『柊×宮本』
カウンター478478番v
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 こんなつもりじゃなかった。
 本当に。
 せっかく、久し振りに宮本先生と会うってのに。
 今日に限って俺は、体調を崩していた。
 というのも、この日のために少し無理をして仕事を片付けたのが原因だとは思うけれど。

「……すいません。宮本先生」
「俺のことはいいです。それより……大丈夫ですか?」
 寝転がる俺を、心配そうに宮本先生が見下ろしてくれる。
 正直、宮本先生とのデートは断るつもりだった。
 前日にはそう心に決めていたが、薬を飲んだせいか今日、なかなか起きれず連絡を入れ損ねてしまい、気付けば昼過ぎ、宮本先生が俺の家を訪ねてくれていた。
 さすがに、起きあがれないほどではなかったため、鍵を開け迎え入れたが、すぐさま俺の異変に気づいたらしく、少し強引に寝転がらされいまに至る。
「そんなに心配してくれなくても体調なら大丈夫です。ただ、デートを無駄にしちゃったのだけは辛いんですけど」
「デートならまたいつでも出来ます。今日は俺、看病しますね」
 風邪といっても微熱程度だ。
 家の中で一緒に映画を観たりだとか、そういうことは出来なくもない。
 ただ、宮本先生に俺の風邪を移したくはない。
「宮本先生。大丈夫ですので、すみませんが今日は、ちょっと遠慮してもらえますか?」
 少し冷たい言い方になってしまったかもしれない。
 宮本先生は少し顔を歪めるが、すぐさま取り繕う。
「1人の方がラクですか?」
 嘘が下手な宮本先生は、作り笑いを浮かべていた。
 さすがに、俺も嘘をついてまで宮本先生を傷つけようとは思わない。
「ラクというわけではないですよ。ただ、宮本先生に風邪を移したくないので」
「そんなヤワじゃないですよ。たまには甘えてください」
 なんだか、この状況を少しだけ楽しんでいるようにも見える。
 確かに、こんな機会でもない限り、俺が宮本先生に甘えることはないかもしれない。
「……甘えていいんですか?」
「はい! ぜひ!」
 いつもなら、エロいお願いでも聞いて貰うところだけれど、あまりにも宮本先生が純粋な目で見つめてくるせいで、少し気がそがれる。
「台所の棚に、インスタントのおかゆがあったんで、それ作ってもらっていいですか?」
「わかりました!」
 用事を頼まれた宮本先生は、まるで子どものような笑顔を見せ、すぐさま台所の方へと向かう。
 少し迷いながら食器を探す仕草が、なんだかいかにも彼女みたいで、嬉しくなってしまう。
 しばらくして、器に入ったおかゆを持って、宮本先生がまたベッドへと戻って来てくれた。
「起き上がれます?」
「大丈夫ですよ」
 俺は軽く体を起こす。
 宮本先生は食器を持ったまま、少し戸惑うようおかゆを見下ろしていた。
「どうしました?」
「あの……俺が食べさせた方がいいでしょうか」
「そこまでしてくれるんですか?」
「えっと……さすがに子ども扱いしすぎですかね」
「いいえ。どうせなら食べさせてください。少し冷まして」
「わ、わかりました」
 宮本先生は、スプーンにおかゆを取り、ふーふーと息を吹きかけてくれる。
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
 俺は宮本先生が冷ましてくれたおかゆを、一口ずつ食べていく。
 すごく新鮮で、お腹以上にいろんなものが満たされていた。
 すべて食べ終えると、宮本先生は食器を台所へと戻し、代わりに水と薬を持って来てくれる。
「これ、台所にありました。風邪薬ですよね」
「飲みたくないなー」
 わざとそう言いベッドに寝転がってみせると、宮本先生は俺の子どもっぽい反応に軽くため息を漏らす。
「ダメですよ!」
 こういう所は、やっぱり先生気質だなぁなどと思う。
「じゃあ口移ししてください」
「っ……そ……れは……」
「冗談ですよ。風邪、うつっちゃいそうですもんね」
 本気で戸惑ってくれる宮本先生から薬を受け取る。
 からかわれたと気付いたのか、宮本先生は少し頬を赤くしていた。
「……そのまま、少し寝てください」
「はい。宮本先生は、適当な時間で帰ってくださっても……」
「まだ、時間も早いですし、もう少しここにいても……」
「……いいですけど」
「あ、あの、変な意味じゃないですよ。看病したくて」
「ありがとうございます。テレビとか、自由に見てくださいね」
「はい。体、汗かいてません? 拭きましょうか」
 汗はかいていないと思うが、せっかくの申し出なので、ここは受けておこう。
「……じゃあ、拭いてください」
 宮本先生はまた台所へ戻り、少しして蒸しタオルを持って来てくれる。
 俺はというと、薬が効いて来たせいか、ラクな反面、睡魔が訪れていた。
「寝ていいですよ。勝手に拭きますね」
「ありがとうございます」
 さすがに、宮本先生も看病に専念してくれるようだ。
 目をつぶると、上に着ていたシャツを捲られほどよく温められた蒸しタオルで体を拭いてくれる。
「……上半身だけで、いいですか」
「いいですよ。可能なら、抜いて欲しいですけど」
「え……?」
「ほら、一応久し振りのデートで期待してたんで、しばらく抜いてなかったんですよね」
「寝ぼけてるんですか」
 目を伏せたまま、それでも俺の体を拭いていた宮本先生の手が、軽く跳ねたのに気づく。
「風邪のときにそんなことしたらダメですよ」
「甘えさせてくれないの?」
 薄く目を開くと、宮本先生は真っ赤な顔で、俺の下半身に目を向けていた。
 俺が見ているとも知らず、ごくりとツバを飲む様子がうかがえる。
 どうしようか迷ってくれているのかもしれない。
「べ、別に欲求不満じゃないですよね? 勃ってないですし」
「勃たせて、抜いてくれたらいいんじゃないかな」
「その気が無いなら、別にする必要は……」
 そもそも、そんなに本気で考えてくれるとは思っていなかった。
 かわいくてたまらなくて、俺は宮本先生の頬を撫でる。
「っ……」
 そのまま、親指を差し込み舌を軽く撫でてあげると、すぐさま宮本先生は目を蕩けさせた。
「は……ん……」
「ホント……かわいい人だ」
 つい本音を漏らすも、俺は宮本先生の口から指を引き抜く。
「……気にしないで。少し寝るから」
「は、はい……」
 あまり宮本先生の良心につけ込むわけにはいかない。
 そのつもりだったが、煽ってしまったのは確かだ。
「……あの、ちょっとお風呂借りていいですか」
「はい」
「柊先生は、寝ててください」
「わかりました」

