その後、連れて来られたのは数学準備室だった。
 大きめのイスの上に、体を降ろされる。
「勃起おさまんねぇの?」
 智巳はイスに座り込む俺の股間を見下ろす。
 隠せそうになくて、仕方なく頷く。
「俺が怒ってても?」
「だって……」
 智巳を怒らせたのは悪いと思ってる。
 罪悪感だってもちろんある。
 それでも、どこか怒ってくれたことにはホッとしていた。
 誰だかわからないけど、智巳と親しそうにしていた男には、俺を触らせないようにしてくれていたし。
 その上、何度かセックスしたことのあるここにいま、2人でいる。
 そもそももう落ち着けないほど、体は煽られた状態で、早く抜きたくて仕方ない。
「ん……んぅ……」
 我慢出来なくて、ズボンの上から勃起したモノを手で掴む。
「お前さ……俺の前だから我慢しないんじゃなくて、誰が相手でも極限状態だったら、オナニーして見せんの?」
「はぁ……こんな状態……普通じゃ、ならないです……」
「じゃあ、なにされてそんな状態になってんの? てかどんな状態? 見せろよ」
 顔をあげると、智巳とばっちり目が合う。
 冗談でもなく、本気らしい。
 俺は視線を自分の下半身に戻すと、ベルト外していく。
 たぶん、ここに連れて来られた時から少し期待していた。
 智巳が、エロいことしてくれるって。
 だから、羞恥心はあるけれど、拒む気にはなれなくて、ズボンのチャックをおろす。
 下着は先走りの液で濡れてしまっていた。
 智巳の視線を感じながら、勃起した性器を取り出す。
「智……巳……」
「見てるよ。見えてる。それで? なにされた?」
「ん……ズボンの上から、擦られて……」
「俺が見たときは、ズボンの上からじゃなかったよな」
「はぁ……そのあと、取り出されて……俺の手の上から……ん……」
 智巳に伝えると同時に、刺激が恋しくなってしまい、性器に絡めた指先を緩やかに動かしていく。
「……そうやって、お前は自分で扱いてたんだ?」
「ん……少しだけ……です。自分の手は、すぐ、とめました……」
「だいたいなんでお前は自分のモン掴んだんだよ。掴まされた? それとも自分で掴んだ?」
 まるで尋問だ。
 だけど、変な誤解はされたくないし、嘘もつきたくはない。
「胸を弄られて……が、我慢できなくて……ん……自分で……」
「……そう」
 ある程度、事態を察したのか、智巳は静かにそう言うと、俺のシャツをまくり上げた。
「あっ……!」
「……乳首もめちゃくちゃ勃起してんな。舐めさせた?」
 俺は首を横に振って、それはないと示す。
「指で……ん……はぁ……あっ……」
 なにをされたか思い出すだけで、胸の先端がジンジンと疼いてしまう。
「指で、なに?」
 空いている左手の指で軽くつまむと、体がビクンと跳ね上がった。
「んぅっ! あ……んぅ……あっ!」
「そういう反応見せたんだ?」
「はぁ……あっ……こ、こんなに……感じてな……んんっ!」
「じゃあお前は、人の指より自分の指の方が感じてんの?」
 自分の指から得られる刺激は、他の人のものとは違う。
 好きな所を的確に当てられはするけれど。
 たぶん……そうじゃなくて。
「ん……智巳が……はぁ……あっ……見てる、から……」
「……俺に見られて、感じてんだ?」
 いざ改めて指摘されると、ものすごく恥ずかしくてたまらない。
 顔が、かぁっと熱くなる。
 それだけじゃなくて、体中が熱くなっていくような感覚だった。
「はぁ……智巳……あ、ん……はぁっ……」
「でも今、お前は痴漢のこと思い出してオナってんだよな?」
 尋問して、思い出させているのは智巳なのに。
 なにをされたか伝えようと思い出してはいるけれど、それをオカズにしているわけではない。
 智巳にされたくて、たまらなくて、それで自分でしてしまっている。
 俺はほぼ無意識の状態で、イスの上に両足をあげて開いていた。
 まるで智巳を誘い込むみたいに。
「はぁ……智巳……あっ……はぁっ……して……」
「俺は、痴漢のこと思い出してんのかって聞いてんだけど?」
 して欲しくて、智巳に見られながらするのが気持ちよくて、頭がぼんやりしてしまう。
「わかんな……はぁっ……あ……あん……!」
「……手、止めて」
「……や……」
「止めろって」
 智巳は俺の前に座り込むと、俺の右手首をぎゅっと掴んだ。
 まるで、痴漢を止めたときみたいに、俺の手を止める。
