……っつーか、午後。
バレーの授業なんすけど。
別に、泰時は泰時で俺らとも話してたけどさ。
ちょっと、意識する。

楓も、普通に泰時と接してるみたいだが。

とっととくっつけばいいのに。
そしたら、深敦だって……っつーか、別に泰時に恋人がいようがいまいが関係ない。
そもそも泰時は深敦が好きで……ってもうわけわかんねぇ。

「やる気しねーなー。サボっちまおうかな、俺」
水城にちょっとぼやいてみる。
「啓吾って結構サボり癖あるよな」
「…まぁね。サボったらサボったで、2人がどうしてるか気になるんだろうし? サボらねぇけど」

いつもみたく試合形式。
俺らのグループが得点係りのときに、ちょうど深敦のチームも得点係りになる時間。

「俺が得点、見とくから、啓吾は深敦と話して来なよ」
あいかわらず水城は、おせっかいなくらいに俺らのことを気遣ってくれる。
少しからかってる部分もあるのかもしれないが、ありがたかった。

「っつーかさぁ、すでに泰時と深敦、話してんだけど」
泰時に得点係りを頼んだところで、深敦だって来るかもしれない。
つまり根本的な解決にはならないんだよ。

「まぁいいや。ちょっと休憩させて」
俺は水城に得点係りを頼み、自分は少し離れたところへと座り込んだ。
「…啓吾くん、悩んでるわけ?」
楓だ。
「…別に」
「深敦くんと泰時、仲いいもんね。俺、入る余地ないんだけど」
「なんつーか、仲いいのはいいけど。…イラっとすんだよ」
「あはは。だろうねぇ。俺は、邪魔はしたくないけど、確かに寂しいね。……水城くんとこ手伝いに行ってくるよ」

わざわざ、声かけに来てさぁ。
俺って、そんなに気遣われてんのか。

気分悪くて見学してるやつみたいか。
イライラしてるのが伝わったから、水城んとこ行ってくれたんか?

ボーっと辺りを見渡してると、水城の弟と目が合った。
それがきっかけみたいに、こっちへと寄ってきてくれる。
「啓吾くん、体調とか…悪いの?」
「…いや。ちょっと気分悪い感じかな」
ホントは機嫌悪いだけだけど。
「じゃあ、保健室とか、行く?」
こいつ、かわいいよなぁ。
でも、やっぱりどこか水城に近いかもしれない。

「いや、大丈夫」
「あ……あの…ね、俺、啓吾くんに…謝りたいことが…」
めずらしく俺に声をかけてきたのには、俺の体調以外にもなにか理由があったのか。
「なに?」
「……少し前ね。俺…啓吾くんって深敦くんと付き合ってると思ってたんだぁ。だから、俺、2人が付き合ってるとは言ってないんだけど、啓吾くんは彼女いると思うよって、クラスの人に言っちゃったのね。
…で、みんながさ。たぶん、啓吾くんの彼女は楓だって、勘違いしてる…みたいで。
…ごめんね。
深敦くんも、それで少し悩ましちゃったし」
「…深敦、悩んでたんだ?」
「だって……好きな人が、他の子と恋人同士だって噂されたら…そうなるよぉ…」
まぁ、楓のことは話しがついたから大丈夫だとは思うけど。
なんだかんだで深敦の気持ちは嬉しい。

「いいよ。朔耶が気にすることじゃない」
「…ありがとぉ…。あの…二人って…付き合ったりはしないの…?」
あー、深敦、言ってないんだな。
なんだかんだで朔耶と仲良さそうだけど。
…こいつになら言ってもいいよなぁ?
「…最近、付き合いだしたよ」
「っそうなのっ!?」
「一応、秘密ってことで」
「そっかぁ。よかった。仲良しだもんね」
「まぁね」
こいつは俺と深敦が仲いいのを知ってくれているから、隠すつもりはなかった。
本当に、よかったって思ってくれてるみたいだし?

