線を逸らした。
「……じゃあ、一緒に見回りします」
 そう告げる尋臣に、腕章を返し、見回りついでに買っておいたぶどう飴を差し出す。
「これ……」
「ぶどう飴。うまいから」
「ありがとう……ございます……」

 保健室を出た後は、少しだけ尋臣と距離を取る。
 一応、隣同士ではあるけれど、ときどき視線を交わす程度で会話という会話はない。
 まあ、こんなもんだろう。
 ベタベタするわけじゃないけれど、お互い同じ速度で歩いて行く。
 俺ははじめから、ただ、こういうことがしたいだけだったのに。
 自分の我儘を押し通していたら、あんなことにはならなかった。
 はじめから誘っていなければ、尋臣が俺に気を使うことなく、和奏と一緒に動いていた。
 そんなこといまさら考えても、仕方ないけれど。



 夜6時。
 学祭実行委員と生徒会役員が、今日1日の報告をしていく。
 俺はどっちの担当でもないけれど、尋臣目当てで聞かせてもらう。

 誰からも、とくに問題があったという報告はなく、もちろん尋臣も、痴漢については述べなかった。
 表向き、学祭はなにごともなく成功したとういことで話がまとまる。
 まあ、みんなの前で『痴漢が発生した。被害者は自分』なんて尋臣が言えるはずもない。
「それじゃあ、片づけは予定通り明日ということで。解散」
 尋臣の一声で、みんな順に教室から出て行く。
 残ったのは、俺と尋臣だけ。
「委員会的になかったことにすんのはいいけど。俺は問題だと思ってるから」
 尋臣は、申し訳なさそうに、それでも頷いていた。
 腕を引き教室を出ると、俺はとある場所に尋臣を連れて行く。
「あの……ここ……」
 尋臣が襲われていた空き教室だ。
 有無を言わさず、尋臣の背中をドアに押し付け、ズボン越しに性器を掴みあげる。
「んぅっ! あっ、なにするんですか!?」
「お前、ちゃんと痴漢相手にもそうやって嫌がった?」
「それは……その……痴漢された側が、誰でも素直に嫌がれると思うなって、先生も言ってましたよね?」
「つまりまともに嫌がらなかったわけね」
 手早く尋臣のベルトを外し、下着の中に手を突っ込む。
「あっ……んぅ……っ!」
「まあ俺も一応、学祭終わるまで我慢してたんだよね。尋臣くんと約束したから? でももう終わったし?」
「こ、こんな場所で……その……ん、数学準備室、とか……」
 数学準備室でならやる気はあるらしい。
「ここでするよ。近く通るたびに、お前が痴漢とイチャついてた場所だって思いたくねぇし。俺がお前を犯した場所にするから」
 少し扱いてやるだけで、尋臣の性器から先走りの液が溢れてくる。
「あっ……ん、んんっ! だれか、くる……かも」
「こねぇよ。あんとき俺が見つけられたのはかなり運がよかっただけだし。ああ、くるかもって思った方が、お前は興奮出来るんだっけ」
 尋臣は、慌てた様子で首を横に振る。
 だが実際、すでに思いっきり勃起しているし、体は充分、興奮しているようだ。
 俺の指が濡れてしまうほど溢れさせている先走りの液を拭い、硬く閉ざされている窄まりを押し開いていく。
「ああっ! あっ……ん……! ああっ!」
 ナカはかなりキツくなっていて、弄られた形跡はない。
 尋臣自身、最近は自分で弄ってないのだろう。
 尋臣の好きな前立腺のあたりを、容赦なく指の腹で撫であげていく。
「はぁっ、あっ……あっ……んっ! だめ……智巳……!」
「なにがだめだって?」
 尋ねると、尋臣は俺の左腕を掴んで、爪を立ててきた。
「はぁっ……いく……っ、あっ、あんっ! やぁっ、あっ!」
「入れたばっかなんだけど」
「だって……ああっ、はぁ、んっ! あっ、あっ、そこ……っ!」