 だけど取りあげられることはなくて、そのまま軽くひねるようにして、角度を変えさせられた。
「あ……はぁ……智巳……?」
 ほぼ真上を向いていた性器を少し前に倒させると、いままで根元に向かって垂れていた先走りの液が、重力に従い滴り落ちそうになる。
「漏らしすぎ……」
 智巳は舌なめずりをしたかと思うと、亀頭に顔を近づける。
 舐められる……そう思ったのに、智巳はギリギリのところで顔を止めると、ただ舌を伸ばしてみせた。
 智巳の舌の上に、俺が出してしまっている先走りの液が滴り落ちていく。
「や……」
 智巳の考えていることがわからなくて、体が動かせなくなってしまう。
 いや、考えていることはなんとなくわかるのだけど、理解が追い付かない。
 智巳は、俺の性器には一切、舌をつけないまま、溢れて滴る蜜を舌で受け止めて、口に含んで味わう。
「やだ……」
 フェラくらいされたことはあるけれど、こうして自分が出した液だけを味わわれるなんて。
 なんだか、智巳がすごくいやらしく見えてしまう。
「ぃや……やめて、くださ……」
 これまでされたことがないせいか、いつもより恥ずかしい気がするし、いけないことをさせているような気にもなる。
「ん……なんで?」
 手を動かしているわけでもないのに、背徳感のせいか羞恥心のせいか、イきそうなくらい感じてしまう。
「あっ……あっ……智巳……はぁ……するなら、直接してください……」
 俺がそう伝えても、智巳はギリギリ、俺の性器には触れないようにして、ただ舌で液を受け止め続ける。
「もぉ……それ……やぁ……」
「恥ずかしい? はしたなくだらだら垂れ流してるもん、こんな風に飲まれて」
 智巳の目がこちらを見ているようだったけど、涙でぼやけてよくわからない。
 ただ、コクコク頷くと、少し笑ったように見えた。
「お前、恥ずかしいの好きだろ」
 少し熱っぽい声でそう言われると、体に電流でも走ったみたいにゾクゾクして、一気に射精感が高まる。
「あんっ……いくっ……いくぅ……ああっ、あっ……いやっ……!」
「ちゃんと擦ってイきたい? それとも舐められたい?」
「ん……はぁ……擦って……あ、んん……舐められたぃ……」
「両方かよ」
 智巳はやっと俺の手首から手を離してくれた。
 すかさず、俺は自分の性器を扱いていく。
 あとは、智巳が舐めてくれたら……。
「はぁ……あっ、あっ、舐め、て……」
「どこ舐めて欲しいの」
「先っぽ……ああっ……んぅっ、出てる、とこ……っ」
「しないから」
 なんでそんなことを智巳が言うのか、考えることもせず俺はただ刺激を求めてしまう。
「や……やだ……舐めて……あ、ん……舐めて、くださ……」
「もっと」
「はぁっ……おねがぃ……しま……あ、あんっ……ここ……はぁっ、あっ、舐めてくださぃ……」
 指先で場所を示すように、亀頭を撫でる。
 ぬるりと指がすべって、俺の体はビクビク震えた。
「ああっ……だめ……あっ、あっ」
「俺が舐めなくてもイクんだろ」
 舐められてイきたい。
 そんなこと、言わなくても智巳なら絶対わかっている。
 わかってて言わそうとしているのか、それとも――
「やぁっ……あっ、まだ……ああっ、あんっ……あぁああっ!!」

 考えがまとまるより早く、思い切り射精してしまう。
 智巳の顔にたくさん俺の精液がかかっていて、たぶん、口の中にも入ってしまっているんだと思う。
 ただ、頭が働かない。
 イッたけど、智巳にはなにもしてもらっていなくて、全然、すっきりしていない。
「はぁ……なんで……」
「学祭終わるまでしないって約束しただろ」
 そんな約束、もういいのに。
 そう言いたかったけど、これは智巳なりのお仕置きなのだと気づく。
 だからきっとなにもしてくれない。
 それでも、俺は希望を捨てきれなくて……。
「……キスだけ……してもらってもいいですか」
 2日前の智巳と似たようなことを口走っていた。

 キスなんてしたら、もっといろんなことがしたくなってしまう。
 そう思ってこの間は迷ったけれど、いまはもうすでに手遅れだ。
 一応、体は少し落ち着いたけれど、智巳が欲しくて仕方ない。
 ただ、いまここでするべきではないとは思うし、智巳にだってその気はない。
 だったらせめてキスだけでも……そう願ってしまう。
 変な気分にならない程度に、軽い挨拶程度のもので構わない。
 2日前の智巳も、こんな感じだったんだろうか。
 あのとき俺はそれを断った。
 智巳は……?