「深敦くんね、なんか、昨日手に入れたゲーム夜にずっとやってたから眠いんだってさ」
もしかしなくても、俺があげたゲームか。

あぁ、限界だ。

「ちょっと、深敦んとこ行こっかな」
「あ、2人、休んでなよ。俺、代わりに点数やってくる」
「サンキュー」
俺は朔耶と一緒に、深敦の元へ。
「深敦、ちょっといい?」
泰時には目もくれず。
「深敦くん、俺、得点係やるよ」
「…ありがと…。なに?」

少し離れたところへ、2人で移動。

泰時はというと、水城が上手く話しかけてくれているようだ。
なんかもう、至れり尽くせりだな。
水城兄弟様様。


二人で、壁を背にし、座り込んだ。
「深敦…。体調悪そうだけど、大丈夫か?」
「…別に、大丈夫だけど。なにいきなり心配してんだよ」
「いや。なんつーかさ。気になっただけ」
やたらそわそわしている深敦。
あぁ、たぶん、周りの目とか気にしてんだろうな。
普通の行為だと思うけど。
付き合いだしたとたんに、二人でいる空間が、他からどう見られているのか気になるっつーか。

「朔耶がさ…。俺と深敦、付き合わないの? って聞くもんだからさ…。言ってもよかったよな」
「…うん…」
少し恥ずかしそうに、深敦は頷く。
「水城もいいよな」
「うん…」
「……珠葵やアキは、お前の方がよくつるむだろ。…言うつもりか」
「……隠すつもりないけど…言うタイミングとかよくわかんねぇよ…」

俺の方も見ずに、俯きがち。
「まぁ、好きなときに言えばいいんじゃね?」

泰時よりも、誰よりも。
俺が一番深敦を好きだって。
そう思ってる。
一瞬、そんな恥ずかしいことを伝えてしまいそうになった。

その気持ちに自信はあるけれど。
誰よりも、俺が深敦を幸せにできるって自信は、持ち合わせていない。
いや、結婚とかそんなんじゃねぇし、表現おかしいかもしんねぇけどさ。
俺といて、深敦が不幸なら俺は引いた方がいいんだろうかとか。
俺がどう動いたら深敦が幸せかってのがわからない。

趣味だってあんま合ってねぇのかも。
俺といて、深敦が楽しいかどうかわかんねぇ。

けれど、神楽先輩も言ってた。
趣味が合うやつは友達でいいんだって。
俺と深敦は理解しあえれば充分なんだよ。
趣味なんて二の次だ。

俺はお前のこと全部…趣味とか考えとか、共感出来なくても理解はしたいって思ってるし、逆にして欲しくもある。

俺が今、束縛したいだとか思っちまってることも、それを抑えて嫉妬しまくってるってことも。
理解してもらえて、それで面倒だと思われたら思われたときだ。
どっちにせよ、俺はいらつくんだろうし。
我慢したって、平気なフリはなかなか出来そうにない。


「深敦に言っておきたいことがあんだよ」
「……今かよ」
「まぁ、別に改めて夜にとか言うほどのことじゃねぇし。お前、夜、用事あんだろ。
…あのさ。…深敦のこと、縛るつもりねぇけど、縛っちまいそうな自分がいんだよ。
お前、嫌かもしんねぇけど、ちょっと理解しといて欲しくて。…なるべく我慢すっけど」
深敦の方は見れず、少し前の床に目を向けたままそう告げた。
深敦の視線が突き刺さるのをなんとなく感じる。
「………二重人格かよ」
「いや、違ぇよ。どうしてそうなんだよ」
新手のギャグか?
「だって…啓吾、いっつも縛るつもりないのに縛ってたってことだろ。そんなに縛りたいのかよ? …手首痛いんだけど」
「違ぇよ。すっげぇ違ぇよ!!」
手首痛いとか、なんだ?
「二重じんか…」
「だから違ぇ」
「…なんでお前、怒ってんの?
…別に、元々、サドだって思ってたし、理解出来っからいまさらいいんだけど」
違ぇ。
それはそれでおいしいけれど。
ってか、拘束プレイ?
それの趣味を理解してくれるのは非常にありがたいですけど。

あぁ、俺が頭ン中で自己処理しすぎ?
こんな些細なことですら、通じないのな。
ホントに。

「深敦のこと、束縛しそうだってこと。お前が他の男と仲いいとイラつく。
縛る……束縛するつもりはねぇけど、たまに勝手にイラついてっかもしんねぇ。
別にそれって、お前信じてねぇわけじゃないんだけど、単なる俺の独占欲だから。
それでお前、不快にさせる部分があるかもしんねぇけど、理解して欲しい………って、言ってんだよ!」
「…なっ…。初めからそう言えよ…」
少し恥ずかしいのか、顔を逸らす。