 尋臣はどうしようもなく真面目だ。
 だからこそ。
 空き教室でこんなことをしてしまったり、そもそも男性教師と付き合ったり。
 そういうあまり普通ではない状況に、どうしようもなく打たれ弱いんだと思う。

 はじめは拒絶されないようにと、慎重に考えていたけれど。
 駄目だという状況に、尋臣がより興奮してしまう性質なのだと理解した。
 俺が教師じゃなかったら、もっとラクに付き合えただろうけど。
 同級生の友達だったり、女だったら、ここまで感情が昂ることもなかったかもしれない。

 だったら、痴漢はどうなんだ。
 恋人がいるってのに、注意されたってのに。
 どうしようもなく『駄目な状況』に陥って、尋臣は、どう感じた?
 そいつと同じ場所で手を出されて、たまらなくなっているのが手に取るようにわかる。

「はぁっ、あっ……あんぅ……だ、め……あっ、ああっ!」
 ビクビクと体を震わせ、尋臣がイきかける。
 それに気づきながら、俺はあえてイかせてやることなく、尋臣のナカから指を引き抜く。
「や……やぁ……」
 不満そうな声を漏らす尋臣の体を引き剥がし後ろを向かせる。
 ズボンと下着をおろして、ドアに手をつく尋臣に体を寄せた。
「あ……智巳……」
「どっち? やめたいの? したいの?」
 入り口付近を亀頭で撫で上げると、尋臣はこちらに腰を寄せてきた。
 無意識かもしれない。
「俺……あ……久しぶり、で……」
「久しぶりじゃなかったら、もっと怒ってる」
 尋臣の足を開かせ、自身の性器を押し進めていく。
「ひぁっ! あっ……ああ……あっ、やぁ……っ!」
「やじゃねぇだろ」
 中を押し広げるようにして、奥の方まで入り込んでしまうと、尋臣の体が一際大きく跳ねあがった。
「ああっんっ! あぁあっ!!」
 どうやらイってしまったらしい。
「まだ入れただけなんだけど。そういえば、あいつにはもちろんイかされてないんだよな?」
 そう尋ねながら、尋臣のナカを性器で掻き混ぜていく。
「ああっ……はぁっ……はいぃ……あっ、やぁっ……智巳っ……あんっ!」
 前に手を回すと、尋臣は射精したにもかかわらず、まだ勃起したまま。
 擦りあげながら、何度も腰を打ち付ける。
「あぁあっ! あっ、あっ……いった……あんっ、いったのにぃ……あっ、ああっ、はげしく、しな……で……」
「するよ。俺はイってないし。ちょっと今日、加減できそうにねぇから」
 俺の言葉に反応して、尋臣のナカがきゅうっと締まる。
 加減できねぇって言ってんのに。
「なにお前。乱暴にされて気持ちよくなってんの?」
 尋臣は小さく首を振っていたが、性器はバキバキに硬くなっていて、先端からは相変わらずぬるついた液を出していた。
「はぁっ……だめ……ああっ、んぅ……! いくっ……ああっ、あっ!」
「いったばっかだろ。ほんと……エロい体してんな、お前」
「はぁっ、あっ……あぁあっ……あんっ! いいよぉ……はぁっ、ああっ、あっ、あんっ!」
 また……だ。
 気持ちよくなりすぎて、軽くトリップしてやがる。
 俺相手じゃなきゃこんな風にならないって、わかっているつもりだけど。
 それでも、俺自身を見られていないようなそんな気がして。
 悔しいようなもどかしいようなやるせないような。
 妙な感覚を味わいながら激しくナカを突きあげると、尋臣の体がまたビクビク震え出す。
「やぁっ……あっ、あっ、ああぁあああっ!!」

 教室だってのに、尋臣は大きな声をあげて二度目の射精を迎えた。
 それと同時に、俺もまた尋臣の中へと精液を放つ。
「んぅ……ん……はぁ……ん」
 今日だけで尋臣は4回もイってるし、かなり脱力状態のようだが、俺はもちろんまだ満足していない。
「約束通り、俺の家来てもらうから」
「……ん」
 尋臣はぼんやりした状態で、なんとなくだろうけど、頷いてくれていた。