 智巳は立ち上がると、なにも言わず両手で俺の顔を包み込み、唇を重ねてくれた。
 ここで長く休憩を取っているわけにはいかないけれど、唇が離れることはなく、ゆっくりと舌を差し込まれてしまう。
「んん……」
 智巳の舌が俺の舌に絡みついて、徐々に唾液が溢れてくる。
 妙な味は、俺が出した精液の味なのだろう。
 そう思うと、恥ずかしいけど、いやらしい気持ちになってくる。
 少し苦しくて口を開くと、智巳は、より深く口を重ねてきた。
「んぅ……んっ!」
 キスをしてくれるにしても、挨拶程度のものしかくれないと思っていたのに。
 智巳のキスは、まるでこの後、セックスするつもりみたいな、俺を感じさるキスだった。
 でも、きっと智巳はこの後、これ以上のことはしてくれない。
 首を傾けさせられたと思うと、反対向きに傾げた智巳が、舌をすり合わせてくる。
「んぅ……ん、んん……!」
 ぴたりと合わさった舌の表面が何度も擦られて、流し込まれた唾液を飲み込む。
 息苦しいからか、感じているからか、頭がぼんやりして、体も熱くてたまらない。
「は……ん……んぅ……あ……」
「舌出して」
 ぼんやりした頭で、智巳の言葉を理解する。
 命令されているわけでもないのに、なぜか従わないといけないような気にさせられる、そんな声。
 舌を伸ばすと、智巳は舌を絡めながら吸い上げてくれる。
「あっ……うんっ……んぅん……んっ!」
 こういうキスをしたことがないわけじゃない。
 それでもこんな激しくされたのは久しぶりで、自分の下半身に熱が集中していく。
「あっ……や……っ」
 つい、掴んだままでいた自分のモノを擦りあげてしまう。
 キスされながら自分のを扱くなんて、すごく恥ずかしいことだってわかっているのに。
 それ以上に、気持ちよくてたまらない。
 智巳のキスが気持ちいいのか、恥ずかしいことをしているから気持ちいいのか。
 わからないまま、快感に酔いしれる。
「はぁっ……んぅ、んっ……ぁ……んぅうっ!」
 さっきイったばかりだというのにまたイキそうなくらい感じていた。
 待ち望んでいた智巳からのキス。
 ここ最近、ずっとしてなくて、たくさん焦らされて。
 やっと……やっともらえた智巳からの直接的な刺激に、頭と体が溶かされていく。
「んぅ……はぁっ、んっ、んぅ……んぅんんんんっ!!」
 我慢できず、二度目の射精を迎えると、智巳はやっと口を離してくれた。
 そっと頬を撫で、射精してしまった俺の股間を見おろす。
「……またイッたの?」
「はぁ……あ……ごめ、なさ……」
「2回イッたんならさすがに少し落ち着いただろ。行くぞ」
 智巳からウェットタオルを渡され、俺はぼんやりした頭で、なんとか身なりを整える。
 智巳も、俺が精液で汚してしまった顔を拭いていた。

 数学準備室を出た後、智巳がどこへ行くつもりかわからなくて、とりあえず後をついて行く。
 見回りをするからと、智巳から離れていいものかどうかもわからない。
 しばらく黙って歩いていると、智巳は保健室の前で足を止めた。
「お前……まだ人前に出れる顔じゃねぇから。もう少し休んでろ」
「そんな……大丈夫です」
「勃起したまま大丈夫っつってた奴の『大丈夫』が信用出来るわけねぇだろ」
 いまは本当に大丈夫だとも言えず、俺は智巳に腕を引かれるがまま、保健室に足を踏み入れた。