俺からしてみれば、そこまで言わせるなと言いたいところだが。
ここまで深く詳しく言っちまうんだったら、2人きりのときにしただろうし。

授業中だから、サラっと、それでも伝えたかったんだが、伝わらなかった。

理解してもらうのにも、やっぱりそれなりの距離があることを実感する。

ふと、テスト後の泰時が、深敦のイラつきを瞬時に理解していたのを思い出し、妙な不安がよぎった。

俺は、お前のこと、すぐに理解できなかったから。

『理解し合えればいいんだよ』って、神楽先輩の事場ですら俺の心を乱れさせていく。
趣味はもちろん理解出来る。
けど、考え方は?
理解したい、されたい。
「俺、馬鹿だから、お前の言葉理解すんの、時間かかるし」
ツンと拗ねる様子も、笑ってられる心境ではなかった。
「悪ぃ…」
「なんで謝ってんだよ、気持ち悪ぃ」
そっか。
謝るのも、お前にとっては違うんだ?
…わかんねぇ。
「啓吾は、馬鹿でもわかるように言えよな!」

深敦は、結局、俺のことわかろうとしてくれてるってことか?
俺も、わかってもらうようにすればいいのか。

お互いの感性や考え方が違うなら、もっとお互いが歩み寄ればいいってだけ?

そりゃはじめっから、近いヤツもいるかもしんねぇけど。
俺と深敦みたいに遠いやつだって、努力次第で、近くなる…よな?
お互いが、そう思えば。

「深敦、俺のことわかりてぇの?」
「なっ……。違っ…いや、違わねぇけどっ」
「縛っていいんだろ」
「っ…どっちだよ」
束縛か拘束か?
「どっちかは駄目なわけ? 片方はOKなんだ?」
「…そりゃ…っ…。…俺だってたぶん…縛りたくなるかもしんねぇし」
「あー、深敦さん、意外とサドですねー」
「ウザっ。違ぇしっ! そっちじゃねぇしっ! もういいから、次、俺ら戦うし! マジで刺すから」
なんすか、刺すって。

通じてる?
立ち上がる深敦の腕を取る。
振り返った深敦は、恥ずかしいことを口走った自覚があるのか、顔を赤らめていた。
「深敦…。縛っていいから」
「っ……どっちだよ」
フンっと、顔を背けてそう聞いて来る。
「どっちでもいいよ。束縛してくれていいし、お前が縛りたいなら、縄で縛れよ」
そのつもりはなかったのか、顔をさらに赤くさせ、俺の手を振り払った。

「…授業中に、こんなん…っ。別に改めて夜にとか言うほどのことじゃねぇとか言いつつさぁ。お前にとっては、大したことねぇ内容なわけ?」
「いや、サラっと言うつもりだったけど、意外に深くなった。だから、軽いつもりで言ってるわけじゃねぇし。重い言葉だから。何度でも、改めて言うよ」

深敦は久しぶりに、俺に対してムっとした顔を見せる。
本気で怒ってるわけじゃなくって。
照れ隠しみたいな表情だ。
恥ずかしいんだろうけど、俺に対する気まずさはなくなってるのかなって。
そう思ったら愉しくなった。

「啓吾、お前、春耶が移ったんじゃねぇのっ?」
「それって、俺の言葉、甘々に感じちゃってんだ?」
「ばっか」

そう言い残し、深敦はみんながいる得点ボードの方へと足を向ける。
が、一歩進んで、悩むよう足を止め、しょうがなく俺を振り返った。

なに。
「俺も……どっちもいいから…っ」
そう捨て台詞のように言うと、今度は一目散に逃げていく。
なにが? とか、虐める隙もねぇ。
まぁ、さすがにそこまで虐めるつもりもねぇけど?

どっちもいいんだ?
束縛も拘束も?
1人でにやつきそうだし。
さてと。
俺も、試合だし。
次は深敦のチームと。
どうやら、マジで刺してくれるらしいし?

受け止めてやりますか。