 宮本先生が風呂場へと向かう音を聞き、安心して眠っていられるほど俺は、純粋な男では無い。
 例え風邪だろうが、薬が効いていようが。
 どう考えたって、このタイミングで風呂に行くなんて怪しすぎる。
 そういう嘘がつけないところも、俺の好きな宮本先生で、つい顔が綻んでしまう。

 音を立てないよう風呂場に向かうと、俺が期待した通り、シャワーの音は聞こえて来なかった。
 代わりに、宮本先生の荒い息遣いがドア越しに漏れ聞こえて来る。
「ぁ……はぁ……ん……っ」
 服も脱がずに風呂場に篭っているようだ。
 俺だけじゃなく、宮本先生だって今日のこの日を待ち望んでいただろう。
 いつもの流れなら、確実にやってるし。
 さっき、少し舌を撫でただけであんなに蕩けてくれていた。
 それでも、風邪の俺を気遣ってか、こうして1人で処理しようだなんて。
「ぅあっ……ん、んっ!」
 声だけで、だいたい想像がつく。
 宮本先生が、自分で中を探っていることくらい。
「ぁっくっ……あっ、あっ……ぅんんぅ……っ」
 かわいくて、それだけで俺も体が熱くてたまらない。
「ぁっ……ぅんっ、んっ、ひぁっ……ぁっあっ、んぅっ、んーっ!!」
 たまらない。
 けれども、俺はそのままベッドへと戻った。
「はぁ……」
 せっかく宮本先生が、俺を心配して1人で抜いてくれてるのなら、その気持ちを汲み取って我慢すべきだ。
 ……結構辛い。
 うとうとしたまま、それでもなかなか寝付けずにいると、しばらくして宮本先生が、俺の所へと来てくれた。
 あの後、ちゃんとシャワーを浴びたのか、シャンプーの匂いがする。
「……まだ寝てないんですか?」
「ん……ちょっと寝付けなくて」
「なにか温かい物でも飲みますか?」
「それより、添い寝してくれませんか?」
「なっ……」
「そしたら眠れそうなんだけど」
「本気で言ってるんですか?」
「結構、本気です」
 宮本先生は少しだけ戸惑うよう視線を泳がせるが、俺の隣へと寝転がってくれた。
「じゃ、じゃあ、隣にいますね」
「手、握ってもいい?」
「あ、タメ口でしゃべらないでください」
「なんで? もしかして意識しそう?」
 セックスして、気分が高まったとき、俺は宮本先生にタメ口で話しかける。
 それは宮本先生も意識してくれているのだろう。
 タメ口にするだけで、少しだけ顔を赤くしてくれる
 それがまたかわいくて、慣れさせないようあえて普段は敬語にしている。
 宮本先生は、少し顔を俯かせ、俺の視線から逃れた。
「芳春?」
 髪を撫で、顔を拝もうとするが、宮本先生は拒絶するよう少しだけ身を引く。
 からかい過ぎたかもしれない。
 かろうじて触れていた髪の毛から、そっと手を離す。
 宮本先生は大きく息を漏らし、体を落ち着かせ、ゆっくり顔をあげた。
 なんだか悔しそうに眉をひそめ、俺をキッと睨んで見せる。
「俺……柊先生が思ってる以上に、その……が、我慢してるんですよ?」
「我慢……?」
「だ、だから……隣で寝て、そんな声で名前呼ばれたら、俺……」
 泣きそうなくらいに、顔を真っ赤にして。
 そんな表情見せられたら、俺だって我慢が辛くなる。
「すみません。ただ、傍で寝れたらそれでいいんですけど」
「あ、いえ……。俺こそ……意識し過ぎてすみません。煽らないでいただけたら」
「わかりました」
「……手、繋ぐくらいなら大丈夫です」
「ありがとうございます」
「……いやらしい触り方しないでくださいね」
「はい」
 しょうがなく、俺は子どもと繋ぐみたいに宮本先生と手を重ねた。
 なんだか新鮮だ。
 芳春は、照れくさそうに笑った。
 あんなにも、寝付けなかったというのに、すぐにでも寝落ちてしまいそうになる。
 芳春より後に寝て先に起きたいのに。
 睡魔には抗えず、俺はそのまま眠りについた。